生産改善」カテゴリーアーカイブ

東日本大地震の中国経済への影響

 昔はアメリカがくしゃみをすれば,日本が風邪を引くといわれたものだ.しかしその逆はあまり聞かなかった.当時は日本がくしゃみをした位では,アメリカはびくともしなかったのだろう.

しかし今回の地震(くしゃみどころではないが)で,世界中に流行性感冒をばら撒いてしまったようだ.世界中に流通する製品のキーコンポーネントに,日本製の部品が使用されているからだ.

当然その生産拠点の中国にも影響を与える.
被災してラインストップした日本企業からの部品供給が止まる.または,直接被災していなくても,被災地の工場から部品を仕入れていれば,遅からぬ時期に部品供給が止まる.

またメルマガ読者のC様からご指摘をいただいたが,日本からの出荷が放射性物質汚染の影響で,一律止まってしまう可能性もある.

その結果,中国でモノ造りをしている工場のラインが止まってしまう.日本から部品を購入していない工場でも,納入先の工場が止まってしまえば,連鎖的に操業停止となる.

しかし恐れることは無い.
このメルマガでは再三申し上げているが,ピンチはチャンスだ.
2008年末の世界金融危機の時も同じことを申し上げた.
景気低迷で生産が落ちている時こそ,生産革新のチャンスだ.フル生産している時には,思い切ったレイアウト変更や,将来に向けた生産方式革新には取り組みにくい.生産量が落ちている時に,そうした10年先を見込んだ生産改革をすべきだ.

今のまま生産を継続していては,早晩行き詰まるはずだ.最低賃金が毎年20%程度上昇している.このまま10年間同じ比率で上昇したとすれば,10年後の最低賃金は6倍以上になる.その時今と同じモノ造りをしていて,利益が出せるだろうか?

金融危機の時に,10年後のモノ造りを目指したクライアント様は,バッチ生産方式だったのを一気通貫生産に切り替えた.今では他の部品も同じ工場に集約している.

別のクライアント様は,大口ジョブの失注を機会に生産革新に着手した.創業以来続けてきた生産方式を変え,スペース半分・生産効率1.5倍を手に入れられた.

ピンチをチャンスに変えるのは,経営者の仕事だ.
最悪の災害に暗い顔をしていても始まらない.
世界最悪の災害を,最高のチャンスに換えよう!
我々が業績を伸ばして,日本の復興資金を稼ごう!


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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相互学習支援

 私は、生産現場の改善を生業としている。前職時代から同様の仕事を永らくしている。独立後仕事のやり方が変わった。独立後暫くの間は、自分で改善案を考え、顧客のメンバーが現場に展開すると言う方法だった。

例えば、ベルトコンベアラインで作業している工員さんの座る向きを変えれば、ワークの取り置きは左手で出来る。従って右手に持った工具を取り置きする必要が無くなる。と言う具合に現場で顧客の改善リーダに教えていた。
このやり方でどんどん成果が出る。自分も充実感を感じていた。

しかし暫くして、このやり方ではダメだと気が付いた。このやり方で成長するリーダが限られている事に気がついたのだ。優秀なリーダは、教えられた事を水平展開する意欲を発揮し、自分で工夫し出す。私はリーダがこのレベルに到達する事を目指しているのだが、大半は次は何をしましょうか?と受け身のままだ。

そこで教え方を変えてみた。先ほどの事例で言えば、右手でコンベアのワークを取り置きするたびに、工具を一度置くのがムダだ。どうすれば改善出来る?と質問する事にした。

以前は、改善方法を教えて、その理由を説明していた。
それを、問題点を指摘して、改善方法を考える様に質問することにした。

このやり方で、自分なりに指導方法が改善出来たと考えていた。しかしまだまだだと、後に気がつく(笑)

きっかけは吉田新一郎氏の書籍を読んだ事だ。

「効果10倍の教える技術」

「『学び』で組織は成長する」

吉田氏は大人への教授法について、色々な手法を紹介してくれている。その後吉田氏の著作は翻訳も含めて何冊か読んでみた。

そして今キーワードになっているのが「相互学習支援」だ。「講師から学習者への1対1もしくは1対nの一方向の教授法」から「講師と学習者間の1対1もしくは1対nの双方向教授法」と自分なりに進化したが、更に「講師と学習者および学習者対学習者のn対n双方向学習支援」という考え方に至った。

例えば、研修中の演習成果発表を講師が評価するのではなく、学習者全員で評価する、こういうやり方が相互学習支援のひとつだ。

相互学習支援により、

  • 学習者間の信頼関係が深くなる。
  • 学んだ事をアウトプットする事により、より学習効果が高まる。

等の効果があると考えている。

私の様に期間限定で外部から改善指導をする様な場合、特にこの考え方が有効だと考えている。

例えばQCC活動の様に、指導者がいない場面でもサークルメンバーだけで活動を推進して行く場合に「相互学習支援」は普通に発生しているはずだ。


このコラムは、2017年7月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第543号に掲載した記事に加筆修正しました。

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異部品混入

自動車要部品は左右対称になった異部品が多数存在する。自動車のデザインが左右対称になっているのでそうならざるを得ないだろう。例えばドアミラー、ドアハンドル、ヘッドライト、方向指示灯など同じ形だが左右対象形になっている部品が多い。

この様な部品を生産する工場は、左右同数を同時期に生産し、同時に出荷する必要がある。形状が似ているため、左右製品の誤出荷や混入出荷の不適合が発生しやすいと思われる。

左右類似製品の誤出荷、混入原因をどのように防止しするかを検討してみたい。
検査で見つけるのは、上策ではない。製造方法で混入防止を保証する方がより良い。
全く別のラインで生産する、と言うアイディアもあるだろう。樹脂部品の場合一つの金型で左右を同時に成型してしまった方が効率が良さそうだ。その後の組み立て、検査工程も同時に進めてしまえば、無用の中間在庫を持たなくて済む。

つまり、左右の製品を同時にラインに流しても左右製品の混入や取り違いが無い様にするにはどうしたら良いか?と言う課題だ。

ちょっと頭の体操をしていただきたい。
私が考えたアイディアは編集後記でご紹介する。


【編集後記】



左右対称製品の、取り違い、混入防止対策を考えていただけたでしょうか?

私が考えたアイディアをご紹介します。
工程内の組み立て治具、検査治具を左右それぞれ専用にする。左側製品は左側治具にしかセット出来ない様にする。出荷トレーを左右それぞれ専用にする。これで左側製品に右側用の部品を組み付けたり、左右取り違えて出荷する事を防げるはずです。

ちょっと簡単すぎましたか?


このコラムは、2017年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第544号に掲載した記事に加筆修正しました。

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未知の災害

 「失敗から学ぶ」ということは失敗事例から学び、事故や災害の未然対策をすることを目的としている。したがって未知の事例・災害には対処の方法がない、ということになってしまう。例えば2011年に発生した福島原発事故は、1000年に一度の大津波が原因であり全く想定外、事前の対策は不可能だった。本当にそうだろうか?

福島原発事故は、想定外の津波により全ての電源が水没したため電源の使用が不可能となり、炉心が冷却出来ずメルトダウンに至った。

原因が未知の事故・失敗はない、業界を超えて考えればほとんどの事故・失敗は既知の原因によるものである、とこのメルマガで書いてきた

2001年9月11日ワールドトレードセンター同時多発テロ事件発生後に、米国は原子力発電所に対してテロが行われることを想定して、対策を実施している。

津波が想定外であっても、全電源が使用不可能になることはありうる。しかもその事例は10年前にあったのだ。「津波」を「テロ」に置き換えて未然防止を考えるのが「失敗から学ぶ」ということだ。

世の中には多くの失敗事例がある。それをいかに自社の問題として捉え直す事が出来るか、というのが失敗から学ぶための極意だと思う。


このコラムは、2018年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第655号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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工程を止める

 生産中に同一不良が大量に発生する。または顧客に不良が流出した。
原因や改善方法がまだ判明しない。しかし客先への納入が必要。この様な状況を経験された方は多いだろう。(経験したことがないという方は、ラッキーな方か、まだ経験が浅い方だろう)

タクトタイムで次々と製品が上がってくる工程で、同一不良が発生すれば、あっという間に大量の不良の山が積み上がる。
こういう状況になった時に生産を止められるかどうかで、その工程の監督者の力量が判断できる。当然顧客の要求納期に答えなければならない。生産を止めれば、納期遅延が発生する。このプレッシャーに打ち勝って生産を止めることは難しいだろう。

しかし冷静に考えれば、不良が発生したまま生産しても納期が間に合うとは言えないだろう。滞留する不良の山をあちこちに移動したり、修理要員を確保するなどが必要となり、生産効率も生産量も落ちる。
最悪の場合、工程内で発生した不良が顧客に流出する。

工程の監督者は、納期通りに「生産」をするのが使命と思っており、生産を止める勇気を持つことができない。しかし本来の使命は納期通りに「出荷」することである。したがって、納期通りに良品を生産しなければならない。

監督職が不良品の「処置」に奔走していれば、いつまでも不良は発生し続ける。勇気を持って工程を止め、不良原因を解析し対策を実施する事が必要な処置だ。


このコラムは、2017年10月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第579号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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海自機墜落「人的ミス」

海自ヘリ墜落は人為的ミス 青森沖3人不明

海上自衛隊のヘリコプターSH60Jが8月26日夜に青森県の竜飛崎沖に墜落、乗組員4人のうち3人の行方が分からなくなった事故について、海自は7日、人為的ミスが原因との調査結果を公表した。方位指示器の誤差を復旧する作業中、バランスを崩して墜落、水没したという。フライトレコーダーや機内の音声データ、救助された乗組員の証言から判断した。

海自は機体に問題がなかったとして、操作手順の徹底など再発防止策を実施し、事故後に自粛していた同型機の飛行を8日以降に再開する。

海自によると、護衛艦「せとぎり」搭載のヘリは夜間の発着艦訓練のため、午後10時33分に艦上を飛び立った。直後に機長席と副操縦士席の方位指示器の値に大きな誤差があることを示すランプが点灯した。

同48分ごろ、復旧作業で機体の姿勢や方位を表示する装置の電源を落とすと、飛行が不安定になり、機首が上がり速力が低下。機長が高さ90~120メートルで速力を上げようと機首を急激に下げ、そのまま墜落した。バランスを崩してから十数秒で落ちたとみられる。

やや強い風が吹いていたが、視界は良好だった。作業に集中するあまり水平線の見張りが不十分になり、乗組員が機体の姿勢が変わったのに気付くのが遅れたという。〔共同〕

日本経済新聞より

その他の新聞記事も合わせて要約すると、
防衛省が墜落したヘリコプターのフライトレコーダを解析した結果、事故原因は「機長が機体の姿勢をしっかり把握しておらず、搭乗員間の連携も不十分だったことが重なって墜落」と言う事で「人的ミス」と結論づけている。

その経緯は、

  • 磁気で方位を確認する方位指示器に誤差が発生とアラーム表示。
  • 機長は誤差を修正するため、操作マニュアルに基づき、方位指示器と連動し、機体の姿勢を確認する装置の電源をいったん切って再起動
  • 電源を切ったことで、この装置と連動している機体の姿勢を維持する機能も低下。
  • その操作で、結果機首が上がって速度も落ちるなど機体姿勢のバランスが崩れた。
  • その結果、機体は降下し続けて墜落した。

この間に「人為ミス」があったとは思えない。唯一人為ミスがあったとすれば以下の記述部分だけだ。

  • 副操縦士や機体後部の2人の航空士も機体の姿勢や周囲の状況を確認しておく必要があったが、これを怠っていたという。

これは墜落の直接原因ではなく、我々製造業で言えば「流出原因」に相当する。

この記事が正しいとすれば、発端となったのは「方位指示装置の誤差」だ。機長は操作マニュアルに従って、機体の姿勢を確認する装置をオフ・オンしてリセットしている。その結果、姿勢確認装置と連動している機体の姿勢を維持する機能も低下、墜落となっている。

機体の姿勢を確認する装置を初期化してしまえば、実際の姿勢とずれが生じ、機体の姿勢維持をする事は出来なくなる。

機長はこの操作をマニュアルに従ってやっている。これは人為ミスではなく、操作マニュアルの不備だ。
こういう状況で、副操縦士らが機体の姿勢や周囲の状況を確認した所で墜落を防ぐ事は出来なかっただろう。流出原因防止を強化しても、発生原因を除去しなければ事故再発は根絶出来ない。

根本原因対策は、
飛行中に方向指示の誤差が発生した時の対応の仕方を変える(マニュアル変更)
又は、飛行中に機体姿勢確認装置のリセットをした場合に、姿勢制御維持装置の処理方法を変える(飛行システムのソフトウェア変更)事になるはずだ。

命をかけて国を守ってくれている自衛官3名が行方不明となっている。
「人為ミス」と安易な答えを出すのではなく、きちんと再発防止につながる原因分析をすべきだ。


このコラムは、2017年9月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第562号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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改善と改革

 先週のメルマガで、ワインバーグの言葉を紹介した。
今週ももう一つ別の言葉を紹介したい。

「複雑なシステムは選択的に改造するより、破壊する方が楽だ」

参考:「ワインバーグの文章読本」

ワインバーグはシステムエンジニアなので、彼のこの言葉はシステム開発・メンテナンスに当てはめて考えるとすんなり理解できる。

膨大なシステムソフトを小改造することは困難だ。その改造が全体にどのように影響を与えるか、全て洗い出し、悪影響を与えないように改造しなければならない。ならばいっそ捨ててしまえ。というのが本日紹介した言葉の真意だろう(笑)

さすがに破壊したり、捨ててしまうことはできないだろうが、この思いは素人の私にも理解できる。サーバ・クライアント型やアプレト型のシステムが基幹ソフトにも入り込んできたのは、システムソフト業界のジレンマから来るのだろう。

同じことが生産現場の改善にも言えるだろうか?
選択的に改善がうまくゆかないから破壊する、というのは同様に無理だろう。
「選択的改善」がうまくゆかないのは、ソフトウェアの世界と比較すれば、単純だ。全体を見ずに部分を選択的に改善するからうまくいかない。
例えば10人で1時間に100台のサブユニットを生産しているラインの生産能力を10人で1時間120台に改善する。これが改善かどうかは、後工程の生産能力と需要に依存する。

後工程が1時間に100台しか生産できないのならば、10人で1時間に120個生産するのは改善ではない。8人で1時間に100個生産できるようにした方が良い。

改善はどこまで行っても改善であり、改革には至らない。生産改善でよく耳にする言葉だ。改善で20%、30%の効率を上げるより、どんと設備投資をして20倍、30倍の改革を目指したい。そんな要求は理解できるが、需要がないのに生産量を上げても意味はない。

コストを下げるためにたくさん造る。
大量生産により貧乏も大量に生産してしまった。20世紀に犯した我々の蹉跌はここにあるのではなかろうか?

いきなり設備投資で改革を目指すのではなく。金をかけずに改善を繰り返す。
改善をすることにより、見える世界が変わるはずだ。改善を繰り返し成長した視点で設備を検討すれば、より効率の良い設備が設計できるはずだ。


このコラムは、2018年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第675号に掲載した記事に加筆しました。

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改善とカイゼン

 改善のことを「カイゼン」とカタカナ表示する文章を見て違和感を覚えた。この文章は、現場が自分たちの都合のいいように勝手に作業方法を変更する事を「カイゼン」とカタカナ表記をしていた。
本日は改善とカイゼンの境目について考えて見たい。

辞書で改善を引いてみると以下のように出ている。

悪いところを改めてよくすること。「生活を改善する」⇔改悪。
[補説]トヨタの生産方式を象徴する言葉として世界で知られる。

(コトバンクより)

「改善」とは悪いところを改めてよくすること。
では「カイゼン」とはなんだろうか?[補説]に有るようにトヨタ生産方式を象徴する「KAIZEN」を示すものと考えるのが妥当のように思える。

上述の現場の都合に合わせて勝手に作業方法を変えるようなことは、どの様な表記をしようとも改善とは言い難い。例えば東海村JCO臨界事故の様に、燃料加工工程で正規作業手順を逸脱した「裏マニュアル作業」はどんな表記をしても改善とはいえない。

では「カイゼン」と「改善」の違いはどこにあるのか?
「改善」は辞書にある様に悪いところを改めて良くすること。
「カイゼン」は悪くなくても更に良くすること。
この様に定義してはどうだろう?

以下の様な例で理解していただきたい。
不良が発生する工程を不良が発生しない様にすることは「改善」。
作業効率を〇〇%向上させることは「カイゼン」。

作業効率を上げなければ出荷が間に合わない、または利益が確保できないなどのネガティブな状況を改めることは「改善」と表記する。一方、作業効率を上げ、短納期出荷で顧客満足を得る、または利益率を上げる事は「カイゼン」と区別して表記することになる。

日本のモノ造りの凄いところは、悪くなくても「カイゼン」を継続するところにある。

英語で言うならば我々が目指すのは“Improve”ではなく“KAIZEN”だ。


このコラムは、2018年4月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第657号に掲載した記事に加筆しました。

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生産改善

 もう10年近く前の話になる。従業員9,000人ほどの大工場の指導をしていた。人手による生産から脱却し、自動化生産をしたいという経営者の要求を受けた。自動化設備の設計製造をしている友人からの要請でプロジェクトに参加した。現状のラインをどのように自動化するかアイディアを出すのが私の役割だった。友人はアイディアを設備として実現する才能を持っている。

当時すごい勢いで上昇し始めた労務費の削減が狙いだが、経営者と話をすると従業員マネジメントの苦労から逃れたいようだった。

現場を見ると、なるほどと思える。
従業員の躾が全くできていない。製品の持ち出しを懸念して作業現場の出入りには保安係の身体検査がつく。従業員を信じていないから、現場も経営幹部を信頼しない。

現場の改善は日本人幹部がやる。
作業改善のために治具を製作し現場に投入するが、班長が治具の使用を拒否。信じられない状況だ。日本人幹部がトップダウンで生産改善をしても、それを現場が運用しなければ効果は発生しない。

この様な状況下で、全自動化したいという経営者の要求が生まれたのだろう。

ここまで極端な事例はあまりないと思う。
しかし現場の中国人幹部に改善の積極性が低い、という日本人経営者の不満はよく聞く。自ら改善提案ができない、改善活動に消極的な中国人幹部が多い。そのため日本人赴任者主導で改善を進める。そして中国人幹部の能力も積極性も養われない、という悪循環になっている様に思う。

生産現場の監督職までも積極的に改善活動に参加する「改善文化」を作る。そのためには、現場の管理職、監督職の能力と意欲を磨く必要がある。
全自動生産設備を導入すれば生産性は上がるだろう。しかし改善は一度だけだ。改善文化を磨けば改善は継続する。


このコラムは、2018年3月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第647号に掲載した記事に加筆しました。

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トップダウン改善

 色々な工場でQCC活動の指導をしている。QCC活動の場合は、職場の問題点や課題を自ら発掘し改善するボトムアップの活動だ。一方経営者から課題を与えられ改善活動をする事も有る。こちらはトップダウンの改善活動となる。

同じ改善活動であるが、少し様相が変わる。
両者の活動にテーマ名をつけると、トップダウン改善とボトムアップ改善の違いが際立つ事が有る。

トップダウン改善の場合
「自動化により○○工程の生産性を2倍にする」
「セル生産方式により多品種少量生産に対応する」

これらのテーマは、トップダウンで自動化の投資をする、セル生産方式を導入すると言う事が決まっている。つまり改善方法(「自動化」「セル生産方式」)がトップダウンで与えられている。

ボトムアップの場合は生産性を2倍にすると言う課題解決にどんな方法が有るかと言う所から考える。結果的に自動機を導入する事になるかも知れないが、課題を解決する方法から考えるので改善の方法はテーマ名に入らない。

「生産性を2倍にする」と言う課題に対し、同じ条件で倍作る、半分の人で作る、半分の時間で作る、又はそれらの組み合わせなどを考える事が出来る。自動化はその解決方法の一選択肢となる。

どちらが良い悪いではない。既にやる事が見えている場合はQCC活動をするよりトップダウンで改善プロジェクトにした方が手っ取り早い。

課題解決方法から考えなければならない活動はQCC活動の方が良いだろう。QCC活動の場合、メンバーの問題発見能力、課題解決能力を高める効果がある。与えられた仕事ではなく、自ら作り出した仕事なので活動意欲、達成感などが強く感じられる、と言うメリットも有る。