月別アーカイブ: 2021年11月

現場を知らない設計者が良い設計が出来るはずはない

 今日はテーマとして「設計不良」を取り上げた。

私が若かった頃は、工場にはたいていすごく怖い人がいたものだ。下手な図面を出すと電話がかかってきて叱られる。場合によっては工場まで呼びつけられて叱られる。

私は機械加工は専門ではないのだが、若い頃板金図面を描いていた時期がある。
その頃は良く板金工場の親方に呼び出されて叱られていた。加工する機械を見せられ、この機械でどうやってこれを作るのだ、と叱られるわけである。

私はこんな風にして、専門外の機構設計を学んだ。

本日のテーマで取り上げた会社は、本社設計部門の若手設計者が中国工場に出張してくることはめったにない。
実はこの会社の経営者は技術系の人間であり、設計者が忙しいのを十分承知しており、設計者の処分な負担を極力排除しようとしているように見受ける。
しかし現場を知らない設計者が良い設計が出来るはずはない。


このコラムは、2007年10月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第5号に掲載した記事に加筆しました。

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竈の神

wángsūn(1)wènyuē:“mèi(2)ào(3)nìngmèizào(4)wèi?”
yuē:“ránhuòzuìtiānsuǒdǎo。”

《论语》八佾第三-13

(1)王孙贾:衛の霊公の大夫
(2)媚:機嫌を取る
(3)奥:家の最も良い場所南西の角に祀る神
(4)竈:かまど

素読文:
おうそんいていわく:“おうびんよりは、むしそうこびよ、とはなんいいぞや。”
いわく:“しからず、つみてんれば、いのところきなり。”

解釈:
王孫賈が孔子に問うた“奥の神より灶の神を大切にせよとはどういう意味でしょうか?”
孔子曰く“そうではない。天に背く様なことをすれば祈っても無駄だ。”

衛の霊公は孔子の考えを政治に取り入れようとはせず、その妃・南子の乱倫な生活に嫌気がさし、孔子は魯に残してきた弟子たちの元に帰ろうと考えていました(帰らんか、帰らんか)。そんな折に王孫賈に質問され、思わず辛辣は言葉が出てしまったのかもしれません。衛の国ではどこの神に祈っても未来はないだろうと考えていたのでしょう。

ちなみに日本でも家の中に複数の神がいると考える風習があります。竈門の神もいますが、日本人が大切に考えているのはトイレの神様ではないでしょうか?

QFD

 QFD(品質機能展開)とは顧客の要求を開発、生産技術、製造、品質保証の各工程でどのように実現するかを明確にするツールだ。
例えば顧客の要求事項が「可愛い」だとする。商品企画は「可愛い」を実現するため商品の特性を定義する。という具合に設計、製造、販売、品質保証の各工程が達成すべき特性に展開する手法だ。

以前勤務していた会社でもQFDを作成していた。どちらかというとこの作業は開発設計部門の仕事のように捉えられていた。顧客要求事項をマーケティング部門から聴取し、製品仕様を決定する。各工程への展開は新規の製造技術が要求されない限り従来と同じ項目を埋め込むことになる。

アリバイ的にQFDを作成しました、という形式主義だったように思う。

しかし従来とは少し違う市場向けの新製品を投入する。市場が同じでも従来にない製品ラインナップを投入する。という場合には力を発揮するはずだ。
特に部門間のベクトルを合わせる機能がある。技術試作品が完成してからマーケティング部門からNGを喰らうようなことは発生しないはずだ。

つまりQFDは新製品開発における社内各部門のコミュニケーションツールとして活用できるはずだ。


このコラムは、2021年6月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1151号に掲載した記事に加筆しました。

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将棋と組織経営

 日本の将棋とチェスや象棋(中国の将棋)との大きな違いは、相手の駒を使える、「歩」であっても成金となることができる事だ。

日本の組織経営は「将棋型」と言えるのではないだろうか?

欧米の先端企業では、専門職を雇い専門職の能力を引き出し経営に貢献させる。と言う経営のように思える。高い金を出し、優秀な人材を雇う。その人材の効率を高めるために、余分な仕事をさせない。そのための人材を部下としてあてがう。

日本の組織のように「すり合わせ」とか「会議」などはない。
日本企業では社長がコピーを取る姿も見かける。日系企業に勤める中国人人事部長は、人材の無駄遣いと嘆いていた。

しかし日本の経営は「歩」や「金」銀」「飛」「角」が一緒に戦う。「歩」は単純な動きしかできないが、敵陣に攻め入れば「金」と同等の働きができる。さらに敵方の駒をも自陣の駒として活用できる。

日本の企業では雇った人材は「歩」を「金」にするように育てて使う。職種の変更も普通に行われる。工学部を卒業して技術者として雇われても、職場異動で営業職として活躍する人もある。

日本的組織は効率が悪いように思えるが、その効率の悪さが百年企業が多くある理由ではないだろうか?
今はだいぶ変わっているようだが、若手社員の給与を抑え、「年齢」で給与の上昇が期待できるようになっていたのも、社員が長く勤め自己成長をとげるモチベーションになっていたのだろう。

中途半端にチェスや象棋方式の組織経営を真似ないほうがいいと思う。


このコラムは、2021年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1155号に掲載した記事に加筆しました。

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生産委託先指導

 住友ゴム工業は30日、加古川工場(兵庫県加古川市)で生産する防舷材と、南アフリカ子会社で生産するタイヤにおいて、品質管理の不正があったと発表した。タイヤでは顧客仕様と異なる製品を最大40万本出荷していた。防舷材では定められたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータ変更を500物件(5389基)で行っていた。発覚後に社内で検証し、安全性には問題はないという。

 品質管理のばらつきや管理体制が孤立していたことで不正が発生したとしている。南ア子会社で1月に品質調査を実施したところ、不正が発覚。対象は2017年8月~21年5月までに出荷していたタイヤで、寸法や重量、剛性などの均一性、一部製品のビード部形状が顧客と取り決めた仕様と異なった状態で出荷していた。

 南ア子会社は、13年にアポロタイヤ南アフリカを買収して子会社化したため、品質管理をアポロ社のシステムのまま継続していた。今回対象の製品は南アフリカ製の新車向けへの供給分で、車両8万台分に相当する。

 防舷材は、港湾岸壁用ゴム防舷材で不正が発覚した。船舶接岸時に発生する防舷材の圧縮状態を再現して圧縮性能を確認する試験で、国際航路協会の定めたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータの変更を行っていた。同製品はハイブリッド事業本部が手がけており、同事業本部以外から品質チェックできる体制がなく、今回の不適切事案につながったとしている。

(YAHOOニュースより)

 なんともお粗末な事件だ。
南アフリカの子会社を買収する際に、社内の管理体制や品質保証システムを監査しなかったのだろうか?さらに買収後も現地のマネジメントのまま放置、ということのようだ。

買収した工場とは言え、自社工場と同等の品質管理システムを運用し、同等の品質水準を持たねばならない。加古川の自社工場ですら適切に管理できないのでは無理もないかもしれない。

前職時、電源装置の品質保証を担当していた時、生産コスト的に国内生産が維持できなくなり、マレーシア、中国、メキシコ、インドネシアに生産委託をしていた。インドネシア工場は自社の孫工場だったので、我々の生産技術・品賞メンバーが立ち上げからサポートした。

その他のマレーシア、中国(4社)、メキシコは事前に生産委託先の採用監査を行い。生産立ち上げの支援・初ロットの生産確認をし出荷可否を判定する。生産開始後も工程内品質の日報・週報の報告を受けるほか、年間計画を立てて委託先工場の指導訪問をしていた。

採用監査では、特殊工程に従事する従業員の教育・技能認定制度をはじめ、品質管理・保証の仕組み、実施状況、生産現場の管理状況まで監査して、生産委託先の採用可否を判断していた。
もちろん監査で見抜けず後で苦労したことはあったが、本日の事例のような事は採用監査時に採用可否判断できることだ。監査時に品質管理システムに不足があれば、生産開始前に補わなければならない。

たかだか単価3US$の電源ユニットでも、愚直に同様の品質保証体制を構築した。
当然コストもかかる。しかしこういう泥臭い努力を重ねた結果、中国の生産委託先工場で、新機種生産開始3ヶ月以内で直行率99.99%以上を達成することができた。上述の3US$の電源ユニットだ。かかった間接コストは、不良損失コストの削減でカバーできたはずだ。


このコラムは、2021年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1174号に掲載した記事に加筆しました。

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新規・珍奇技術

 以前ご紹介したプラスチック製インペラの燃料ポンプのリコールが拡大している。

「デンソーの燃料ポンプ」

通常はプラスチック材料をグリースなどの油脂が付着する環境では使用しない。ガソリンもプラスチック材料を侵し、膨潤、破断などの不具合を発生させる。
今回の回収の燃料ポンプはインペラに耐油脂製プラスチック材料の強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用している。ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有しガソリンが付着しても問題はないはずだ。だが、成形時の温度が低いと、樹脂密度が低くなりガソリンにより膨潤する。

市場不良発生により、初めてこの現象に気がついたというのではお粗末だ。当然新規材料なので分からなかったということはありうるだろう。

燃料ポンプに使用することを決定した時点で、使用環境で変形などの変化が発生しないことを確認すべきだ。なぜなら燃料ポンプのインペラに関して過去から、燃料ポンプの寸法制度、ゴミの巻き込みなどで回収騒ぎを起こして
いる。このことに着目すれば、「プラスチック・インペラの寸法精度」というキーワードが出てくるはずだ。もちろん加工精度には問題は無かろう。
しかし使用中の変動も考えるのが設計者の役割だ。

新規・珍奇技術を採用する時は十分な検討が必要だ。
新規技術を採用すれば、同業者の一歩前に出られる。この誘惑に勝つのは困難だろう。
珍奇技術を採用してしまうと業界標準とはならず、供給性や価格で不利になる。

しかしナーバスになるだけでは、競争力のある製品は作れない。事前に想定できる事態を列挙し、事前に対策することで問題を回避したい。

8年前の若者は今?

 先週の編集後記に、昔一緒に仕事をした中国人が8年ぶりに電話をくれたと書いた。早速読者様からメールをいただいた。

※G様のメッセージ
 編集後記の話をもう少し聞きたかった。
 8年ぶりの彼がどう変わっていたのでしょうか。
 それとも変わっていなかったのでしょうか。

お言葉に甘えて、昔話をば。
彼は、生産委託先の工場で品質保証部のQCエンジニアとして働いてた。少し英語が話たので、我々日本の顧客が出張に来ると、サポートしてくれていた。

利発そうな面構えをしていたので、現場でいろいろ教えてみたら飲み込みが早い。そんなことがあり、出張のたびに何かと目をかけていた。

製品立ち上げの時に、本社から来た変更指示のFAXを彼に渡し、コピーを取って生産技術のリーダに渡すよう指示をした。
しかし彼は、指示を理解できなかったようで、コピーを取らずにFAX原紙を生産技術に渡してしまった。

変更指示として文件中心に渡し正式に配付してもらうため、FAXを持って来るように言うと、一言「無い」という。
無いはずがないだろう、渡したじゃないかと何度も確認して、コピーを取らずに原紙を渡してしまったことが漸く判明。じゃすぐ生産技に行って取り返して来いと言っても、何やらゴチャゴチャ言って腰を上げようとしない。

そこまでのやり取りで既にうんざりしていた私は、大きな声ですぐ取りに行って来いと叱ってしまった。
驚いたことに、彼は泣き出してしまった。
父親にも大きな声を出されたことが無かったそうだ。

そのころはまだ一人っ子世代(80后)が、とやかく言われる前だ。彼は70年代生まれのはずだが、兄弟はいなかった。きっと大事に育てられたのだろう。

その後フォックスコンに転職して行った。
2、3年間連絡もなくなったが、8年前突然電話がかかってきた。日本に出張に来ていると言う。会って見ると、日本の顧客に納品している製品の品質が悪く、不良品の選別に来ているところだった。

その日は自宅に招いて、夕食を食べさせた。
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「なぜ前の会社を辞めたの?」
「あの会社には夢想が無かった」
私は、彼のこの言葉を聞くまでは中国の若者は給与が少しでも良いところがあれば、すぐに転職して行くと思い込んでいた。
仕事を通して自らの夢を実現したい。自分のキャリアアップのために転職をする。そういう中国人がいることに気付かせてくれた。

そしてそういう目で周りを見てみると、実は殆どの若者がそういう思いで仕事に取り組んでいるのだと気が付いた。

別に特別かわいがったわけでもない。一緒に仕事をしたのは1年足らずだ。それでも私を覚えていて電話をくれた。嬉しくないはずは無い。

まだG様の質問に答えていないが、実は電話で話をしただけで、まだ会っていない。8年でどう変わっているかは、まだしばらくお預けだ。
いずれにせよ、彼のおかげで私の中国人の若者に対する見方・接し方が変わったのは事実だ。


このコラムは、2010年11月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第177号に掲載した記事に加筆しました。

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帰らんか、帰らんか

zàichényuē:“guīguīdǎngzhīxiǎo(1)kuángjiǎn(2)fěirán(3)chéngzhāngzhīsuǒcái(4)zhī。”

《论语》公冶长第五-22

(1)吾党之小子:故郷(魯国)の弟子たち
(2)狂简:野心的だが行動は単純。
(3)斐然:文学的な表現
(4)裁:裁断して衣服にする。

素読文:
ちんりていわく:“かえらんか、かえらんか。とうしょうきょうかんにして、ぜんとしてしょうす。これさいする所以ゆえんらず。”

解釈:
孔子が諸国を旅し陳にいる時、魯国に帰ることを決断する。孔子曰く:“国に残してきた弟子たちを指導しよう。彼らは志は大きく、知識学問を語ることができる。しかし生地は作れてもまだ衣服にすることができていない。帰って彼らを指導しよう。”

孔子は諸国を旅しその国々の政治に携わろうと考えていたのでしょう。しかし諸侯の心情の浅ましさを知り、彼らを助けるより魯国に残してきた弟子たちの指導に専念しようと決断しました。

データは現場・現物で理解する

 先日ある工場経営者から、部門ごとの生産効率のデータを見せられ「ウチの工場の問題点はどこにあり、どう改善したらよいか」と質問された。

エクセルに整理されたデータは、4つの生産部門ごとに毎日の生産数量、累計標準時間、投入工数が記録されている。生産効率は累計標準時間/投入工数で計算してある。

このデータを見せていただいて、データの取り方に問題があるのは分かるが、どこに問題があるかはこのデータからでは分からない

まず生産効率が100%を超えてる日がたくさんある。この工場が生産効率といっているのは「可動率」と同じ考え方であり、100%を超えるはずはない。
組立部門は毎日の生産効率が、20%から200%の間で変動している。ありえない。

また投入工数がゼロなのに生産出来高に数字が入っている日がある。

このようなデータを見ただけで、生産効率を阻害している問題点がどこにあり、どう改善すべきか分かれば天才を通り越して「神」である。

現場を熟知していれば、
部材欠品(たとえば梱包材料欠品)があり前日までの完成品は生産工程にうずたかく積み上げられている。梱包材料が手に入ると作業員全員で梱包だけして、ありえない数量の生産が1日だけで完了してしまう。
という現場の状況が推測でき、可動率が100%を超えるという信じられないデータが事実であるが、役に立つ真実ではないことが分かる。

部門全体のデータをまとてみていると、現場の各ラインで起こったことは見えてこない。インプットとアウトプットだけ見て現場を理解しようとすることに無理がある。

まずは層別をして改善に役立つデータに加工すべきである。
せめて生産ライン単位、生産機種単位に層別しなければデータは何も語りかけてこない。

層別したデータで、どこから改善するか当たりをつける。
現場で生産性を阻害する要因を洗い出して改善する。
という手順が必要だ。


このコラムは、2009年9月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第116号に掲載した記事に加筆しました。

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続々・道具に神が宿る

 99号の「道具に神が宿る」に対するS様のメッセージから引き続き話題を広げたいと思う。
99号:道具に神が宿る
100号:続・道具に神が宿る

私は日本人の勤勉さの根底に「道具に神が宿る」という精神性があると、考えている。道具に感謝する、道具を大事にする気持ちが日本人の勤勉さの基本であり、工業立国を支えた精神性だと考えている。

中国の生産現場を見ると残念ながらそういう気質は感じられない。
ペンチをハンマー代わりにする。エアードライバーをリュータの代わりにしてネジ穴周りの塗装を剥がす。こんなことを平気でやる。

仕上がりだけを見ても道具に対する愛情・尊敬の念が感じられない。
私の住んでいるアパートの扉についている蝶番を止めるネジは2/3がネジ頭のプラス溝が潰れてしまっている。

同じようにNC加工機を使っても、日本のように機械に名前をつけて可愛がるという発想は世界的に見てもまれなのではないだろうか?愛情を持った扱いが、徹底的なメインテナンスや加工機を自らの工夫で進化させようという意欲につながると考えている。

欧米では「一神教」をベースとした宗教観により機械を擬人化する事が宗教的忌避となる。
中国にも道具に対する愛着は長い歴史の中にあったはずだと思う。
しかし現代中国は職人の腕を育てるよりは新しい加工機を買うと言う即効性重視に陥っている。

私はNC加工機などの設備も「道具」と位置づけている。
定義の違いを考えると、実はS様の考えと私の考えには共通性があるのではないだろうか。

☆S様のメッセージ

ちなみに、上記のマシニング加工機などマザーマシンと呼ばれる加工機も日本は物真似から始めました。弊社の自動旋盤も、今は日本製が世界の主流ですが、50年前はスイスのトルノス社のコピーでした。
 自動車も然り。その他の家電製品類も舶来と呼んで輸入品が最高だといわれた時代もありました。でも工作機械でも自動車産業でも、コピーから創めた産業が、世界一と呼ばれるまでになった。
 そこにあるものは、職人気質ではなく、「先生に追いつきたい!」との日本人の勤勉性だったと思います。

その日本人の特性が裏目に出た産業が時計産業ではないでしょうか?
生産数量は世界一!機能だって、時を刻むという性能だって世界一です。SEIKO、CITIZEN、CASIO…これらのメーカーに勝る海外企業はありません。
でも、クォーツでもなく、時を刻む精度もそれほどでもないスイス製のほうが、今でも相変わらず高級品です。

 安くて良いものを大量に生産する。そんな「効率的モノづくり」を成熟させすぎた結果でしょうか…
今の時代は半導体産業と民生商品では携帯電話が、そんな道を歩んでいるように小生には見えます。

  • 安くするために、大量生産を続ける
  • 不良品を防ぐために、標準化された生産ライン=誰でも同じ品質=職人の排除
  • ハードウエアではなくソフトウエアで機能を構成する。=簡単なモノ造り

そんな構成の産業は、いずれ中国に持って行かれるでしょう。そうなった時に、時計産業のように高付加価値のモノづくりをどのように見出すか?

日本企業の命題は非常に大きいと思います。

(林のコメント)「効率的モノ造り」の功罪

セイコーは世界で初のクウォーツ腕時計を商品化している。
これも物真似と揶揄されるかもしれないが、他の発明品を1/1000の大きさにするのも一つの発明だ。

ところがS様がおっしゃるとおり、廉価品を大量生産したところに今日本が弱体化してしまった遠因がある。もちろん当時はモノが行き渡ってなく、廉価なモノを大量に要求している市場があったので、当時の考え方が間違っていたとは思わない。

生産の効率と品質を上げどんどんコストダウンをしてモノ造りをした。
その結果モノと一緒に「貧乏」も量産してしまった。

今はマーケットのあり方が変わってしまった。
規格大量生産品は作れば作るほど「貧乏」になる。
顧客が欲しがるモノを少しだけ造る時代だ。
スイスの高級時計路線はこれを頑なに守っているのではないだろうか。

コストダウンばかり考えるのではなく、顧客が価値を感じるところには思い切ってコストをかけてゆく,という発想の転換が必要だと考えている。


このコラムは、2009年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第101号に掲載した記事に加筆しました。

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