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問題解決と問題対処

 1月5日配信のメルマガ「因果関係と相関関係」「ジョブ理論」という書籍をご紹介した。

この書籍の中に日米の自動車工場の比較があった。
米国の自動車業界は、できる限り問題を修復しようとする。
日本の自動車業界は、問題が発生するプロセスを改善しようとする。

米国の自動車業界は、問題を管理しようとした。
問題発生に備え、予備の部品を用意する。問題が発生した製品の修理ラインを作る。生産ラインで発生する問題を管理することで、生産ラインを効率良く稼働する様に考えた。
つまり発生する問題に「対処」する方法を考えた。

一方日本の自動車業界は、生産ラインで発生する問題の原因を徹底的に学習し再発防止を繰り返した。
トヨタが修理工場をなくし、ラインを止めて修理する様にしたのは、問題の再発防止を促進するためだ。生産ラインを改善すれば、生産ラインは高効率で生産できる様になる。
これが問題に対する「解決」だ。

「対処」は問題に対する一時しのぎ。
「解決」は問題の根絶。
と考えていただければわかりやすいかもしれない。

もう一つ例を示そう。

設備点検でネジの緩みを見つけた時に増し締めするのは「問題対処」
設備点検でネジの緩みを見つけた時に原因分析をして対策するのが「問題解決」

問題対処の方が簡単にできる。問題解決には時間がかかることもある。
目先の効率にとらわれ問題対処ばかりしていれば、本当の効率改善は不可能だ。


このコラムは、2018年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第619号に掲載した記事に加筆しました。

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問題解決

 先週のコラムで「物有本末」と言う話をした.

問題解決にも「物有本末」がある.
問題解決の結果,改善効果が発生する,これが「末」だとすれば,「本」は何だろう?

問題発見,解決課題の設定,ここいら辺に「本」がありそうだ.
真の問題を見つける,本質的解決課題を設定する,ここいらで間違いがあると,「末」としての改善効果は期待出来ない.

例えば,ある工程の作業にムダがあることに気が付いた(問題の発見).
作業方法の改善によりサイクルタイムが短く出来そうだ(解決課題の設定).

こう言う形で改善活動を進めると,改善効果は期待出来ない.
問題が真の問題かどうか?解決しなければならない課題は何か?
こう言う考察が抜けている.

本質的課題は,ある工程のサイクルタイム短縮ではなく,全工程の生産性向上のはずだ.従ってある工程のサイクルタイムが,全工程のタクトタイム以下であれば,この問題は真の問題ではない.
従って,この工程のサイクルタイムを短くすることが解決課題ではなく,この工程をなくせないか,と言うのが本質的課題となる.作業自体はなくせなくても,工程はなくすことができるはずだ.

他の例を挙げよう.
顧客に不良品を流出させてしまい,全数再出荷検査をすることにした.
こう言う考え方が「本末」を間違えていると言いたい.

真の問題は,顧客に不良品が流出したことではなく,工程内に不良がある事,その不良が工程内検査で100%捕捉出来ない事だ.
この2点に真の問題があり,ここに解決課題を設定しなければ,不良流出は必ず再現する.工程内で不良が発生し続けていれば,不良流出の可能性は残る.
そして工程内検査で不良捕捉が100%出来ていない,と言う問題にフォーカスしなければ,全数再出荷検査をしても,不良流出の可能性はゼロにはなっていない.

不良流出で,お客様からきつくお叱りをいただく.ここで焦って「全数再検査」などと言う再発防止対策を出してはならない.検査は何も付加価値を生まない.ムダな作業を一生続けなけることになる.

ここで,全体を俯瞰し真の問題は何処にあるのか?本質的解決課題は何か?冷静に考えなければならない.

問題に直面したら,焦って対応を考えるのではなく,一歩引いて高い場所から俯瞰する習慣を持っていただきたい.その際に「物有本末」と呪文を唱えていただいたら良かろう(笑)


このコラムは、2013年6月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第314号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力より止めない力

 意味がわからないタイトルだが、備忘録にあったメモだ。

A6サイズのノートを常に携帯しており、思いついたことなど、全てこのノートに書き込んでいる。一冊になんでも書く。後でどこに書いたかわからなくなるのを防ぐためだ。

電子デバイスを使ってcloudに集約すれば良いのだが、街を歩いている時、喫茶店でコーヒーを飲んでいる時などに、ふと思い浮かんだアイディアや、目にした面白いことなどは、いちいち携帯を取り出し、Evernoteにメモすることになる。これが案外めんどくさい。

そんなわけでロディアNO.11の方眼メモを持ち歩いている。しかしこれは補給に困る。日本でまとめ買いをして中国に持ち帰っていたが、気軽に現地調達できないのが難点だ。そんなわけで安物のメモパッドをポケット、机上、ベットの脇など、そこいら中に置いてある。

「継続力よりやめない力」というメモの日付から判断すると、「ライフハック大全」に出てきた言葉のようだ。

「継続する力」を考えると、誰しも挫折感を味わった事があるだろう。
禁煙などが代表的な事例だと思う。禁煙を決意するが、1週間もしないうちにタバコに手を出してしまう。「禁・禁煙」などと言っていた頃もあるが、最近は「禁煙が趣味です」と言っている(笑)つまり禁煙をするためには、時々喫煙しなければならない。そんなわけで今タバコを吸っているのは禁煙するためです、というわけだ。

そのような継続力に欠ける私の心に「継続力よりやめない力」という言葉が刺さった。

個人的な継続力は脇に置いて、組織の継続力を考えると、「継続しようとするよりは、止めない方法を考える」という考え方は示唆に富んでいると思うがいかがだろうか?

5Sの継続が出来ないと悩むより、止めないと決めて、方法を考える方が楽だと思えるがいかがだろう。止めないと決めれば継続する方法を見つける事が出来るはずだ。


このコラムは、2018年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第713号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力

以前5Sの継続力についてコラム「継続力」を書いた。今回は少し違う視点で継続力について考えてみたい。

 事業を起業する事と、経営を継続する事は、異なる能力だと思う。
プロジェクトを起こす事と、プロジェクトで得たモノを継続する力も、異なる能力だ。

5Sを始めたけど継続出来ない。
改善提案を始めた時は皆提案書を書いてくれたが、最近は催促をしても集まらない。
お金をかけてCRMシステムを開発したけれど、営業職員がめんどくさがって使わない。
こんな状況の会社が多い様だ。よかれと思って始めたのに、従業員アンケートをとってみると、不満足要因になっている事すら有る。

うまくいっていない最大の理由は、経営者や経営幹部が率先垂範をしない事だろう。「5Sをやれー!」と経営者が号令をかけても、推進役の品証部長にまる投げでは上手く行くはずがない。経営者も経営幹部も一丸となって取り組まなければ上手く行かない。その上で推進役が機能する。

物理的な障害がある。
営業職員が定時後に帰社し、その上でCRMシステムを開いて報告書を入力する。従業員に頑張りを要求するシステムでは長続きしない。経営者や経営幹部がまず自分で使ってみて、不便な所を修正しなければ使われない。

従業員が、メリットを感じない。
こういう理由で、こうやらなければならない、と言う事を理解させるのは当たり前だ。更にココロで感じるメリットを理解させなければならない。
賞罰制度は効果はないとは言わないが、効果は継続しない。
自分の仕事が、誰かの役に立っている、自分の成長の役に立っていると実感出来る事が、継続のモチベーションとなる。

ある中国企業は、工場見学が有ると職場の班長が見学者に説明している。
見学者は皆経営者であり、自分の父親ほどの年齢だ。その見学者達が自分の説明を聞いて、しきりに感心して帰って行く。当然班長は、その気になり毎日5Sに励むことになる。この企業の経営者はそれが分かっている様で、積極的に工場見学を受け入れている。顧客だけでなく地方都市の役人まで来ると言う。

逆に、他の工場を見せる事も効果がある。
この時の秘訣は、相手の工場の良い所を探して報告する様に予め課題を与える事だ。ただ見学させても、課題が無ければ得られるモノはない。自分たちが優れていると言う思い込みで見学しても、相手のあら探ししかしなくなる。相手の良い点を探すことにより、自分たちは何が足りていないのか考えることになる。

なぜ継続出来ないのか、どうすれば継続意欲が上がるかが理解出来れば、継続は容易になる。


このコラムは、2015年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第410号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力

 先週の経営相談室では、社内研修に関するご相談をご紹介した。
その後思い立って、『「やる気を出せ!」は言ってはいけない』を読み直した。
この本は行動科学の石田淳氏の著作で、部下育成について書かれた本だ。

『「やる気を出せ!」は言ってはいけない』石田淳(著)

石田淳氏とは以前香港でお目にかかったことがあり、以来何冊か著作を読ませていただいた。

「部下のモチベーションを上げたい」と言うリーダの願いは、どんな業種でも共通のモノだろう。しかしモチベーションとか、やる気と言うのは人の内側にあるモノであり、外から見ることができない。つまり色々な工夫を凝らし、部下のモチベーションを上げようとしても、その成果は計測不可能だ。
この様な状況では、努力の結果が目に見えず、改善すべき点も見つからない。

石田氏のマネジメント手法は、モチベーションが上がっているときの行動に焦点を当て、その行動が自発的に発生する回数をモチベーションの代用特性とする。これでモチベーションが計測可能となり、何をすればモチベーションが上がり、何をすればモチベーションが下がるかが分かる。

いわゆる計測とフィードバックによる改善のループが出来る訳だ。

彼の書籍の中に、好ましい行動が継続出来ない理由に関する記述がある。
このメルマガ読者様の参考になると思い、ご紹介したい。

継続することにより、好ましい結果が得られる行動は強化したい。
例えば、禁煙とかダイエット。仕事で言えばコツコツと毎日積み上げる様な作業だ。
これらの作業行動は、何度も積み上げる事に意味がある。しばしばおろそかになり継続する事が難しい。目標に対して行動が不足してしまうので「不足行動」と言う。

一方、過剰に発生する行動により、本来期待した行動が出来なくなってしまう行動を「過剰行動」と言う。ダイエット中に間食をする。仕事中にムダな休憩をしばしば取る。こういう行動が「過剰行動」に当たる。
好ましい結果を達成するためには、過剰行動を減らす必要がある。

従って目標を達成するためには、不足行動を増やし、過剰行動を減らせば良い。
モチベーションとかやる気と言う不可視のモノではなく、目に見える行動で評価出来ることになる。

しかし評価出来る様になっても、なぜ好ましい行動が不足し、なぜ好ましくない行動が過剰になるのかを知らなければ、改善出来ない。

不足行動は通常長期間の行動の積み上げで成果が見える。
禁煙やダイエットは一日で達成出来るモノではない。長い間継続して初めて効果が現れる。

一方過剰行動の方は、すぐに成果が得られる。
イライラしている時に1本煙草吸えばすぐに、好ましい精神状態になる。空腹の時に間食をすれば、満腹感と言う成果がすぐに手に入る。

つまり、
 不足行動により成果が現れる時期>過剰行動により成果が現れる時期
もしくは
 不足行動による短期メリット<過剰行動による短期メリット
と言う不等式が成立し、不足行動を起こさずに過剰行動を起こすことになる。

不足行動を起こす動機付けには「恐怖」もあり得る。
例えば、明日までにこの仕事をやらなければクビになる、と言う状況になれば必死になって仕事をするだろう。
医者に煙草をやめなければ明日死ぬと言われればすぐに禁煙出来るだろう。

しかし恐怖による動機付けが有効になる事は余りない。有効になったとしても効果は短期的だ。

ではどうすれば、不足行動を継続することができるのか?
上記の不等式が成り立たなくすれば良いのだ。

不足行動により得られる短期メリットを付加してやる。
又は過剰行動により得られる短期メリットを小さくしてしまう。
こういう工夫ならば出来ると思うがいかがだろうか?


このコラムは、2013年11月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第336号に掲載した記事に加筆しました。

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社内研修について

 先週は読者様から社内研修についてご相談のメールをいただいた。
いただいた相談にはメールで、私の考えをお伝えしたが、他の読者様にもシェアしたいと思う。

※F様のご相談
 メールマガジンかセミナーだったか覚えていませんが、以前林先生から教育は計画を立てて、計画通り実施しなさいと教わりました。以来毎年年初に教育計画を立てて実施する様にしています。ISOの品質計画に入れているので、年末のレビューで計画の実施状況を確認しています。

計画時には、達成目標と担当者を決めています。
具体的には、目標:現場監督者の研修を年に2回開催する。
責任部署:総務・人事部
としました。
昨年の目標は達成しましたが、効果の実感が余りありません。何処かやり方が間違っているのでしょうか?

仕事を、重要・非重要、緊急・非緊急の2軸で分類し、4つの象限に分ける。
それぞれの象限ごとに、対応の仕方を変える。教育は「重要、非緊急」の象限となり、計画を立てその通りに実行する。と言う考え方を何度かお話したことがある。
重要だが緊急ではない仕事は、しばしば延期することになり、結局やらずに終わってしまう。と言う事が多いのではないだろうか。教育はその典型だ。忙しいから時間がない、などの理由により延期される。

これを覚えていてくださり、実施されたのはすばらしいと思う。

しかし「年に2回研修をする」と言うのは目標として適切ではない。
教育の目的は、知識を与える事、意欲を向上させる事、その結果対象者の行動が変わる事だ。知識や意欲が高まっても行動が伴わなければ、何も変化は起きない。その結果教育の成果を実感出来ないことになる。
目的に合わせて目標を設定しなくてはならない。

従って、教育の成果目標は研修の回数ではなく、受講者の能力向上、行動の変容としなければならない。

計画には、誰に何を教える、その結果能力を何処まで高める。と言う内容が必要となる。そのために各自に要求される能力と現状能力を知る必要がある。個人ごとに「スキルマップ」を作る。「スキルマップ」とは余り適切な名前ではないかもしれないが、その職位に要求される能力と、現有レベルを個人ごとに一覧表にした物だ。

これがOJTを含めた教育計画の大元になる。
先輩の仕事ぶりを見せておけばOJTになると考えるのは、あまりに楽観的だ。

例えば品質部門のメンバーに要求する能力の一つとして「パレート図」を作る、と言う能力を考えよう。
要求されるの応力のレベルは、

  1. 上位者の指導によりパレート図を作図出来る。
  2. 自主的にパレート図を作図し分析が出来る。
  3. パレート図の作成と分析方法を指導出来る。

の三段階に分けることができる。
このレベルは、具体的な仕事を任せることにより確認出来る。

この様なスキルマップを作成することにより、OJTにより教育する内容、研修により教育する内容を分け、研修の計画を立てる。
この計画を立てると、既に能力のある者に集合研修を受けさせると言う無駄もなくなる。
スキルマップを公開することにより、メンバー各自が何を学べば良いか理解出来る。メンバー自身が学習に積極性を持つと言う効果もある。

研修の回数とか研修への参加人数などを研修成果の目標としてしまうと、研修担当者は、研修業者と相談し、余り効果が実感出来ない研修を開催する事になってしまう。その結果研修受講者にも不満が残り、ただ研修業者を喜ばせることになる(笑)


このコラムは、2013年11月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第335号に掲載した記事に加筆しました。

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利己と利他

 「利己」とは自分の利を中心に物事を考えたり,行動する事だ.
一方「利他」とは他人の利を先に考えたり,行動する事だ.

利己と利他を公式で表現すると,以下の様になる.
利己:自分が支払うコスト<相手から自分が受け取る利益
利他:相手が支払うコスト<自分が相手に与える利益

つまり利己とは,相手から受け取る利益よりも自分が支払うコストを減らそうと言う考え方や行動である.自己努力により,相手から受け取る利益を一定のまま,自分が支払うコストを減らす努力は,利己とは言わない.
自分が得る利益(対価ーコスト)を増やすために,相手が受け取る利益を減らす事が利己だ.

利己の人は,相手から利益を奪い取る事を優先して考える.

利他とは,相手が受け取る利益よりも自分が支払うコストが大きくなってもかまわないと言う考え方や行動だ.むしろ相手が利益を受け取れるのならば,自ら進んで自分のコストを支払う,と言う人が利他の人だ.

つまり利他の人は,相手に利益を与える事を優先して考える.

どちらが成功するかと言えば,当然利己の人だ.
利他の方が聞こえは良いが,自分の利益を考慮せずに相手に利益を提供しようと言うのは,ボランティアでしかない.崇高な生き方かもしれないが,ビジネスとしては成功出来ない.

こう考えておられる方が大半だろう.二宮尊徳翁も「経済なき道徳は寝言である」と言っておられる.あなたは,いかがだろうか?

短期的な視野で物事を考えれば,利他の人の利益を利己の人が吸い取る構造だ.
しかし長期的な視野で考えると,利己の成功は短期的であり,大成功するのは利他だと思う.

利己のビジネスは,狩猟型のビジネスであり次々と狩り場(新規顧客)を開発する事が必要だ.

一方利他のビジネスは,農耕型のビジネスであり顧客や市場を育成する.その結果ロイヤリティの高い顧客が増え,顧客からの紹介で更に顧客が増える.

利他とはただ単に,相手に献身的な貢献をする事ではない.
相手に献身的な貢献をすることにより,利を得る事だ.

貢献(相手が受け取る利益)が目的であり利は結果だ.
これを間違えて,利を目的として貢献をしようとするから,利己になる.

営業経験がない私が独立した時に決意したのは「利他」を押し通す事だ.

無料工場診断に出かけると,そこまで教えちゃうの?と同行者があきれる程のノウハウを教えてしまう.訪問先の経営者からは,目から鱗でしたと感謝をいただく.
ある工場では,訪問して1週間後に,ここまで改善出来ましたと,写真入りでレポートを送って来てくれた.

同業のコンサル会社を何社も無料で指導している(時々晩ご飯をご馳走して貰っているが・笑)

このようにして集めた感謝が,後に収入・利益になるはずである.


このコラムは、2013年7月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第320号に掲載した記事です。

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続・見えない不良

 先週月曜日のメルマガでお約束した様に、書籍「『品質力』の磨き方」から、品質工学(田口メソッド)について、シェアしたい。

「『品質力』の磨き方」長谷部光雄著

品質工学に関してはこちらの書籍も大いに理解を助けてくれるだろう。
「技術者の意地」長谷部光雄著

この書籍は、湿度センサーの開発者が製造部門での不安定性、市場不良を解決すべく奮闘する姿が物語として語られている。品質工学を指導する十文字教授が登場するが、この人は品質工学の元祖・田口玄一教授がモデルだろう。田ー口=十だ(笑)

この2冊の書籍を読んでも即「品質工学」を活用出来る訳ではないが、考え方は理解出来る。その上で品質工学の専門書を読まれるのが良いと思う。

若い頃田口玄一教授の講演を聞いた事がある。残念ながら当時は田口教授の言っている事が全く理解で樹なかった(苦笑)田口メソッドは実験計画法の一種だと思っていた。田口メソッドは実験計画法の直交表を使うが、実験計画法とは全く違う理念に基づいた手法だ。

工程内不良や市場不良の原因を分析する時に、よく「分ければ分かる」と言う。
現象を層別したり、原因となる要因を分け、要因ごとに解析し対策を検討する。そんなやり方が一般的だろう。このやり方が悪い訳ではない。しかしこの方法は不良が発生しなければ、活用出来ない。

一方田口メソッドは「いじめれば分かる」という。
設計時に「いじめる」事により、より堅牢な(ロバスティックな)設計をするのが田口メソッドだ。堅牢な設計とは、製造時の変動や市場環境の変動による影響に対して「鈍感」にしておくと言う意味だ。
製造条件の変動に対して「敏感」であれば工程内不良は減らない。
市場環境の変動とは、ユーザの使い方や経年変化を含む。
これらの変動に対し「鈍感」(ロバスティック)になる様に設計パラメータを決める。

通常は設計パラメータを決定する場合、条件を製品仕様範囲内で検討する。
一方、田口メソッドの場合は、製造や市場での環境変動を仕様範囲を超えて極端に振る。これを「いじめ」と言っている。いじめによって、変動に「鈍感」なパラメータを設定し、特性に対して感度の高いパラメータで特性を調整する。

つまり変動に対する感度(SN比)と狙いの特性に対する感度(S)を同時に評価し設計するのが田口メソッドだ。

田口メソッドは「見えない不良」を設計時に先行対策するのに大いに力を発揮する。それだけではない、巨大化するソフトウェアの評価にも力を発揮する。

田口教授の講演を聴いてもさっぱり分からなかったが、その後もずっと気になっており、当時の部下に品質工学会に入会して勉強してもらった。彼はその後全社のソフトウェア評価の責任者になっている。

中国の日系工場は設計は既に本社で完了している事が多いが、徐々に設計を中国に移管し始めている企業もある。

書籍を読む限り簡単に応用出来そうだが、実際には制御因子、信号因子、誤差因子をどのように決めるかの経験智が必要になる。実践して経験を積むことにより活用出来る様になるだろう。

余談だが、本日ご紹介した書籍「技術者の意地」は、本のソムリエさんからいただいた。本のソムリエさんは、読んだ本を毎日一冊づつ紹介するメルマガを配信しておられる。読んで見たけど紹介に値しない本もあるだろう。年間356冊以上本を読んでおられると思う。驚異の読書量だ。

メルマガ:1分間書評!【一日一冊】

さらに読まれた本をメルマガ読者様にプレゼントしている。
すでに3000冊近くの本をプレゼントしている。郵送料だけでも大変な金額だ。時間をかけてメルマガを書き、さらに読んだ本をプレゼントする。ただの本好きではできないことだ。上記のURLから配信の登録ができる。無料配信だ。ご興味のある方はご登録いただきたい。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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見えない不良

 最近大規模な市場クレーム・リコール問題が多く発生している。
昔と比較して日本企業の技術力が低下しているのではないだろうか?私自身もこの様な危惧を抱いていた。技術力と言うのは設計技術ばかりではなく、生産に関わる現場の技術も含む。

バブル崩壊後、日本の製造業の多くが米国流の株主最優先の経営に傾倒し短期業績を追求した結果「現場力」を失ってしまったのが最大の原因と考えていた。つまり現場の職能工を、派遣社員や臨時工に置き換え人件費を変動経費化する事により経営を建て直そうとした。しかしその結果、現場に有ったモノ造りの力が消散してしまったのが原因と考えていた。

しかし、長谷部光雄氏の『「品質力」の磨き方』と言う書籍を読んで得心した。

『「品質力」の磨き方』長谷部光雄著

長谷部氏はリコーで複写機の開発をして来られた方だ。
彼の主張では、リコールの増加は技術力の低下ではなく、社会的要求の変化だ。

市場クレームやリコール問題が発生する製品は、製造過程では良品であった。工程内検査も、出荷検査も全て合格品だった訳だ。(この書籍が執筆されたのは2008年であり、昨今の検査データ改ざんなどの品質問題には触れていない)
出荷後の使用環境(温湿度や経年変化だけではなく、ユーザの使い方、期待等)の変化を予め想定出来なかった「見えない不良」がリコールの原因だと、彼は主張している。つまり現場力の低下が問題ではなく、開発設計力が市場要求の変化に追従できていない事が、リコール問題の根本原因だと言う。

設計の確からしさ、妥当性の確認が不十分だと言う事だ。もちろん設計評価に十分時間をかけていただろうが「見えない不良」(潜在不良)の想定が時代の変化に対して不十分だったと言う考え方だ。

「見える不良」「可視化で切る不良」は製造現場の力で排除出来る。しかし「見えない不良」を解決出来るのは開発設計工程だけだ。長らく開発設計に携わって来た技術者としての見識だろう。私も開発、品証を経験して来た者として、得心を得た。

書籍から判断すると、長谷部氏は「品質工学」(田口メソッド)に精通した方の様だ。近いうちに『「品質力」の磨き方』から得られた知見をシェアしたいと考えている。


このコラムは、2017年8月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第552号に掲載した記事です。

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業務のマニュアル化と業務改革

 今週のメルマガ「ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革」で、ノリタケの仕事改革・間接業務のマニュアル化による業務改革についてコラムを書いた。本日は、業務のマニュアル化と業務改革について考えてみたい。これは間接業務、直接業務を問わず共通の課題だ。

業務マニュアルを作るためには、まず標準作業を決める。その上で作業者に理解しやすい様に作業手順を文章化する。文章化には写真、イラスト、図表等が含まれる。

ちょっと余談だが、業務マニュアルで標準作業を決めても、作業は標準化されない。なぜならば教え方が標準化してないからだ。この点にフォーカスをするのが、TWI-JI(企業内訓練・仕事の教え方)だ。
TWI-JIでは、標準作業を分解し教え方のシナリオを作る方法で教え方を標準化している。

業務マニュアルの作成にしても、TWIの作業分解にしても、ただ標準作業を記述するだけではない。標準作業を記述する際に、本当にこの作業は必要なのか?より効率の良い方法はないか?と言う視点で作業を見直しながら作るべきだ。つまり業務マニュアル作成の過程で、業務改善をするつもりで取り組むのだ。

もう一つ重要な事がある。標準やマニュアルは作ったその日から改訂を考える。標準やマニュアルは、今日ベストな方法を決めただけだ。明日もそれがベストとは限らない。標準やマニュアルを放置すれば、作ったその日から陳腐化が始まる。

無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」は現在13分冊2,000ページある。
ムジグラムは、現場からの要求で毎月20ページ程改訂されている。毎月1%は改善が進んでいると言う事だ。

つまり業務マニュアルを決めるだけではなく、業務改善を継続する。

まずは標準作業を決める。作業の「形」を作ると言う事だ。業務マニュアルが「形」を表現する。これが無いのを「形無し」という。形があるから、改善すべき所が見える。そして業務マニュアルが改訂される。この螺旋上昇循環を作る事が業務改革だ。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
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