品質保証」カテゴリーアーカイブ

サムスン、携帯見本市でもトラブル続き

 バルセロナで開催されたスマホの展示会MWCでサムスンは、Note7の後継機を発表しないと決めていたが、展示にトラブルがあったり、グリーン・ピースの活動家の乱入があったりで「何から何までサムスンらしくないイベントだった」そうだ。

日本経済新聞電子版の記事

リチウムイオン電池の爆発問題、経営者の贈賄容疑など弱り目に祟り目とはこの様な状態を言うのだろう。

一頃は、AppleのiPhoneに対抗出来るのはサムスンくらいしかいないだろうと言われた企業が見る影もない。この様な状態に落ち込んでしまったきっかけはやはりリチウムイオン電池爆発事故に発端があった様な気がする。

回収交換品も発煙事故を起こす、などの不手際により新機種の開発が送れた事は否定出来ないだろう。新機種の発表が出来ないMWCは、敗戦消化試合の様なモノだったのだろう。そのような気のゆるみが今回の不手際に影響を与えたと想像出来る。展示会の直前に副会長が逮捕されたのも何らかの影響があったかも知れない。

根本の原因は、リチウムイオン電池の信頼性評価が不足していた事だと推測している。電池は製品のキーデバイスであり、リチウムイオン電池は過去から何度も事故を起こしている「安全対象部品」だ。
電池単体の信頼性評価だけではなく、設計や製造工程、製造方法に潜在的な危険がないか十分に評価すべきだった様に思う。

設計や信頼性試験に問題がなくても、製造過程で問題を造り込む事は十分あり得る。ある友人は、リチウムイオン電池を生産する中国工場(サムソンの関連企業ではない)で、厚さ寸法が規格に入らない不良品を叩いて修理しているのを目撃したと言っていた。製造工程も事前に十分監査しておく必要がある。

事前の品質保証活動(予防保全的品質保証)が不十分であったが故に、最初の事故発生時の原因解析が甘く、対策済みであるとした回収交換品でも事故が再発する事になる。

品質問題は、先手必勝だ。後手に回れば中々収束出来ない。

余談だが、高名な日本人コンサルがサムスンにFMEAを教えたと聞いた事がある。サムスンはその教えを活かしきれなかった様だ。


このコラムは、2017年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第518号に掲載した記事に加筆しました。

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サムスンの工場で火災、バッテリ発火が原因か

 CNET Newsの報道によると、サムスンのバッテリ生産子会社Samsung SDIの天津市工場でリチウム電池の不良が原因とみられる火災が発生した。

記事全文

(CNET Japanより)

 記事には、バッテリの不良が原因とみられる小規模な火災が発生したとある。複数のバッテリィを含む廃棄品が発火したと地元消防当局の発表を伝えている。

最初のリコールの原因となったのは、電池の設計問題。交換の電池により発生した事故は製造問題。それに対するサムスンの対策は検査の強化。
本件に関して本メールマガジン第513号では、検査の強化(流出対策)では何も解決しない。発火の原因に対する対策が必要だと指摘した。

私の心配は的中してしまったようだ。
検査を強化すれば、付加価値を生まない検査コストが増加する。しかし少なくとも市場への流出は防ぐことができるかもしれない。現に検査で不良品を発見できている。しかし選別廃棄した不良品が発火事故を起こしている。

この記事を深読みをすると、もっと根の深い「闇」が見えて来る。
目視検査で発見できた不良品が、廃棄後に発火するだろうか?充電することにより、エネルギーを供給しなければ発火事故は発生しないはずだ。

なぜこのような事故が発生するのか考えてみた。

  • 目視検査で不良品を見逃し、充電中に発火。
  • 検査工程の設計が悪く、充電したのちにX線検査装置で内部短絡を発見、発熱している不良品を不用意にゴミ箱に廃棄。

これに対しさらに再発防止対策を検討すると

  • 目視検査の二重化
  • 爆発物処理用のゴミ箱を用意

など、ますますおかしな対策を施すことになる。

肝心なことは、発生原因に対する再発防止対策をすることである。
流出防止対策は「念のため」程度に考えた方が良いだろう。


このコラムは、2017年2月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第515号に掲載した記事に加筆しました。

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サムスン、「Galaxy S8」を2月のMWCで発表せず

 MWCというのは毎年スペイン・バルセロナで開催されるスマホの展示会だ。この展示会でスマホメーカ各社の新製品が発表される。

CNET Japanの記事本文

Galaxy S8は今春発売が予定されている。MWCで発表がないということは、S8の出荷が遅れるのだろうか?当然昨年大騒ぎとなったNote7のリチウムイオン電池爆発事件が影響していると推測される。

リチウムイオン電池爆発の続報によると、最初のリコールは電池の設計問題。回収交換の電池により発生した事故は製造問題と発表されたようだ。記事を読んでも、問題の原因が何なのかよく理解できない(苦笑)

CNET Japanの記事本文

記事には再発防止対策として各バッテリをX線検査するほか、視覚的に調査するなどの「新たな検査基準」が適用されると記されている。

この対策は不良の流出対策だけであり、原因対策には触れていない。
設計に問題があったのならば、設計を変更しなければ解決はしないはずだし、製造に問題があったのならば、製造方法に改善がなければならないはずだ。
もし私がサムスンの品質保証責任者であれば、この報告書は担当者に書き直しを命じただろう(笑)


このコラムは、2017年1月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第513号に掲載した記事に加筆しました。

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リチウムイオン電池発煙・焼損事故

 リチウムイオン電池による発煙・焼損事故が、航空機から携帯端末に至るまで広い範囲の応用で、頻繁に発生している。NITE(製品評価技術基盤機構)の事故情報データベースを検索してみると953件がこの10年間で報告されている。(リチウム以外のバッテリーを含む)

残念なら、こちらのデータベースは「事故の発生原因」を取り扱っており、根本原因であるリチウムイオン電池の発熱原因については簡単な記述に留まっている。

それらの原因をピックアップしてみると

  • バッテリーセルの封口部に製造上の不具合によって生じた導電性異物による内部短絡。
  • 製造上の不具合によるバッテリーセル内の短絡。
  • 製造上の不具合のより負極板上に異物が付着したためセパレータが破損、内部短絡。
  • 電池セルのかしめ工程の作業不良による電解液流出。
  • 充電極性違い(他社製充電器仕様)
  • 落下等による変形でセパレータが絶縁劣化
  • 水没による回路基板のトラッキング。

などがあった。

ほとんどが製造上の不具合となっている。
具体的な不具合の記述はないが、リチウムイオン電池を生産している企業には、どの様な不具合なのか想定出来るだろう。これらの潜在不良を発生ないため、工程FMEAなどにより予め対策をしておく。
電池メーカでなくても「短絡」「かしめ作業」等のキーワードから潜在不良を洗い出し、同様の未然防止対策が可能となる。

またユーザの取り扱いによる事故(最後の3件)に関して、どのような対策を実施すべきか事前に検討をしておく。

なかには、充電器コネクタ部の絶縁不良による焼損事故もあった。
コネクタの絶縁部に使用している難燃剤(赤燐)による絶縁劣化と推定される。この不良現象は、過去から知られており難燃材料を赤燐から臭素に変更する事で対策していた。しかしRoSH指令により、臭素系の難燃剤が使えなくなり再び赤燐を使用する事になり、このての事故が再発している。
これは電池メーカ以外にも大いに参考になるだろう。

この様に他社事例を研究し、自社製品の不具合未然防止に役立てる事が重要だ。


このコラムは、2016年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第504号に掲載した記事に加筆しました。

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B787、遠のく空 原因特定難航

 ボーイング787型機のバッテリートラブルは、運航停止命令を受けて世界中の同型機が1カ月近く飛べなくなる異例の事態になった。日米両国が調査を続けているが、原因は不明だ。国内2社の欠航は約2千便に上り、「夢の飛行機」と呼ばれた最新鋭機の視界は晴れない。

 「認可時の想定より不具合の発生率が高い」

 米国家運輸安全委員会(NTSB)の7日の会見で、ハースマン委員長はこう指摘した。ボーイングは、バッテリーが発煙する確率を1千万時間のフライトで1回以下と想定していた。だが実際は、就航から10万時間以内に日本航空機と全日空機でトラブルが2回起きた。

 NTSBは、日航機の出火は電池内部のショートが発端だとしている。電池のプラスとマイナスがつながってしまう現象だ。ショートで発生した高熱が電池の化学反応を促し、さらに高温になる「熱暴走」が起き、並んでいる電池に広がった。ただ、ショートの原因はわかっていない。

 高松空港に緊急着陸した全日空機のバッテリーでも熱暴走があったことがわかっている。日本の運輸安全委員会は、製造元のGSユアサ(京都市)に持ち込んで分解を続けるが、詳細な調査は難航している。

 熱暴走の原因は何か。東京理科大の駒場慎一准教授(電気化学)は「過充電を挙げる。リチウムイオン電池は容量を超えて充電すると、溶けた金属リチウムが内部でとげ状になり、プラスとマイナスの電極をつないでしまってショートを引き起こすという。

 リチウムイオン電池は国産充電池の7割を占め、電気自動車やノートパソコンにも使われている。燃えやすい有機溶媒を使っているので過充電を防ぐ保護回路があるのが一般的だ。駒場准教授は「保護回路がうまく機能しなかったか、保護回路の限界を超えた瞬間的な電圧がかかった可能性がある」と指摘する。

(asahi.comより)

 メルマガ293号で取り上げた,B787機のバッテリー焼損事故の続報だ.

焼損事故の原因究明は相当難しい.

出火元(バッテリィ)の特定は比較的簡単だが,なぜバッテリィが出火元となったかを,現物の解析から特定するのは,困難な場合が多い.「陽極と陰極がショートし,熱暴走が発生した」と原因特定が出来た様に見えても,ではなぜ陽極と陰極がショートしたのか?と更に原因特定を進めようとすると,証拠が残っていないことが多い.全てが燃えてしまっている.

つまり陽極と陰極がショートしたというのは,まだ現象レベルであり,原因ではない.

電池内に残留または混入した金属粉によるショート.
電池内の絶縁セパレータの絶縁不良によるショート.
充電電圧が高いことにより,リチウム金属が析出することによるショート.
などショートが発生する原因の他にも,電池の短絡による内部温度上昇による焼損も,事故後には見分けがつかなくなっていることが多い.

例えば,電源コードを束ねている結束帯「ねじりっこ」の芯は金属製の方が作業性がずっとよい.しかしプラスチック製の芯材を使った物が一般的だ.それは,万が一火災事故が発生した場合に,金属芯を使った結束帯の場合は針金だけが燃え残るからだ.燃え残った現物調査で,電源コードの結束帯が火災の原因と特定されては困るので,作業性が悪くてもプラスチック芯の結束帯を使う.

焼損してしまった物から,事故の真因を分析するのは困難な作業となる.
通常は,可能性のある原因を列挙し,再現実験またはシミュレーション実験をすることになる.

例えば充電回路の不良が原因であっても,焼損を受けており,特定するのは難しい.

製造時の検査記録から機能的に問題がないと分かっても,出荷後に問題が発覚することはままある.例えば,出力電圧を決定する部品が,出荷後劣化し電池に高電圧がかかっても,証拠はすべて焼けてしまっている.

今回の事故は,電池,充電回路,保護回路のメーカがそれぞれ別のメーカになっている.これも原因解析を難しくする要因となる.


このコラムは、2013年2月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第296号に掲載した記事に加筆しました。

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B787トラブルの原因、バッテリーか全体のシステム設計か

 全日本空輸が運航する米ボーイング787型機が高松空港に緊急着陸したトラブルで、国土交通省運輸安全委員会は17日、同機のメーンバッテリーが黒く炭化していたことを明らかにした。バッテリーはジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)が供給するリチウムイオン電池。原因は特定できていないが、かつて発火トラブルが起きた電池の安全性が再び問われることになった。

 今回のトラブルで米連邦航空局(FAA)は世界で飛ぶ787型機の運航を当面見合わせるよう航空各社に命じた。バッテリーの安全が確認できるまでとしており、期限は明示していない。

 運輸安全委によると緊急着陸した787型機のバッテリー内部は真っ黒に炭化。
電解液などが噴き出したとみられ、重量は約5キロ減っていた。金属製のバッテリー容器は2センチほど膨張。過剰な電流や電圧によって電解液が過熱して噴き出した可能性があるという。

 GSユアサは17日、技術者3人を高松空港に派遣。運輸安全委の航空事故調査官らと合流し、原因究明を始めた。18日朝には米運輸安全委員会(NTSB)やFAA、ボーイング社から計4人が加わり、安全委と合同で調査を進める予定。

 バッテリーの重点調査が進むのは、米ボストン国際空港でトラブルが起きた日本航空の787型機の出火元もバッテリーだったため。GSユアサはボストンにも技術者を派遣、調査をしている。

 リチウムイオン電池は小型で大容量の電気を蓄えられる。ただ従来のニッケル水素電池より過熱・発火しやすいとされ、2006年にはノートパソコン用のソニー製電池が発火、大規模回収に追い込まれた。原因は製造工程で異物が混入、ショートしたこととされた。

 こうした経験を踏まえ同電池で先行してきた日本メーカーは安全のノウハウを蓄積。GSユアサは三菱自動車の電気自動車やホンダのハイブリッド車向けにリチウムイオン電池を供給。高い安全性が必要な車載用や産業用で実績を積んできた。

 787型機の調査ではトラブルの原因がバッテリー自体にあるのか、システム全体にあるのかが焦点。GSユアサ幹部は「バッテリーは周辺部品と組み合わせたシステムとして運用される。単体で発火・過熱することは考えられない」と語る。

(日経電子版より)

 B787機は,開発が3年間遅れた上に,立て続けに問題が発生している.
新聞の報道から判断すると問題は,燃料漏れとバッテリー焼損の二つある様だ.

バッテリー焼損は,本記事の1月16日高松空港での全日空機の発煙事故以外に1月7日にもボストン空港で日本航空機が火災事故を起こしている.

両方とも,今回旅客航空機に初めて採用されたリチウムイオン電池が原因となっている.

事故を起こしたANA機は,昨年就航し1ヶ月後に電気系統に不具合が見つかっている.10月にはエンジンがかからずバッテリーを交換したと言う.
実はこの機体固有の問題が,まだ解決せずに表面的な処置(バッテリー交換)しか出来ていないのかもしれないが,事故の頻度を考えると,波及性のある問題の様だ.

以前リチウムイオン電池搭載の携帯電話でやけど事故,ノートPCで発煙事故が発生した.電池内の異物によるショート,過充電による発熱などを,製造の技術,充電回路技術で克服して来た.民間航空機では初の採用だが,自動車,戦闘機,人工衛星には既に採用されていると聞く.

飛行のメカニズムを電気化し,機体を軽量化する事が可能になり「低燃費」をB787機のセールスポイントとして実現している.その陰の立役者がリチウムイオン電池だ.

30数年前,駆け出しのエンジニアだった頃,リチウム電池を製品に搭載するために評価実験をしたことがある.電池に関する知見がなかったので,リチウム電池に関する論文を片っ端から読んでみた.リチウム電池の安全性評価実験に「ショットガンテスト」というのが有り,驚いた事を今でもよく覚えている.電池をショットガンに詰めてオーク材の板に撃ち込む試験だ.ずいぶん乱暴な評価試験をするモノだと驚いた.リチウムという材料に対する不安を,消去するにはそのくらいの事をしなければならなかったのだろうと推測している.

B787の開発でも,慎重に評価が行われたはずだ.航空機の故障は,一気に数百人の命が失われるリスクを持っている.故障は限りなくゼロに近くしなければならない.初期故障は起こるモノ,などと言う言い訳は通用しない.一号機から事故ゼロを目指さなければならない.

世の中で発生している故障や事故のほとんどは,再発事故と言える.
今回の事故は,以前のリチウムイオン電池事故の形を変えた再発なのか?
それとも,新たな原因による事故なのか?
今後発表されるであろう,事故調査の結果を注視したい.


このコラムは、2013年1月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第293号に掲載した記事に加筆しました。

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RQCとPQC

 RQC、PQCとは何だ?と疑問に思われた読者様も多いだろう。
無理もない、私の勝手な造語だ(笑)
RQC(Reactive Quality Control):反応的品質管理
PQC(Proactive Quality Control):積極的品質管理

例えば工程内不良を分析し、再発防止対策を実施する。これはRQCだ。
不良が起きなければ改善は出来ない。
それに対し、PQCは不良の発生を予測し事前に対策を実施する。

例えばP管理図やC管理図で工程管理するのはRQCだ。一定期間の生産が終わった所で不良率や欠点数を計算して初めてP管理図又はC管理図が描ける。管理図を見て問題を発見した時は、既に問題が有った生産は完了している。
同じ管理図でも、生産開始時に初物検査でx-barR管理図を描けばPQCになる。初物検査で問題を見つける事が出来れば、生産開始前に改善が可能となる。

工程能力指数(Cp、Cpk)も同様にRQCとしてもPQCとしても機能する。
試作時に工程能力指数を計算し、しかるべき手を打てばPQCとなる。ロットごとに工程能力指数を計算するのはRQCだ。

PQCを更に高度にした場合を考えてみよう。
例えば、生産設備にセンサを取り付けて、故障を先に予測し保守作業を事前に行えば、設備起因の不良や、生産停止は大幅に削減出来るだろう。
マイクや振動センサーを使えば、設備の振動の変化で異常を事前に感知出来る。
非接触温度計で刃具の先端温度を測定していれば、刃具の摩耗が進むと先端温度が上昇するはずだ。

以前勤務していた会社は、工場のオートメーションのための自動制御システム、各種のセンサーや測定器を開発商品化していたので、このような設備のPQC応用も研究していた。しかし本当のノウハウは、それを必要としている現場にある。


このコラムは、2017年1月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第511号に掲載した記事に加筆しました。

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細部にこだわる

 あなたは,QC七つ道具の一つ,パレート図をExcelを使って正しく描くことが出来るだろうか?

パレート図を普通にExcelでグラフにすると,累積比率を表す折れ線グラフが,左端の棒グラフの上辺真ん中からスタートする.

正しいパレート図では,累積比率を示す折れ線グラフは,原点から出発し,左端の棒グラフ右肩を通らねばならない.

実はこれをどう実現するか,ずっと悩んでいた.
Excelで描いたパレート図が,少しくらいおかしくても役には立つ.ただ累積比率の折れ線グラフが,少しずれているだけだ.しかしパレート図を描くたびにすっきりしない気分を持っていた.

細部にこだわることに,どれほどの意味があるのか議論はあろうが,私は細部にこだわり続けた.そして昨年ついに,Excelで正しいパレート図を描く方法を考えついた.

こだわりを持っていなければ,この方法は見つけられなかったろう.

モノ造りも同じだ.
梱包は,お客様の工場に入れば捨てられてしまう.しかしここにも,きちんとこだわりを持つ.例えば,段ボール箱を封止している透明テープの長さが,皆揃っている.製品が入れてあるポリ袋が,直角並行にきちんとたたまれている.こういうこだわりを持ちたい.

品質は細部に宿る.
一見製品の品質とは関係ないようだが,こういうところにこだわりが持てる工場は製品の品質も良いはずだ.

これは品質だけではない.コストにも影響を与える.
前述の透明テープの長さが揃っていれば,余分な材料を使っていないということだ.

また,細部にこだわる文化があれば,従業員の態度も変わる.
あるベンダーから納入された部品の梱包箱に,足跡が付いていたことがある.足跡が製品を梱包した後に付いたのか,梱包箱を組み立てる前に付いたのか不明だが,細部にこだわる心があれば,梱包箱に足跡が付いていることはありえない.


このコラムは、2010年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第164号に掲載した記事に加筆しました。

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自己責任

 中国の工場で仕事をしていて,一番がっかりするのは職員の「自己責任意識」の足りなさだ.
以前指導していた生産委託先工場で,技術改訂連絡の不備で旧バージョンのまま生産してしまったことがある.技術改訂といっても,製品に貼る主銘版の変更だけである.従って修復作業は,新しい主銘版を手配し,貼りなおし作業をするだけである.

しかしこのミスを放置するわけには行かない.次に同じようなミスが発生した時の損失が小さいとは限らない.致命的な損失だってありうる.

即関係部門を集めて,問題点を理解し是正をしようとした.

会議を始めて暫くは,各部門の言い訳発表会の様相だ.
営業部門は顧客の変更要求をE-mailで関連部署に通知したと,E-mailをプリントアウトして訴える.
技術部門は,技術改訂依頼が来ていないので作業が出来ないという.
購買部門は,部品表が改訂されていないので「正しく」部品手配したという.

全部署が自分の責任を果たした.問題は他部署にあるといっている.
これでは再発を防止する是正など,検討できない.

営業部門は顧客の変更要求を受けた時点で,次の出荷計画を調べ,変更適用がどのロットから可能か把握し,場合によっては顧客と変更適用スケジュールについて相談をしなければならない.
これが出来て最低限の自部署の責任を果たしたことになる.

更に今回の問題を自己責任として捉えることができれば,顧客の変更要求を各部門に伝達するだけが仕事ではなく,それが各部門に伝わって正しく改訂作業が始まっていることを確認するところまでが,自分たちの責任であると理解できるはずだ.

同様に技術部門も,自己責任の意識があれば,E-mail情報を「非公式情報」として取り扱うだけでなく,正式情報の発効を営業部門に要求することが出来たはずだ.

購買部門も同様である.

今回の問題の是正処置としては,技術改訂システムにあった欠陥を補強することとした.しかしそれでは不足である.各部門の「自己責任意識」を高めなければ,技術改訂システムにある「まだ見つかっていない欠陥」によるトラブルが発生しうる.又は技術改訂システム以外にある欠陥で問題発生する事もありうる.

完璧無比な品質保証システムをあらかじめ構築することはできない.
また「自己責任意識」を高めろ,と言っただけでは人の意識は変えられない.

例えば,出勤途上で車両事故があり会社に遅刻をした.
遅刻をした責任は電鉄会社にあるのだろうか?
車両事故は遅刻の「原因」ではあるが,遅刻は自分に責任がある.
世の中に完全無比な交通システムなどない.その不完全さを予測し対策を持つのが,遅刻をしないという「自己責任」だ.


このコラムは、2010年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第159号に掲載した記事に加筆しました。

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20年以上前の製品保証について

 ソニーが1968~1990年に生産したテレビで発煙・発火の可能性があるので,使用を中止して欲しいと社告を出した.

詳しい内容は分からないが,
「長期間の使用で、内部の部品が劣化し、色むらを抑える回路の周辺から発火したという。」
という記述から見ると,デガウス用コイルの絶縁劣化でも発生したのかもしれない.

この報道で2チャンネルの書き込みがどっと増えている.
トリニトロンCRTが燃えるとか,全く理解していない人たちの書き込みが,大部分を占める.
しかし発煙・発火の可能性があるのに「使用中止」のお願いだけとは何事だ,という書き込みは正論だろう.

42年前に製造した製品の品質保証をしなければならない,というのは同じく品質保証の仕事をしてきた人間にとって,同情したくなる一面はある.

無償修理といっても,トリニトロンCRTを交換となると,不可能だろう.20年以上前に生産された製品の修理部品を再生産するのは,相当な労力だ.しかも20年以上前の製品を修理する意味はあるだろうか.修理しても来年地デジ移行により,使えなくなる製品だ.

この様なロジックが,品質保証担当者の脳裏に浮かんだとしても当然だろう.
「新しい物に買い換えよう」たぶん一般的な消費者はこう考えただろう.

しかし故障モードが問題だ.おとなしく機能停止になる故障モードであれば,ソニーのテレビは42年間使えたと,故障したにもかかわらず,よい印象を持つことになる.だが発煙・発火となると話は別だ.消費者の不安は「ブランド力」の低下になる.
ソニーはモノ造りから離れようとしている.自らモノ造りをしていないソニー製品の販売は「ブランド力」に頼ることになるはずだ.
自らモノ造りをしなくなったがために,よりいっそう「品質保証」に注力しなければならないはずだ.
品質保証とは,顧客の満足と安心を保証することだ.


このコラムは、2010年6月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第157号に掲載した記事に加筆しました。

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