華南マンスリーコラム」カテゴリーアーカイブ

第四章:経営はレンズ遊び

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル

組織を活性化し再生するには,全従業員の熱いココロが必要だ.原田式経営哲学では,これを「レンズ遊び」にたとえる.経営者が太陽,管理者がレンズの役割をし,従業員のココロに火を点けるのだ.

レンズ遊びと経営

あなたも,小学生のころレンズ遊びをしたことがあるだろう.太陽光線を虫眼鏡で収束させ,紙を燃やす遊びだ.
原田氏は,しばしば経営をレンズ遊びにたとえて話をされた.つまり社長が太陽.管理職がレンズ.レンズで太陽の光を集め,従業員のココロに火を点けるわけだ.
当然太陽の光は強いほうが良い.夕方の太陽よりは,正午の光の方が強い.レンズも大きい方がたくさんの太陽光線を集められる.白い紙より,黒い紙の方が,熱を吸収しやすく早く火が点く.更に重要なのは,正しく紙に焦点を当てることだ.

社長の光

社長の光とは,従業員のココロを照らし,未来を照らす光だ.希望のある未来を照らす強い光であるべきだ.
人は時に,晩秋の黄昏の光の中で物思いにふけることも,必要かもしれない.しかし社長の光は,常に明るく,力強い希望の光ではなくてはならない.
つまり社長の光とは,企業の経営理念であり,長中期の経営目標そのものだ.
業績が上がらない,経営の問題で悩んでいる時も,意気消沈光線を発してはならない.従業員の前では,常に笑顔で希望の光を発するべきだ.
社長は苦しい時でも明るい笑顔でいる.そのために他の従業員よりも多く給料を貰っているのだ.

管理職のレンズ

従業員が100人くらいまでならば,その隅々まで社長の光で照らせるだろう.例えば,忘年会で一人ずつ乾杯をしても酔いつぶれない人数が限度だろう.
組織の中には,社長の思いを増幅する中間管理職が必要だ.組織を劇団にたとえるならば,座長が,脚本,演出,主演俳優を兼ねることは出来る.しかしそれを続けていたのでは大きな劇団にはなれない.ナンバー2,ナンバー3を育て,脚本,演出が出来るようにする.主演も自分でやらなくても良くする.
社長の仕事は,業務を全部社員に任せ,5年後,10年後を考え,それを社員に示すことだ.
それを可能にするのは,管理職だ.彼らが一人ひとりの従業員に,正しくレンズの焦点を当てられるように鍛える.

従業員のココロに焦点を当てる

光はそのままでは熱にならない.物質が光を吸収し,光エネルギーを熱に変換して初めて火が点く.
笛吹けど踊らぬ従業員.そんな焦燥感,徒労感を持っている経営者も多いだろう.ましてや,日本から離れ異郷の地で,外国人を部下にしているのだ.
異文化の中で育った従業員に「一発点火のココロ」を持ってもらうためには,共通の価値観を軸にする必要がある.この価値観を求心力とする.
ひとつは金銭.これは万国共通で分かりやすい.しかし金銭以上に有効なのは「成長意欲」「達成感」だ.仕事の成果は「自己成長」と「達成感」であり,更に高度な仕事へのチャレンジ権を与えられることだと理解させる.それで「自己成長」と「達成感」は更にスパイラルアップする.その結果,金銭的報酬が与えられる.
これを,光の焦点を従業員のココロに正しく当てる仕組みとする.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年11月号に寄稿したコラムです.
原田式経営哲学勉強会を開催しています.
詳細は,ブログ:原田式経営哲学をご参照ください.

第三章:愛社精神を求心力に?

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル

組織を活性化し再生するためには,求心力が必要だ.経営理念,会社の使命に共感させることで,求心力の中心を作る.更に従業員の内から湧き出るモノを求心力とすることにより,組織を活性化する.

愛社精神は求心力になるか?

焼け跡世代,団塊の世代、それに続く私の世代までは「愛社精神」という言葉は生きていた.しかし「新人類」と呼ばれる世代以降,愛社精神という言葉は死語になっているのではないだろうか.
1960年以降に生まれた新人類にとって,愛社精神よりは「愛職精神」が優位になっている.つまり彼らにとっての誇りは,所属する企業ではなく,自分の職業だ.
彼らにとって「就職」とは文字通り,職業に就くことである.「就社」は,職業に就くための一手段でしかない.
振り返って,中国の工場を見ると,そこで働く主力は「80后」と呼ばれる1980年代生まれの若者である.幹部も日本で言えば,新人類以降の世代だ.日本ですら期待できない愛社精神を,中国の工場で期待するのは,ハナから間違っているというしかない.
中国人の若者にとって,就社はキャリアアップの手段である.キャリアアップにより自らの職業的価値を高める.職業から得られる収入によって,自分の夢をかなえる.従って会社に成長機会が無いと判断すれば,転職をしていく.

愛社精神は二の次

原田式マネジメント14か条の中に「愛社精神は二の次,社員の自己成長を願え」という言葉がある.原田式経営では,愛社精神という,会社に対する忠誠心ではなく,自己成長意欲を求心力としている.
中国の若者と一緒に仕事をしていて強く感じるのは,彼らは自己成長意欲を真直ぐに見せてくれることだ.日本の若者は,自己成長意欲を表に出し努力することに,恥じらいの意識を持ち,斜に構えていることが多い.中国の若者には,こういう感覚が無いようだ.
昔中国の生産委託工場で,新製品の立ち上げに手間取り,仕事が深夜まで終わらなかったことがあった.窓から見える宿舎も,就寝時刻をとうに過ぎ,明かりはない.そんな時刻に廊下の照明の下に佇み,本を読んでいる少女がいた.
別の工場では,生産調整でレイオフになったラインの生産技術担当者が出社し,電灯が落ちた職場の窓際で「電子回路技術」の本を独り読んでいた.
こういう若者を正しく指導すれば,自己成長意欲を,会社に対する求心力とすることが出来る.

優秀な者から外に出せ

自己成長意欲を持った若者を,育成し戦力とする.これこそが「人を育てて使う」という日本企業が本来持っていた,日本的経営だ.長期雇用が前提だった日本では,これが比較的容易に出来た.
人材流動率が高い中国でも,日本と同じように人を育てて使うことに,懐疑的な経営者もおられると思う.
しかし成長意欲のある優秀な人材ほど,辞めないものである.成長が止まった者は,積極的に辞めてもらった方が,組織のためだ.成長し,もう教えることがなくなったトップ人材も外に出してやった方が本人のためだ.
本人のためばかりではない.トップ人材が辞めることによって,チャンスが回ってくる2番手,3番手のメンバーが,今まで以上に張り切って仕事をする.そして組織は更に活性化する.
原田氏はこれを「金魚鉢理論」と呼んでいた.金魚を飼うときは,金魚鉢の水をしばしば替えてやらなければならない.水を替えることにより,金魚が成長する環境を整える必要がある.
しかも上からごっそり替える.これが「金魚鉢理論」をうまく実践するコツだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年10月号に寄稿したコラムです.

第二章:経営は継続とチャレンジ

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル
99%の安心と1%の心配
六月に開催した原田式経営哲学勉強会にて,元原田総経理秘書・閻苗苗さんの話を聞いた.原田氏は亡くなる前日,トイレのチェックシートの運用について指導をされたそうだ.
このチェックシートは,私が初めてSOLID社を訪問した時に,その内容を見てこの工場はただ事ではないと直感したチェックシートそのものだ.
実はトイレのチェックシートに関する指導は「原田総経理指導語録」にも,別の事例が出てくる.原田氏は,既にうまくできている事でも,それが崩れてしまわないように,何度も再指導を繰り返していたのだ.
経営者は,99%うまく行っている事でも,残りの1%を心配する「継続力」と,99%うまく行かなくても,1%の可能性があれば挑戦する「チャレンジ力」を併せ持っていなければならない,というのが原田流の考えだ.
継続力とは
ここでいう「継続力」とは同じ事をずっと続ける力ではない.
例えば,日本で一番長く継続している企業は,創業578年の金剛組といわれている.では金剛組は千四百年以上前から同じ事を継続してやり続けているかというと,そんなはずはない.それでは絶対に倒産しているはずだ.時代に合わせて進化するから事業が継続出来るのだ.
継続力を持つためには,組織やシステムの中に,「成長のサブシステム」を内蔵している必要がある.
つまり,決められたことがきちんと守り続けられるためには,「規則」「標準手順」が整備されていることが必要だ.そしてその規則や標準手順が,進化・改善される仕組みと仕掛けを持っていなくてはいけない.
技術とか作業を標準化するということは,進歩をその時点で凍結するということだ.世界最高レベルの技術を標準化できたとしても,それが明日も最高であり続ける保証はどこにもない.標準は決めたその時点から,次の改訂準備がスタートしていなくてはならない.
チャレンジ力とは
失敗を怖れず立ち向かう実行力,諦めずに取り組む執着力,成功すると信じる力.それらの力の総体がチャレンジ力だと考えている.
学校では,「成功」の反対語は「失敗」と教えるかもしれない.しかし,経営者にとって,成功の反対語は「何もしないこと」だ.成功は失敗の向こう側にある.失敗を一つずつ積み上げた,その山の頂に成功はある.成功すると信じて執着することが成功のための第一歩だ.
継続力とチャレンジ力は一見正反対の力のようだが,究極のところは共通点がある.つまり継続力には,継続するために改善・改革するチャレンジ力が必要だし,チャレンジ力には,成功するまで執着する継続力が必要だ.
しかし継続力とチャレンジ力という方向性の違う能力を,一人の経営者が持っているというのは,まれであろう.
では原田氏はどうしていたのか,元々彼はエンジニアであり,チャレンジ力の方は若い頃からあったはずだ.経営者として仕事をするようになってから,一日の仕事を分割し,異なる役割を果たしていたのではないと,私は考えている.
つまり始業前と,昼休みの社内巡回を毎日の仕事として固定していた.その時間帯は継続力を発揮する経営者としての行動を,自分に課していたのだと思う.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年9月号に寄稿したコラムです.

第一章:経営は愛情と思いやり

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル
従業員への愛情
05年一月初めて原田氏が経営するSOLID社を訪問した時に,原田氏は受付職員をこう紹介した.この娘は先月まで月給六百元の作業員だった.内部登用試験に合格して,今は受付業務に就いている.
彼女は受付業務の合間に,喫茶部の経営も任されている.ベンダー商談広間の横に小さな喫茶部があり,訪問客や,会議に飲み物を提供するのが仕事だ.
その喫茶室にパワーポイントで作ったグラフが張り出してあった.農村で中学を卒業して出稼ぎに来ている元女子作業員が,コンピュータで経営指標を示すグラフを作っている.
大変驚いた.そばまで近寄り,その内容を確認し,更に驚いた.グラフには売り上げ推移の他に,毎月の固定経費と変動経費を分けて表示してあり,利益がいくらか分かる様になっていた.つまりこの娘は損益分岐点の意味が分かっているのだ.
大変驚き原田氏に,よくここまで教えましたねぇ,と聞いてみた.彼は何事でもないと言う顔で,ここまで教えておけばこの娘は会社を辞めた後故郷で食堂の経営くらいは出来るだろう,とおっしゃった.危うく感動で落涙するところだった.
従業員が退職した後の幸せを考えているのだ.この半端でない従業員への愛情が,従業員の求心力となっている.
思いやりの方向
中国で大学を卒業し,日本の大学院に留学後,原田氏の下で仕事をしたいと,SOLID社の門を敲いた女性がいる.給料はただでいいから置いてくれと言ったそうだ.
原田氏自慢の部下だった.しかし彼女もこっぴどく叱られている.彼女によると,言葉上の誤解から「お前は頑固だ」と叱られたそうだ.誤解であることが分かった後でも,やはり「頑固者だ」と叱られたと憤慨していた.
実は原田氏にとって,言葉上の行き違いなどどうでも良かったのだ.彼女の思い込みの強さを,「頑固者」と叱って矯正しようとしたのだ.
原田氏の思いやりは,部下に優しくしようという方向には働かない.部下の成長を願う思いやりなのだ.
社内行事で従業員と一緒に食事をすることはあっても,従業員を誘って食事をするようなことは滅多になかったはずだ.
いわゆる優しい経営者ではない.しかし彼の思いやりが自分の成長のためと理解している者は,彼に対して絶大な信頼を持つはずだ.
原田式経営哲学
原田式経営哲学の源泉がここにある.従業員に対して愛情と思いやりを持って接する.思いやりとは優しくする事ではない.むしろ相手の成長を願い厳しく接することだ.
愛情と思いやりの結果は,従業員の信頼と感謝に比例する.この原理を理解しなければ,原田氏の経営手法をいくら真似しても,原田式経営に到達することは出来ない.
従業員の潜在的な夢を理解する.そして経営を通してその夢を実現させるためには,何をすればよいのかを真剣に考える.それは従業員に迎合するのではなく,組織力を上げるためだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年8月号に寄稿したコラムです.

華南マンスリーコラム連載を終えて

一年間続いた華南マンスリーのコラム【儲かる工場の作り方】が2010年5月号で終了した.
毎回四文字熟語をネタに,儲かる工場に関するコラムを書いた.
考えてみれば無謀なことをしたもんだ(笑)
成語とか四文字熟語などほとんど知らない.頼りになったのは手元にある学生用の成語ポケット辞典だけである.
しかも,初めにきちんと準備をしておくような,計画性は持っていない.毎月締め切り間際にコラムを書いていた.
物書きというのは,締め切りに終われて作品をひねり出しているものだという,私のステロタイプな思い込みがそういう行動を取らせているようだ.
コラムを書いている時だけは,いっぱしの物書きの気分を味わって,楽しんでいた(笑)
今回の連載は,筆者の写真がとかく物議をかもした.
似ていない,というのはいい方で,「あちら系の人でしたか」と口の前に手のひらをかざして言われたりもした.
ついに男色系コンサルというブランディングまで出来てしまった.
ところで,毎回四文字熟語を「あるルールに従って」紹介していくという綱渡りがすっかり気に入ってしまい,メールマガジンではすでに62回続いている↓
http://archive.mag2.com/0000103084/index.html
華南マンスリーにはまた一年コラムを書かせていただくことになった.
既に新連載「伝説の経営者・原田則夫の”声”を聞け 工場再生指導バイブル」が開始している.
また一年間ご愛読をお願いします.

序章:工場再建屋原田則夫

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル

原田則夫氏との出会い

2004年十一月、明治大学の公開講座で初めて原田則夫氏に出会った。中国工場経営者として講演された原田氏の経営手法が大変奇抜に思えた。

当時私は、中国の生産委託先4工場の生産指導をしていた。中国で常識と理解していたことの真逆の経営手法だった。

これはぜひ自分の目で、真偽を確かめなければと思い、講演終了後工場見学をお願いした。

翌年一月早速原田氏のSOLID社を訪問した。工場に到着して、トイレを拝借したが、そこに貼ってあった小さなチェックリストを見て鳥肌が立った。この工場はただ事ではないと分かった。講演で説明された原田氏の経営理念が現場にあふれていた。

伝説の経営者・再建屋

原田氏は前職のソニー恵州では、船井電機の船井会長を絶句させるほどの工場を作り上げている。3年間でソニー恵州の生産性は3倍になった。

その後、倒産寸前だったSOLID社の再建を託され、経営に乗り込んだ。

倒産寸前の企業は、救急救命に駆け込んできた今にも死にそうな患者と同じだ。こういう患者は多少の荒療治にも耐えることが出来る。原田氏は着任後3ヶ月で、2、100名の従業員を一気に900名までにしている。まずは「癌」であったオーナー縁者を一掃し、原田氏の経営理念に賛同する人だけを残した。同時に、日本からの駐在員も全員帰任させた。

これにより、従業員のモチベーションは向上したはずだ。つまり、オーナー縁者・日本人の経営幹部がいなくなれば、従業員の上昇空間が一気に拡大し、希望が生まれる。

中国の組織は「人」で動いている。組織を改革するためには人を変えれば簡単に改革できる。これはAさんをBさんに代えると言う意味ではない。人を心の中から変えると言う意味だ。

原田式経営哲学

原田式経営哲学を一言で言えば、人の心を理解し、人を育て活用するということだ。「モノ造りはヒト造り」という日本的経営が、原田式経営哲学の原点だ。当たり前のことを当たり前にやるだけだが、原田氏の場合、人の心を理解する洞察力の深さ、人を育てる愛情の真剣さ、仕組み・仕掛けを考える知恵の豊かさが、違っている。

製造現場も、前例や流行にとらわれないごく普通のモノだ。原田式経営哲学の本質は、その製造現場を支える作業員・職員のココロにある。品質も生産性も究極的には「人質」が決める。

モノ造りの仕掛け・FAや自動化にココロをこめる。ニンベンの付いた自働化の定義は、不良が発生したら自動的に止まり、不良を作り続けない機械だそうだ。しかし今時自動停止機能が付いていない機械などあるまい。「自働化」とは、ココロを持った人間と機械が調和を持って働くようにすることだ。

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年7月号に寄稿したコラムです.

第一章:経営は愛情と思いやり
第二章:経営は継続とチャレンジ
第三章:愛社精神を求心力に?
第四章:経営はレンズ遊び
第五章:経営はアイディア
第六章:人材育成
第七章:人材育成を支える仕組みと仕掛け
第八章:信用と信頼
第九章:看える化
第十章:記録する文化
第十一章:人心理解・人心活用

【儲かる工場の作り方】第十二話「ゼロエミッション」

Title12
動脈産業・静脈産業

モノ造りをすれば、多かれ少なかれ環境に影響を与えることになる。与えた影響を浄化しなければならない。生態系を人体に例えれば、モノ造りは動脈。市場に製品(酸素)を供給し、活動エネルギーとする。廃棄物(二酸化炭素)を回収するのが静脈だ。
これからの産業は動脈と静脈を併せ持っていなければならない。リデュース(削減)リユース(再利用)リサイクル(再生)の究極の姿がゼロエミッションだ。
原材料、エネルギーをいただいたら、返礼すべきだ。自分ばかりが儲かることを考えてはいけない。地球環境に「礼尚往来」の礼を尽くさねば、企業は市場から淘汰されることになる。

環境にやさしくコストダウン

原材料・エネルギーを節約するのが、リデュース。使えるモノを捨てないで再利用するのがリユース。使えなくなったものを再生利用するのがリサイクルだ。これらを活用して、静脈をしっかり持たなければならない。
資源を使わせていただくことに感謝し、リデュース・リユースをすればコストダウンにもなる。リサイクルにはコストがかかるが、トータルで考えればコストダウンになる。
例えば発泡スチロールの梱包材を再生する小型プラントを、工場や倉庫に持つ。かさばる梱包材を運搬せず、原材料の形で運搬すれば輸送費が節約でき、その分の二酸化炭素排出も削減できるはずだ。

究極のゼロエミッション

 究極のゼロエミッションは、生産に投入した原材料は全て使い切り、廃棄物をゼロにすることだ。
例えば従業員食堂で発生した残飯もリサイクルする。残飯から堆肥を作り、その堆肥で再び食材を育てる。食の安全が懸念されている今、無農薬・有機肥料で栽培した食材を使えば、従業員の健康にも貢献できる。
実はこの方面も日本の環境技術は大変優れている。小さな堆肥プラントを導入すれば、工場内で完結するゼロエミッションが実現可能だ。
堆肥プラントを併設した農場を消費地の近郊に作る。都市型農園だ。この様な環境調和型のビジネスが盛んになれば、中国の食の安全問題は、大幅に改善できるのではないだろうか?
早いもので、この連載を初めて1年が経った。12回のコラムにお付き合いいただいた読者の皆様に感謝したい。
すでにお気づきの読者様もおありかも知れないが、毎回ご紹介した四文字熟語は中文読みで尻取りになっている。ぜひバックナンバーをご確認いただきたい。
ではまたどこかでお目にかかりましょう。

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年5月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第十一話「省エネ」

省エネ
不況に勝つ「省エネ」

環境問題に対する取り組みとして「省エネ」の重要度は高くなっている。儲かる工場の観点では、省エネはコストダウンだ。電気、ガスなどのエネルギー源を節約することによりコストダウンになる。

まずは計測すること。どこにエネルギーのムダがあるか調べ、省エネ目標を作ることだ。動力系ばかりではなく、照明なども調査対象とする。小さな節約量でも、チリも積もれば大きな量となる。

人材もエネルギー源

工場の一番大きなエネルギー資源といえば「人材」だ。人材を「工数」として捉えては、エネルギー源という発想は出てこない。人は他のエネルギー源では代替が利かぬ「情熱」というエネルギーを発生する。

品質も生産性も最終的には「人質」の勝負だ。人質を上げるためには従業員一人ひとりの情熱エネルギーが必要だ。従業員の情熱エネルギーを効率よく発生させることが、儲かる工場の「省エネ」だ。

ではどうすれば従業員が情熱エネルギーを発揮するようになるか?残念ながら知識や技能は教えられるが、情熱は教えられない。初めが肝心である。まず情熱のある人を選ぶ。そして一人ひとりが仕事を通して夢を実現するよう、正しく指導することだ。

与えられた仕事では情熱エネルギーは発揮しにくい。自らの夢の実現のためならば、情熱エネルギーは自然と発揮される。

初めに手間をかける

ゼンマイ駆動の玩具自動車を想像して欲しい。まずゼンマイを巻き上げ、駆動力を与える。そして目標に向かって正しく方向付けし手を離す。スタート地点のほんの僅かな誤差が、目標から大きくずれることになる。間違った方向に進めば、すぐに方向を修正する。

仕事も同様である。まずはその意義を説明し、情熱エネルギーという駆動力を与える。そして正しく目標を与える。後は任せる。

しかし、任せたままにしてはだめだ。特にスタート直後はフォローが大切だ。目的・目標を正しく理解しているか?やり方を間違えていないか?きちっとフォローする。順調にスタートしたら、後は任せる。

往々にしてこの逆をしている上司が多い。簡単な説明で仕事をスタートさせる。そして締め切りの間際になって、正しく仕事が行われていないのを知り、あわてて方法論まで指導してしまう。

これでは余計に手間がかかるばかりではなく、部下の情熱エネルギーを発揮しにくい。部下を信頼(信じて頼る)するのではなく、部下を信用(信じて用いる)することにより情熱エネルギーを引き出すことができる。

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年4月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第十話「研究開発」

研究開発
ピンチをチャンスに変える

ピンチはチャンスだ.チャンスは時としてピンチの仮面をかぶってあなたの前にやってくる.
経済危機,顧客嗜好の多様化など工場の外で発生していることを,業績不振の理由にしてはならない.工場の外で発生していることは,いくら経営努力をしても改善することはできない.
ピンチをチャンスに変えるためには工場を変えなくてはならない.工場を変える力,変化に対応する力を産むのが研究開発だと考えている.

工場でも研究開発

研究開発というと,世の中にない素材を開発する基礎研究,新しい商品を創造する商品開発を思い浮かべるかもしれない.そのためには優秀な人材を多く集め,莫大な時間と資金の投資が必要だ.従って研究開発を資金力のある大企業の専売特許のように考えている方が多いのではないだろうか?
工場には,商品設計をする機能はない.中小企業は優秀な人材も資金力もない.しかし研究開発はできる.普通の人でも,お金と時間をかけずに,儲かる工場に変身する努力ができるはずだ.
世の中にない素材,商品,技術を開発することだけが研究開発ではない.自社にない素材,商品,技術を自社に取り込むことも研究開発といってよいはずだ.それによって同業他社にない力をつけ,競争優位に立つ.顧客との主従関係を脱却し,パートナー関係となることができる.

研究開発の力

では工場の研究開発とは具体的にはどんなことか,事例を紹介したい.
生産をより高付加価値商品にシフトする.ある工場はCDラジカセの廉価品をOEM生産していた.その当時から市販品のDVD機器を分解し,どのように生産したらよいか検討していた.今では高級ホームシアターシステムを生産している.顧客の商品戦略にいち早く追従できた結果だ.
生産をよりフレキシブルにする.あるネジメーカでは,独自に生産改革を行い,ネジを1本から受注生産し翌日には納品する体制を整えた.業界の常識を超えたリードタイムを実現することにより,価格競争に巻き込まれない優位性を確立できた.
生産効率を極限まで高める.ある電子部品工場では10年来の生産方式を革新し,生産効率1.5倍,スペース効率2倍を達成した.作業改善をし,簡単な半自働機を導入しただけだ.
製造業だけではない.サービス業でも研究開発は有効だ.ある飲食業はたった二つのことをしただけで売り上げが倍増した.笑顔とお客様を名前で呼ぶ,たったこれだけだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年3月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第九話「品質保証」

和衷共济
「品質保証」とは
品質保証部門の仕事を誤解されている人が多いと感じている.
製品の検査.顧客クレームに対する対応.これらも品質保証部門の仕事の一部ではあるが,これが全てではない.
品質とは製品またはサービスを実現する全てのプロセスの品質の総積である.受注から始まり出荷までの各プロセス品質の一箇所でもゼロがあれば,全体の品質はゼロになる.
従って品質保証とは各プロセスを担当する部署がそれぞれにその品質を保証することだ.
品質保証部が製品やサービスの品質を保証するわけではない.品質保証部の仕事は,各プロセスの品質保証の確からしさを保証することである.
品質保証には社内各部署の『和衷共济』が強く要求される.
検査で品質保証?
以前中華系の工場に,不良多発の改善を要求したことがある.このとき経営者は,すぐに高価な自動検査装置を買ってきて,これで不良は無くなると言った.
笑い話のようだが,現実の話だ.ここまで極端でなくとも似たような事例はいくらでもある.
半田ボールがたくさん出るので,外観目視の検査員をたくさん導入して半田ボールを除去する.
組立て後の寸法不良が発生するので,全数ノギスで寸法チェックする.
これらの検査による品質保証は,必ずコストがかかる.その結果,利益が出ないから取引を中止させて欲しいなどといってくるベンダーさえある.
中には,工程内不良が○○ppm以下なので,全数検査から抜き取り検査に移行するというメーカもあった.一見理にかなった発想のように見えるが,○○ppmしかない不良をどうして抜き取り検査で見つけられるというのだろうか.
プロセスで品質保証
前出の例では,半田ボールが出ないようにする.部品の公差設計を見直し,組立てによる工程能力を改善する.などの原因に対する改善をすることにより,各プロセスが品質保証できるようにすることが必要だ.
検査に頼らず,各工程での作り込みによる品質保証を確かにすれば,品質とコストがトレードオフになることは無くなるはずだ.
こういう状態を実現できると,工程内の検査を見直し,更にコストダウンすることも可能になる.
時間がかかる検査を組み合わせ,半自動機を導入する.検査のナガラ化を実現することにより,工程削減し作業員を省人化できる.
過去の事例では三つの検査工程と1つの作業工程を,一台の半自動検査機でナガラ化した.これにより作業員三人を省人化できた.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年2月号に寄稿したコラムです.