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失策は0にできる

 この季節になると、新聞は甲子園一色になってしまう。夏の高校野球を主催している新聞社なのでしばらく我慢するしかない。野球が嫌いというわけではない。高校生の頃は野球をやっていた。通っていた高校には硬式野球部はなく、軟式野球をやっていた。そんなわけで甲子園球場には全く縁がなく、硬式野球に対してコンプレックスさえ持っていた。当時はコンプレックスとは思っていなかったが(笑)

そんな新聞の記事に、履正社・岡田龍生監督の言葉が紹介されていた。

「打率10割は無理でも失策は0にできる」

監督の正確なノックの技術でチームの守備力を高め、無失策で試合に勝つのが履正社高校のチームカラーなのだろう。(打撃力もあると書いてあるが……)

ところで「打率10割は無理でも失策は0にできる」は当たり前だと思う。

相手ピッチャーの力量によっては、バットにボールを当てることすら難しい。ヒットなど望むべくもない。ということはありうる。力量に差はなくとも、打率10割を達成した選手はプロ野球にもいない。

しかし失策ゼロは、簡単に達成できる。
取れそうもない打球は取りに行かなければいいのだ(笑)ボールにグラブが触れなければエラーとはならない。

岡田監督がおっしゃっているのはそんな低レベルの話ではないことは確かだが。

ところで我々製造業にとって「失策」を不良と考えてみると、簡単でなくとも失策はゼロにできると考えるべきだ。「失策」を安全事故と考えれば、失策をゼロにするのは必須である。

ギリギリのところで捕球できるノックを何度も練習する。
我々製造現場では、一度発生した不良は確実な再発防止対策をする。
思考実験であらゆる潜在不良を洗い出し未然防止対策をする。
ヒヤリ・ハットをきちんと表に出し対策をする。
製造業にとってのノックはこうした再発防止対策や未然防止対策を検討する事だ。

野球ではノックは監督・コーチの仕事だが、製造業では従業員全員の仕事だ。


このコラムは、2019年8月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第859号に掲載した記事です。

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エレベーター、扉開いたまま急上昇 東京・台東区

 エス・イー・シーエレベーター(東京都台東区)が保守管理する同区根岸5丁目のビルのエレベーターで、人が降りた直後に扉が開いたまま、突然、かご部分が天井近くまで上昇する事故が起きていたことがわかった。同社管理のエレベーターでは、06年6月に港区で同様の事故があり男子高校生が死亡、警視庁が業務上過失致死容疑で捜査を続けている。

 同社によると、事故は今月11日午後3時ごろ発生。7階建てビルの5階から乗った男性が3階で降りた直後、扉が開いたままの状態でかごの部分が急上昇し、7階を約1メートル過ぎて止まったが、けが人はなかった。制御盤内部の故障が原因とみられるという。エレベーターは30年以上使用している日立製。法定の定期検査を昨年8月に、月1度のメンテナンスを事故3日前の8日に行ったばかりだった。

(asahi.comより)

 メンテナンス直後の事故というのは意外と多いものだ.
特に気をつけたいのが,メンテナンス時に変更した設定の戻し忘れ.メンテナンス作業時に機能を殺しておいた安全装置を戻し忘れると労災事故が発生する可能性がある.

部品の自動実装機,プレスマシンなど作業者の手が機械の中に入ると機械が安全停止するようになっている.このままではメンテナンスができないので,一時的に安全装置を解除してメンテナンスをする.作業完了後に安全装置を戻すのを忘れても,機械は正常に動いているように見えるので気がつかない.

以前こんな例を聞いたことが有る.
装置内でX線を使用しているため,装置内部に手を入れる扉を開けたときはX線が止まるように安全装置がついていた.メンテナンス時にX線が正しく出ているかどうか調べるために,扉の開閉を検出するマイクロスイッチをテープで止めて扉が閉まっている状態にしておいた.点検完了時にマイクロスイッチのテープをはがすのを忘れ運転を開始.このため運転中に扉を開けるたびに作業者がX線に被爆していた.幸いX線の量が微弱であったため人体への影響は心配なかったが,目に見えないだけに深刻な事故だといえよう.

今回のエレベータ事故はメンテナンスから3日後に発生しているので別の原因だと思われるが,メンテナンス作業後の点検項目,方法をチェックリストにしておくとポカよけに役に立つだろう.
今回の事例から,配線コネクタの不完全挿入,ねじの締め忘れなどの想定される原因に対してチェック項目を追加したら良いと考える.

それにしてもこのメンテナンス会社は前回の事故が教訓として活かされていなかった様である.


このコラムは、2008年1月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第18号に掲載した記事です。

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朝日新聞ヘリの緊急着陸、部品の摩耗が原因 運輸安全委

 東京都健康長寿医療センター(板橋区)の敷地内にある空き地に4月、朝日新聞のヘリコプターが緊急着陸した原因について、運輸安全委員会は17日、「回転翼を操作するスイッチの部品が摩耗していて操縦に障害が生じた」とする調査報告書を公表した。

 報告書によると、ヘリは4月27日午後、取材から戻る途中に板橋区上空で操縦装置に不具合が生じた。機長は速度を上げようと、回転翼の傾きを操作する「コレクティブスティック」を引き上げようとしたが上がらず、空き地を見つけて着陸した。

 安全委がスティックの摩擦抵抗を緩めるスイッチ部分を調べたところ、ねじが緩んでがたついていた。このため、部品の一部が摩耗し、スイッチを最後まで押し込めない状態になっていたことが分かった。スイッチのねじ部分は覆いがあるため、「目視による点検は不可能だった」と指摘。メーカーに「材質を摩耗しにくいものに変えることが望ましい」とした。

 朝日新聞社広報部の話 予防的に緊急着陸しました。今後も安全運航に一層努めます。

朝日新聞ディジタルより

 私はヘリコプターのメカニズムに関しては,まったくの素人だ.従ってこのコラムは,ヘリコプターの事故を題材にした,メンテナンス,予防保全に関するコラムとして読んでいただきたい.

記事によれば,事故はネジの緩みにより部品が磨耗,コレクティブスティックが操作不能になったということのようだ.運輸安全委員会の報告書には,部品の耐摩耗性をあげることをメーカに推奨しているという.

しかし,部品の磨耗がネジの緩みにより発生したのならば,ここに対策を打たねば事故を未然に防ぐことは出来ないだろう.耐摩耗性の向上だけでは,延命になるだけだ.

常に振動がかかっている部分に使用されるネジは,点検増し締めが必要だ.
しかしこのネジは外部から目視不可能という.ネジの緩みがメンテナンス不良などの人為的原因により発生したのでなければ,ネジは点検増し締めが可能な構造にしなければならないだろう.

操縦不能によって発生するリスクは,乗客,乗務員の生命の危険だ.これはトップクラスのリスクであり,最優先で改善しなければならない.

4月の事故が12月に報告されたのでは,同型ヘリの他の機体に対して点検・予防保全をするのが手遅れになる.

工場の設備も同様だ.
万が一事故があったときは,リスク(生命財産への危険,生産継続への障害など)により優先度,緊急度を決定して,すぐにアクションをとるべきだろう.

設備ばかりではない,車載用の電装モジュールなどは,生産時にモジュール内部のネジ締めは厳重に管理されている.ネジ一点ごとに締め付けトルク,斜行によるネジの浮きがチェックしている.これは抜き取りや目視検査によって行われるのではない.工程内で100%自動検査が行われている.


このコラムは、2010年12月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第184号に掲載した記事に加筆したものです。

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PK活動

 PK活動というのは「ピカピカ・カイゼン活動」のことである.まずは職場の掃除を徹底し,職場や生産設備をピカピカにする.

効果は職場がピカピカになって気持ちが良いだけではない.
職場や設備をいつもピカピカにしておくとちょっとした異変にすぐ気がつくようになる.

いつも油で汚れた床だと,機械から油が漏れていても気が付かない.
設備を毎日拭き掃除をしていると,設備のガタや緩みにすぐに気が付く.

ピカピカにすると言うことは単なる清掃ではなく,予防保全活動である.
小さな異変にいち早く気がつき,問題が発生する前に対策が打てる.

そして職場の整理・整頓を徹底する.
整理・整頓の対象は物だけではない.工程も整理・整頓する.
こうすることにより,工程の流れや作業のムダが良く見えてくる.

工程の流れが良く見えると,不必要な運搬や,流れのつなぎ目で無駄な作業をしているのに気が付く.
作業者の動きをじっと見ると無駄な手の動き,作業のムラ,無理な姿勢が見えてくる.
これらを徹底的に減らしてやれば,生産改善ができる.

いわば整理・整頓・清掃を徹底的にやり生産性を上げるという活動である.

生産改善のために自動機を導入する.すばらしいことだが,まずはPK活動,5S活動のように身近な改善をすることだ.こういう現場の活動を飛ばして自動設備を導入しても,ムダも一緒に自動化してしまうことになる.


このコラムは、2008年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第43号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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予防保全

 以前このメルマガで,今住んでいるアパートのエレベータに閉じ込められた事故を,書かせていただいた.
「エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが」
引っ越して来て5年経ったが,この5年間で5回エレベータに閉じ込められている.最後の一回は,エレベータのかごを吊っているワイヤーが切れて,10階から7階まで落下した.
アパートの管理事務所の職員は,5本あるワイヤーのうち1本が切れただけだから,大したことはない.と言う認識だ.

アパートには4機のエレベータがあり,落下したエレベータには,なるべく乗らない様にしている.最近別のエレベータが長期間運転を停止している.掲示板の貼り紙を見たら,このエレベータも牽引ワイヤーが切れた様だ.

今回の事故で4機のエレベータの牽引ワイヤーを再点検した.その結果が貼り紙に書かれていた.なんとすべてのエレベータの牽引ワイヤーに問題がある.今停まっているエレベータは5本のワイヤーのうち3本に問題がある.その他の3台は,各々3本,2本,1本のワイヤーに問題が見つかった.

ワイヤーは切れている訳ではないが,点検により問題ありと分かっていながら,普通に運転をしている.

ワイヤーが1本切れても,あと4本あるから大丈夫.
ワイヤーが切れても,ブレーキシステムが作動し停まるから大丈夫.
と言うロジックは,他に故障がない場合にだけ適用可能だ.

例えば,1本のワイヤーが切れた時に,その衝撃により問題のあるワイヤーが一気に切れる.残った2本のワイヤーだけでかごを吊ることになる.その時にブレーキシステムが正しく動作すると言う保証があるとは思えない.

エレベータは,オーチス製である.
安全に関しては,何重にも冗長化設計がしてあると,信じたい.しかし,設計にも製造にも問題がなくとも,運用に問題があれば,事故は発生する.

エレベータは,国家基準により年1回の定期点検が実施されている.点検の機会は年に1回だけではないはずだ.エレベータはしょっちゅう故障している.その度にメンテナンス会社が来ている.

今回の落下事故で改めてワイヤーの点検をして,20本あるワイヤーの内9本のワイヤーに問題が見つかっている.今までノーチェックだったとしか思えない.

今住んでいるアパートは築7年だそうだ.
まともなメンテナンスをしていれば,エレベータがたった7年で,こんなに故障が多発するとは思えない.

メンテナンスとか,予防保全は故障した所を修理することではない.
故障が発生しない様にすることだ.


このコラムは、2013年4月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第304号に掲載した記事に加筆修正しました。

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四川航空機事故

 

「中国機、1万メートル上空で窓脱落 体の半分が外に」

 中国メディアによると、中国・重慶からチベット自治区ラサに向かっていた四川航空のエアバスA319型機(乗客・乗員計128人)が14日、成都に緊急着陸した。高度約9800メートルの上空を飛行中に操縦室の窓が突然、破損して脱落。副操縦士が外に吸い出されそうになり、操縦室内の気温も零下20~30度に急低下したという。

 中国メディアの取材に応じた機長の話によると、窓が割れたのは成都まで100~150キロの地点。副操縦士の体の半分が操縦室の外に吸い出されたが、シートベルトをしていたため、転落せずに済んだ。副操縦士は顔と腰を負傷した。

全文

(朝日デジタル)

 重慶や四川の中国企業の指導で四川航空は何度か利用したことがある。他人ごとではない事故だ。
5月14日に発生した事故なので、まだ事故原因などの発表はない。

最近同種の事故が発生している。
「女性の上半身が機外に、乗客ら引っ張り戻す 米国機事故」

こちらの事故は、1万m上空を航行中のノースウェスト機で客席の窓が割れ女性乗客が吸い出され死亡している。国家運輸安全委員会(NTSB)が調査中だが、エンジンが金属疲労を起こしていた可能性が指摘されている。

四川航空機の場合は操縦席の窓が破損しているので、ノースウェスト機の事故とは違う原因だろう。また1万m上空を航行中だったので、バードストライクも考えにくい。

過去の同様事故を探してみると、1990年6月10日に発生したブリティッシュ・エアウェイズで操縦席の窓が割れ機長が機外に吸い出された事故があった。
この時の事故は、メンテナンス時に規格外のネジ(正規品より短い)で窓枠を固定したことが原因だった。

航空機事故の事故原因は「メンテナンス」に関連するものが多いという印象がある。上記米、英の事例も、御巣鷹山の事故もメンテナンスの問題だった。

我々製造業もメンテナンス直後の事故(災害だけでなく不良発生も含む)発生事例は多くある。この機会にメンテナンス手順、実際の作業、記録方法などを見直してはいかがだろうか。

今回の四川航空機事故は、中国民用航空局が事故原因調査をすると思われる。
公正な調査が行われ、原因が公表されることを期待したい。


このコラムは、2018年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第670号に掲載した記事に加筆しました。

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異常感度を上げる

中国で生活をしていると,「異常」と感じる閾値の差を思い知らされる事が多い.

ジムの蒸気サウナの温度がなかなか上がらなくなったことがある.普通15分もあれば,十分熱くなるのだが,1時間かかっても熱くならなくなってしまった.受付の事務員に,壊れているから直すように言っても,全く改善されない.痺れを切らせてナゼ直さないかとマネージャに聞くと,壊れてないと言い張る.

蒸気は出ている.熱くなるのに時間がかかっているだけだ.と言う.
では,ナゼ時間がかかるのかと聞けば,2つあるヒータの内1本が切れたと言う.こういうのを「壊れた状態」と言うのだと教えても,「使える」と言い張る.

彼らにとって,正常と異常の間にある閾値は,使える・使えないの閾値だ.使えている間は,正常であり,異常ではないという判断だ.

同様なことに,工場の現場でも良く直面する.
例えば,
プラスチック成型工場.4個取りの金型が,バリの発生がひどくなり,4個あるキャビティの内3個が使えなくなってしまった.この状態でも,1個取りの金型として生産を継続している.

電子PCBアッセイ生産工場.半田DIP槽のスプレーフラクサーのノズルが,フラックス残渣が固まり揺動動作が緩慢になっている.指摘をしても,ノズルの動力源(圧縮空気)の圧力を上げるだけ.

電子製品の組立工場.プラスチックケース組み立て前に,内機に塗布した接着剤の量が明らかに多すぎる.しかしケース組立員は何事もなくケースを組み立ててしまう.

こんな実例を挙げたらきりがない.

異常と正常の間にある閾値が,我々の期待と違いすぎるのだ.
この違いを是正するために,ひとつずつ「異常状態」を教えていたのでは,手がかかりすぎる.

例えば,人間は「健康」と「病気」の二つの状態だけではない.
人の健康状態は「健康」「健康ではない」「病気」の三つの状態があるはずだ.
つまり「健康」「病気」以外に「まだ病気ではないが,健康とは言えない」状態がある.
この「健康ではない」状態を放置しておけば,すぐに病気になる.

工場も同じだ.
「正常」「異常」の二状態以外に,「異常とは言い切れないが,正常ではない」状態がある.
「正常」状態をきちっと定義をしておき,それ以外の状態になった場合の行動を決めておく.

「異常」の範囲を定義しようとすれば,まだ発生していない異常も列挙する必要がある.しかし「正常」の範囲を定義することは比較的容易だ.「正常ではない」状態を全て「異常」と定義することにより,「異常感度」は上がるはずだ.


このコラムは、2010年8月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第166号に掲載した記事に加筆しました。

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