経営」カテゴリーアーカイブ

不良対策

 不良が発生したら、再発防止対策を検討する。当たり前のように聞こえる。
しかし「不良が発生したら再発防止対策を検討する」この様な姿勢だから不良がなくならない、と私は考えている。

例えば、家庭では散らかったり汚れたりすると整頓や掃除をする。しかし工場の5Sは散らかる前に整頓し、汚れる前に清掃をする。だから散らからないし、汚れないのだ。

不良も同様だ、不良が発生してから対策をするのでは遅い。不良が発生する前に対策をすれば、不良は発生しない。

詭弁の様に聞こえるかもしれない。しかし市場回収をしなければならない不良、従業員・工場設備の安全に関わる事故が発生すれば、企業の存続に即影響する。

不良が発生する前に行う対策を「未然防止対策」という。
他社事例、他業種・他業界事例を自社に適用し、同様な問題が発生しない様に対策を検討する。こういう活動が不良が発生する前の不良対策活動だ。

例えば、アルミ製品の加工工場で粉塵爆発が起きたら、製粉工場、木工工場等も対策を検討し、未然に対策を実施しておくという具合だ。

毎週水曜日配信の「失敗から学ぶ」のコラムはそういう趣旨で書いている。
先週のアエロフロート機着陸失敗事故では、操縦室内のリーダシップについて考えたが、どの様な組織・チームでも同じことが起きうるだろう。

つい先日発生した伊丹空港での保安検査ミスによる大混乱も、製造業にとって参考事例になるはずだ。


このコラムは、2019年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第882号号に掲載した記事です。

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伊丹空港保安検査

 全日空(ANA)によると、26日午前7時すぎ、大阪(伊丹)空港の全日空便の保安検査場で、女性係員が手荷物にナイフを持ち込んだ乗客を見つけたが、誤って乗客に返却した。係員が誤った対応に気付き、約2時間40分後の同9時40分ごろから、搭乗待合室にいた他の乗客も含めて全ての手荷物検査をやり直し、空港ターミナルが混乱している。

 保安検査場を約2時間にわたって閉鎖し、検査場を通過した乗客らもいったん外に出すなどして安全を確認した。同社によると、この影響で午前9時40分以降の全便の運航を見合わせ、遅延や欠航が相次いだ。午前11時50分現在、到着便を含めて計14便の欠航が決まった。

 捜査関係者によると、40~50代男性が折りたたみナイフを1本所持し、係員が誤って「この長さなら大丈夫」と通したという。

(神戸新聞より)

 この事故により、南側ターミナルは午前9時30分ごろから午前11時59分まで約2時間30分にわたり閉鎖となった。伊丹発着の28便が欠航となった。
男性が持っていたのはアーミーナイフ。航空法第86条では、刃物などの危険物の機内持ち込みを原則禁止している。保安検査員は男から持ち込んで問題ない旨の説明を鵜呑みとし、保安検査を通過させた。

 ANAは保安検査場の入場を停止後、搭乗済みの乗客も降ろして再検査を実施。午前11時44分までに、南側保安検査場を通過したすべての乗客を一般エリアに誘導し、正午から保安検査を再開した。

問題の男は特定されず、事態収拾前にナイフを持ったままANA機に乗って伊丹空港を離れた様だ。

何が起きたのかは想像の域は出ないが、この事例をどう学ぶかを考えたい。

この事故の根本原因は、保安検査でナイフを男に返却した係員の「判断ミス」だ。保安検査では、ハサミでさえ機内持ち込みを禁止されることもある。

判断ミスに対する対策は、更に分析しなぜ判断を誤ったかを特定しなければならない。

係員のミスさえなければ、問題は発生していない。
しかし問題の影響がここまで拡大したのは、係員のミス発生後の対応に問題があったと考えられる。

我々製造業に馴染みのある表現で言えば、不良発生後の修復処置が適切でなく問題の波及範囲が拡大してしまった、ということになろう。

この様な事態が発生した場合の修復処置手順は以下の様になるだろう。

  1. 保安検査を通過した乗客(搭乗済みの乗客を含む)全員を保安検査前に戻す。
  2. 保安検査後のエリア、搭乗開始済みの機内で問題のナイフを捜索する。
  3. 捜索終了後再度保安検査を実施。

今回の事件の影響が拡大したのは、修復処置に手間取った、且つ乗客への情報提供が不十分だったからだろう。

しかも問題のナイフとそれを持った男は、発見されていない。

7時から9時40分まで修復処置に手をつけられなかったのは、この様な事態が想定できていなかったためと考えられる。今回の問題は保安検査で100%食い止めるめるべき問題ではあるが、この関門が破られたら、という想定をするのが未然防止だ。
「関門が破られたら」という想定をFMEAでは「潜在不良」と定義している。


このコラムは、2019年10月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第883号に掲載した記事に修正加筆しました。

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アエロフロート着陸失敗

 ロシアの首都モスクワのシェレメチェボ空港で5月5日、露航空会社アエロフロートの旅客機が緊急着陸に失敗し炎上、乗員・乗客ら計41人が死亡するという事故が発生した。

離陸後に機体が避雷し機体に損傷が発生、着陸に失敗という報道が事故直後にあった。事故調査が行われていると思うが、まだ公式の発表はない。

その後の報道から推測すると、人為ミスの可能性がありそうだ。

悪天候の中を離陸したが、直後に雷に打たれている。ここで機長は引き返す事を決断。離陸した空港に引き返し、着陸後機体後部から出火、機体は炎上。
旅客機は離陸直後には燃料がまだ消費されていないので、機体重量が重くそのままでは着陸の衝撃に耐えられない。機体を軽くするため燃料を投棄してから着陸に入る。

事故機は燃料廃棄をせず着陸し、機体後部を滑走路に打ち付けるなどの衝撃で燃料に引火、炎上したのではなかろうか?

機長は総飛行時間6,800時間、うち事故機と同型機の飛行時間は1,400時間。経験豊富と呼べるパイロットだった、と報道されている。経験豊富な機長がなぜ緊急時の基本動作を実施できなかったのだろうか?

副操縦士の経験は報道されていないが、副操縦士がパニック状態になり機長が取り乱したというのは、普通は考えにくい。上司が取り乱しているのを見て部下がパニックになるというのはあり得ると思うが、部下が取り乱せば上司は冷静にならざるを得ないだろう。

機長はパニックにはなっていないにせよ、冷静さを欠いていたかもしれない。
副操縦士が助言することはできるはずだが、コックピットに「心理的安全性」がないと助言など口にできないこともありうる。

「心理的安全性」とは、ハーバードビジネススクールのエドモンドソン教授が提唱した概念だ。
「対人関係のリスクを負うことに対して安全であるという、チームに共有された信念」として定義している。つまりチームのメンバーが何を発言しても否定されたり罰せられたりしないという確信がある状態をいう。

グーグルはチームの生産性を上げるにはどうしたらよいか、という目的で「アリストテレス・プロジェクト」という調査研究をしたことがある。その結果「心理的安全性」が低いチームは生産性が低いという結論が出ている。

この事故に関して考えると、機長が強権抑圧的な態度でチームを統制すると、心理的安全性が
低くなりチームのパフォーマンスが悪くなる。その結果チーム内には以下の状態が蔓延する。

  • 無知だと思われることへの不安が増す
  • 無能だと思われることへの不安が増す
  • メンバーから嫌われることへの不安が増す
  • ネガティブだと思われることへの不安が増す

副操縦士がこのような感情を持っていたとすると、緊急着陸の前に燃料投棄の手順が必要だと機長に助言することはできないかもしれない。

強いチームのリーダは部下を一人前の人間として扱い、指示命令よりは質問により提案を引き出す。質問とは解決方法を教えるための暗示だ。教える・指示するよりは気付きを引き出す。

部下の育成に無関心な人間は、その上に職位に上がるのは難しい。なぜなら自分の仕事を任せる部下がいなければ、永久に今の職位に留まることになる。


このコラムは、2019年9月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第880号に掲載した記事に修正加筆しました。

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完結編・5Sは知っているけど……

今週のメルマガでは,5Sは知っているけど実践できないリーダをどう指導すれば良いかというテーマを提供させていただいた.

【今週のお題】
5Sの知識はある.言うことも立派.
でも彼の職場はごみダメの様になっている.

この班長さんにちゃんと5Sが徹底できるようにするにはどう指導したら良いだろうか.あなたが彼の上司だったらどう指導しますか?

【私のアイディア】
メルマガにはまず現場で率先垂範し手本を見せると書いた.
一種のOJTだ.教えた知識を行動に移すことで知識が能力に変換される.

その前に5Sの目的と基準をきちんと説明する事が重要だと考えている.
何のために整理・整頓・清掃をするのかをきちんと教えなくてはならない.
お客様が来るから整理・整頓・清掃をするわけではなく,それらによるメリットを教えるわけだ.

また整理・整頓・清掃の到達すべき基準を明確にする事が必要だ.
整理・整頓・清掃しなさいといってもどのレベルにしなければ分からなければ対応のしようがない.

例えば清掃をしなさいといっただけでは,どこをどの程度きれいにしなければならないのか分からない.
合格レベルをきちんと示す事が必要だ.

【S様のご意見】
中国で現場指導した経験が無いので、すなおに実施出来るかわかりませんが、次のような手順でしょうか。
(1)現状の作業時間をチェック
(2)ゴミと必要なものを分け、ゴミは捨てる。
(3)赤札作戦で、頻度が低いものを現場から離す
(4)現場にあるものを定置化する。
(5)作業時間の再チェック

を繰り返す。また、一緒に実施していく。
効果が目に見えてくれば、意識が変わってくると思います。

S様がご指摘のように,5Sが習慣になるまでは繰り返し指導が必要だ.

【T様のご意見】
 私は以前“ホテル客室”を管理、製造業の経験はありませんが、「職場での意識」は共通してますね。中国では「管理者」が仕事を管理し、従業員は「指示されたこと」をするという考えが強い。
 整理、整頓と言われても「個人の感覚誤差」があり、管理者がどの程度を求めているのかわからない。管理者は、まず自分が求める「標準形」を示す。中国人従業員は、その「標準形」に沿って仕事をする。
 また、この班長さん、周囲が「ゴミ」などが散乱していたそうですが、彼ら中国人は、「自分は清掃員ではない」という考え。清掃員にやらせろ!という感覚ですね。典型的な中国人ですね。

T様のご意見は典型的な中国人スタッフの行動原理を良く把握されていると思う.このように相手がどのように考えて行動しているかを理解したうえで指導とより効果的であろう.

【H様のご意見】
座学を終えた班長に納得して5Sを推進して貰うために、先ず現場へ行って
設備や治具からありとあらゆるモノに対して、
何のためにそこに有るのか、
いつどのように使うのか、
誰がどこで使うのか
について一つずつリストして行きます。
「赤札作戦」のようなものですね。

それを、日頃必要になる頻度・優先度に則って順位を付けます。

これには間接部門にも参加してもらい、
同じ尺度で現場現物を見て同一の認識に立って全員が知恵を出し合って改善を後押しすると良いと思います。

さらに恒久対策と水平展開として、
他部署の班長など第三者による組織によって、より客観的な水準に基いた評価と不具合箇所の発見に努めると良いと思います。相互の部署への現場査察や改善報告などに結び付けたいと期待します。

最後に、現場の定点観測すると良いと思います。

単に現場に存在する余計なモノをポイポイ捨てるだけでは現場リーダーは付いて来ないと思います。作業合理性や生産性だけ説いてもダメ。
客先品質保証部門へ図面変更を依頼したり、作業標準更新であったり、治具の設計製作をしたり、会社規定や人事評価基準を改めたり、間接的かつ強力なバックアップが欲しいと思います。

H様のご意見は詳細な手順も入っており,皆さんの参考になったのではないだろうか.
5Sをバックアップできるように人事制度を整えるというのは,すばらしい視点だと思う.

【Y.H様】

  1. 整理:いるものといらないものの区別をつけ、いらないものは撤去する
    (一定のスパンでそれを行い、その間ずっと使っていないものは撤去する)
    目的は、誤使用の未然防止
  2. 整頓:必要なものを必要なときに効率よく取り出せるような状態にすること
    (物の置場を決める)
    目的は、物の置場を決めることにより、それを探したりする無駄な作業の低減
  3. 清掃:職場のゴミや汚れなくし、きれいな状態にすること
    目的は、汚れていない状態を維持することにより、汚れたときの異変に気づく

清潔、しつけの前に、上記(1)~(3)を目的をよく説明すること、もし整理整頓清掃をしなかったらどうなるか=失敗事例を交えて説明する。それを理解させたうえで、手法はその班長に考えさせる。
5Sを一気にするより、上記の3Sを徹底させる必要があります。

Y.H様のご意見は目的を理解させたうえで,具体的な方法を考えさせる.
考えさせる手法で,OJTをうまく活用できると思う.
ただ教えてもらっただけではなく具体的に自分で実施してみる,ということにより考える力や応用力がつく.
特に知識偏重の中国人スタッフを鍛えるには良い方法だ.


このコラムは、2008年12月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第67号に掲載した記事です。

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5Sは知っているけど……

 先週から新しい改善プロジェクトが始まった.
3000人規模の比較的大きな工場だ.工程内不良削減,生産性改善をする.たぶん30%程度の改善は3ヶ月で達成できるであろう.

初日に改善チームのメンバーを集めキックオフミーティングを行った.
この工場にはまず5Sのうちの「整理」「整頓」を徹底して問題点を見えるようにしようと考えている.そこでキックオフミーティングでは5Sの話をした.

質問はないかと聞くと,一人威勢の良い班長さんが「5Sは知っているけど,どうやれば良いか分からない」と質問してきた.知識だけあって行動に移せない,中国人リーダに良くあるタイプだ.

彼の現場に行ってみると,作業台の上に各種ネジやワッシャが散乱している.
部品を入れたダンボール箱には何も表示がしてないという状態だ.

ただ知識として5Sを知っていても何の役にも立たない.
知識を能力に変えてやるにはOJT(On Job Training)が必要だ.

5Sに関する知識はあるけど,実際に何も出来ていない班長さんをどのように指導したら良いだろうか.
私の場合はまず「率先垂範」で手本を見せることにしている.

さて今週のお題です.
5Sの知識はある.言うことも立派.
でも彼の職場はごみダメの様になっている.

この班長さんにちゃんと5Sが徹底できるようにするにはどう指導したら良いだろうか.あなたが彼の上司だったらどう指導しますか?


このコラムは、2008年12月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第66号に掲載した記事です。

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5Sの寓話

 「頑張れ社長!」の武沢先生のメルマガに面白い寓話が載っていた.

ちょっと長くなるが引用してみよう.
——–
今年満7才になったばかりのよし子ちゃんは掃除が大きらいでした。おにいちゃんと共同で使っている子供部屋はいつもぐちゃぐちゃに散らかり、居間や食堂もよし子ちゃんが使った場所はどこも見事に散らかっていきました。それはお母さんの悩みのタネでもありました。

  • そんなよし子ちゃんがある日、一人で部屋をきれいにしています。
    ビックリしたおかあさんが理由をきいてみると、よし子ちゃんはこう答えました。
    「だってあした山川先生がおうちへきてくれるんだもん」
    そうです。あしたはよし子ちゃんが大好きな山川チヨ先生が家庭訪問にやってくる日だったのです。
  • 家庭訪問が無事に終わった次の日も、よし子ちゃんはひとりで部屋の片づけをしています。
    「きれいにしているほうが気持ちいいもん」とよし子ちゃん。どうやら整理整頓や掃除の喜びを感じ始めたようです。
  • おかあさんはとても喜びました。この機会をとらえてよし子ちゃんにきれい好きな女の子になってもらいたいと心から願いました。
    そこでおかあさんは一計をめぐらすことにしました。
    次の日曜日に親戚のマリエおば様のお宅を訪問することにしたのです。もちろん、よし子ちゃんを連れて。
  • マリエおば様は親戚を代表するきれい好き。よし子ちゃんのおかあさんとマリエおば様は事前に電話で打ち合わせをしていました。
  • いよいよ訪問の日がやってきました。
    よし子ちゃんは一年ぶりにマリエおば様と再会するので、道中は少し緊張している様子でした。
    到着し、ピンポーンと呼び鈴を押しました。マリエおば様がニコヤカに出迎えてくれました。
    「マリエおばちゃまこんにちは、よし子です」元気よくしっかりあいさつができました。
  • 広々とした明るい玄関先で靴を脱ぎました。
    すぐに中へ入ろうとするよし子ちゃんにマリエおば様は言いました。
    「くつをきれいにそろえてから中にはいりましょうね」
    「は~い」
    向きを玄関側にそろえて靴を置くこと、できれば中央ではなく、端っこの方に少しずらして置くことをよし子ちゃんは覚えました。
  • さりげなく、マリエおば様は靴箱の中をあけました。
    そこには、きれいに手入れされた靴やハイヒール、ブーツが整然と並び、お香の心地よい香りが伝わってきました。
    「うわぁきれい」とよし子ちゃん。
  • 靴箱の上には観葉植物がたくさん並んでいて、横にはピカピカに磨かれた大きな鏡がかかっていました。
    よし子ちゃんは「玄関と靴箱はこうやってきれいにしておくものなんだ」ということを知って、とてもためになりました。
  • 次にリビングに通されました。外は暑かったので、ノドがからからに乾いていたよし子ちゃんに向かってマリエおば様が言いました。
    「よし子ちゃんのために今日はジュースを7種類も用意してあるわよ。どれにする?こちらへおいで」とキッチンにある大型冷蔵庫の方へ手招きしました。
    冷蔵庫の中をみてまたビックリ。ここもまたきっちりと整理整頓され、使いやすそうにいろんなものが入っていて、とても美しかったのです。
    「へぇ、すごい冷蔵庫」
  • この日、マリエおば様のお宅を訪問したことで、よし子ちゃんは整理整頓と清掃に関する理想郷を見つけたようでした。
    そればかりでなく、その理想の姿を作るために毎日、どのように掃除したらよいのか、整理整頓にどの程度の時間を割けばよいのかも教わりました。掃除用品についてもレクチャーを受けることができて、よし子ちゃんはお掃除することがワクワクすることのように思えてきました。
  • 毎日掃除すべきところと、曜日を決めて週一回とか二回の掃除で良いところ、半年か一年に一回で良いところなどがあるのだと知って、よし子ちゃんも「おうちでもそうしようよ」とおかあさんに言いました。

●掃除がキライだったよし子ちゃんのターニングポイント

  1. 人を呼んだ
    山川先生という特別なゲストが我が家にやってきたのがきっかけになった。
    ゲストが来ると、きれいにしておきたくなる。特にそのゲストが大切な人であればあるほど入念に準備する。
  2. 理想の姿を実際に見せる
    百聞は一見にしかずというように、マリエおば様宅を訪問し、理想像を見学してカルチャーショックを受けた。
  3. システムを教える
    掃除のやり方、曜日ごとの掃除ローテーションなど、きれいな状態を保ち続ける知恵も教えてあげることで、やがてそれがよし子ちゃんの終生におよぶ習慣になるだろう。

——–

武沢先生はこの寓話を,モノを教える時の例として紹介された.私は5Sをうまく導入するための寓話として読んだ.

すなわち
整理・整頓・清掃の目的を与え(山川先生),
整理・整頓・清掃の到達目標(マリエおば様)を明確にした.
そしてそれをシステム化するというのは5Sで言えば清潔だ.

5Sが尻つぼみになってしまう事が多いのは,目的と目標がきちんと説明できていないからだ.

経営者がいくら5Sをちゃんとするようにといってもその目的が分からなければ,5Sをする必然性が理解でない.
整理・整頓・清掃をきちんとしなさいといっても合格基準が分からなければ,どこまでやれば良いか理解できない.

5Sがうまく行っていない会社は,経営者が5Sの本当の意味を理解していないのではないだろうかと思っている.5Sは見栄えを良くするためではなく生産性向上,不良低減,リードタイム短縮など収益性の改善が目的だ.これが理解できていれば,目的も目標もちゃんと明確にする事が出来るはずだと考えている.


このコラムは、2008年12月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第72号に掲載した記事です。

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作業の標準化

 製品の品質や生産性を均一にするために作業の標準化は欠かせない.
その標準作業手順を文書化したのが作業手順書とか,作業指導書などと呼ばれているものになる.

殆どの工場には,優劣の差はあっても作業手順書の類はある.
しかし今全く作業手順書を持っていない工場を初めて指導している.製造現場に唯一あるドキュメントは,製品の分解図でありこれは作業者向けとは言いがたい.明らかにエンジニア向けである.

この工場では,そのエンジニア向けの図面を班長さんが作業者向けに噛み砕いて作業指導をして生産している.したがって班長さんの力量によって生産性が変わってしまう.

また作業指導が十分でないところについては,作業者ごとにやり方が変わっている.
例えば狭いスペースに部品と配線を押し込むようにして組み立てなければならない製品がある.この作業がネック工程になっており4人の作業員で分担しているが,全員が違う作業方法で作業している.したがって出来上がりの製品は4種類の異なる配線経路を持っている.

また班長さんごとに,経験値が違うのでラインごとに違う作業方法を取っている.これで製品の品質や生産性に大きなばらつきが出ている.

実はこの工場にも以前は作業手順書があり,工程順を決め,その工程ごとに写真入りの手順書を作っていたという.しかし4000品目もある製品の手順書を造りきれずに途中で断念し,分解図だけで生産する方法を選んだようである.

一人の班長さんに,こういう状況をどう思うか?とたずねてみた.
彼曰く,
作業の生産性や品質を決めるのは作業員の「心態」(中国語で意識とか精神状態の意味)である.作業標準を勝手に決められてしまうと,現場の変動に合わせられない.

言うことは立派だが,偉そうなことを言う前に製品の品質と作業員の生産性を均一にしなさいと言いたい.

この工場では,製品は班長さんの「暗黙智」で生産されているといって良いだろう.暗黙智は他の班長さんや作業員と共有する事が出来ない.暗黙智は「形式智」に変換することによって始めて他者と共有する事が出来る.暗黙智を形式智に変換したものが標準作業手順だ.

全く標準作業手順書を作った事がない人たちに指導をするのは易しい.教えれば良いだけだ.
しかしこの工場のように一度挫折した人たちに,標準作業手順の重要性を説いて再度作業手順書を作らせるのは骨が折れる.

まずは品質と生産性に重要なインパクトを与えるところから,簡単に作業手順書もどきを作って教えてゆこうと考えている.


このコラムは、2009年1月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第77号に掲載した記事です。

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完結編・不況の処方箋・高品質

【今週のお題】不況の処方箋
不況に打ち勝つため,高付加価値にするための工夫やアイディア

【私のアイディア】
本編では

  • 高品質にこだわることにより,顧客での受け入れ検査省略などの付加価値を付ける.
  • 顧客が部品を生産現場に投入する時の利便性を考えて梱包形態を変更する
  • 次世代売れ筋商品(高付加価値商品)の生産技術開発
  • 顧客心理を捉えた接客

などのアイディアと書いた.

別の切り口から考えてみよう.

「オーラを造りこむ」
モノにはモノそのものが持つ機能や価値以外にモノから発せられるオーラがある.造り手のモノづくりの思いを込めてオーラ造りこむ.モノづくりのストーリィそのものが,広告になる.
例えば岡本雅行さんの「痛くない注射針」はそのモノづくりの技術もすごいが,その完成ストーリィを聞くと,思わずその注射針で注射してほしくなる(笑)

これも「付加価値」になると思うがいかがだろうか.

【S様のご意見】
違う視点で考えることができ、ためになっています。
品質管理畑を長年やっていたため、中々アイデアがありません。
QCD以外の観点がないか?もう少し考えてみたいと思います。

S様いつもご投稿ありがとうございます.
品質管理屋だから思いつく付加価値もあると思う.
Qに関して言えば,顧客が受入検査を省略できる製品というのは「高付加価値」と言ってよいだろう.
Cに関してはメーカ側の都合なので,顧客にコストで「高付加価値」を提供するのはちょっと難しいかもしれない.むしろ「高付加価値」によりコストにかかわらず高値で売れる製品・サービスを考えたい.
Dは業界の常識を超える短納期を提供できればそれが「高付加価値」になる.

【K様のご意見】
自社製品やサービスの付加価値を上げるための工夫ですが、私の工場では全ての客先に対して同じ品質管理をしています。日本の本社以外の独自の仕事もしているのですが、ヨーロッパ系の客先からの品質要求は厳しくありません。
しかし、日本の客先と同じ品質管理で生産をしています。工数はアップしますが、製品の付加価値を上げる為に、厳しい基準での生産を行なっています。
このおかげでこの客先からのクレームは全然発生していませんし、新たな受注にも繋がっています。以上、ありきたりな内容ですが、投稿させて頂きます。

 ありきたりと謙遜されているが,普遍的な考え方だと思う.
中国で車を買う場合,購入費用が高くても国産車より日本車を選ぶと言う人は増えている.メンテナンスなどの生涯コストを考えると,日本品質の車を買ったほうが 安くなるからである.
日本品質が世界品質だと思われる時代が来るに違いないと思っている.
日本の自動車メーカは更にその上で,ヨーロッパ車のような「高くても乗りたい」というオーラを持った車を開発できれば,鬼に金棒だ.


このコラムは、2008年12月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第71号に掲載した記事です。

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ものづくり川柳

 生産管理システムを販売している会社が、モノ造りに関する川柳を毎年募集している。昨年優秀賞を受賞した一句に

「ドラマ見た 次の日みんな 阿部寛」

という川柳があった。
池井戸潤の「下町ロケット」のTVドラマを言っているのだろう。

【大田区の零細企業・佃製作所の下町ロケットシリーズ】
「下町ロケット」帝国重工のロケットエンジンに搭載されるバルブの開発
「下町ロケット・ガウディ計画」人工心臓弁の開発
「下町ロケット・ゴースト」自動変速装置の開発
「下町ロケット・ヤタガラス」農業用トラクターの変速機開発

下町零細下請け企業の開発をテーマに池井戸潤が書いた小説だ。
零細企業でありながら、その技術力によって大企業のエゴや悪事をはねのける。そんなストーリィに、読者(視聴者)は佃製作所の社長・佃航平(阿部寛)に感情移入するのだろう。

設計技術が優れている。製造技術が優れている。市場規模が小さい。
この三つが重なったエリアで、零細企業は戦いを挑む。

零細企業と言えど、範囲を限定すれば設計技術・製造技術で他社に負けない分野があるはずだ。そして市場規模が小さければ、大企業は参入してこない。

逆説的な言い方になるが「弱者の強み」が「佃品質」「佃プライド」なのだと思う。

余談だが「下町ロケット」シリーズは朗読サービス(Audible)で聞いた。
朗読サービスのメリットは、移動時間にも読書(聴書?)ができることだ。


このコラムは、2019年5月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第828号に掲載した記事に加筆しました。

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目標設定

 先週末は、東莞和僑会「マネジメント塾・改善交流会」に出席した。

東莞和僑会年間会員企業の中国人幹部が参加して「方針管理・目標管理勉強会」を3年間開催した。各社の幹部・中堅中国人社員の育成を目的としている。
方針管理・目標管理の展開方法を年間を通して実践する勉強会だ。
方針・目標を達成するための現場力を鍛えるため、2年目からは順に会員企業の現場で開催している。現場で交流することにより、相互に学び合う事を目的としている。

この勉強会を通して中国人幹部の知識向上だけではなく、目標達成のコミットメントが格段に上がった。総経理から与えられた目標ではなく、自ら決めた目標だ。他人事ではなくなる。

4年目の今年から、更に内容を深め各社テーマを決めて現場の改善事例を相互に発表する形とした。今年の参加企業は5社だ。改善事例を聞きその現場を見学しディスカッションする形式だ。

ディスカッションが想定以上に活発となり、時間が押してしまうという嬉しい誤算があった。多分今までに他社の現場を見学し、改善事例を話し合うという経験がなかったのだろう。

その後各社混合で3チームに分けて取り組むべき課題をディスカッションし、発表。その後社内で議論して取り組む改善課題を決定してもらう。

交流会の中で改善目標の立て方について考えて見た。
年度計画を立て改善活動をする時に、人員削減前年比〇〇%、不良損失金額削減〇〇%という目標を立てるのが一般的だと思う。

生産性向上、多能工化などの具体的改善施策の結果を評価する時に人員削減を使う。同様に品質改善の評価に不良損失金額を使う。これは合理的だと思う。

しかしよく考えると、売り上げが下がれば必然的に人員削減をしなければならない。または売り上げが上がれば、不良率を下げても損失金額が下がらない事がありうる。

売り上げ金額も年度計画に入っているだろうが、計画は計画だ。市況により売り上げ金額は左右されてしまう。売り上げ金額は自社だけではコントロールできない。市場や顧客による影響が大きい。改善活動を実践する部門にとって追い風にも向かい風にもなりうる。

極端なことを言えば、不良損失金額をゼロにするための最も簡単な方法は生産しない事だ(笑)

例えば人員削減を目標とするではなく、一人当たりの生産性を目標とする。
損失金額を目標とするのではなく、損失金額を売り上げ比率で目標とする。
こういう目標であれば、追い風、向かい風の風向きに関係なく改善の評価が出来るだろう。


このコラムは、2019年3月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第798号に掲載した記事を改題・加筆しました。

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