月別アーカイブ: 2019年5月

続・質問の力

 先週は「質問の力」について記事を書いた.「質問の力」の具体的な事例を紹介したい.

生産現場に行くといつもと違うところで生産の流れが停滞している.通常ボトルネックではない工程がボトルネックになってしまっている.

そこで組長さんを捕まえて質問を始める.
私「このライン調子はどう?」
組長「生産量が上がっていません」

私「どうして?」
組長「○○の工程に新人が入っています」

私「新人だとどうして生産量が落ちるの?」
組長「作業にまだ慣れていません」

私「どの作業が慣れていないの?」
組長「テープを台紙から剥がした後にテープが丸まってしまって…」

私「どうしてテープが丸まるの?」
組長「作業に慣れていないから」

ここで質問と答えが無限ループに落ちてしまう.
実はこの工程では台紙からテープを剥がして製品に貼り付ける作業をしているが,台紙からテープを剥がした瞬間に静電気が発生する.作業者がテープを指先でつかもうとすると静電気で指に吸着してしまい作業がうまく行かないのだ.

ベテランの作業者はこれを経験として知っており,剥がしたテープを指で取りに行かない.逆に静電気の吸着力を利用して指のほうに吸い寄せている.

ベテランと新人の作業をよく観察すると違いは分かる.しかしこの現象のメカニズムに到達できる人はそうはいない.

そこでベテランと新人の作業の様子を指先を拡大してビデオに取る.
これを見せながらどう作業をしているか説明する.その後で静電気で吸着しているメカニズムを教える.

この順番にやらないと,消化不良を起こすだけだ.

質問をすることによって「生産量が落ちている」という現象の根本原因を突き止め,改善方法を考えてもらう.
難しい部分については,こちらで理論武装をしてあげなければならないが少なくともうまくできている作業者の動作を観察することによって新人に教えるポイントは見つけることができるだろう.

このように現場で,質問を繰り返すことによって始めて指導ができる.

生産量が落ちている.ボトルネック工程が変わっている.となれば経験のある管理者ならば,すぐに新人が投入されていると推定できるはずだ.そこで「新人に対してちゃんと作業訓練をしなさい」と班長に指示を出すことはできる.しかしこれでは班長はどう作業訓練すればよいか分からない.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事です。

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質問の力

 先週は「人誑し改善」について記事を書いた.
「人誑し」の方法として「褒め倒す」というのをしばしば使っている.

改善をして成果が出ればうんと褒める.しかし改善の成果が出るまでは褒めるチャンスがやってこない.したがって改善のための行動が一歩踏み出せた時点で褒めてしまう.

失敗しても「失敗の向こうに成功があるのだ」といって褒めてしまう.

知識があるというのは褒めない.
知っているだけでは褒められない,知っていることを行動に移したら褒められる,ということを理解してもらうためだ.

もうひとつよくやるのが「質問」だ.
こうすればいいと教えてしまう.こうしなさいと指示をしてしまう.このほうが手っ取り早いのだが,これを繰り返していると「指示待ち人間」しか育たない.

質問により気付きをもってもらい行動に移す,そんな質問で誘導するわけだ.我々の「質問力」はTVドラマの刑事のように真実を突き止めるための質問ではない.改善に必要な「質問力」はリーダが行動を起こすための質問だ.

なんだか「女誑し」の手管のようだが効果はある.と思っている.

■■ 編集後記 ■■
最後まで読んでいただいてありがとうございます.

日本に一時帰国している間にFMラジオでこんな話を聞きました.

仕事が忙しくても「疲れた」とは言わない.
「今日もがんばった」と言う.
「忙しい」とは言わない.
「充実している」と言う.

名前は忘れてしまいましたが,若いバラエティアイドルの信条だそうです.
前向きでいいですね.私も真似をすることにしました.


このコラムは、2009年8月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第112号に掲載した記事です。

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智・仁・荘・礼

yuē:“zhìzhī(1)rénnéngshǒuzhīsuīzhīshīzhīzhìzhīrénnéngshǒuzhīzhuāngzhī(2)mínjìngzhìzhīrénnéngshǒuzhīzhuāngzhīdòngzhīwèishàn。”

《论语》卫灵公第十五-33

(1)知及之:知識、学識がその地位にふさわしいこと。
(2)涖之:これのぞむ。民に臨む、という意味。

素読文:
子曰わく:“これおよぶも、じんこれまもらざれば、これいえども、かならこれうしなう。これおよび、仁能く之を守るも、そうもって之にのぞまざれば、すなわたみけいせず。知之に及び、仁能く之を守り、荘以て之に涖むも、之を動かすにれいを以てせざれば、いまからざるなり。”

解釈:
孔子曰く:“知識、学識が為政者としての地位を得るに十分でも、仁徳をもってそれを守ることができなければ、得た地位は必ず失われる。知識、学識が十分であり、仁徳をもって地位を守り得ても、荘重な態度で人民に臨まなければ、人民は敬服しない。知識、学識が十分であり、仁徳をもって地位を守ることができ、荘重な態度で民に臨んでも、人民を動かすのに礼をもってしなければ、まだ真に善政であるとはいえない。”

為政者として世を治めるためには智・仁・荘・礼をもって民に接する事が必要である、と理解しました.

変わる価値と変わらぬ価値

 昭和の高度成長期には「オー!モーレツ!」「大きいことはいいことだ」とコマーシャルで散々聞かされていた。当時の「企業戦士」は平成では「社畜」と呼ばれる。ショルダーバックほどの大きさだった移動電話は、平成には胸のポケットに入っている。

昭和の価値は、平成では価値ではなくなった。
がむしゃらに頑張ることはダサく、ゆとりを求める。
大きく豪華であることより、小型でシンプルであることを好む。

では変わらぬ価値はあるのだろうか?

昭和は、がむしゃらに頑張って、大きく豪華なモノを手に入れる。
平成は、シンプルな生活をすることにより、ゆとりを楽しむ。
こう考えると、人生を楽しむという価値観は同じであり、その方法が違うだけと理解することができる。
昭和世代は、モノによって人生の豊かさを実感する。
平成世代は、モノから離れることで人生の豊かさを実感する。
両者は、方法は違うが目的は同じだ。

変わる価値は方法。変わらぬ価値は目的。
こう考えると、企業経営も同じだと気がつく。

例えば企業経営の目的が、顧客、社会、従業員の幸福追求であれば、方法が変化しても繁栄を続けることができるだろう。
しかし企業経営の目的が善ならざれば、どのような方法を取っても企業が反映し続けることはない。


このコラムは、2019年5月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第818号に掲載した記事に加筆しました。

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蔵王スキー場で停電

 “蔵王スキー場で停電 80人乗せたリフト、2時間止まる”

 山形市の蔵王温泉スキー場や、山形県上山市の蔵王坊平高原にあるスキー場・蔵王ライザワールドなどで30日午後1時ごろ、停電が発生し、リフトやロープウェーが止まった。県警などによると、救急搬送された人はいないという。
東北電力によると、山頂付近の木の枝が雪の重みで電線に接触して漏電し、リフトを含め127戸が停電したという。

(以下略)

(朝日新聞デジタルより)

 記事によると、蔵王温泉スキー場では、全8基のリフトのうち6基が止まり、約80人が最大2時間救出を待った。蔵王ライザワールドでは、3基のリフトが止まり、約10人が15分ほど降りられなくなった。

この事故では誰も負傷していない。一番ついていない人でも2時間寒い思いをしただけだ。しかも停電の原因は天災だ。しかし違和感を感じざるを得ない。

中国のマンションのエレベータがメンテナンス不良のためしばしば止まる、という事例はこのメルマガで何度か取り上げた。しかし停電で止まったことは一度もない。14年で5つ目のマンションに住んでいるが、全てバックアップの発電機があり、停電時でもエレベータは止まらなかった。

エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが
同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡

天災といっても、積雪量の多い地域だ。今回の様な事故は潜在リスクとして、東北電力は認識できたはずだ。リフト運営会社もバックアップ用の発電設備を用意しておくべきではなかったのかと思う。

我々も停電リスクを検討しておく価値はありそうだ。
広東省の電力状況は10年前と比較すれば相当改善された。当時は計画停電や突然の停電がしばしばあった。現場のリーダたちも慣れており、停電時の処置に戸惑うことはなかった。しかし当時のリーダはもう現場にはいない。


このコラムは、2019年1月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第766号に掲載した記事に加筆しました。

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日本人の誇り

 最近の報道で日本人精神の歪みを強く感じる。

幼い我が子を虐待し死なせてしまう。
学校でのいじめを苦に自殺する子供がいる。
列車車内で無差別に殺人をする。
看護師が患者の点滴に界面活性剤を混入させる。
日本は安全だという神話は夢物語に変わってしまった。

先週オウム真理教幹部の死刑執行が報道されたが、二十数年前から日本人の変容が始まっていたのかもしれない。

私たち日本人は
エレベータの中でタバコを吸う。
散歩中の愛犬の落し物を放置する。
列車から降りる人をかき分けて乗車する。
横断歩道を渡っている人にクラクションを鳴らす。
駐車場の入り口に車を駐車する。
このような人たちを嗤える立場ではなくなってしまった。

台湾出身の評論家・黄文雄氏はこれを「武士道」の喪失だと言っている。
「台湾人の美徳とされる「日本精神」が、日本人から失われ始めている」

日本の武士道は台湾ばかりではなく、世界中から一目置かれていると言ってもいいだろう。第二次世界大戦の敵国であった米国までが日本の武士道を畏れ、敬意を持っているという。

武士道を一言で言うことはできないだろう。あえて武士道の精神を短く言うならば、論語から引いて「仁義礼智信忠孝悌」と言えるだろう。

仁:儒教の最高位の徳。論語の中で子路は「剛毅木訥仁に近し」と言っている。
義:社会的かつ人道的な正義。
礼:礼儀・作法。
智:物事の本質をわきまえること。
信:人を欺かないこと。
忠:誠実であること。
孝:父母を尊敬し大切にすること。
悌:年上の者を尊敬して従うこと。

中国から伝わった儒教精神が、江戸期に庶民にまで広がり武士道は形成された。
「日本では宗教を教育していないのにどうして道徳教育を授けることが出来るのか」という西欧人の質問に対し、新渡戸稲造は「日本には武士道がある」と答えている。

しかし日本の社会は、道徳より野心を優先する社会になってしまったようだ。
しかもその野心が個人的なものになっている。

なぜそうなってしまったのか?私の仮説はこうだ。
日本のコミュニティは「村社会」だ。村社会であるから「仁義礼智信忠孝悌」を守っていなければ、存在を許されない。隣近所から「どう見られるか」が優先事項となる。道徳を守っていなければ生きてはゆけない。

核家族化が進み、近所づきあいもなくなり「村社会」は崩壊し、個の集まりになる。周りには「武士道」を語る大人がいないまま子供が成長する。その結果、人の命に対する尊厳という最もプリミティブな道徳観念が育たなかった。

つまり「村社会」が道徳教育機関であったが、村社会の崩壊とともに道徳教育を担う者がいなくなってしまった。

文科省は「特別の教科 道徳」というものを設け、修正を試みている。しかし道徳は知識ではなく実践だ。教室での教育だけで解決するとは思えない。社会全体で取り組まねばダメだろう。

企業、地域などあらゆる社会単位で「道徳」を取り戻す試みをすべきだ。
武士道を核心とした企業文化を作れば、強い企業になることができると思うがいかがだろうか?


このコラムは、2018年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第691号に掲載した記事に加筆しました。

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曲则全

老師は《道徳経》の中で次のように言っている。

quánwǎngzhíyíngxīnshǎoduōhuò

老子:《道德经》第二十二章

読み下し文に直すと
きょくなればすなわまったし、がればすなわなおし、くぼめばすなわち、やぶるればすなわ新たなり。少なければすなわち得られ、多なればすなわち惑う」
となる。

曲がった木は役に立たず切られることなく命を全うする。
身をかがめていれば真っ直ぐに伸びることができる。
窪地のように凹んだ所には水が満ちる。
ボロボロになれば新しくできる。
持っているモノが少なければ得るものがある。
持ってるモノが多ければ惑う。

逆説的な言い方だが、これが世の中の真理ではないだろうか?

謙虚にしていれば上から重用される。
何も知らなければ素直に学ぶことができる。
捨てることで新たなモノが手に入る。
手が空いていればチャンスを掴める。
たくさん仕事があっても力が分散し成果が上がらない。

仕事がない時にボヤいていないで、次の仕込みをする。暇な時こそ飛躍のチャンスだ。
私の友人は金融危機の時に徹底的に改善活動をした。例えば現場のレイアウトを変えて二機あったエレベータを一機で賄えるようにすることで、エレベータの保守点検費用を半減する。このような改善活動の積み重ねで年間300万元の間接費用が節約ができ、筋肉質の経営体質になった。


このコラムは、2018年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第653号に掲載した記事に加筆しました。

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