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英ヴァージンの宇宙船墜落、1人死亡 米で試験飛行中

 英ヴァージングループの宇宙旅行会社ヴァージンギャラクティックの宇宙船が10月31日、試験飛行中に米カリフォルニア州のモハーベ砂漠に墜落した。テストパイロットの1人が死亡、1人が重体となった。事故の原因は不明。米国では宇宙関連の事故が1週間で2件起きた形で、安全性への懸念が高まっている。宇宙旅行ビジネスの先行きに暗雲が漂い始めた。

全文はこちら

(日本経済新聞電子版より)

 米露冷戦時代に国家の威信をかけて宇宙開発を行って来た。そのため十分な予算が配分されていた。しかし宇宙ビジネスが民間ベンチャー主体となり、コストと安全の両立が困難になって来た、そんな論調の記事が目につく。

直前に、米オービタル・サイエンシズ社のロケットが爆発事故を起こしている。オービタル社は国際宇宙ステーションに物資を輸送するビジネスを請け負っており、約2千億円で8回の輸送を行う受注をしていた。
従って1回の打ち上げを、総経費250億円以下でまかなわねば、経営は赤字となる。当然コストダウンをすることになるが、安全とコストがトレードオフになる様なコストダウンは有ってはならない。

ギャラクティック社の場合は、まだ「開発要素」が相当残っているはずだ。事故機は、新燃料の試験をしていたと言う。当然検証・実験実証の上での実地実正だったと思うが、コスト優先で、十分な検証・実証をせずに打ち上げ確認などしてはならない。
例えば、運用コストを減らすために完璧に引力圏から離脱するのではなく、弾道落下の放物線を描きながら、無重力を短時間味わってもらう。これで宇宙旅行客の満足が得られるのであれば、このコストダウンは問題ない。むしろ、安全の余裕度が増えるかもしれない。2泊3日の宇宙旅行ならば20億円、日帰りならば2,000万円と言うのはあり得る。

日経の記事によると、民間航空機での重大事故は平均で数百万回に1回だが、有人宇宙飛行では数十回に1回のレベルで宇宙飛行士が死亡しているそうだ。

事故の回数だけでなく、損失/回数と言うリスク関数を考えると、旅客機の事故は1回の事故で100人単位の死者が出る。1/数万回のリスクだ。一方有人宇宙飛行の場合は、一回の事故で1、2人の死者なので、1/数十回となり、桁違いに大きなリスクを持っていることになる。宇宙旅行ならば、乗務員を合わせて10人程度となり、リスクは更に一桁上がる。

民間旅客機並みのリスクを実現するためには、事故回数は数十万回に1回程度でなくてはならない。現状を数万倍改善しなければならない。まだ宇宙旅行を産業にするためには時間が必要だ。

ギャラクティック社のCEOは、記者会見で「宇宙は厳しい。だが前に進むしかない」と語っている。新しい時代を迎えるためには、誰かが相当の覚悟を決める必要がある。

宇宙航空産業などと言う壮大な未来は、私には無縁だが、自分なりに覚悟を決めて日々仕事をして行きたい。


このコラムは、2014年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第396号に掲載した記事です。

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吾、野人に従わん

yuē:“xiānjìn(1)yuèrén(2)hòujìn(3)yuèjūn(4)yòngzhīcóngxiānjìn。”

《论语》先进第十一-1

(1)先进:周代初期の先輩。先に礼楽を学び後に官吏になった人という解釈もある。
(2)野人:素朴な人、地方在住の平民。
(3)后进:周代末の後輩。先に官吏となり後に礼楽を学んだ人という解釈もある。
(4)君子:統治者、教養人。

素読文:
いわく、先進せんしん礼楽れいがくけるや、じんなり。後進こうしん礼楽れいがくけるや、くんなり。これもちうれば、すなわわれ先進せんしんしたがわん。

解釈:
昔の礼楽を修めた人は素朴、今の礼楽を修めた人は教養ある上流人。自分が礼楽を学ぶならば、昔の人に従いたい。

先に礼楽を学び官吏になった者と、官吏になったのちに礼楽を学んだ者があるならば、前者に従いたい。この解釈では、後者は礼楽は為政者として箔をつけるために学んだことになります。

挨拶がきちんとできない

日本でも新入社員で挨拶がきちんとできていない人が多いのではないだろうか.

挨拶がきちんとできないとまず職場が暗くなる.
毎朝「おはよう!」と声を掛け合うことにより,気持ちの良い仕事のスタートが切れる.またお互いの健康状態もチェックする事が出来る.

そもそも声を掛け合うと言うことは,お互いに「私はあなたを認知しています」という事を確認しあう作業である.これなくして職場の連帯感はない.

「ホウレンソウ」(報告・連絡.相談)の基本も挨拶である.
挨拶ができない人に,「ホウレンソウ」を要求しても無理だろう.まずは挨拶から教えなければならない.

私がお手伝いしている工場はそこそこ挨拶ができている.
しかし経営者はまだ不満だ.挨拶の仕方がなっていないと言う.
日本式基準から言えば,確かにいい加減な挨拶だ.

そこで彼は従業員を全員集めて挨拶の仕方を教えた.
「君達に世界でも一番礼儀正しいと言われている日本人の挨拶の仕方を教える.今年は北京でオリンピックも開催される.中国もこれからは国際社会のリーダ的な役割を担うことになるだろう.世界に恥じない挨拶ができるようになって文明度を上げてほしい」と前説をしてから,挨拶をするときの足の位置,腰の曲げ角度,頭を下げている時の視線,頭を下げている時の時間など実演で教えられた.

農村から出てきたばかりの子達に挨拶の仕方(How to)ばかり教えても,なかなか身にはつかない.何故そうするのか(Why)が分かれば身につく速度も上がる.

そして重要なことは率先垂範.挨拶をしない子を叱るのではなく,こちらから挨拶をする.


このコラムは、2008年7月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第42号に掲載した記事です。

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日本一短い会話は「け」「く」「め」

 全国でも高い自殺率やがん死亡率など、悪い指標が目立つ秋田県。「もっと県民が誇りをもてるように」と県調査統計課が「秋田の全国一」をまとめた。観光パンフレットや会話のタネに使ってほしいという。

 人口あたりの理・美容所数や刑法犯罪の検挙率、重要無形民俗文化財の登録件数など34項目。昨年トップだった全国学力調査の成績も。

 番外編には、日本一短い会話を入れた。秋田弁の「け」「く」「め」。「食べてください」「いただきます」「おいしい」の意味だ。

(asahi.netより)

「誇り」を持つということは重要だ.
秋田県同様に金沢市にも「金沢検定」という郷土の歴史,伝統,文化に関する知識を検定し初級,中級,上級の資格を認定する制度がある.受験対策本,過去問題集なども出ており話題を集めている.
上級ともなれば金沢在住の市民でも考え込んでしまう問題が出題されるらしい.

誇りを持つことの重要性は中国の工場でも同様だ.
自分たちの会社が他の会社と比べて何が自慢できるのか.
地域,業界でナンバーワンと誇れるものは何か.
ナンバーワンでなくともオンリーワンになれるものは何か.
ローカル幹部たちと真剣に討論してみると良い.

以前指導していた台湾資本の中国工場でもやってみた事がある.
台湾人,中国人の幹部を集めて皆で考えた.当初「そんなのないよ~」とネガティブな発言ばかりだった.
複数の同業者を指導した経験から,ヒントを提供するとぼちぼちと出始める.
「工程内不良100ppm以下の機種がある」
「治具の工夫がうまい」
「従業員のトイレがキレイ」
など考えるとそこそこ出てくるものである.

自分たちが少しでも誇れる事を見つけ,そこを更に磨きをかける.
これで自分たちの誇りを持てるようになる.

ニュースにある「け」「く」「め」は皆さんお分かりになったであろうか.
私は「け ば」(召し上がれ),「ん め」(おいしい)は分かったが「く」は分からなかった.

方言は「均一性」を前提としたローカルな文化だ.従ってこのような短い言葉で意思疎通ができる.
しかし中国の工場ではこうは行かない.「多様性」を前提とし分かるまでコミュニケーションをする必要がある.


このコラムは、2008年7月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第42号に掲載した記事に加筆しました。

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生産委託先の指導について

 中国の工場に生産委託をしているが,なかなかうまくゆかない.資本関係もなく言う事を聞いてもらえず苦労をしている.
こういう方が多いのではないだろうか?

私も前職勤務時代中国の生産委託先の指導で苦労した事がある.

当時は出張ベースで生産委託先を指導していた.
まずは現場に張り付かなくても良いように作戦を立てた.

  • 毎日生産の結果を報告してもらう.
  • 報告には生産量,各検査ステーションでの不良数,不良原因を入れてもらう.
  • 想定される工程内不良率の上限を決めておき,毎日のレポートでアラームが出たらすぐ出張指導に行く.

こんなスタイルで生産を開始した.当初はかなりすったもんだがあった.
同じ内容の不良が続き,緊急出張した.当初は1週間で帰るつもりが1ヶ月になった事もあった.

それでもすぐにすばらしい成果を出してくれるようになった.
自社工場で作っていたプリンター用電源装置を生産移管した時は,いきなり工程内不良率100ppm台を初月から達成した.自社工場ではここまで持ってくるのに半年かかった.

この時に自分たちで,どうしてうまく行ったのか分析をしてみた.
結論は,経営者の信頼をうまく取り付けたことだ.経営者に我々の言う事を聞いていれば,自分の工場の品質がよくなると信じさせる事が大切だ.

実はこの経営者をお客様の前で叱った事がある.

お客様が非常に高い品質要求を言ってきた時に,経営者は「品質をよくするためにはコストがかかる」と反論した.
即座にそれを否定して「品質とコストがトレードオフ関係になるような状況を作るべき ではない」と諭した.当然お客様は私の味方になる.

経営者の面子をつぶしてしまい,まずいことをしたと当初思ったが,これが逆に経営者が我々を信頼するきっかけになったようだ.

資本関係のない委託先でうまくやるのは経営者にこちらを信頼させるのが第一だと考えている.これができていると現場の指導もすごくやりやすくなる.


このコラムは、2008年6月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第37号に掲載した記事に加筆しました。

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自働化

 「自働化」の定義を調べてみると

「自働化」とは、不良が発生した際に機械が自動的に停止し、後の工程へ良品のみを送るようにすること、公式ページでは通常の加工が完了したら機械を安全に停止させることも指すとしている。 豊田佐吉が発明した自動織機に、稼動中に糸が切れた際に自動で停止する装置が組み込まれていたことに由来している。

(Wikipediaより)

となっている.しかし今時の自動機で不良が発生してもそのまま生産し続けるようなものはなかろう.同じくWikipediaに以下の記述も見られる.

  • 合理化を進めるあまりに従業員の人間性やインセンティブ(労働意欲)を無視してはならない。
  • 人が関わらない自動化をしてしまうと、機械へカイゼンの知恵を織り込めなくなることから、カイゼンを持続的に行うためにも人が関わる自働化が重要となってくる。

こちらの定義の方が,現在の実情を表しているだろう.

すなわち人が機械に使われるのではなく,人が機械を使いこなして品質や生産性を向上する.例えば自動機が生産しているのを人が監視している.というのも人が機械の番人に成り下がってしまっている.更に見張っている間は「手待ちの無駄」であり,人の能力が発揮されていない.これでは労働意欲もわかないであろう.

また完全自動設備の導入には大きな設備投資が必要であり,細かな改善にはその都度設備の改造が必要となり,コストパフォーマンスの検討が必要となる.このような状況では,現場の改善意欲がそがれてしまう.

例えば完全自動の立派な設備を導入してしまうと,工程変更による改善を試そうにも大変な労力を必要とする.工程を分割して…などということは不可能だ.

人と設備が調和を持って生産を行う.現場の工夫を常に反映できる設備とする.
こういう考え方を「自働化」と呼びたい.

昨今の労務費の高騰,作業者の雇用難から自働化による省人化をしなければ生き残れない.また人のばらつきを抑え高品質化にも自働化が効果的である.

私はお客様の工場で次のような手順で自働化を提案している.

  1. 現在の生産ラインの流れを可視化し,徹底的にムダを排除する.
    これを省略してしまうとムダも一緒に機械化してしまう可能性がある.
  2. 自働化を意識した小型かつ安価な設備を導入する.
    小型というイメージは作業台に乗る大きさというレベルである.
    価格も省人化効果対費用を考える.中国であれば作業員1名省人化に対し設備投資は30万円以下である.
  3. 設備を導入した後,更に改善を続ける.
    設備が小型であるのでレイアウト変更は簡単.設備の小改造も簡単に出来る.

一方高価な設備を導入してしまうと,設備を止めるのが悪だという観念にとらわれ目一杯に生産をしてしまう(作りすぎの無駄).または機械を止めないために余分な準備作業を入れ込むという無駄が発生する.

以前改善した事例を紹介しよう.
設備の能力(800個/時間)を最大限に引き出すために,前準備に2人の作業者を置いていた.それでも後工程の能力(1000個/時間)には追いつかない.
それを前準備と設備作業を一人作業化した.設備の能力一杯には生産できないが500個/時間は余裕を持って生産できる.もう一台同じ設備を導入すれば後工程の能力(1000個/時間)を十分まかなえる.
これで3人を2人に省人化し更に時間当たりの生産能力を200個改善したことになる.

こういう事が出来るのが自働化である.
あなたの工場ではどんな自働化の工夫をしておられるだろうか?


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第30号に掲載した記事に加筆しました。

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相関関係と因果関係

 先週は散布図と相関係数を解説する動画をyoutubeに投稿した。

「QC七つ道具:散布図 相関係数」

散布図の書き方と相関係数の計算方法を解説した。
動画投稿後に大切なことを言い忘れていることに気がついた(苦笑)
因果関係にある事象は相関があるが、相関関係にある事象は因果関係がある訳ではないと言うことだ。

相関関係:二つの事象の増減の関係
因果関係:原因と結果の関係

因果関係があれば相関関係がある。
しかし相関関係があっても因果関係があるとは限らない。

相関関係があるが因果関係がない場合は次の例が有名だ。

統計データでは、アイスクリームの売り上げと森林火災件数に相関関係がある。
すなわちアイスクリームの売り上げが上がると森林火災の件数も増える。
アイスクリームの売り上げと森林火災を因果関係の文脈で言い換えると以下の様になる。
「アイスクリームの売り上げが上がったから森林火災が増えた」
「森林火災が増えたからアイスクリームの売り上げが上がった」
明らかにおかしい。

この事例ではそれぞれ別の因果関係があり、相関関係が発生している。

  • 気温が高いとアイスクリームの売り上げが上がる。
  • 夏季は気温が高く、乾燥しているので森林火災が発生しやすい。

例えば、国ごとのスマホ決済の普及率と財布の売り上げは相関がありそうだ。
スマホ決済が普及したので、現金が不要となり財布の売り上げが下がる。
因果関係もありそうだ。

中国では鉄道、タクシーなどの交通機関、町の定食屋、屋台の果物売りまでスマホ決済が可能だ。そして財布を持っている人もほとんどいない。
相関関係も因果関係もありそうだ。
しかし中国では、スマホ決済が一般的になる前から財布を持っている人は殆どいなかった。


このコラムは、2020年7月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1007号に掲載した記事に加筆しました。

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九夷におらんと欲す

jiǔ(1)huòyuē:“lòu(2)zhī?”yuējūnzhīlòuzhīyǒu!”

《论语》子罕第九-14

(1)九夷:中国古代の東方の少数民族
(2)陋:未開のところ

素読文:

きゅうらんとほっす。あるひといわく、ろうなり。これ如何いかんせん。いわく、くんこれらば、なんろうこれらん。

解釈:
孔子は九夷に居を移したいという。ある者は九夷は未開の野蛮なところですと諌める。君子が行けば未開のままではなかろうと君子は言う。
文明のひらけた都会であっても徳のある人ばかりではない。未開の地で道を説けば理想の社会ができる、孔子はそう考えたのでしょうか。

長目飛耳

 幕末の教育者・吉田松陰は松下村塾で明治維新の志士、明治政府の政治家を育成している。松田松陰は「飛耳長目」と題したノートをいつも携えていたと言われている。

「飛耳長目」は春秋時代の思想家・管仲の言葉から出ていると知り調べてみた。管仲の言葉を弟子が編纂した「管子」の九守が原点のようだ。

『一曰長目,二曰飛耳,三曰樹明;明知千里之外,隠微之中,曰動姦,姦動則変更矣。』
中国では『長目飛耳』というようだ。

一に長目、二に飛耳、三に明察、千里の外に隠れたるわずかな邪悪を洞察し、動乱を阻止する。という意味になるだろう。

これは治世のみならず、我々製造業に携わる者にとっても示唆のある言葉のように思える。

僅かな変化に目を凝らし、微かな異音に耳を凝らす。そして異常の兆候を知る。
それにより不良の発生を事前に察知し、問題が起きる前に手を打つ。

千里眼の能力がなくても、変化に気付く感性があれば可能だ。

例えば組み立て工程で不良部品を入れる箱に、規格外のネジを見つけた時に作業者が規格外のネジに気がついて除去したと安心してはいけない。すでに組み立て終わった製品に規格外のネジが使用されていないか?と心配する。そしてなぜ規格外のネジが混入していたのか原因を調べる。このような感性が「長目飛耳」だと言えるだろう。


このコラムは、2019年5月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第822号に掲載した記事に加筆しました。

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減収減益のボーイング、生産体制のずさんさが明らかに

 米ボーイングは24日、2019年1~3月期の決算を発表した。売上高は前年同期比2%減の229億ドル(約2兆5600億円)で、純利益は同13%減の21億4900万ドルの減収減益だった。

 減収減益の主因は3月10日に発生したエチオピア航空の事故以来、新型機「737MAX」の出荷を停止していることにある。同日のカンファレンスコールでデニス・ミューレンバーグCEOは「社員全員で737MAXの提供を早急に再開できるよう全力を尽くす」と話した。だが、問題解決には経営陣が考えているより長い時間がかかりそう。米国で同社の機体生産体制のずさんさがあばかれ、注目を集めているからだ。

 きっかけは20日に公開されたニューヨーク・タイムズの記事。記事によると、米サウスカロライナ州のノースチャールストン工場では、工具やとがった金属片などを機体の内部に残したまま顧客に引き渡すことがあり、複数回にわたり従業員が管理者に状況を報告していた。物が放置された場所の中には、コック
ピット下の重要機器類の配線が行き交う場所もあったという。十数人以上の従業員らの証言と数百ページに及ぶ社内メールなどを検証した結果、明らかになったとしている。

 同工場が生産しているのは、長距離飛行を可能にして売れ筋となった旅客機「787」。問題の737MAXが生産されているのは同工場ではなく米ワシントン州のレントン工場だが、こうした品質問題が「社風」となっている可能性はある。ここ数年、日本の生産現場でも数多くの品質不正が問題になっているが、そのほとんどで、1工場で発覚した不正は別の工場でも起きていた。

 「品質よりも業績を優先した結果だ」と記事は指摘している。
チャールストンの工場では今年初めから、月間の生産機数を従来の12機から14機に増やし、一方で品質関連の職員を約100人削減していたという。

 品質の改善には従業員の意識や風土の改革が必要になるため、相応の時間がかかる。ボーイングの苦難は、これから長期にわたって続くことになりそうだ。

(日経ビジネスより)

 ボーイング社の737Max機の墜落事故に関しては、本メルマガでも注視した。

大きな墜落事故を立て続けに2件も発生させたのだから、減収減益も当然だ。売り上げが前年同期比2%減、純利益同13%減という程度で済んだと言った方がよかろう。

更に追い打ちをかけるように、787機の生産工場で工具や金属片などが機内に残った状態で納品するという事故を起こしている。これらの残留異物が機内の配線、配管などを損傷すれば即重大事故が発生する。

アパレル関連の工場では、針やカッターナイフの混入は重大事故となる。電気・電子部品、製品でも梱包箱にカッターナイフの折れ刃が混入すれば重クレームとなる。

生産量が17%増えたからとか、品質担当が100人減ったからというのが言い訳となるようでは、重大事故を防ぐ仕組みが不十分であるとしか言いようがない。

マネジメントが現場から全く遊離してしまっているように感じる。
十数人の従業員を会議室に呼びつけて事情聴取をする、何百ページもの社内メールを読む、こんなことをしても現場を理解することはできない。自ら足を運んで現場を見れば、一目で重大な問題が潜んでいることがわかるはずだ。

現場の幹部・監督職にはそれが見えていたのではなかろうか?
金勘定しかできない経営幹部にそれが伝わっていなかったのか?伝えても無駄という諦観が現場にあったのか?

何れにせよモノ造りの企業としては重篤な病に冒されている状態と言わざるを得ない。


このコラムは、2019年5月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第817号に掲載した記事に加筆しました。

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