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人を責めるな、方法を攻めろ

 改善の定石に「人を責めるな、方法を攻めろ」という言葉がある。
ミスや不具合が発生した時に、その責任を人に求めても改善は出来ない。その発生原因を追究し、ミスや不具合が発生しない様に方法を改善しよう。という意味だ。

例えば、ネジ締め工程でネジの締め忘れが発生したとする。
作業員を責めると、その再発防止対策は「作業員に注意を喚起した」「作業員に再教育をした」という効果を実感できない方法となる。中には「作業員を替えた」という対策まで見たことがある。

作業員を取り替えたところで、不具合が発生しなくなるとは思えない。誰がやっても締め忘れのない方法を考え、対策としなければならない。

ネジを定量供給し、作業が終わった時にネジの過不足がないことを確認する。というように作業方法を変更すれば、不具合の発生は激減するだろう。これでもまだ「人の判断」が入ると不安ならば、締め付け用の電動ドライバーから締め付けトルクに達した信号を受け、ネジ締めの回数をカウントする。締め付け回数が所定の回数に達したら作業が完了する様にすれば、ほぼ完璧だ。

検査を追加するというのは、あまり良い方法ではない。付加価値を生まない工程をひとつ追加することになる。検査治具を作り、ナガラ化することは可能だ。AOI(画像認識検査装置)を導入するよりは圧倒的に、安価に治具を作ることが出来る。しかし機種ごとに専用治具を作らねばならない。

不具合が顧客に流失してしまった時には、検査追加を安易に考えがちだが、一度顧客と検査追加を約束してしまうと、簡単には追加検査を止められなくなる。不具合発生工程に対し原因対策を取れる方法を考えなければならない。

究極の改善は、設計を変更してネジ締めをなくすことだろう。


このコラムは、2011年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第215号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

データセンター電源障害の原因は製造時の組み立てミス

 さくらインターネットは6日、同社の西新宿データセンターにおいて2008年12月に発生した電源障害の原因と再発防止策について発表した。

 この障害は12月19日12時35分ごろに発生。電源設備からの発煙により一部電源の供給が停止し、収容しているインターネットサービスに影響が出た。SNS「GREE」やブログサービス「SeeSaaブログ」なども利用できない状態になり、同日19時30分に復旧した。

 さくらインターネットによると、消防庁の現場検証やメーカーによる解体調査、成分分析調査、再現試験などの結果、製造時において発生した組み立てミスにより電源設備が局部的に過熱したことが原因との結論を得たとしている。

(INTERNET Watchより)

 この記事だけを見ると、何が不良だったか分からないがさくらインターネットのホームページによると、電源の中に使われている変圧器の巻き線が設計どおりに作られていなかったため内部で発熱し発煙に至った、とある。
変圧器の巻き線の位置がずれていたために変換効率が落ち、ロスしたエネルギーが熱となって変圧器の内部温度を上昇させたものと思われる。

サーバは24時間365日連続で稼動しなければならない。電源の故障は即機能停止につながる。従って電源の信頼性設計は非常に重要になる。そのため高信頼性のサーバは電源が冗長化してあったりする。すなわち電源を複数台用意しておいて1台が壊れても他の電源でバックアップする様になっている。

更に電源の故障は容易に発煙・発火につながる。安全性設計も重要だ。

電源にとって変圧器は安全性・性能に大きな影響を持つキーコンポーネントだ。変圧器内部の巻き線位置がずれれば、効率や電磁波ノイズに影響を与える。製品の製造工程では検査しにくい項目だ。

今回の事故は製造での組み立てミスということになっているが、設計的な配慮が足りていないといわざるを得ない。このような重要部品を作業者の注意力だけに頼って生産するというのはムリがある。巻き位置を固定するには位置出し様にダミーのテープを貼っておけば良いだけだ。

ダミーテープのコストをケチっても、このような不良が発生すれば節約したコストの100倍は損失が発生するだろう。またこの先回収修理などをすれば節約コストの1000倍の損失が発生する。


このコラムは、2009年3月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第88号に掲載した記事に加筆したものです。

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大飯原発配管にひび、深さ15.5ミリ以上 再開は未定

 定期検査のため運転を停止している関西電力の大飯原発3号機(福井県おおい町、118万キロワット)で、1次冷却系配管(肉厚74.6ミリ)の内部でひびが見つかり、15日までの関電の調査で深さ15.5ミリ以上あることが判明した。5月下旬の予定からずれ込んでいる運転再開時期の見通しは立っていない。

 国は、この配管の肉厚が53ミリ以上あれば安全に問題はないと判断している。ひびの深さが21.6ミリ以上になると、この肉厚を確保できなくなるため、配管取り換えなどの本格修理が必要になる可能性もある。

 関電によると、ひびは原子炉容器に近い大型口径配管の溶接部分で3月に見つかった。当初は深さ3ミリ程度と推定し、研磨して消す方針だったが、予想以上の深さだった。さらに配管を削ってひびの深さを特定する。

(asahi.comより)

この記事の論調に違和感を感じるのは私だけではないと思う。

配管溶接部分にひびが見つかり、深さ3mm程度と推定しひびを研磨しようとした。たとえ深さが3mmであってもその原因が不明なのに研磨してひびをなくしても、原因が取り除かれていなければ、ひびはまた発生する。

安全に影響のないひびの深さと比較して問題なしとする考え方は大変危険だ。点検メインテナンスは24時間リアルタイムに行われているわけではない。例えば月曜の朝問題がない深さだとしても、次の点検時に問題がないという保証はない。

安全に影響のないひびの深さという基準は、点検時点から過去にさかのぼって安全に影響はなかったと保証できるだけである。

配管を削ってひびの深さを調べるとしているが、本当に調べなければならないのはひびの深さではなく、ひびの発生原因である。この発生原因に対して発生予防対策ができて初めて、将来に対し安全に影響はないという保証ができる。

皆さんの工場では点検・メンテナンスにこういう考えを入れておられるであろうか?

例えば倉庫の温湿度管理のための点検記録表はどこの工場に行っても、大抵は備わっている。しかし温湿度が管理限界を超えたときにどのようなアクションを取るのか明確になっている工場は少ない。


このコラムは、2008年8月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第47号に掲載した記事に加筆したものです。

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修理ミス原因、社員を書類送検へ 山形・松下温風器事故

 松下電器産業製の石油温風機で一酸化炭素(CO)中毒事故が相次いでいる問題で、山形県警は山形市の男性(84)が意識不明の重体となった05年12月の事故について、同社の無償修理(リコール)の際の給気ホース交換ミスが原因と判断した。修理した山形ナショナル電機(山形市)の社員(52)を業務上過失傷害の疑いで山形地検に書類送検する。

前回のメルマガではメンテナンスのミスについてお話したが、今回は修理ミスである。

給気ホースの交換作業が不適切であり、作業後の確認も不十分だった。このため給気ホースが脱落、不完全燃焼により一酸化炭素が発生し事故に至った。

記事では交換作業後の安全確認を怠ったと報道している。しかし作業そのものがきちんと品質を保証できるようになっていなかったことが問題である。誰がやっても同じ品質を確保できるように作業標準を決め、作業手順を作成する。これがトラブルの未然防止である。

今回のようにリコールによる作業は作業品質の保証を事前に作りこんでおくことが特に重要だ。

皆さんの工場では工程内で発生した修理品の確認をどうしておられるだろうか。不良と判定した工程に戻しライン復帰させる。これでは不十分と考える。

たとえば電気製品の組み立ての場合不良と判断する工程は電気検査工程が主である。ここで不良と判断されたものはラインアウトし修理されて工程に再投入される。

当然修理には半田付け作業も含まれるわけであるから、半田付けの目視検査から再投入しなければならない。不良が発生した電気検査工程に戻したのでは、修理工程での半田付け作業の品質は検査されないことになってしまう。

通常半田槽を出た直後のタッチアップ工程に「修理品再投入口」と表示をしておき、ここに再投入する。半田付けのタッチアップ、目視検査の後に電気検査を実施するように指導している。こうしておかないと修理作業の品質確認が十分とはいえない。

皆様の工場の修理作業とその確認作業を見直してみてはいかがだろう。


このコラムは、2007年12月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第10号に掲載した記事に追記しました。

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医療過誤

 「CT報告「がん疑い」、担当医見落とす 千葉大2人死亡」
朝日新聞デジタルの記事だ。

記事によると、千葉大学病院で診察を受けた30~80代の男女9人の患者が、CT検査画像診断の報告内容を医師が見落とすなどしたため、がんの診断が最大約4年遅れ、4人の治療に影響があり、2人が腎臓や肺のがんで死亡した。

70代男性は皮膚がんの疑いで画像検査を受け、放射線診断の専門医が画像診断報告書で肺がんの疑いを指摘したが、担当医は報告書を十分確認しなかった。この患者は翌年肺がんで亡くなっている。
60代女性は腸の病気の経過観察でCTの画像診断を受け、報告書で腎がんが疑われると指摘されたが、担当医が十分確認していなかった。4年後CT画像で腎がんが確認され、その年の12月に亡くなった。

こういう事例を医療過誤というのかどうかはわからない。しかし適切に対応していれば命は救えたかもしれない。

私は医療に関しては素人であるが、TVドラマで手術前に多くの医師が集まり、カンファレンスを開き術式について議論するのを見たことがある。今回の事例を見ると、専門外の医師との交流が希薄の様に思える。医療の高度化に伴い、専門分野が狭くなるのはやむを得ないだろう。だからこそ専門医同士の意見交換がより必要だと思える。

私たち製造業では、製品化の各プロセスにウォークスルーやレビューがある。ここで、営業、設計、品証、生産技術、購買、製造の専門家が集まりそれぞれの立場で知恵を出し合い製品の完成度を上げる。

患者の生死に関わる様な重大事ではないが、製品化プロセスの手戻りは経営的ダメージを与える可能性がある。重大な問題点を見逃して製品を出荷すれば、リコールが発生する事もありうるだろう。

各プロセスでのチェック機能は、この様なリスクを防ぐだけではなく、若手の育成にも役にたつ。私自身も若手の頃、開発会議に出席し議事録を取る役割を仰せつかった。当時は自分で設計することはなかった。仕事の大半は、先輩が考案した新規回路方式の動作確認や、試作品の評価試験だ。しかしこの開発会議の議事録を取ることで、設計の擬似体験になっていた。

職位が上がれば設計審査ばかりでなく、生産準備会議や、量産試作会議にも出席することになり経験智は商品化プロセス全体に広がる。

自社で行われているウォークスルーやレビューが形式的になっていないか確認して見る必要があるだろう。例えば他部門主催のレビューに経験値の低い若手だけを参加させていないか?レビューの項目が十分であるか?見直すべきことは多いはずだ。

この事例を対岸の火事と見るか、他山の石と考えるかで雲泥の差が出る。


このコラムは、2018年6月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第679号に掲載した記事です。

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タカタの巨大リコール 「教訓」置き去り

 世界で累計1億台近い車がリコール(回収・無償修理)となるタカタ製エアバッグ問題。特定の火薬の材料が長く高温多湿にさらされて、水分が浸入すると、作動時に破裂して金属片が飛び散る恐れがある。自動車メーカーが交換を急ぎ、巨額の潜在的な債務を抱えるタカタの経営再建の議論が進む。だが消費者にとって最も大事な安全、業界全体で巨大リコールの再発をどう防ぐかという“教訓”は置き去りのままだ。

(以下略)

全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガでタカタのエアバッグリコール問題を過去3回取り上げた。
エアバック回収
ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

今回のニュースで、事故原因が相当はっきりしたようだ。

エアバッグを急激に膨らませるインフレーターに入れた硝酸アンモニウムが、異常爆発し金属製のインフレータを破壊しその破片が飛散して、死傷事故が発生した。なぜ異常爆発したのかと言うのが核心の問題点だが、温湿度などの環境条件により経年変化した、と言うのが結論の様だ。

ネットに残されている事故の記事を検索してみると、米国で8件、マレーシア5件、日本3件の情報を見つける事が出来た。
マレーシアで5件と言うのを見ると、高温高湿環境による劣化が想起される。
しかし米国ではカリフォルニア州:3件、オクラホマ州、バージニア州、テキサス州、ペンシルバニア州、オクラホマ州、フロリダ州等に各1件点在しており高温高湿気候の場所に偏在しているとは思えない。乾燥気候で年間を通して涼しい気候のカリフォルニア州で3件も発生している。
これは気候要因ではなく、対象車両の台数(分母)の違いと考えた方が合理的かも知れない。

事故車の経年数でまとめてみると、以下の様になった。
17年:1台
15年:1台
14年:1台
13年:4台
11年:3台
10年:1台
8年:1台

カリフォルニア州の3台は、15年、13年、11年使用している。環境要因よりは累積時間が効いているのだろう。
火薬の様な化学材料は、必ず劣化する。普通に考えると経年変化により爆発力が減少又は消滅し事故時に膨らまないと言う不良になると予測してしまう。今回の事故では、火薬が経年変化で爆発力が増加すると言う故障モードがあると分かった。
インフレーター(火薬の金属容器)に欠陥が有ったとすると、火薬の爆発力の変化とは無関係に今回の事故モードの潜在原因となりうる。インフレーターに常に機械的応力がかかり続けているとは考えにくいので、経年変化による劣化ではなく、初めから有った材料欠陥と考えられる。経年劣化の様に見えていた
のは、エアバッグが作動する様な事故発生のポアソン分布に従っているだけなのかも知れない。

いずれの場合にせよ、10年以上交換なしで正常に動作する事を設計仕様に追加するには、コストバランスを考えれば困難だろう。もちろん人身事故の可能性を、コストとトレードオフする事は出来ない。

車検点検などで、エアバッグの定期交換を義務づける。
一定年月が経ったら、エアバッグを交換しなければエンジンがかからない様にする。等の対策を実施したら良いだろう。
もちろん化学材料の改良に取り組むのも良いとは思うが、自分自身の過去の経験(難燃添加剤による絶縁材料の劣化、プラスチック添加剤による耐候特性劣化など)から、本質的解決よりは予防保全を確実にする方が安全だと考えている。

ユーザに安全コストの負担を強いることになるが、これによって安心を買えるのはユーザだ。何が何でもメーカがコスト負担をしなければならないと言う風潮を改めた方が良いと思う。


このコラムは、2017年5月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第530号に掲載した記事に加筆しました。

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エアバック回収

 以前このメルマガで、タカタのエアバック回収問題を論じた事がある。

ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

問題は一向に収束の気配がなく、ますますエスカレートしている様に見える。
メルマガには、タカタに対して厳しめのコメントを書いたが、いろいろな力学が働いているようで、タカタに対して気の毒な印象を持っている。

通常リコール責任は、完成品メーカにあるはずだ。そのためリコールに関してタカタは積極的な発言を控えて来た。これが米国消費者に「消極的な態度」と言う印象を与えたようだ。それが米国自動車業界(もしくはそれに肩入れしている人々)にとって絶好の攻撃対象になってしまったのではないだろうか。
米国にとって自国が自動車産業を生み出し、育てたと言う自負があるだろう。それが東洋の小国に取って代わられた、と言う忸怩たる思いがあるようだ。

巨額にふくれあがったリコール費用や、制裁金でタカタの経営が危ういと聞いている。
自動車部品から撤退して、本業に戻ると言う選択肢はもうないだろう。自動車部品に参入して、構えが大きくなってしまった。撤退は即倒産廃業の意味を持っている。

今更だが、このような事態に至らないために打つ手がなかったのか考えてみた。
タカタは後戻りできないかもしれないが、同じリスクを冒さないために他業界の経営者も考える必要があると考えている。

同じ自動車部品業界のBOSCH社は、顧客に提供する部品に関して「搭載要件書」を提示し、想定外の使用方法による事故から、自己防衛しているそうだ。

これは購入部品だけではなく、設計の再利用を目指す「モジュール化」にも必要な事だ。適用する製品と、設計モジュールのインターフェイスをきちんと定義しておかねば、設計不適合が発生する。インターフェイスとは、取り付け寸法だけの事ではない、環境条件、適用範囲など全てを含む。

以前システム製品の設計をしていた頃、あるメーカのCRTディスプレイを採用した事がある。採用が決定し、サンプル機の提供を受けた時に、先方の品証エンジニアが来社した。当方でCRTディスプレイを組み込む最終製品を見せてくれと要求された。まだ市場リリースしていない製品だ。即諾する訳にはいかない。理由を聞くと、想定外の使用(実装)がされていないか品質保証の立場で確認させてほしい、と言う事だった。
メーカ側の品質保証部門としては、当然の理由と判断し関連部署を説得し、要求に応えた。

品証エンジニアは、CRTディスプレイが組み込まれた状態を確認し、CRTのアノードキャップの端から25mm以内に金属の機構部品があるから、25mm以上の距離を確保してくれと要求して来た。

CRTのアノード電極は25kVの電圧が印火されており、空間距離を25mm開ける様にと言う要求だ。アノード電極には、半径25mm以上の絶縁キャップがついており、過剰な要求だと感じたが、メーカの品質保証の姿勢に敬意を評し、要求通り設計変更に応じた。

当然機構設計者は快諾する訳はない。既に設計は終わっているのだ。従って機構部品に追加工をする事になり、強度計算をやり直し、コストもあがる。そこをなんとか、と説得した(笑)

この時、先方の品証エンジニアから「最終製品の品質保証を確かにしたい」と言う姿勢を学んだ。後に自分自身が品質保証部門に異動した時に、基本理念となった。

セットメーカと部品メーカは、利益対立する存在ではない。顧客の顧客まで品質保証する、運命共同体だ。
セットメーカは、部品メーカを守る気概を持たねばならない。
部品メーカは、セットメーカを支える気概を持たねばならない。


このコラムは、2015年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第449号に掲載した記事に加筆しました。

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ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」

 ホンダが29日発表した2015年4~12月期の連結決算(国際会計基準)は、営業利益が前年同期比3%減の5672億円だった。同日の会見で竹内弘平取締役常務執行役員は「本業は改善したがタカタ(のリコール費用)が全て消してしまった」と述べた。主なやり取りは以下の通り。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 ホンダの役員の発言「本業の改善、タカタが全て消した」をあなたはどうお感じになるだろうか?

私はホンダファンであり、今まで所有して来た車は1台を除いて全てホンダ車だ。先週もホンダのF1復帰にエールを送るコラムを書いたばかりだ。しかし日経新聞に取り上げられた竹内氏のコメントはいただけない。経営者として、業績の善し悪しを「他責」にすべきではない。他責にすれば単なる言い訳だ。

リコール費用がなければ増益だったはずだ、などと言っても何も生まれない。
リコールの責任はあくまでも自分たちにあるはずだ。直接的にはエアバックの不良であっても、それを採用したのは自分たちであり、顧客に販売したのも自分たちだ。

タカタは、異業種から自動車部品に参入し、自社の従来技術を使ってシートベルトを生産していた。ホンダがエアバックの開発を依頼したと聞いている。

ホンダには二重の意味で「自責」が有ったはずだ。

一方でタカタにも当然「自責」がある。
エアバックの開発技術、信頼性技術が不足していたことは否めない。
一番大きな責任は、経営判断だろう。
元々織物メーカとして創業している。織物の技術(生産設備も転用できた?)を使ってシートベルトを生産。自動車業界に参入。同じ自動車業界向けにチャイルドシートなどの新商品を投入。更にエアバックを投入。この時点で新規技術(エアバックの起爆)を開発している。

同じ技術で新規市場を開拓し、開拓した市場に製品のラインアップを増やす、その後同じ市場に対し新規技術で新製品を投入、と言う順序で定石通りに規模を大きくして来た様に見える。

会社を大きくしない「年輪経営」で成功している伊那食品工業の様な例もあるが、資本主義社会のルールは規模を追求し業績を上げることだろう。規模の拡大を急ぐあまり、新規技術の検証がおろそかになっていたのではないだろうか?経営者の判断と決断の責任は重い。

「リストラなしの『年輪経営』」塚越寛著


このコラムは、2016年2月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第461号に掲載した記事に加筆修正しました。

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続・列車逆走事故

 6月1日夜に発生した横浜市シーサイドライン自動運転列車逆走事故をメールマガジン835号「列車逆走事故」で取り上げた。

「列車逆走事故」

運輸安全委員会は6月14日に事故原因を発表している。

 横浜市の新交通システム「シーサイドライン」で無人の自動運転車両が逆走した事故で、車両内の電気系統が断線したまま約50分間運行していたことがわかった。国の運輸安全委員会が14日、調査経過を公表した。

 事故は1日に折り返し駅の新杉田駅で起きた。駅側の自動列車運転装置(ATO)が出した方向転換の指示が車両側のモーター制御装置に伝わらず、逆走したとみられる。

 運輸安全委によると、モーターへの指示は、車両内のケーブルを通じて制御装置に伝わる。一方、新杉田駅を出る下り方向への指示と、同駅に向かう上り方向への指示はそれぞれ別のケーブルで伝えていた。

 運転装置の記録から、事故の約50分前に下り運転をしていた際、下り方向の信号を伝えるケーブルが断線したとみられる。シーサイドラインには断線を検知する仕組みがなく、いずれの方向指示もモーターに伝わらなくなった場合は直前までの方向に進むようになっていた。そのため列車はそのまま走り続け、
終点の金沢八景駅で別系統のケーブルを使って上り方向に折り返した。再び新杉田駅に着いた際に断線でモーターの進行方向が切り替わらず、事故が起きたとみられる。

朝日新聞ディジタルより

 駅側ATOから車両側制御装置に「下り方向への指示」「上り方向への指示」が別ケーブルで伝わる。という記述が理解に苦しむ。ケーブル中を「指示」が車両制御装置に伝わる。というと回線中をコマンドが伝わり、それに対しACK・NACK(了解・非了解)の返事が返ってくるイメージを持つ。一方上り・下りの指示がそれぞれ別のケーブルで伝えていた、ということは「指示」というよりON・OFFの電気信号でモーターの回転方向を制御していたのだろう。

問題の根本原因である断線原因について触れていない。断線があることを前提とするならば、ATOと車両制御装置間の通信は双方向とし、コマンドとアクノレッジのやり取りをするようにすべきと考えるがいかがだろう。
装置間の電気信号配線を光ファイバーにすれば二重化しても配線数は少なくなるはずだ。

ところで記事を注意深く読んで見ると「運転装置の記録から、事故の約50分前に下り運転をしていた際、下り方向の信号を伝えるケーブルが断線したとみられる」とある。そのすぐ後に「シーサイドラインには断線を検知する仕組みがなく」と書いている。断線を検出する仕組みがないのに、「約50分前に断線」と断定できるのだろうか?


このコラムは、2019年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第841号に掲載した記事に加筆しました。

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続・統計の活用

 1月14日配信のメールマガジン「統計の活用」で厚労省「毎月勤労統計」の不適切調査問題を取り上げた。最終的には大臣の俸給返納、担当官僚の懲罰で幕引きとなったようだ。

問題を再度整理すると以下のようになる。

  • 厚労省が発表している毎月勤労統計は、従業員500名以上の事業所からの回答を回収し平均給与などを調査、発表している。
  • 規則では全事業所のデータを収集することになっていた。
  • 東京都に関しては対象事業所の1/3をサンプリング抽出し全国平均を算出。
  • 18年から、東京都のサンプリング合計を3倍して全国平均を算出

この問題の本質は、財務省に正確無比な全数データがあるのだからそれを使うべきだと申し上げた。

この意見は事情を知らぬ者の寝言だったようだ。
税務署が持っているデータは、その他の用途には使えないよう法律で決められているそうだ。役所の縦割り行政の弊害という指摘は正しかったが、法律から変えねばならないというのは、役人にはどうにもできないことだ。

統計を担当する職員が足りなかったのではないか、という予測は正しかったようだ。2004年には6000人いた職員が2000人に減っているそうだ。主に農水省の職員が減ったらしいが、厚労省も300人から200人に減っているという。

4000人もリストラしたのだろうか?
公務員は安定した職業だと思っていたが、それは過去の話なのかもしれない。
しかし統計担当の職員を各省庁が個別に抱えるというのも無駄の多い話だ。統計処理が担当ならばどの省庁の仕事でも同じようにできるはずだ。ここにも縦割り行政の弊害がある。


このコラムは、2019年1月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第778号に掲載した記事です。

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