月別アーカイブ: 2019年7月

部品1個1円の商売から200億円企業へ 鯖江の零細

 アベノミクスの恩恵が地方まで届かないという声も聞くが、それならば自らの技術力を頼りに、世界を舞台に戦うことを選択した地方企業がある。福井県鯖江市のメガネフレーム製造・販売会社シャルマンだ。

◆80歳でも一人で海外出張

 元はメガネの部品を細々と作る下請け会社だったが、チタン合金の開発、加工・接合の高い技術を生かして、メガネフレームの完成品メーカーに脱皮。縮む国内市場から世界の市場で勝負するため、中国に製造拠点を設け、海外80カ国で販売する体制を構築した。

全文はこちら

(日本経済新聞電子版より)

 バブル崩壊以降出口が見えない不況が続いた。アベノミクスで景気回復の予感が芽生えたが、消費税増税でまた後退。ようやく大企業を中心に業績が上がった。中小・零細企業にも「トリクルダウン効果」の恩恵があると経済学者は言う。しかし待てど暮らせど、景気のいい話は自分の所には来ない。

そんな感覚の中小企業経営者が多い様に感じている。

しかしへこんでいる場合ではない。バブル崩壊も、増税も、一企業経営者が制御出来るモノではない。ここに業績不振の原因を求めれば、改善の方法はない。
少なくとも、バブル崩壊以降20年間経営を続けているのだ。会社には従業員がおり、電気もついている(笑)もっと自信を持って頑張っていただきたい。

今週のニュースは中小企業経営者に、夢と希望を与えてくれる様なニュースだ。

元々シャルマンは、眼鏡用の部品を生産していた。顧客から与えられた図面に従って部品を黙々と生産する。典型的な下請け工場だ。その彼らが、眼鏡のフレームの設計生産に取り組み始めた。

更に眼鏡素材のチタンの開発、チタンの加工技術の開発まで手を伸ばしている。中小・零細企業に研究開発など無理、と諦めればチャンスは一切来ない。彼らは大学の研究室と共同開発をしている。自分に無い力は、その力を持っている人を探し、仲間になれば良いのだ。

その努力の結果、1個1円の部品から1本数万円の自社ブランド眼鏡フレームの生産にシフトする事が出来た。売り上げ金額も利益も桁が変わってしまったはずだ。

更にその技術が異業種から注目され、脳外科手術用のハサミを生産することになった。当然手術用機材など作った事はない。福井大学と協業している。一社で為せぬ事も、志しを同じくする仲間があれば可能になる。そのためには、社外に目を向け交流を図る事だ。

鯖江は眼鏡の街だ。他にも平らに折り畳めるペーパーグラスを販売している西村金属がある。こちらの企業も元々眼鏡部品の加工を手がけていた。設計上のアイディアで、画期的な構造を持つ眼鏡を生産し、眼鏡の本場ミラノの展示会で評価を受けた。その後生産が追いつかずに3ヶ月待ち状態が続いていた。(生産体制が整った様で、最近は3日で出荷出来るそうだ)

以前にご紹介した、造船不況に悩んでいた中島プロペラが、その加工技術を活かして人工関節を生産するナカジマメディカルを興している。きっかけは、船舶スクリューの加工工場を見学に来た医学部教授の一言だったそうだ。

まずは小さな一歩として、社外との交流をされてはいかがだろう。


このコラムは、2015年1月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第407号に掲載した記事です。

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社外活動

 中国に住んでいると日本のTV放送は見ることができない。昨年の9月までは、中国の映画・TVドラマサイトで日本のTVドラマがアーカイブされていた。私としては珍しくNHKの大河ドラマを一気に見たりした(笑)しかし「島問題」以降、日本の映画・TVドラマは全て削除された。

最近偶然中国の動画サイト『優酷』に「カンブリア宮殿」がアーカイブされているのを発見した。当然著作権を無視した違法なモノだと思うが、情報難民(笑)の我々には、天の救いの様な存在だ。

多分中国国内からしかアクセス出来ないと思う。
カンブリア宮殿は、ただ娯楽としてみても楽しいが、アンテナが高い人には沢山の気付きを与えてくれる番組だ。製造業以外の事例も多いに参考になる。

前置きが長くなったが、カンブリア宮殿で取り上げた「ナカジマメディカル」が面白かった。私が着目した部分を紹介したい。

ナカジマメディカルと言うのは、人工関節を生産している会社だ。
元々船舶のプロペラを生産していた会社が、造船不況時の経営多角化戦略により生まれた会社だ。

プロペラの生産で重要な技術は金属の表面研磨だ。
現場の匠による研磨技術が、プロペラの性能を決める。こうした技術が人工関節生産の差別化要因となる。それを指摘したのは、プロペラの生産現場を見学した医療関係者だ。

人工関節の骨の部分に当たる金属の平滑度をあげれば、関節の軟骨として使用するプラスチックの摩耗を防ぐことができる。プラスチックが摩耗すると、交換のために再手術が必要となる。
そのため金属の鏡面仕上が、人工関節の寿命を延ばし、患者の再手術と言う苦痛から救うことになる。

しかしプラスチックの寿命向上には、耐摩耗性だけでは達成出来ない事が判る。体内に入ったプラスチックは、酸化することにより劣化してしまう。ナカジマメディカルには、プラスチックの酸化劣化に対応する技術はない。

そこで彼らは何をしたか。
異業種の研究者を集めて、研究会を始めたのだ。元々金属加工は本職だ。工学部、医学部の研究者を集めた研究会で、プラスチックの専門家から抗酸化のためにビタミンEを添加すると言うアイディアが生まれ、それを実用化した。

中堅・中小企業は全ての技術開発をする事は不可能だ。足りない技術は、外部から集める。こういう発想が重要だ。

私が会長を務める東莞和僑会では、異業種間での交流を目指し、工場見学会を企画している。そしてそれを一歩進めて「ソーシャルモノ造り分科会」も開催している。まさにナカジマメディカルの研究会と同じ目的だ。

実は「ソーシャルモノ造り分科会」はまだ具体的成果にはたどり着いていない。ナカジマメディカルの事例と比較して、成果が出せない理由を考えてみた。
分科会のテーマをまず絞り込む事が必要だと気が付いた。今の所メンバーの固有技術や、夢を語り合っているだけだ。早急にテーマを絞り込むフェーズに移行しなくてはなるまい。

この様に、社外にある技術やリソースとコラボして新しい価値を創造する。それにより、自社の新たな商品や事業に結びつける。こんな社外活動を組織化する、或は参加する事で中堅・中小企業が活性化することが出来たら最高だ。


このコラムは、2013年11月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第335号に掲載した記事です。

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一日暮らし

 一日暮らしというと、将来のことも考えずにその日その日の享楽を求める、もしくはその日その日の生活に追われ将来のことを考えることができない状況を思い浮かべるかもしれない。

しかしこれは、臨済宗の高僧・正寿老人(道鏡恵端禅師)の教えだそうだ。
明日という日があると思うから今日を精一杯生きられない。どんなに辛くても今日一日と思えば耐えられる。どんなに楽しくても今日一日と思えばそれに溺れることもない。「一大事とは今日只今の心なり」という教えだ。

「大切なことから忘れなさい」松山大耕著

私たちの仕事はPDCAを回せと教えられる。計画や目標を持って仕事をする。つまりいつも明日を見て仕事をしているわけだ。これは禅の教えに反するのか?
例によって、どうでもいい事をグダグダと考えている(笑)

植物界は「桃栗三年柿八年、梅は酸いとて十三年、柚の大馬鹿十八年」と言う。柚は十八年かけてようやく実をつける。人も柚と同じく十八年かけてようやく成人と認めてもらえる。月日はゆっくりとしか流れない。

しかし明日は必ず来るとは限らない。今日と同じルールを適用出来る明日とは限らない。だから計画など持たずに「一日暮らし」で良いではないか、というのは違う気がする。

明日は来ないかもしれない。明日は今日と違うルールの世界かもしれない。

今日を精一杯生ききれば明日が来なくても後悔はない。
明日は今日と違う世界ならば、その世界で今日を生ききる。
それが「一日暮らし」という生き方なのだと思う。


このコラムは、2019年7月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第848号に掲載した記事です。

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冷暖自知

 臨済宗の禅僧が書かれた本を読んだ。

「大事なことから忘れなさい」松山大耕著

禅宗の修行は、理論を勉強したり理解しようとするモノではない。作務、座禅などの行動を通して悟りに近づくモノのようだ。曹洞宗では「只管打坐」といい、ただ座禅をしていれば悟りは開けるという。知識を学び記憶し、実践するという教育を受けてきた者にとっては心もとない修行法だ。

「柔らかい」という感覚は、猫の肉球、美少女の髪を触ってみる、人の優しい心に触れてみる、という体験を通して初めて理解出来るモノだ。「冷暖自知」という禅語はそういう真理を伝えている。
手短に言えば風呂の湯加減を見るのに温度計など使わず、手を突っ込んでみよ、ということだ(笑)

書籍はもっと良い例を紹介していた。
剃髪をしているお坊さんには悩みがあるそうだ。剃髪をすると肌が荒れる。冬場は乾燥し尚更肌が荒れるだろう。
そこで肌荒れ防止、保湿効果のあるシャンプーが作れないかと考えた。
その話に石鹸屋の社長が乗ってくれた。なんと社長は自ら剃髪をしてお坊さん専用石鹸の開発に取り組んだそうだ。

顧客の立場に立って製品やサービスを考える時に、頭だけで考えないで自らの頭を使った体験を通して考える。つまり頭を使って「考える」のではなく、頭を使って「感じる」ということだ。


このコラムは、2019年2月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第779号に掲載した記事です。

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難きを為す

yóu(1)yuē:“yǒuzhāng(2)wéinánnéngránérwèirén。”

《论语》子张第十九-15

(1)子游:孔門十哲のひとり。姓は言、名は偃、呉の人
(2)张:孔子の弟子、子張のこと。姓は顓孫せんそん、名は師。孔門十哲には入っていないが論語にはしばしば登場する。

素読文:
ゆうわく:“ともちょうや、くしがたきをす。しかれどもいまじんならず。”

解釈:
子游曰く:“我が友子張は、困難な事をやり遂げることができるが、まだ仁者とは言えない。”

議論のありそうな言葉です。
人に出来ない能力(例えば金儲けの商才)があるからといっても仁者であるとは言えません。
でも、朝エレベータで一緒になった名前も知らぬ隣人に「おはようございます」と声をかけることは「難きこと」であり仁の第一歩と言えるかもしれません。

ライバルとギャラリー

 以前スポーツで記録が出るのはライバルと競った時だ、という趣旨のコラムを書いた。

「競争より強調」

このコラムでは、自分の努力だけより、ライバルとの競争、仲間との協調で自己成長が加速する、という趣旨で書いた。

つまり、一人称(自分)だけで考えるより二人称(ライバル、仲間)の存在により成果が出やすくなる、ということになるだろうか。

最近文筆家・日垣隆氏が「スポーツで記録が出るのはギャラリーがいるから」と書いておられるのを読んだ。なるほどと感心する。

自分(一人称)、ライバル・仲間(二人称)に三人称(ギャラリー)が加わりメンツが揃った(笑)

先日引退を表明したイチロー選手は「孤高」の雰囲気があるが、それでも応援してくれる観客が励みになっていただろう。

お笑い芸人は、観客がいるから芸人でいられる。観客がいなければ、ただの変人に成り下がるのではなかろうか。

我々製造業も、二人称まででは話にならない。顧客(三人称)がいなければ何も始まらない。


このコラムは、2019年4月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第809号に掲載した記事です。

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小さな努力を継続する

 イチロー選手引退のニュースを新聞、ネットで見た。
3月11日配信のメルマガ「天才選手と指導者」は、イチロー選手現役復帰の期待を持って書いた。
期待は外れたが、いつかはこの日がやってくる。

WBCでファウルで粘りながら決勝打を放ったシーンは「神の降臨」すら感じた。当時イチローは潰瘍でボロボロになった胃袋を抱えて打席に立っていたという。

3月23日付の朝日新聞にイチロー選手の言葉が載っていた。
その中から次の言葉を紹介したい。

「今思うのは、小さいことを重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道だと感じている」
2004年10月1日、シーズン259安打とし大リーグ年間最多安打を84年ぶりに更新した時にインタビューに答えた言葉だ。

天才は余人にないヒラメキによって生まれるのではない。毎日継続する泥臭い積み重ねで生まれる。

子供の頃から毎日素振りを欠かさない。生活や打席に入る時のルーティーンを見れば、イチロー選手が大切にして来たのは小さいことを積み重ねる努力だと理解できる。

私たちの仕事も同じではなかろうか。

一発逆転、一攫千金などを目指して仮想通貨や反社会的な仕事に手を染める輩が増えている様な気がしてならない。

製造業も同じだ。「TPS」が一瞬にしてあらゆる問題を解決し夢の様な生産を手にすることができる、それは幻想でしかない。毎日の小さな努力の積み重ねがなければ生産革新などあり得ない。

まずはコツコツと5Sを愚直にやり続けることだ。


このコラムは、2019年3月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第801号に掲載した記事です。

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天才選手と指導者

 新聞のスポーツ欄に、マリナーズ・イチロー選手の動向が掲載されていた。
今季からまた選手復帰し、オープン戦に六番レフトで先発。2打席で無安打1四球の成績だったそうだ。

イチロー選手は記者の質問に答え、現在の調整状況をこう語った。
「直球待ちで変化球対応の段階ではなく。変化球待ちで直球対応に入っていく段階だ」

私自身軟式草野球の経験があるが、イチローの言葉の真意は理解できない。

オフが開けてまずは速球(直球)に目と体を慣らしていく。
この段階が完了した上で
「直球待ちで変化球対応」:直球のタイミングで待っている時に来た変化球に手を出せる(最悪ファウル)様にする。
「変化球待ちで直球対応」:変化球のタイミングで待っている時に来た直球をゴロで内安打を打てる(最悪ファウル)様にする。
と続いてゆくのだろうか?

天才の天才たる所以は、言葉を超えたところにあるのだろう。
しかし指導者は、言葉で伝えなければならない。
天才の所作を見て天才が育つわけではないだろう。
天才ホームランバッター・王貞治は監督としても力を発揮したが、天才ホームランバッターは育てていない。

鉄人・衣笠祥雄は新人の頃は外車を乗り回しろくに練習をしなかったという。
恩人のスカウト木庭教に「就職先を探してやろう」と言われ目が醒めたそうだ。もちろんスカウトは、衣笠の素質を見抜いており野球を続けさせるためにそう叱ったのだろう。そして打撃コーチ関根潤三の指導で一流選手となる。いくら体が頑丈でも選手としての能力がなければ、連続出場の記録は達成出来ないはずだ。バッティング能力を鍛えたのは関根コーチだが、その気にさせたのは木庭スカウトの言葉だったはずだ。

ところで、経営者にとって「直球待ちで変化球対応」「変化球待ちで直球対応」とはなんだろうか?
「速球に目と体を慣らす」というのは企業としての基礎体力をつけると解釈できる。

直球=既存顧客、変化球=新規顧客
直球=既存製品、変化球=新規開発製品
直球=既存事業、変化球=新規事業

この様に考えると、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの「花形」「問題児」、「負け犬」、「カネのなる木」に行き着いてしまう。

読者様は、イチローの言葉をどの様に解釈されるだろうか?
天才の言葉を理解できれば、天才の領域に近づけるかもしれない。


このコラムは、2019年3月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第795号に掲載した記事です。

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本質を見抜く力

元プロ野球監督・野村克也氏の著書「凡人を達人に変える77の心得」からこんな言葉を紹介したい。

「その分野の本質を知らない人間は大成できない」

高校野球で「本格派」と言われた投手が、プロに入って活躍出来ない例がままある。「本格派投手」とは、相手打者が直球に的を絞って狙っている所に直球を投じて打ち取る投手の事だ。いわゆる手も足も出ないと言う力量で、相手をねじ伏せることができるのが「本格派」だ。

高校野球とプロ野球のレベルが違う。高校野球の本格派が、プロで通用するとは限らない。

そこで「投手の本質」に気が付いた者がプロでも大成する。
投手の本質とは、豪速球で相手打者をねじ伏せる事ではない。相手チームからアウトをとる事だ。
つまり相手チームからアウトをとるために、豪速球に磨きをかける事は、投手の仕事を達成する一つの方法に過ぎない。

野球とは9人でやるスポーツであり、投手と打者の対決ではない。
「打たせて取る」事を考えれば、投手にとってコントロールが重要である事が分かるはずだ。この本質に気が付いた者がプロでも通用する力を手に入れることができる。

イチローも大リーグに移籍し、パワーヒッターとしては通用しない事を知るとすぐに内安打を量産する。これはイチローが、「ボールの芯をバットで捉える」と言う打者の本質を既に体得していたから、レベルの違うステージでも活躍出来たと言えるだろう。

私たちも「改善の本質」を見抜かなければならない。
改善は業績の向上のためにやる。これが本質だ。

業績を上げるために、生産効率を上げる。そのために、同じ人数で沢山造れる様にする。
少ない人数で作れる様にする。
どちらの方法をとっても生産効率は上がる。
本質を見抜き、経営環境を理解すれば、どう改善すべきか違うはずだ。

以前にもご紹介したが、完成品倉庫が狭いと言う問題を抱えている工場の本質問題は、出荷量より沢山造ってしまう事だ。ここに焦点を当てない限り、改善は望めない。


このコラムは、2013年8月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第323号に掲載した記事に加筆しました。

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ヒューマンエラー

 先週はつくばエキスプレス南流山駅で20秒早く列車を発車させた「事故」について考えた。この様な事故の原因を「ヒューマンエラー」とするから「乗務員の再教育」などと言う効果を実感出来ない再発防止対策しか出て来ない。

先週のコラム「南流山駅早発事故」

このメルマガでも再三申し上げているが、ヒューマンエラーは「原因」ではなく、「現象」だ。ヒューマンエラーが発生する原因を特定しなければ有効な再発防止対策を打つ事は出来ない。

ではヒューマンエラーとは何だろう?
JIS Z8115:2000「信頼性用語」定義では「意図しない結果を生じる人間の行為」となっている。

では人間の行為(行動)はどの様に決定されるのか?
心理学者レヴィンの行動の法則によると、人間行動は「人間特性」と「環境」の関数だ。つまり人は環境の制約中で、環境から得た情報を判断し行動する。情報の認識、判断、行動には人間特性が影響を与える。

ここで注意すべき点は「環境」は物理的な環境ではない。人が認識した心理的環境だ。

例えば、先日こんな笑い話をネットで発見した。
英語の授業中にall day longの下に教師が「田中」と板書した。さっぱり訳が分からなかった。と言うツィートが有った。教師が板書したのは「田中」ではなく「1日中」だ。1と日が近く「旧」の様に見える。しかも日の横棒が左に突き出ている。「1日」→「田」と誤認識した訳だ。

これをたんなる「笑い話」と考えてはいけない。我々製造業にも深い教訓が有る。例えば、材料の配合指示を手書きメモで「ABC(硬化剤 )10mg」と記した時に、硬化剤ABCを「110mg」添加してしまう可能性は否定出来ないだろう。

普通に考えればすぐに分かる事だが、人は自分の心が認識した現実に基づいて判断し行動する。その結果「意図しない結果を生じる人間の行為」となり事故が発生する。

ヒューマンエラーに対して、

  • 職業意識が高ければヒューマンエラーはしない
  • 初歩的なミスだ
  • 精神がたるんでいる
  • 注意力が足りない
  • こんな偶然はしかたがない

この様な考え方では、有効な再発防止は期待出来ない。
再教育・再指導をするが、年に1、2度再発する。それは偶然と諦める。と言う事になる。

我々はヒューマンエラーをした人の心理的環境や、行動の元になった判断を直接観察する事は出来ない。観察出来る行動により、なぜそうなったのか当人から話を聞くしかない。当然叱責、責任追及などとなれば真実は引き出せない。慢性化しやすいヒューマンエラーに有効な再発防止をしたいのであれば、叱責、責任追及は脇に置いて、再発防止対策検討の協力をあおぐ、と言う姿勢で対応した方が良かろう。


このコラムは、2017年11月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第595号に掲載した記事です。

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