経営」カテゴリーアーカイブ

ポジティブキーワード

 先週の記事「質問の力」に対して読者様からこんなメッセージをいただいた.

☆H様のメッセージ
今日のテーマの「質問の力」の内容はとてもいいと思いますよ!私もよくします。
言われたからするのではなく、その作業の本質がわかっている人は、色々な角度から質問してもきちんと答えられます。
そういう人は確実に仕事を身につけていくのですよね。

あと、編集後記の内容もよかったです。
マイナスワードの言葉は、マイナスなことしか引き寄せませんからね。
つらいことがあったら、「明日はもっと素晴らしい」と言ってます。
そう言えるようになると、ポジティブに暮らせますよね。

H様メッセージありがとうございます.

行動を変えるというのはなかなか難しい.
しかし言葉を変えるのはそんなに難しくはないはずだ.
たとえば部下に「お疲れ様」といわないで「ありがとう」と言うようにしてみる.疲れていることを,言葉がけでわざわざ認識してもらうよりは,感謝の気持ちを伝えた方が,気持ちがポジティブになるはずだ.
ついつい「お疲れ様」といってしまうが,気をつけていれば「ありがとう」と自然にいえるようになる.

言葉が変わると心が変わる.
「ありがとう」という言葉から自然と感謝の心が出てくる.

心が変われば行動も変わる.自分が変われば部下も変わってくる.

「ウチの部下は出来が悪くて」などと嘆く暇があったらまず言葉を変えてみてはどうだろうか.

H様のポジティブキーワード「明日はもっとすばらしい」は中国では『明天更好』と訳せばよいだろう.短くてよいキーワードだと思う.

私の今年のポジティブキーワードは「いつもニコニコ絶好調」だが「今日もがんばった!」を追加した.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

続・質問の力

 先週は「質問の力」について記事を書いた.「質問の力」の具体的な事例を紹介したい.

生産現場に行くといつもと違うところで生産の流れが停滞している.通常ボトルネックではない工程がボトルネックになってしまっている.

そこで組長さんを捕まえて質問を始める.
私「このライン調子はどう?」
組長「生産量が上がっていません」

私「どうして?」
組長「○○の工程に新人が入っています」

私「新人だとどうして生産量が落ちるの?」
組長「作業にまだ慣れていません」

私「どの作業が慣れていないの?」
組長「テープを台紙から剥がした後にテープが丸まってしまって…」

私「どうしてテープが丸まるの?」
組長「作業に慣れていないから」

ここで質問と答えが無限ループに落ちてしまう.
実はこの工程では台紙からテープを剥がして製品に貼り付ける作業をしているが,台紙からテープを剥がした瞬間に静電気が発生する.作業者がテープを指先でつかもうとすると静電気で指に吸着してしまい作業がうまく行かないのだ.

ベテランの作業者はこれを経験として知っており,剥がしたテープを指で取りに行かない.逆に静電気の吸着力を利用して指のほうに吸い寄せている.

ベテランと新人の作業をよく観察すると違いは分かる.しかしこの現象のメカニズムに到達できる人はそうはいない.

そこでベテランと新人の作業の様子を指先を拡大してビデオに取る.
これを見せながらどう作業をしているか説明する.その後で静電気で吸着しているメカニズムを教える.

この順番にやらないと,消化不良を起こすだけだ.

質問をすることによって「生産量が落ちている」という現象の根本原因を突き止め,改善方法を考えてもらう.
難しい部分については,こちらで理論武装をしてあげなければならないが少なくともうまくできている作業者の動作を観察することによって新人に教えるポイントは見つけることができるだろう.

このように現場で,質問を繰り返すことによって始めて指導ができる.

生産量が落ちている.ボトルネック工程が変わっている.となれば経験のある管理者ならば,すぐに新人が投入されていると推定できるはずだ.そこで「新人に対してちゃんと作業訓練をしなさい」と班長に指示を出すことはできる.しかしこれでは班長はどう作業訓練すればよいか分からない.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

質問の力

 先週は「人誑し改善」について記事を書いた.
「人誑し」の方法として「褒め倒す」というのをしばしば使っている.

改善をして成果が出ればうんと褒める.しかし改善の成果が出るまでは褒めるチャンスがやってこない.したがって改善のための行動が一歩踏み出せた時点で褒めてしまう.

失敗しても「失敗の向こうに成功があるのだ」といって褒めてしまう.

知識があるというのは褒めない.
知っているだけでは褒められない,知っていることを行動に移したら褒められる,ということを理解してもらうためだ.

もうひとつよくやるのが「質問」だ.
こうすればいいと教えてしまう.こうしなさいと指示をしてしまう.このほうが手っ取り早いのだが,これを繰り返していると「指示待ち人間」しか育たない.

質問により気付きをもってもらい行動に移す,そんな質問で誘導するわけだ.我々の「質問力」はTVドラマの刑事のように真実を突き止めるための質問ではない.改善に必要な「質問力」はリーダが行動を起こすための質問だ.

なんだか「女誑し」の手管のようだが効果はある.と思っている.

■■ 編集後記 ■■
最後まで読んでいただいてありがとうございます.

日本に一時帰国している間にFMラジオでこんな話を聞きました.

仕事が忙しくても「疲れた」とは言わない.
「今日もがんばった」と言う.
「忙しい」とは言わない.
「充実している」と言う.

名前は忘れてしまいましたが,若いバラエティアイドルの信条だそうです.
前向きでいいですね.私も真似をすることにしました.


このコラムは、2009年8月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第112号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

変わる価値と変わらぬ価値

 昭和の高度成長期には「オー!モーレツ!」「大きいことはいいことだ」とコマーシャルで散々聞かされていた。当時の「企業戦士」は平成では「社畜」と呼ばれる。ショルダーバックほどの大きさだった移動電話は、平成には胸のポケットに入っている。

昭和の価値は、平成では価値ではなくなった。
がむしゃらに頑張ることはダサく、ゆとりを求める。
大きく豪華であることより、小型でシンプルであることを好む。

では変わらぬ価値はあるのだろうか?

昭和は、がむしゃらに頑張って、大きく豪華なモノを手に入れる。
平成は、シンプルな生活をすることにより、ゆとりを楽しむ。
こう考えると、人生を楽しむという価値観は同じであり、その方法が違うだけと理解することができる。
昭和世代は、モノによって人生の豊かさを実感する。
平成世代は、モノから離れることで人生の豊かさを実感する。
両者は、方法は違うが目的は同じだ。

変わる価値は方法。変わらぬ価値は目的。
こう考えると、企業経営も同じだと気がつく。

例えば企業経営の目的が、顧客、社会、従業員の幸福追求であれば、方法が変化しても繁栄を続けることができるだろう。
しかし企業経営の目的が善ならざれば、どのような方法を取っても企業が反映し続けることはない。


このコラムは、2019年5月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第818号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

蔵王スキー場で停電

 “蔵王スキー場で停電 80人乗せたリフト、2時間止まる”

 山形市の蔵王温泉スキー場や、山形県上山市の蔵王坊平高原にあるスキー場・蔵王ライザワールドなどで30日午後1時ごろ、停電が発生し、リフトやロープウェーが止まった。県警などによると、救急搬送された人はいないという。
東北電力によると、山頂付近の木の枝が雪の重みで電線に接触して漏電し、リフトを含め127戸が停電したという。

(以下略)

(朝日新聞デジタルより)

 記事によると、蔵王温泉スキー場では、全8基のリフトのうち6基が止まり、約80人が最大2時間救出を待った。蔵王ライザワールドでは、3基のリフトが止まり、約10人が15分ほど降りられなくなった。

この事故では誰も負傷していない。一番ついていない人でも2時間寒い思いをしただけだ。しかも停電の原因は天災だ。しかし違和感を感じざるを得ない。

中国のマンションのエレベータがメンテナンス不良のためしばしば止まる、という事例はこのメルマガで何度か取り上げた。しかし停電で止まったことは一度もない。14年で5つ目のマンションに住んでいるが、全てバックアップの発電機があり、停電時でもエレベータは止まらなかった。

エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが
同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡

天災といっても、積雪量の多い地域だ。今回の様な事故は潜在リスクとして、東北電力は認識できたはずだ。リフト運営会社もバックアップ用の発電設備を用意しておくべきではなかったのかと思う。

我々も停電リスクを検討しておく価値はありそうだ。
広東省の電力状況は10年前と比較すれば相当改善された。当時は計画停電や突然の停電がしばしばあった。現場のリーダたちも慣れており、停電時の処置に戸惑うことはなかった。しかし当時のリーダはもう現場にはいない。


このコラムは、2019年1月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第766号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

日本人の誇り

 最近の報道で日本人精神の歪みを強く感じる。

幼い我が子を虐待し死なせてしまう。
学校でのいじめを苦に自殺する子供がいる。
列車車内で無差別に殺人をする。
看護師が患者の点滴に界面活性剤を混入させる。
日本は安全だという神話は夢物語に変わってしまった。

先週オウム真理教幹部の死刑執行が報道されたが、二十数年前から日本人の変容が始まっていたのかもしれない。

私たち日本人は
エレベータの中でタバコを吸う。
散歩中の愛犬の落し物を放置する。
列車から降りる人をかき分けて乗車する。
横断歩道を渡っている人にクラクションを鳴らす。
駐車場の入り口に車を駐車する。
このような人たちを嗤える立場ではなくなってしまった。

台湾出身の評論家・黄文雄氏はこれを「武士道」の喪失だと言っている。
「台湾人の美徳とされる「日本精神」が、日本人から失われ始めている」

日本の武士道は台湾ばかりではなく、世界中から一目置かれていると言ってもいいだろう。第二次世界大戦の敵国であった米国までが日本の武士道を畏れ、敬意を持っているという。

武士道を一言で言うことはできないだろう。あえて武士道の精神を短く言うならば、論語から引いて「仁義礼智信忠孝悌」と言えるだろう。

仁:儒教の最高位の徳。論語の中で子路は「剛毅木訥仁に近し」と言っている。
義:社会的かつ人道的な正義。
礼:礼儀・作法。
智:物事の本質をわきまえること。
信:人を欺かないこと。
忠:誠実であること。
孝:父母を尊敬し大切にすること。
悌:年上の者を尊敬して従うこと。

中国から伝わった儒教精神が、江戸期に庶民にまで広がり武士道は形成された。
「日本では宗教を教育していないのにどうして道徳教育を授けることが出来るのか」という西欧人の質問に対し、新渡戸稲造は「日本には武士道がある」と答えている。

しかし日本の社会は、道徳より野心を優先する社会になってしまったようだ。
しかもその野心が個人的なものになっている。

なぜそうなってしまったのか?私の仮説はこうだ。
日本のコミュニティは「村社会」だ。村社会であるから「仁義礼智信忠孝悌」を守っていなければ、存在を許されない。隣近所から「どう見られるか」が優先事項となる。道徳を守っていなければ生きてはゆけない。

核家族化が進み、近所づきあいもなくなり「村社会」は崩壊し、個の集まりになる。周りには「武士道」を語る大人がいないまま子供が成長する。その結果、人の命に対する尊厳という最もプリミティブな道徳観念が育たなかった。

つまり「村社会」が道徳教育機関であったが、村社会の崩壊とともに道徳教育を担う者がいなくなってしまった。

文科省は「特別の教科 道徳」というものを設け、修正を試みている。しかし道徳は知識ではなく実践だ。教室での教育だけで解決するとは思えない。社会全体で取り組まねばダメだろう。

企業、地域などあらゆる社会単位で「道徳」を取り戻す試みをすべきだ。
武士道を核心とした企業文化を作れば、強い企業になることができると思うがいかがだろうか?


このコラムは、2018年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第691号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

曲则全

老師は《道徳経》の中で次のように言っている。

quánwǎngzhíyíngxīnshǎoduōhuò

老子:《道德经》第二十二章

読み下し文に直すと
きょくなればすなわまったし、がればすなわなおし、くぼめばすなわち、やぶるればすなわ新たなり。少なければすなわち得られ、多なればすなわち惑う」
となる。

曲がった木は役に立たず切られることなく命を全うする。
身をかがめていれば真っ直ぐに伸びることができる。
窪地のように凹んだ所には水が満ちる。
ボロボロになれば新しくできる。
持っているモノが少なければ得るものがある。
持ってるモノが多ければ惑う。

逆説的な言い方だが、これが世の中の真理ではないだろうか?

謙虚にしていれば上から重用される。
何も知らなければ素直に学ぶことができる。
捨てることで新たなモノが手に入る。
手が空いていればチャンスを掴める。
たくさん仕事があっても力が分散し成果が上がらない。

仕事がない時にボヤいていないで、次の仕込みをする。暇な時こそ飛躍のチャンスだ。
私の友人は金融危機の時に徹底的に改善活動をした。例えば現場のレイアウトを変えて二機あったエレベータを一機で賄えるようにすることで、エレベータの保守点検費用を半減する。このような改善活動の積み重ねで年間300万元の間接費用が節約ができ、筋肉質の経営体質になった。


このコラムは、2018年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第653号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

停車駅誤通過

JR彦根駅を800m行き過ぎ 運転士「通過駅かと」

 17日午後1時50分ごろ、滋賀県彦根市のJR琵琶湖線彦根駅で、姫路発近江塩津行きの新快速電車(12両)が停車位置を約800メートル行き過ぎて止まった。

 JR西日本によると、車掌が停車予定駅の通過に気づき、非常ブレーキをかけた。乗客約300人にけがはなかった。電車が停車したのは踏切上で、後退すると故障の恐れがあったため、次の米原駅まで進んで、彦根駅で降車予定だった約90人には乗り換えて折り返してもらったという。通過した彦根駅では20人ほどが乗車できなかったという。30代の男性運転士は「通過駅と思い込んだ。眠気がなかったとは言い切れない」と社内の聞き取り調査に話しているという。

 JR西日本京都支社は「お客様に大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。指導を徹底することで再発防止に努めてまいります」としている。

(朝日新聞デジタルより)

 定番の「人為ミス」による事故だ。JR西日本は再発防止対策として「指導を徹底する」と発表している。人為ミスに対する「鉄板対策」であるが、毎回指導を徹底し再発している。再発し続ける原因は、事故発生原因の調査を人為ミスで終わりにしてしまうからだ。人為ミスは事故発生原因ではない。事故の現象と考えた方が良い。人為ミスが発生する原因を突き止めなければならない。

JR西日本では停車駅通過防止装置が導入されている。ICカードのデータをATS-P車上装置に読み込ませ、その情報を元に、停車駅であれば「停車です・停車です」の音声を一回流し、それでもブレーキを掛けない場合は「停車・停車」と連続発音する仕組みになっている。

それでも事故は起きている。
■停車駅通過防止装置が機能しなかった。
 ・停車駅通過防止装置が故障していた。
 ・オンにするのを忘れていた
 ・人為的にオフにしてあった。
 ・警報音が聞こえなかった。
■ブレーキが機能しなかった。
 ・ブレーキが壊れていた。
 ・ブレーキ操作ができなかった。

というように可能性のある原因→その原因→その原因……と深掘りする。
そうすれば「指導を徹底して再発防止」などという効果の感じられない対策にはならないだろう。

元々停車駅通過防止装置は、停車駅と認識していなかった、ついウッカリ通過、注意散漫などの人為ミスを防ぐために導入したはずだ。それでも再発している。「指導を徹底」などと言っている暇があったらもっと考えろ、と言いたい。


このコラムは、2019年4月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第814号に掲載した記事を改題・修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

半沢直樹考

 今週のニュースからにも書いたが、日本中が「半沢直樹」に熱狂した様だ。かくいう私も、熱狂した(笑)

「半沢直樹」の視聴率も近年にない高視聴率だったそうだ。
何がその要因だったのか考えてみた。(考えてみたが、納得のいく答えはまだない・笑)

我々の意識の奥深くに、「勧善懲悪」があり、悪はいつか滅びると言う予定調和を無意識に望んでいる。そのハッピーエンドまでの過程が、過酷であればあるほど、物語は盛り上がる。

理不尽な扱いの出発点は、父親の自殺だろう。
銀行員になってからも、幾多の理不尽な扱いを受ける。そこに視聴者が感情移入し、腹が立てば立つほど、最後に「悪」を追いつめた時の達成感が大きくなる。

勧善懲悪と言う意識の上に、組織内の「悪」に対する怒りが視聴者の共感を得、高視聴率となったのだろう。

「空飛ぶタイヤ」「下町ロケット」は組織悪に対する怒りだった様に思うが、今回は組織悪と言うより、不正を働く個人が悪となっている。
「半沢直樹」では最後に頭取が、半沢直樹を子会社に出向させる辺りが組織悪だと指摘する事も出来るかもしれないが、それは続編を楽しみにしたいと思う(笑)

さてこの様なドラマが、中国でもうけるかどうか考えてみたい。

中国では、組織内の地位を利用して、個人が利益を得る事は当たり前、と言う風潮がある様に思う。これに対して「怒り」を持つ人間も多くいるだろうが、「諦め」が支配的なのではないだろうか?

もし「半沢直樹」が中国でも放映されれば、その「諦め」を解放するきっかけになるかもしれない。そういう意味では、日本より熱狂する人が多くいる様な気がする。このドラマが中国で放映される事は当分ないかもしれないが、その時の人々の反応が楽しみだ。


このコラムは、2013年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第329号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

海を渡る「半沢直樹」 復権かけアジアで戦うTBS

 今年のテレビドラマで最高の視聴率をたたき出した「半沢直樹」。TBSテレビ系で放送され日本一有名な銀行マンとなった主人公の半沢直樹が、ついに海を渡る。10月中旬から台湾を皮切りに、アジアの他の国や地域でも放送される見通しだ。TBSテレビは視聴率の低迷にもがいてきた。ただ再び人気ドラマを量産できる体制が整ったことで、今こそアジアに攻め込む好機とみる。CMスポンサーとなる日本企業とタッグを組み、広告とセットでコンテンツを現地に売り込む斬新な手法にも挑む。アジアを舞台に、「ドラマのTBS」と呼ばれた名門の復権をかけた同社の戦いが始まった。

(日経新聞電子版より)

 「半沢直樹」最終回は、リアルタイムで視聴出来た。合法なのか違法なのか分からないが、INTERNETの恩恵だ。
会社員を辞めてもう9年近くになる。それでも、このドラマを見ると会社員時代の心が興奮して眠れなくなる。「空飛ぶタイヤ」「下町ロケット」に引き続き、池井戸潤がますます好きになって来た。

最終回の終わり方を見ると、続編がドラマ化されだろう。
半沢直樹の続編「ロスジェネの逆襲」は既に出版されている。原作を今読むべきかどうか迷う所だ(笑)

ところで日本のTVコンテンツの海外戦略は何ともお寒いものがある。

昔、木村拓哉の「ロングバケーション」を中国中央電視台で放送していた。
中国でも日本のドラマが受け入れられているようで、嬉しかった。しかしその後、日本ドラマの位置は完全に韓国ドラマに奪われている。

以前中国で放送されていた『大長今』(邦題:宮廷女官チャングムの誓い)は全76話ある。
日本のドラマのほとんどが、四半期で完結なので、全10話程度しかない。

視聴率至上主義の現場では、リスク管理のために短く完結させるのだろう。視聴者の方も、娯楽の多様化などで飽きっぽくなっている。そんな事情が有り、日本ドラマそのものがどんどん小粒になっている様な気がする。

TBSの新しい海外戦略は、ドラマコンテンツだけでなくCMスポンサーもセットで提供すると言う。提供するCMスポンサーは日本企業なので、スポンサー側の広告予算を海外に流出することになる。国内売り上げは減っても、将来プラスになると言う戦略なのだろう。

将来を見据えた戦略ならば、アニメも有力なコンテンツになるだろう。
何せ未来そのものである子供が見る。日本アニメファンの子供が大人になった時、きっと日本に有利な市場が出来るだろう。
中国でも「ワンピース」「クレヨンしんちゃん」など子供向きのアニメ番組は相当人気があるようだ。アニメ番組の良い所は、キャラクターグッズ市場と連動させ易い所だろう。(中国では、きちんと版権が回収出来るかどうか、分からないが・苦笑)

日本の製造業(物造り)が空洞化してしまった今、物ばかりではなくサービス等にも焦点を当てたモノ造り産業に転換して行かなければなるまい。例えば、観光業などの産業で海外から顧客を呼ぶ。日本には、四季と言う自然資源、もてなしのココロと言う人的資源がある。
更に、創造性により価値を高める「モノ創り」に力を入れてゆかねばならないだろう。アニメ、ドラマ等のコンテンツもこの範疇だ。

物造り、モノ造り、モノ創りともに人が基本だ。特にモノ創りには者造りが重要となる。


このコラムは、2013年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第329号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】