生産改善」カテゴリーアーカイブ

まとめ生産

 先週はある工場の訪問指導をした.

典型的なまとめ生産をしていた.
まとめ生産をすると効率が悪く,品質も改善できないと指摘をした.しかし経営者様は,ウチはまとめ生産をしていない.受注に合わせて生産していると反論される.

この経営者様に誤解をさせてしまったが,工程ごとにまとめて生産するという意味でまとめ生産という言葉を使っている.受注生産に対応するのは,計画生産だ.

この工場では,製品投入から組み立て完了までを工程ごとにまとめて生産.生産が完了したら,まとめて検査・梱包をする.
こういう生産方式をまとめ生産といっている.まとめ生産に対応するのは,一気通貫生産だ.

この工場の例では,部品投入から組み立て,検査・梱包までの各工程をドミノ倒しのように一工程ごと次々に生産するのを,一気通貫生産といっている.

まとめて作ると,取り置のムダが発生する.
工程間で一度製品をコンテナなどに入れて溜めておく,そしてそれをまたコンテナから出して,次の工程に投入することになる.この出し入れの手間と,モノを置いておく場所が取り置きのムダだ.

また半完成品を溜めて次工程に流すため,次工程で不良が発見された場合,大量に同じ不良が混入していることになる.一気通貫生産ならば,不良が見つかった時点で前工程の改善ができる.

以前別の工場で指導した事例では,電子部品のリードフォーミングを,翌日生産分をまとめて作業していた.このため翌日の組み立てで,この部品が基板に挿入できない不良が発生すると,昨日作った部品はほとんど手直しをしなければ基板に挿入できないことになる.このため大きな時間ロスばかりではなく,品質リスクも発生する事になる.

この時は組み立てライン横で,組み立てに合わせて電子部品の前加工をすることにした.当初現場リーダの強い反対にあった.前加工と組み立てラインのスピードが違うのでロスが大きいというのだ.

彼が言っていることは当然である.しかしそれは今までのやり方をしていたら,という前提がある.新しいやり方に合わせた改善をすればよいだけだ.

その他にも,10日以上かかっていた工程を,一気通貫生産で1.5日にしたことがある.また別の事例では,乾燥のためのまとめ生産していたのを,インライン乾燥を導入し24時間かかっていたリードタイムを4時間にしたこともある.

工程リードタイムが短くなれば,不良を発見した時に,原因工程がまだ生産中である.すぐに改善ができる.まとめ生産をしていると,不良を見つけても既に原因工程は作業が終わっており,その場で改善ができない.

まとめ生産を止めて,一気通貫生産をすればQCD全てにわたって改善することができるはずだ.
従来どおりのやり方に慣れてしまっていると,なかなか気が付かないものだ.更に生産方式を変える勇気を持たなければならない.勇気を持つためには,うまく行っている事例を見たり,聞いたりするのが一番だろう.


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事です。

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改善の火をともす

 クライアントの工場で改善活動をして成果を上げる.これが私の仕事だがこれだけでは不十分だと考えている.このまま仕事を終わってしまうと,いつしか改善の効果は元の木阿弥となってしまう.

工場のリーダや作業員が継続して改善するモチベーションを植えつけておかなければならない.

まず改善活動を始めるときに改善モチベーションを高めなければならない.
今まで現場で上司の指示どおりに仕事をしてきたリーダたちに,自分で考えて行動を起こさせるためには,それなりの初期エネルギーを与えないとだめだ.

まず小さな改善で成功体験をしてもらう.
しかしここですでに変えることに抵抗を示す.「変更する前に上司に話を通してほしい」といってくる.

無理もない.今まで改善の訓練を受けていない上に,よそ者のコンサルに「ここを変えよう」と言われているのだ.うまく行かなかったときの責任が自分に降りかかってくるのを恐れてしまう.

こういうリーダたちはほとんど死んだ目をしている.

私はこういうメンバーたちにまずミーティングをしている.
私「何のために仕事をしているの?」
 「??」
 「……」
今まで当たり前すぎて考えたこともないのだろう.誰も答えない.
しばらく待って
 「家族のため」
 「会社のため」
などと言う答えが返ってくることもある.

私「仕事をするのは自分のため.
  仕事を通して自分の能力を高めるのが目的.
  能力が高まれば,給料が上がり家族が幸せになる.
  会社も利益が上がる.
  そして自分自身が幸福になる」
そんな話をすると「!!」と目が輝きだすリーダが出てくる.

私「会社のためじゃなくて自分のために仕事をしなさい.
  知識ではなく能力を高めなさい.
  会社は給料をくれてそういう機会を与えてくれる場所だ」

こんな話をして目が輝きだす人が一人でもいれば,その人に改善の方法を教え成果を見せる.成功体験が自信となる.
次々と課題を与え自分で考えさせる.
最後には課題を自分で見つけさせる.

ここまでできるとそのリーダの背中はピカピカと輝きだす.
それを見ている周りのリーダの目が輝きだせば大成功だ.
急速に職場には背中がピカピカ輝いた人間が増えてくる.

言われたことをきちんとこなすリーダよりも,問題を見つけてくるリーダを重用する.そしてそういうリーダが評価される仕組みをきちんと作っておく.

こういうことができて「改善文化」が出来上がってくる.


このコラムは、2009年11月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第124号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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業務のマニュアル化と業務改革

 今週のメルマガ「ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革」で、ノリタケの仕事改革・間接業務のマニュアル化による業務改革についてコラムを書いた。本日は、業務のマニュアル化と業務改革について考えてみたい。これは間接業務、直接業務を問わず共通の課題だ。

業務マニュアルを作るためには、まず標準作業を決める。その上で作業者に理解しやすい様に作業手順を文章化する。文章化には写真、イラスト、図表等が含まれる。

ちょっと余談だが、業務マニュアルで標準作業を決めても、作業は標準化されない。なぜならば教え方が標準化してないからだ。この点にフォーカスをするのが、TWI-JI(企業内訓練・仕事の教え方)だ。
TWI-JIでは、標準作業を分解し教え方のシナリオを作る方法で教え方を標準化している。

業務マニュアルの作成にしても、TWIの作業分解にしても、ただ標準作業を記述するだけではない。標準作業を記述する際に、本当にこの作業は必要なのか?より効率の良い方法はないか?と言う視点で作業を見直しながら作るべきだ。つまり業務マニュアル作成の過程で、業務改善をするつもりで取り組むのだ。

もう一つ重要な事がある。標準やマニュアルは作ったその日から改訂を考える。標準やマニュアルは、今日ベストな方法を決めただけだ。明日もそれがベストとは限らない。標準やマニュアルを放置すれば、作ったその日から陳腐化が始まる。

無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」は現在13分冊2,000ページある。
ムジグラムは、現場からの要求で毎月20ページ程改訂されている。毎月1%は改善が進んでいると言う事だ。

つまり業務マニュアルを決めるだけではなく、業務改善を継続する。

まずは標準作業を決める。作業の「形」を作ると言う事だ。業務マニュアルが「形」を表現する。これが無いのを「形無し」という。形があるから、改善すべき所が見える。そして業務マニュアルが改訂される。この螺旋上昇循環を作る事が業務改革だ。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革

 ノリタケカンパニーリミテドは営業、管理部門などで担当ごとの業務を
マニュアル化する。家族の急病や子どもの行事で特定の社員が休んでも、いつ
でも他の社員が交代できる体制を整える。今後、育児だけでなく、高齢化を
背景に家族の介護が必要になる社員も増える見込みだ。ホワイトカラーの
「多能工化」を進めることで働き方改革を加速する。

記事全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガで、何度も「働き方改革」が「残業時間の上限規制」問題にすり替えられている、と苦言を呈して来た。日経の記事に有るノリタケの取り組みが本来の意味の「働き方改革」に向かう取り組みだと思っている。

記事にはノリタケの取り組みを次の様に紹介している。

  • 複数の社員で対応可能にする。
  • 営業・管理部門の職員が休みやすくする。
  • 社員の働きやすさを推進する。

その結果残業時間が短縮する事になる。残業時間の上限規制や残業時間短縮は働き方改革の目的でも目標でもない。本来の目的は、仕事の質と効率を上げ業績に貢献する事であり、目標はその目的に沿った指標となるべきだ。働き方改革の結果として残業時間短縮が実現するのだ。

ホワイトカラーの仕事は、能力が必要でありブルーカラーの様に簡単に多能工化する事は出来ない、と考えるのはホワイトカラーの思い上がりだ。製造現場で働く職人の仕事を習い覚える方がよほど難しいはずだ。

「事務処理仕事をマニュアル化し誰でも出来る様にする」と言うテーマでQCC活動をしたサークルが昔有った。これは子供が熱を出しても休めない、という切実な問題を解決したかった女性事務員が一人で取り組んだQCC活動だ。「サークル活動」と言う名前の通り、複数のメンバーで取り組む活動が本来のQCC活動である。それにもかかわらず、たった一人の活動が認められてQCサークル誌に取り上げられていた。
彼女は、課題を解決する過程で、参照しなければならない資料を減らすなどの改善を実施し、業務の効率化も同時に達成している。この活動の結果、彼女は子供の誕生日に休暇が取れる様になった。

こういう事が「働き方改革」だと思っている。

以前メルマガで無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」をご紹介した。
第383号「無印良品のムジグラム」

この様なマニュアルがあれば、人財の流動化は怖くはない。新人でもすぐに作業に習熟出来る。必要な人財を必要な部署に回す事が出来る様になる。

従業員に取っても、職場で「余人を持って換えられない存在」と言う評価は嬉しいかも知れない。しかしそれは該当職場に「飼い殺し」にされていると言う事に他ならない。「余人も持って換えられない」と言う理由で、人生に訪れる何度かのチャンスをつかみ損ねているのだ。

本当に部下の事を考えるのであれば、「余人も持って換えられない」と言う耳触りの良い言葉ではなく、ジョブローテーションに出して成長を促すべきだ。

これが本当の意味の「働き方改革」であり、その結果人財は活性化し、企業の業績は良くなる。「残業時間の短縮」はその結果現れる現象に過ぎない。


このコラムは、2017年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第553号に掲載した記事です。

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品質記録

 先週と今週は、中国民営企業で現場改善を指導している。

現場で以下の様な状況を発見した。完成品の最終検査で不具合が見つかり、不良内容をテープに書いて不良現品に貼付けてある。大きな製品なので、不良品を入れる箱に入れる事は不可能だ。不良品置き場に隔離する事も、現実的ではない。不良を示すテープを貼る事は合理的だと思う。不具合内容も書いてあるので、後の修理処置も明確になる。

しかし驚く事に、この不良は記録されていない。

検査では検査数量,不良数量を記録している。不良の責任工程も記録してある。しかし不良内容が記録されていない。検査記録の目的が、我々の常識とは違っている様だ。彼らの検査記録は、出来高制の給与計算が目的なのだろう、と勘ぐってしまう。

彼らは、生産工程ごとに品質検査をしており、正しく加工出来た事を、1台毎に添付された検査記録表に記録している。ISOの要求だから記録している、と言う事なのだろう。

品質記録は自分たちの改善に活用すべきだ。各工程で発生した不良を記録する様に指導をした。品質管理担当の副総経理が、私の話を聞きながら熱心にメモしているのを見て、少し驚いた。このレベルから指導をしなければならない、と言うのは彼らの伸び代が大きいと言う事であり、私の貢献意欲が大いに刺激される(笑)

何かのコマーシャルで「物より記憶」と言うキャッチコピーが有った様に記憶している。社会が豊かになると、物への欲求より「思い出」の様な精神的な欲求が強くなるのだろう。

生産現場では記憶より記録が重要だ。

この工場の生産記録には、投入台数と完成台数だけしかなかった。更にかかった工数、正規工数よりよけいにかかった時間とその原因などの項目を追加した。

その結果色々な事がデータとして分かる。
生産現場のリーダや管理職は、部材が計画通りに揃わない事が、生産ロスの最大の原因だと主張している。しかしデータから判断出来る事は、生産機種の変更に最も時間がかかっていると言う事だ。

彼らの主張通り,部材調達問題の改善に取り組んでもそれほど大きな効果は見込めないだろう。機種変更段取り時間をいかに短縮するかが、優先課題だ。

この記録から、ある工程では、5月上旬を境に生産性が平均70%向上している事が一目瞭然となった。生産性が急増した境目は、前回指導時に与えた宿題が実施された日だ。

実はこの工程に与えた宿題は2S(整理・整頓)だけだ。
不要不急の部材を整理し、今生産する為の部材を適切な場所に整頓する。たったこれだけの事で生産性が70%向上した。


このコラムは、2016年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第477号に掲載した記事に加筆しました。

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記憶より記録

 2010年4月5日配信のメルマガで「記憶より記録」と言うタイトルでコラムを書いた。行動主義で部下を評価する、そのためには記憶より記録が重要だ、と言う論旨だった。

今回は別の切り口で「記憶より記録」について考えてみたい。

QCC活動などで問題解決のテーマに取り組む場合、正しく課題を設定する事、原因分析により真の原因を発見する事が重要となる。

原因分析には色々な手法があるが、QC七つ道具の「特性要因図(魚骨図)」を描いて安心してしまうサークルが多い様に思う。確かに特性要因図は、問題の原因となる要因を沢山挙げるための有効なツールだ。その要因が真の原因である事を確かめる。今回の原因ではないが、潜在的不具合要因に対策を検討しておく、などの様に活用する事が出来る。

QCC活動の指導をしている企業で、金属表面処理の不良改善に取り組んでいるサークルがある。何時間もかけて表面処理をした結果、不良となる。その間のコストだけではなく、再処理のために金属表面を化学処理で元の状態に戻す時間とコストが必要になる。彼らの目標は数%の改善だが、その年間費用改善効果は数100万元を越えている。(計算は直接損失コストしか含んでいないが、不良ロットの修復にかかるコストや、納期遅延による顧客信頼ロスを含めるともっと改善効果は高そうだ)

初めてQCC活動をする彼らも、特性要因図を描いた所で安心している(笑)
その結果、表面処理設備の真空ポンプと蒸着の陽極電源の故障が主原因と分析した。彼らは今までの経験(記憶)に従って,不具合発生の要因を挙げ、その中から主原因を選択している。やり方が間違っている訳ではないが、証拠を揃えながら原因分析をしなければならない。

彼らは、金属表面処理の専門家ではあるが、設備(真空ポンプや高圧電源)の専門家ではない。彼らが取るべきアプローチは、過去に発生した設備故障の原因と製品不良の因果関係を記録によって調べる事が最初だろう。その結果、何が主要因であるか絞り込む事が出来、更に真の原因を分析する事が出来るはずだ。真空ポンプや高圧電源は彼らに取って専門外の固有技術であっても、管理技術で分析した結果を元に、設備メーカと協力して原因分析、対策検討が出来るはずだ。

管理技術だけで問題解決をする事は出来ない。しかし「記憶」と言う不確かな状況証拠だけではなく、「記録」と言う客観的な証拠を元に管理技術を駆使し固有技術を持っている人の協力を求める。こういうアプローチで改善が出来るはずだ。


このコラムは、2017年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事に加筆しました。

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作業に計画性を与える

 先週は以前指導をしていた工場に呼ばれ,訪問指導に出かけた.
3年近く経っているが,中国人幹部,現場のリーダ等当時指導したメンバーがたくさん残っており,楽しい仕事だった.

以前の指導で,生産に使用した部材ロットをトレースする仕組みを導入した.それがうまく機能していることを確認するために,部材倉庫を見に行った.三年経ってもきちんと運用が維持されていた.

部材倉庫で,出庫のためにキッティング作業をしている作業員を見かけた.キッティングとは,出庫部材を部品払い出し伝票に従い,倉庫の棚から集めて回る仕事である.
作業員が部材を集めて回っている台車に積まれた部品梱包箱の積み方が気になった.小さな箱の上に,大きな箱が積まれ不安定だったのだ.

こういう状況を見ると,即その場にいた作業員やリーダを集めて指導が始まる.

払い出し伝票を受け取った時に,すぐに部品を集めに回らない.
まず伝票を見てどう回れば,効率よく部品が集められるか考える.
この時台車に載せた部材の箱を並べなおすようでは,まだ事前の考える力が足りない.
毎日の仕事を通して,自分の頭を訓練しなさい.と指導をした.

まず彼らには,部材を不安定な積み方をして運搬した時のリスクに気がつく感受性を持ってもらわなければいけない.その上で,台車には下から順に大きなものから乗せなさい,と指導をするのは簡単だ.しかしそれでは不十分だ.
彼らは部品をピックアップするたびに台車の箱を積み替えしなければならない.こういう指導では1週間守れればよいほうだろう.

自分の頭を鍛えるためと教えれば,自ら進んでやるだろう.

指示された作業をするだけでは成長は無い.出庫伝票を吐き出してくるコンピュータの奴隷と同じだ.作業を自ら計画することにより,作業は仕事となる.主人は自分だ.

作業に計画性を与え仕事とする.仕事によって自分の能力を磨く.この様に,仕事を通して日々成長することを教えれば,自ら進んで仕事をするようになるはずだ.


このコラムは、2010年3月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第145号に掲載した記事に加筆しました。

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言葉の定義

 中国企業で不良低減の指導をしている。製造各部門、技術、品質、購買リーダに集まってもらい、各部門の困っている事を列挙してもらった。

以前別の中国企業でも同じミーティングをした事がある。この時はテーマが大量に出て、収集がつかなくなった(笑)
今回はあらかじめ各部門に問題点を3つ考えてもらった。それでも4、5個問題点を出して来る部門がある。今までこのような機会がなかったのだろう。毎回このミーティングは熱くなる(笑)

今回の改善活動は塗装部門の課題となった。各部門のリーダが一緒に改善活動に取り組む。もちろん購買部門のリーダには塗装不良はあまり関連がない。
参加してもらうのは、各部門のリーダに改善手法を理解してもらい、同様な活動を自部門で展開してもらうためだ。

塗装部門で発生する『飛辺』『毛刺』不良の改善が課題となった。
塗装不良が発生すると、手直し作業をしなければならない。手直し作業にはベテランが投入される。そのため通常作業は新人やパートなど未熟練作業者が従事する。そしてまた不良が発生すると言う悪循環となっている。

まずは作業現場で行き、不良が発生する「点」を観察する。

この観察により『打磨』と言う作業がポイントだと分かった。この『打磨』と言う作業は、ナイロンたわしで塗装面をこする作業だ。
しかしこの作業は二つの役割を持っており、方法も少し変わる。一つは、マスキングテープを密着させるのが目的。もう一つは、重ね塗りをする塗装面を荒らして塗料のつきを良くするのが目的。

従って『打磨』作業は、目的によって作業対象となる部位、達成すべき状態が異なる。まずは、目的の違う作業に別の名前を付けるべきと感じた。
もちろん作業指示書には、二つの作業の目的も方法も書いてある。その作業が同じ名前だと言うだけだ。それだけの事で問題視する事はなかろう、と思う方もあるだろう。
しかし言葉の定義をおろそかにすべきではないと考えている。
人の思考は言葉で決まる。そして思考が行動を決める。
そのように考えると、目的の違う作業には違う名前を付けた方が良いだろう。


このコラムは、2016年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第484号に掲載した記事に加筆しました。

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工程飛ばしの予防

 今週のメルマガ・第61号「中国華南地区の景気」で,人手による持ち回りバッチ処理の「工程順間違い」「工程飛ばし」を予防する方法を募集した.

例えば
ある製品はA工程→B工程→C工程の順に生産するが,
別の製品はA工程→D工程→C工程の順に生産する.

このような場合にどうすれば間違いなく工程順が守られ,工程を飛ばすことなく生産できるだろうか?

今回の制約は,

  • 工場の中は機械化が進んでおらずバッチ単位で人間が持ち回り生産する.
  • 設備は簡単には移動できない.

という条件にしよう.

意外にもこのような作業でミスをするのはベテランの方が多かったりする.作業に慣れてしまい,注意力が散漫になる事があるのだろう.新人の方がミスをしまいと工程ごとに確かめながら作業をするものだ.

※以下私のアイディア

  • まず各設備がどの工程かを一目で分かるようにしておく.
    天井から「A工程」「B工程」と書いた大きな看板をぶら下げておけばいいだろう.
  • 次にロットごとに生産流動カードを用意する.
    このカードには,その製品を生産する工程順,作業条件などを記入しておく.
    作業が終わるごとに作業者の確認のサインを入れる.
    更に設備の横にはんこをぶら下げておき,これもカードに押す.
    言ってみればスタンプラリーのようにするわけだ.
    生産流動カードがラリーの道順を示す地図であり,チェックポイント(工程)ごとにスタンプを集めるような形で作業をする.
  • またこの生産カードは製品ごとの標準作業手順(SOP)の役割を果たす.同時に生産記録にもなる.

このような形式の生産をしている現場では,設備ごとに操作方法を指示する文書(MOI)はきちんと完備しているが,製品がどのように流動していくかを作業手順書の形で準備しているところは少ない.
工程ごとに作業手順書を掲示すると,機種の数だけ手順書を掲示しなければならず,多くの手順書の中から該当する物を探さなければならなくなる.

殆どの現場ではQCフローチャートでこれを代用していると思うが,作業員はQCフローチャートを見ながら作業はしない.従ってこのような生産流動カードが作業手順書の役割を果たすことになる.

SOP:Standard Operation Procedure
MOI:Manufacuturing Operation Instruction

いただいたご意見をご紹介しよう.

※S様のアイディア

メッキ工程を色分けし、作業手順書で色を指定する。
ポカよけは、どうすればよいのか?
この部分は、作業者のスキルにならないように、チェックシートを記載させる。
・・・とか

色分けによる識別の徹底を考えられたアイディアだと思う.
色だけでは表現できない場合もあるので,番号を併用すると良いだろう.
例えば前処理槽は黄色,処理の内容ごとに1,2,…と番号をつける
メッキ処理層は,赤1,赤2,…という具合だ.


※O様のアイディア

門外漢ですが考えました。バッチを入れて運ぶケースと対応した設備双方に、共通した色を着けてわかり易くサイン化する方法です。それぞれの色が対応していなければそのバッチは工程間違いというわけです。
また人の目は自然と色を追っていくので工程飛ばしも発生しにくくなるのではないかと思います。ただ製品の種類が多くなっていくと当然設備に付いたサインの色数も多くなるわけですが。。。
どうでしょうか?それではまた。いつも楽しみにしています。

こちらも色による識別のアイディア.
トレーと設備の色を合わせるというのは分かりやすい.
難点は,機種が増えてしまうと,使える色が足りなくなってしまうことだろうか.



今回は出題の仕方が悪かったようだ.
例としてあげたのが3工程しかないため,一つの製品を完成させるときに10工程以上もあるような場合の考慮が抜けてしまったように思う.


このコラムは、2008年11月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第62号に掲載した記事に加筆修正しました。

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中国華南地区の景気

 今日家賃の集金に来た大家さんが部屋に入ってきて開口一番「景気が悪い」彼は海運業の会社に勤めており,華南地区の製造業が軒並み景気が悪く,彼の会社にも影響が出ているとのことだ.

最近このあたりで工場の倒産,台湾,韓国系工場の夜逃げの話を良く耳にする.

しかし一方で注文が増えている工場もある.競争相手がつぶれてしまい仕事が回ってくるというのである.

こういう時期にしっかり力を蓄えておけば,景気が回復した時に一気に波に乗る事が出来るはずである.ピンチをチャンスに変える.今のうちに贅肉のない筋肉質の体に鍛え上げておきたい.

ところで以前指導していた会社にいた中国人の若者は,独立してネジの工場を経営している.4年近く前に電話で独立した事を知らせてくれた.
一度工場を見に行ってやると言ってあったのだが,彼は遠慮してなかなか迎えには来なかった.ところが最近良く電話をしてくるようになった.

彼も電話のたびに景気が悪い,どこかネジを必要としている会社を紹介してくれというのだ.
しかし工場も見ていないのにうかつには紹介できない.たかがネジとは言え品質問題が出れば厄介なことになる.

随分昔になるが,北欧のメーカから周辺装置を購入していた事がある.
特に品質問題もなく安心していた.北欧のメーカにしばしば品質問題を出されてはたまったものではない.そのたびに工場に出かけて原因や対策の確認をするのでは,少ない出張予算があっという間になくなってしまう.

ところが突然メーカの品証から,今回納入したロットは使わないで返却してくれという連絡が入った.
報告によると製品に使用したネジの製造工程に問題があり,暫くするとネジの頭がポロリと取れてしまう事があるというのだ.

ネジを作った後にメッキをするが,メッキ後のアニール(熱処理)工程を飛ばしてしまったというのだ.
メッキ処理中に発生した水素原子が鉄ネジの中に入り込む.通常はアニール工程でこの水素をたたき出してしまうので問題がないが,水素が残留していると「水素脆性破壊」が発生する.応力がかかっている部分
が脆化してポロリと破断してしまうのだ.

メッキ工程は,水洗処理,薬剤による前処理・後処理,メッキ処理など幾つもの工程をバッチごとに持ちまわって処理をしている場合が多い.一種類のメッキ処理だけをやっていれば,工程順に処理槽を並べれば
間違いなく工程を進める事が出来る.何種類も同時生産をしていると,この製品にはこの処理は必要ないが
別の製品にはこの処理が必要という事が出てきてしまう.

メッキだけではなくこのような工程になっている製品はあるだろう.特に設備で加工する場合,バッチで設備間を持ちまわって生産するような製品は「工程飛ばし」「工程間違い」に対する予防策をとっておかないと必ずミスが発生する.

例えばある製品はA工程→B工程→C工程の順に生産するが,別の製品はA工程→D工程→C工程の順に生産する.

このような場合にどうすれば間違いなく工程順が守られ,工程を飛ばすことなく生産できるだろうか?
皆さんはどんな工夫があるだろうか?
またご一緒に検討してみたい.

今回の制約は,
・工場の中は機械化が進んでおらずバッチ単位で人間が持ち回り生産する.
・設備は簡単には移動できない.
という条件にしよう.

(次号に続く)


このコラムは、2008年11月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第61号に掲載した記事に加筆修正しました。

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