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消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

 カップ焼きそば「ペヤングソースやきそば」が全国から一斉に姿を消した。原因は商品混入を指摘された1匹の虫。製造する「まるか食品」は全商品を自主回収し、生産を全面停止。数十億円かけて設備の刷新も検討しており、周囲から「そこまでやるのか」と驚きの声も漏れる。年間売上高約80億円の中堅企業にとって負担は重い。まるか食品はなぜ、これほどの「代償」を払うことにしたのか。そして耐えられるのか。

全文はこちら

(日本経済新聞より)

 虫一匹で、年商80億円の会社が潰れるかも知れない。
市場からの回収費用、生産設備の刷新などで数十億の費用がかかると言う。更に、生産停止による機会損失や、従業員の雇用を考えれば、年商分くらいの金額は吹き飛んでしまうだろう。最も深刻なのは、消費者の信頼を失ってしまった事だ。これは金額では換算出来ない。未来に渡って課せられた負債となる。

品質問題で、企業が丸ごと無くなってしまったのを何度も見て来ている。

品質保証関連の仕事をされている方は、対岸の火災と、高みの見物をしている場合ではない。自社の中を再点検する必要があるだろう。特にB to C製品を扱っている場合、今回の様に一発退場を、食らう事がある。

以前勤務していた会社は、B to B製品を取り扱っていたが、私がいた事業部でB to C製品を、販売したことがある。当時品質保証部長をしていた私は、自社製品の噂がネットに出ていないか、日々検索していたモノだ(苦笑)
幸い、たまに検索に引っかかるのは商品に好意的な書き込みしかなかったが、毎日ヒヤヒヤしていた。当時東芝クレーマー事件が話題になっており、神経を尖らせていたモノだ。

このような問題を回避するためには、潜在的問題を先手で改善しておくしか方法はない。新聞記事には「初動の対応が悪い」と指摘があったが、事が起きてからでは遅いのだ。

例えばペヤングの工場内部の写真(多分工場勤務者からの漏泄だろう)を見ると、お世辞にも奇麗な工場とは言い難い。食品工場としては、かなりお粗末だ。とても顧客に公開出来る工場ではない。設備を更新したとしても、今のままの設備管理では1年で顧客に見せられる工場では無くなるだろう。基礎化粧品のメーカが、毎日生産設備を分解清掃している事を、TVコマーシャルに流した事がある。もし、まるか食品にまだチャンスが有るとすれば、このくらいの事をやらなければ、失われた信頼は取り戻せないだろう。

問題が起きてしまってからでは遅い。
品質保証の本来の仕事とは、発生した問題の後処理ではない。問題が起きない様にする事が、本来の品質保証の仕事だ。


このコラムは、2014年12月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第404号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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作業ミス対策

 単純な作業ミスによる不良の再発防止対策にお困りだったりしないだろうか.
「作業者に注意をした」「作業者に再教育をした」「作業者に罰金を課した」「検査の追加」など,対策の効果が実感できないような再発防止対策が報告されてくる事がままある.

一番驚いたのは掲示板にA4用紙一杯に「作業に注意します」と何度も繰り返し書かれた反省文?が張り出されているのを見たときだ.多分現場の班長さんが,作業者にどう指導してよいかわからず,学校で同じような罰を先生から課せられたのを思い出して,同じ事をしてみたのであろう.

笑ってはいけない,班長さんはこれでも真剣に考えたのであろう.
上位職者がきちんと班長を指導できていないのが問題だ.

まずは作業ミスがどうして発生するのかを分析する必要がある.

  • 疲労による作業ミス
  • ついうっかりミス
  • ついうっかり作業飛ばし

一般に1件の不良が顕在化する影には,工程内で見つける事が出来た不良が29件発生,300件の「ヒヤリ・ハット」する出来事があるといわれている.(ハインリッヒの法則)

顕在化した不良だけを見ていると,なかなか原因が分からない.これらの潜在不良に着目して分析する必要がある.

時系列で,曜日別で,作業員別で,生産機種ごとに,など色々な切り口で見る事が出来る.

こういう分析により作業員の疲労度やぼんやり度に法則が見えれば,対策を打つ事が考えられる.

どんなに注意していても所詮は人間である.ミスは必ずある.
疲労を軽減する作業になっているか.注意力に頼る作業になっていないか.
という着眼点で対策を考える.

またミスが発生しない仕組み,ミスが発生しても流出しない仕組み「ポカよけ・ダブルチェック」を導入する.

それでもどうしても作業者の技量に頼らざるを得ない場合はある.
こういう場合は「作業者の再教育」という対策にならざるを得ない.
「作業者の再教育」という対策が悪いわけではない.

  • 教育効果がきちんと確認できているか.
  • 教育効果が実感できるものか.
  • 新人作業員,別の作業員にも教育が確実に行われる様になっているか.

ということが保証できていれば,対策として合格点がもらえるであろう.


このコラムは、2008年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第56号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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貧乏輸出大国・中国

 先日中国で工場経営をしておられる方からこんな話を聞いた.
中国は廉価大量生産品をどんどん作り輸出することにより,世界中にどんどん貧乏を輸出しているというのだ.

非常に面白い論点だと思う.
安い物を更に安くして,自らどんどん苦しくなっている.更に世界中の競争相手も苦しくしている.「貧乏輸出大国」という表現はなかなか言いえて妙だ.

しかし我々はこの競争に巻き込まれるわけには行かない.
良い物を造って,高くても喜んで買っていただける,
こういう戦略で商売をしなければ未来はない.

最低賃金が毎年十数%上昇しても,毎年生産性を30%改善すれば良いだけだ.
工夫に工夫を重ねより高品質・高付加価値の製品を作る.
お客様中心主義で高フレキシビリティ生産をする.
これが日本のモノ造りの心だ.

我々は中国の社会・文化の中でモノ造りをさせていただいている.しかし日本のモノ造りの心だけはローカライズをしてはならない.むしろこういう環境であるからなおさら日本のモノ造りの心を際立たせなければならない.


このコラムは、2008年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第51号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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ホンダが品質保証体制を強化

ホンダが品質保証体制を強化、相次ぐリコールを受けて担当役員を配置

 ホンダは2014年10月23日、全社の品質保証体制を強化すると発表した。2013年9月に発売した「フィット」(図1)と同年12月に発売した「ヴェゼル」(図2)のそれぞれのハイブリッド車(HEV)が、リコールを繰り返していることを受けたものである。

 同社の四輪事業本部に「品質改革担当役員」を置き、同役員が本田技術研究所の副社長を兼務する体制にする。担当役員には専務執行役員(現・四輪事業本部第一事業統括)の福尾幸一氏が、2014年11月1日付で就任する。さらに、技術研究所の開発体制を見直し、生産・品質・カスタマーサービスなどの各部門が連携してチェックする体制を整える。こうした新体制によって、品質問題の撲滅を目指すという。

 「フィットハイブリッド」は発売直後の2013年10月と12月、2014年2月と7月の合計4回にわたってリコールを繰り返した。フィットハイブリッドと同じパワートレーンを搭載する「ヴェゼルハイブリッド」についても、2014年2月と7月に2回のリコールを行った。ホンダによるといずれも、「モーターとエンジンを組み合わせて制御するシステムの開発過程において、様々な使い方を想定した検証が不十分だったため」と説明している。

(日経テクノロジーオンラインより)

 この記事を読んで、ホンダに品質保証担当役員がいなかった事に、驚いた。当然品質保証組織は有っただろうが、そのトップが部長・本部長など中間管理職と言うのはいかがなモノだろうか。品質保証が機能する・しないの問題ではない。経営者が品質保証を重視していると言う姿勢を示すために、役員クラスの経営幹部が品質保証部のトップにいるべきだと考えている。

ホンダのような大企業が、そのための人財がいなかったとは考え難い。
営業担当役員、製造担当役員、技術担当役員などはいたはずだ。品質保証担当役員がいなければ、この会社は品質保証を重視していないと、社内外の人は考えるだろう。

人財が豊富にいない中小企業でも、品質保証重視を社内外にアピールする方法は有るはずだ。

ある企業経営者は、技術部、製造部が品証部に協力しないと言う問題に直面した時に、品証部長の給与を他の部長より高くしたそうだ。たったこれだけの事で、各部長が品証部長に協力する様になり、部門間の協調が上手く行く様になったそうだ。これも経営者が「品質保証重視」を社内にアピールする方法の一つと言えるだろう。

 ところで、ホンダのHPのリコール告知は、そこそこ詳しく現象・原因が記述されており、ある程度参考になった。

過去のフィット、ヴェゼルのHEV車リコールを調べ、私なりに二つに整理してみた。

  1. 組み込みソフトウェアのバグが原因となるリコールが大半を占めている。
  2. モジュール化し再利用をするためリコール対象が一気に増える。

最近はあらかたの製品が、マイクロコンピュータによって機能を実現している。
ソフトウェアをバグなしで設計する事は、事実上不可能だ。従って、デバック、設計検証、妥当性検証と言う手段でバグを発見修正することになる。
どこまで使用者の立場で検証出来るかが、検証の優劣になる。属人的なセンスに依存しがちな検証を、漏れなくダブりなく検証項目を挙げる仕組みを作る事が重要だ。

そして、検証に先立ち検証計画を立てる。計画を立てて検証作業に入らないと、ずるずると際限なく検証を続けることになる。この計画書を具体的かつ詳細に作れば、検証作業を外注化する事が可能になる。
しばしば、外注に仕様書を投げ、完成品を社内の若手設計者が検証する、と言うやり方を見る。しかし、検証を外注化し、若手設計者に設計・実装の仕事を与えた方が、設計者の育成効果が高いと思う。

ところでこの様な、検証システムを作ったとしても、設計者はバグゼロを目指して設計しなければならない。
人命の安全が最優先であり、協力工場に対し、不良ゼロは当たり前、と言っている以上、ソフトウェアと言えどバグゼロは当たり前でなければならない。

以前トヨタが、リコールを連発した時に「コストダウン目的のモジュール化」が過度に行われた結果だと言う批判的な記事を多く見た。

モジュール化とは、部品を組み合わせて作った機能ユニット(モジュール)をどの製品にも再利用すると言う意味だ。

しかしモジュール化の本当の狙いは、設計を標準化し、品質を安定させる事だ。その結果設計コスト、品質損失が下がると言う事であり、コストダウンが目的ではないはずだ。

問題は設計のモジュール化ではない。

第一の問題は、モジュールのインターフェイス仕様の定義に曖昧さが有る事。
インターフェイス仕様と言うのは、モジュールを組み込む際の製品との取り合いと表現すれば分かり易いだろうか。
最も単純なインターフェイスは、モジュールを製品に組み込む時のネジ位置だ。
例えば、動力ユニットで言えば、出力トルクや馬力の性能だけでなく、車体に取り付ける方法、タイヤの径、車体の重量等々、どの範囲で再利用出来るかを明確に定義したのがインターフェイス仕様だ。

第二の問題は、モジュールを応用した場合の検証が不十分な事。
当然モジュール自体は設計検証が完了した状態になっているが、組み合わせの検証を省略して良いと言う訳ではない。


このコラムは、2014年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第395号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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状態の見える化

「ベビーベッドに挟まれ乳児死亡 消費者庁が注意喚起」

 消費者庁は15日、木製ベビーベッドの側面にある収納部分の扉が開き、そこから落ちた乳児が頭部を挟まれるなどして死亡する事故があったとして注意を呼びかけた。収納部分の扉のロックが完全にかかっていなかったことが原因とみられる。

 消費者庁によると、今年6月に生後8カ月の乳児が死亡する事故が発生。9月にも生後9カ月の乳児が重症を負ったという。

 消費者庁はベッド側面にある下部収納の扉が開き、そこから落ちたとみられる乳児の頭部が顔を寝具に押さえつけられるように挟まり、乳児は息ができなくなったと推定。扉のロックが完全にかかっておらず、乳児が寝返りなどで接触した拍子に開いたとみられる。

 いずれも保護者が目を離した際に起きていた。

 2件のメーカーは異なっているが、扉はピンを穴に差し込んでロックする形式だった。国民生活センターが再現テストを実施したところ、ピンが穴に入っていなくても扉が止まることがあり、ロックがかかっていないことに気づきにくい構造だった。

(日経新聞より)

 2008年に配信したメールマガジンでベビーベッドの事故をご紹介した。
「中国製ベビーベッドを米国で回収 乳幼児2人死亡」

こちらの事故はベビーベッドを固定しているピンが外れているのに気がつかず、柵が落ちて乳幼児が挟まれて亡くなっている。
今回とほぼ同じ事故原因だ。2008年の事故ではピンを目立つ色としロック状態・アンロック状態を可視化する、という対策だった。

今回の事故も同様に、ロック・アンロック状態を可視化する工夫で事故は防ぐことができたのではないだろうか?

時が経つと忘れてしまうのだろうか?約十年に同様の原因で死亡事故が起きている。今回事故を起こしたベビーベッドの設計者が、私のメールマガジンを読んでいてくれたら、このように事故は発生しなかっただろうと残念に思う。

製造作業での工程飛ばしも「可視化」で対策できるはずだ。
コンベア作業で、休憩後の作業再開時に未作業のワークを次の工程から作業を開始してしまうという事故は容易に想像がつく。作業員毎に作業完了・未完了を「可視化」することで対策が可能となる。

FMEAは自動車関連企業の専売特許ではない。他業種の事故や不良も潜在故障の事例として、自社製品、工程で同様の故障・問題が起きないか、その未然対策を検討する。こういう取り組みはどの業種にも役に立つはずだ。


このコラムは、2019年11月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第904号に掲載した記事に加筆しました。

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中国製ベビーベッドを米国で回収 乳幼児2人死亡

 【ニューヨーク=中前博之】米国のベビー用品メーカーのデルタ・エンタープライズ社は21日までに、中国などで製造されたベビーベッドを使用して乳幼児2人が死亡する事故があったとして、約160万台のベビーベッドをリコール(回収・無償修理)すると発表した。日本で流通しているかどうかは不明。

 同社は死亡例の詳細は言及していないが、ベビーベッドの両側の柵を支える留め具に不備がある可能性があるという。同社はウェブサイト上で、2006年以前に中国で製造されたベッドは「直ちに使用を中止」するよう呼び掛けている。

 ロイター通信によると、ベビーベッドは中国のほかに台湾、インドネシアでも製造されている。

(NIKKEI.NETより)

また中国製だ,という論調の記事である.
タイトルには「中国製ベビーベット」と書いてあるが,記事の最後に申し訳程度に「中国の他に台湾,インドネシアでも製造されている」とある.

詳細を米国の消費者製品安全委員会のホームページで確認してみると,これは工場の製造問題ではなく,設計上の問題のように見える.

ベビーベットの柵を固定しているピンが外れるかなくなっているのに気が付かず,柵が落ちて幼児が挟まれたようだ.

デルタ・エンタープライズ社も回収はしていない.
交換用の固定ピンもしくは改造用の固定ピンを製品にあわせて送ってくれるだけである.
この製品を特定するために「中国製」「台湾製」「インドネシア製」という言葉が出ているだけである.

昨今,中国製食品問題や,中国製玩具問題などが多発しており,またもや中国の工場の問題と決め付けて記事を書いたのではなかろうか.少なくとも同社のホームページを見れば,リコールしているという記事はかけないはずである.

この調査の過程で,以下の工夫が参考になった.

交換用の固定ピンは,従来の物と色が変えてある.
これは固定ピンの付け忘れ,脱落などを看える化するためだ.
意匠デザイン的には違和感があるかもしれないが,初めからそのようにデザインすれば違和感なくデザインできるはずだ.

このベビーベッドのように利用者が組み立てをする製品については,このような工夫がリスク回避につながるだろう.

また生産工程内でも,工程飛ばしを防ぐためのアイディアに応用できそうだ.


このコラムは、2008年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第57号に掲載した記事に加筆しました。

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心臓手術ミスで4歳死亡 愛知・豊橋市民病院

 愛知県豊橋市の豊橋市民病院は6日、2010年に心臓病の手術を受けた男児(当時4)が、約10日後に死亡する事故があったと発表した。手術の際、血管に空気が入って心筋梗塞(こうそく)を起こしたためで、同病院は手術ミスを認めて謝罪した。
 男児は、心臓の壁に穴が開いたままになる「心房中隔欠損症」と診断され、心臓血管・呼吸器外科などの執刀医3人らが10年11月、穴をふさぐ手術をした。
 手術は、いったん心臓を止め、血管を人工心肺装置につないで行われた。その間、心臓を壊死(えし)させないように冠動脈に「心筋保護液」を流そうとしたが、装置のチューブの接続部が緩み、2回にわたり計32ミリリットルの空気が入ったという。
 このため、心臓に保護液が届かなくなって心筋梗塞を起こして死亡した。
 同病院によると、心臓手術の中では初歩的な手術で、死に至るケースはまれだとして、調査委員会を設置。スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかったとして「人為ミスの可能性が高い」と結論づけた。

(asahi.comより)

 この医療事故の原因は,
「スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかった」ではなく,
「心筋保護液回路に空気が混入した」ことである.

「点検をしっかりしていなかった」は流出原因であり,根本原因ではない.

「点検をしっかりしていない」という人為ミスに対して対策を考えると

  • 点検をしっかりする様に指導をする
  • 点検チェックリストを作り,点検漏れを防ぐ
  • 臨床技師と看護士のダブルチェックとする

という効果を実感できない対策となる.

根本原因「空気が混入した」に対策を考えると,以下の3分類の対策を考えれば良いはずだ.

  • 空気が混入しない様にする
    チューブ接続部分を,カチッとはまるコネクタ方式にする.中途半端な接続が出来ない様にする.
  • 空気が入っても問題ない様にする
    エアートラップを循環回路の中に入れる.
  • 空気が入ったらすぐに循環を停止する様にする
    気泡検出装置を付けておけば,自動で循環装置を停止させる事は簡単だろう.

人為ミスで解析を停めてしまうと,このような対策は出てこない.
上記の根本原因対策の実施が全て不可能だった場合は「しっかり点検しなかった」流出原因に対策を考えることになる.

  • 空気混入により事故が発生する事を知らなかった(あり得ないと信じたいが)
  • 点検箇所が漏れていた
  • 点検したが見つけられなかった(点検困難,誤判断)

それぞれの対策が変わって来るはずだ.

記事を読むと,今回の事故は術中に空気の混入に気が付いたが,正しく処置出来なかった可能性もある.つまり冠状動脈に入った空気を,迅速に抜く操作が出来なかった.
この場合も,上記同様に更に原因を掘り下げる.

  • やり方を知らなかった
  • やり方は知っていたがやり難かった
  • パニックになった

例えばパニックになる原因を更に考える.
初めての体験でパニックになったとすれば,シミュレーション訓練で防ぐ事が出来るはずだ.
術中に発生する可能性のある潜在事故を洗いざらい上げて,その対処方法をシミュレーションできる実地訓練を準備すれば,予防保全が出来るだろう.

工場でも同じ事だ.
事故や,不良の発生を潜在故障としてリストアップし予め対応方法を決めておく.いわゆるFMEAと同じだ.

勝手なことを書いたが,私は医学に関しては全くの素人だ。工学の専門家としての知見から、我々が遭遇する可能性のある事故に置き換えて思考実験をしてみた。


このコラムは、2012年7月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第265号に掲載した記事に加筆しました。

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不良原因分析

 先週は「GM~踊れドクター」というTVドラマをまとめて見た.

米国でトップレベルの総合診断医師が,ダンサーとして日本で再デビューする事を夢見て帰国する,というかなり無理な設定のTVドラマだ(笑)

仕事を終えて,ビールを飲みながらドラマを見ている.面白ければそれで良いのだが,一応そのドラマを見る事の意義を考えることにしている.
このドラマの面白さは,患者の容態,行動,言動から可能性のある疾患を上げ一つずつ検証確認し,消去法で真因に迫って行くプロセスに有る.

このプロセスが,我々の不良原因分析に似ている.
不良現品,生産現場を良く観察し,可能性のある不良原因を一つずつ仮説検証する.
ドラマでは仮説検証の過程で,新たな仮説が浮かび上がり更に検証を進め真因を見つけることになっている.

まさに不良原因分析のプロセスそのものだ.
ホワイトボードに,可能性のある不良原因を書き上げる.それぞれに検証方法を考え,検証により原因を一つずつ消し込んで行く.

ドラマの設定では,このミーティングの過程で研修医や問題の有る医師たちが成長して行く.

我々の仕事も同じだ.
不具合原因解析のプロセスを「見える化」することにより,メンバーが解析のアプローチ方法や考え方を身につけることになる.
客先から不良が戻って来た時に,深刻な顔をして考え込まないで,メンバーを集めホワイトボードに解析のプロセスを見える化しながら,解析をしてみよう.メンバーの成長チャンスだと思えば,客先不良にもそんなに落ち込まずにいられるだろう.


このコラムは、2012年7月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第265号に掲載した記事に加筆しました。

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電源コンセントの不良

 独立行政法人・製品評価技術基盤機構・NITEのホームページに2008年9月24日から9月30日までの事故速報が紹介されていた.事故速報79件中の3件が電源コンセントの不良と思われる事故である.

AC電源コンセント部分から火花が出て火災に至る事故だ.
現象だけから推定すると,ACコードのプラグを受ける金具の部分がゆるくプラグをくわえる接触圧力が不足したため接触が不安定になり火花がパチパチと発生したのであろう.

以上は日本での事故であるが,中国で販売している電源テーブルタップや,壁コンセントはすぐにユルユルになってしまう.事故統計データのようなものは見た事がないが,きっと多くの火災事故の原因になっているのではないだろうか.

特にソファーの裏側にある壁コンセントなど気をつけないと危ない.
ソファーに座るたびにコンセントに振動がかかる.ソファーの材質が燃えやすい.条件がそろっている.
NITEの事故情報を見てソファーの裏にある壁コンセントから電源ケーブルを早速引き抜いた(笑)

皆さんのオフィス,工場などの電源コンセントも一度点検をされてはいかがだろうか.火災に至らないまでも接触不良で電源が瞬断,PCのデータが飛んでしまった,などという悲しいことになりかねない.

ところで事故速報でもっと気になるのは複写機の背面から黒い煙が出たという事故報告が8件も発生していることだ.いずれも原因調査中になっているが,早く手を打たないと大きな事故につながりかねない.特に複写機は機械の周り,内部に紙が置かれているので容易に類焼してしまうだろう.


このコラムは、2008年10月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第46号に掲載した記事に加筆しました。

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不良データの取り方

 不良データはパレート図などで整理して,上位の不良から対策をする.というのが定石である.

しかしこの方法がうまく行かないと考えている方があった.
「現場が生産するときに支障となるような不良項目と集計上件数の多い不良項目とが一致するとは限らない。」という主張である.
そのため,「現場が優先して解消してもらいたいと思っている不良項目を確かめることが大事だ。」と言っておられる.

この方は不良データが役に立たないので,もっと現場の声を聞いて対応しようという主張をもっておられる.この考え方を否定するつもりは全くないが,別の考え方ができないであろうか.

現場の改善に役に立たないデータは集めても無意味である.品質管理部などの自己満足にしかならない.改善の役に立って始めてデータが活きてくる.

例えば,パレート図で不良数量が多い供給メーカを上位から順に品質改善をしても,現場の改善につながらないと彼は主張する.当然であろう.購入数量の多い供給メーカは,分母が大きいので不良数量でデータを整理すれば,上位に位置づけられることになる.

これはデータが役に立たないのではなく、テータの取り方が適切ではない.不良数量ではなく不良率でデータを整理すれば,購入量に左右されないデータが得られるはずである.

また工程が困る度合いと,不良率が一致しないと言う彼の主張もありうるだろう.
この場合は不良率でデータを整理しないで,不良による工程の停止時間、修理にかかる時間などの不良による損失でデータを評価すべきである.

データが役に立たないのではなく、データを取る目的をはっきりさせ,それにあわせたデータの評価をすべきだと考えている.


このコラムは、2008年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第46号に掲載した記事に加筆しました。

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