品質保証」カテゴリーアーカイブ

続・医療事故

 先週のメルマガでは、医療ミスによる事故死について書いた。

「医療事故」

航空機、自動車、医療過誤による死亡件数を調べてみた。

  1. 航空機事故死:約1件/500万フライト
  2. 交通事故死:約1件/1万台・年
  3. 医療事故死:約8.3件/1万病床・年
    (交通事故、医療事故は米国内のみ)

航空機事故による死亡確率が桁違いに小さい。年2回春節休暇と国慶節休暇で帰国する私は年に4回航空機を利用する。多分一生航空機事故に遭遇することはないだろう。
交通事故死、医療事故死は桁違いに高い。

  • 航空機事故
    事故や重大インシデントが発生すると、第三者が徹底的に原因調査を実施し、
    全航空会社に再発防止対策、未然防止対策を勧告する。
  • 自動車事故
    警察が取り締まり・罰金により事故発生を抑止する。
  • 医療過誤
    医療業界は事故を隠蔽する。

この違いが事故の発生確率に大差をつけている。隠蔽は論外だが、取り締まり・罰則も無力だ。工場内の事故も同様だろう。


このコラムは、2020年7月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1003号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

非常識なパフォーマンス

 不良率、生産性などのパフォーマンスを業界内だけで比較をしていると「井の中の蛙」になってしまう。

例えばセットメーカは電子部品業者に対し不良20ppm以下の納入品質を要求されるところが多い。部品にもよるだろうが、まったく実現不可能な品質レベルではない。がんばれば何とか達成できる。

しかしこの要求を電源装置にも適用されて、大いに弱った。
電源装置の中には、電子部品、機構部品が200点ほど入っている。それぞれの部品が20ppmの品質レベルなのに電源も同じ品質要求では不公平ではないかと、お客様に苦情を呈した事がある(笑)

このお客様に収めた電源装置は生産開始初期につまらない不良を何度か出してしまったため、最終的には20ppmを切れなかったが、0ppmを何ロットも継続した。

電源屋は電源屋の常識で品質レベルを考えていると、そこそこのところで止まってしまう。電子部品業界の常識レベルにチャレンジすることにより、更に上のレベルに到達できるわけだ。

一方自動車関連部品やモジュールを生産されている方々は、初めから不良ゼロが常識である。
ひとつには人の命を預かる部品であるということ、更に部品不良が発生すると最終の完成車組み立て工程が止まってしまう。という理由により不良ゼロが常識なのである。この常識は自動車関連の部品メーカであれば、ネジ屋にも適用される。

このように業界を越えてパフォーマンス評価をすると、更に高い目標がでてくるものだ。

同じような作業をしているにもかかわらず、業界内比較をしてしまうとこの程度で十分というレベルになってしまう。ベストプラクティスを業界の外に求め、それにチャレンジする。同業者の中では非常識なパフォーマンスを実現することにより、業界内で圧倒的な競争優位が得られるであろう。


このコラムは、2008年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第45号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

那覇空港ヒヤリハット事故

 先週のニュースからで、自衛隊ヘリ、日本トランスオーシャン航空機、全日空機、のヒヤリハット事故を紹介した。
続報によると、
全日空機に対する管制官の「速やかに離陸せよ」と言う指示を、自衛隊副操縦士が自分への指示と勘違いした。
管制塔との通信の間に機長は、乗組員への指示や機内の点検にあたっていた。
そのため副操縦士の勘違いに、機長も気が付かなかった。
その結果離陸助走中の全日空機の前を横切ってしまった。
と言う顛末の様だ。

続報で新たに分かったのは、自衛隊のCH47ヘリは、操縦席から後方確認がしづらい構造になっていると言うことだ。

自衛隊那覇基地の幹部は、11日に記者会見で経緯を説明し再発防止対策を発表している。

各紙の報道によると、その再発防止対策は
朝日新聞

  • 乗組員への指示と管制のやりとりを同時に行わない
  • 離陸前に後方の安全を確認するために機首を向ける
  • 管制の指示の確実な聞き取り

日本経済新聞

  • パイロットが管制官の指示を確実に聞き取る
  • 離陸時には他機の状況を把握する

読売新聞

  • 重要な交信などを決して聞き逃すことがないよう運用を見直した

毎日新聞

  • 飛行量の多い那覇空港などについては、飛行前の点検などで機内のクルー間のやりとりが終了した後に、管制に離陸許可を得るよう運航手順を見直した

同じ記者会見からこうも幅のある記事が出て来るとは(苦笑)
取材記者の問題意識と理解度により同じ再発防止でも違う内容に理解される。

朝日新聞の「管制の指示の確実な聞き取り」日経新聞の「パイロットが管制官の指示を確実に聞き取る」これらは対策とは言わない。どうすれば「確実な聞き取り」となるのかもっと踏み込まねばならない。

読売新聞の記事では、運用をどう見直したか不明だ。毎日新聞の記事を読んで初めてどう運用を見直したかが判明した。

今回のヒヤリハットの原因は、

  1. 管制官の離陸許可を聞き間違えた。
  2. 離陸助走中のANA機を見落としていた。

の2点だと思う。これを更に真因まで原因分析を深める。

1.に関して、

出発前の準備完了後管制塔とのコミュニケーションをすると言う再発防止対策は、流出防止対策だ。
機長が出発前の確認、乗務員への指示に忙しく、ダブルチェック出来なかった、と言う「流出原因」の防止対策でしかない。
本来、なぜ他機に対する離陸許可を自機のモノと勘違いしたか?と言う原因を追求しなければならない。
記事には公開されていないが、管制官の指示「ANA○○便、速やかに離陸せよ」の前半がなければ、勘違いしてもムリはない。また管制官は、自衛隊機の復唱を聞いていないと言っているが、なぜ聞こえなかったのか?この原因を追及しなければ、形を変えて事故が発生する。
また「飛行量の多い那覇空港では」と再発防止対策に曖昧な制限を付けると、潜在要因に対する「未然防止対策」とはならない。

2.に関して、

自衛隊のヘリコプターは、昔の黒電話の受話器様な形をしており、操縦席から後方確認が出来ないのは、素人目にも理解出来る。そして災害救出の為に出動する自衛隊のヘリコプターは、管制設備が整った飛行場以外でも離着陸をしているはずだ。離陸時に一気に上昇しないで、ホバリングで前後左右を確認した後に上昇すると言うのは常識のはずだ。
何かまだ隠れている原因が有るはずだ。

大事故と言うのは、水面に浮かぶ氷山と同じだ。
大事故として見えているのは水面上の部分だけであり、水面下には大事故の何倍ものヒヤリハットが有る。
原因も水面下の氷と同じく、表面には見えていない。原因究明を表面的にやって、対策をしても水面上の氷は以前として存在し、また浮上して来る(事故は再発する)


このコラムは、2015年6月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第428号に掲載した記事に追記しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

C管理図

 C管理図は欠点数の工程管理に使用する。
布地の織り傷の数、液晶画面の欠点数などは、その発生確率はポアソン分布になる。例えば、交通事故の数、切符販売窓口に並んでいる人の数もポアソン分布だ。欠点は不良とは少し異なる。不良率は、その分母の数が分かっている。しかし欠点は分母が無限に大きくなる、もしくは良く分からない。

例えば交通事故の件数を率で表そうとした時に、分母はどう考えれば良いか?
車全部の数とすると、ちょっと変だ。1台の車が2度事故を起こすことだってありうる。
クリーンルーム内の1立方ft当りのダスト数の分母は何になる?1立方ftに入るダストの数なんて無限大だ。
こういう数はポアソン分布に従うと考えれば良い。

では、C管理図は何を管理しているのか?
当然ダストの数も、交通事故の件数もバラツキが有り、測定するたびに違う値となる。このバラツキは0から無限大まであり得る。しかし平均値から離れるに従って、その発生確率はどんどん小さくなる。

例えば、ある都市の平均年間交通事故件数が3,650件であり余り変動していないとすれば、1日に10件交通事故が発生する確率となる。しかし毎日10件発生する訳ではない、0件の日も有れば20件の日も有る。100件発生することもありうる。しかし1日に100件も交通事故が発生することは稀(発生確率が低い)になるはずだ。

C管理図は、偶然のバラツキなのか、何か原因が有ってバラついているのかを識別するために使う。
発生確率が0.3~99.7%の場合は、偶然のばらつき。
0.3%以下の場合は何か異変が有る。と判断する。

クリーンルームのダスト管理では、
実力範囲(確率0.3%以上で発生するダスト数の範囲)内のバラツキなのか、異常(確率0.3%以下で発生するダスト数の範囲)なのかを上下限の管理線の内側に有るか、外側に有るかで判断する。
下限管理線よりダストが少なければ良いではないか、と考えてはいけない。偶然ではない何かが起きている、例えばダストカウントの測定を間違えた、測定器が壊れたなどの異変が起きていると考えるべきだ。
これがC管理図の「理屈」だ。

全ての数字にはバラツキが有る。
このバラツキが「偶然によるバラツキ」なのか「何か原因があるバラツキ」なのかを区別することが、統計的品質管理の「理屈」だ。

理屈さえ覚えておけば、統計的品質管理は難しいことではない。


このコラムは、2015年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第432号に掲載した記事に追記しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

減収減益のボーイング、生産体制のずさんさが明らかに

 米ボーイングは24日、2019年1~3月期の決算を発表した。売上高は前年同期比2%減の229億ドル(約2兆5600億円)で、純利益は同13%減の21億4900万ドルの減収減益だった。

 減収減益の主因は3月10日に発生したエチオピア航空の事故以来、新型機「737MAX」の出荷を停止していることにある。同日のカンファレンスコールでデニス・ミューレンバーグCEOは「社員全員で737MAXの提供を早急に再開できるよう全力を尽くす」と話した。だが、問題解決には経営陣が考えているより長い時間がかかりそう。米国で同社の機体生産体制のずさんさがあばかれ、注目を集めているからだ。

 きっかけは20日に公開されたニューヨーク・タイムズの記事。記事によると、米サウスカロライナ州のノースチャールストン工場では、工具やとがった金属片などを機体の内部に残したまま顧客に引き渡すことがあり、複数回にわたり従業員が管理者に状況を報告していた。物が放置された場所の中には、コック
ピット下の重要機器類の配線が行き交う場所もあったという。十数人以上の従業員らの証言と数百ページに及ぶ社内メールなどを検証した結果、明らかになったとしている。

 同工場が生産しているのは、長距離飛行を可能にして売れ筋となった旅客機「787」。問題の737MAXが生産されているのは同工場ではなく米ワシントン州のレントン工場だが、こうした品質問題が「社風」となっている可能性はある。ここ数年、日本の生産現場でも数多くの品質不正が問題になっているが、そのほとんどで、1工場で発覚した不正は別の工場でも起きていた。

 「品質よりも業績を優先した結果だ」と記事は指摘している。
チャールストンの工場では今年初めから、月間の生産機数を従来の12機から14機に増やし、一方で品質関連の職員を約100人削減していたという。

 品質の改善には従業員の意識や風土の改革が必要になるため、相応の時間がかかる。ボーイングの苦難は、これから長期にわたって続くことになりそうだ。

(日経ビジネスより)

 ボーイング社の737Max機の墜落事故に関しては、本メルマガでも注視した。

大きな墜落事故を立て続けに2件も発生させたのだから、減収減益も当然だ。売り上げが前年同期比2%減、純利益同13%減という程度で済んだと言った方がよかろう。

更に追い打ちをかけるように、787機の生産工場で工具や金属片などが機内に残った状態で納品するという事故を起こしている。これらの残留異物が機内の配線、配管などを損傷すれば即重大事故が発生する。

アパレル関連の工場では、針やカッターナイフの混入は重大事故となる。電気・電子部品、製品でも梱包箱にカッターナイフの折れ刃が混入すれば重クレームとなる。

生産量が17%増えたからとか、品質担当が100人減ったからというのが言い訳となるようでは、重大事故を防ぐ仕組みが不十分であるとしか言いようがない。

マネジメントが現場から全く遊離してしまっているように感じる。
十数人の従業員を会議室に呼びつけて事情聴取をする、何百ページもの社内メールを読む、こんなことをしても現場を理解することはできない。自ら足を運んで現場を見れば、一目で重大な問題が潜んでいることがわかるはずだ。

現場の幹部・監督職にはそれが見えていたのではなかろうか?
金勘定しかできない経営幹部にそれが伝わっていなかったのか?伝えても無駄という諦観が現場にあったのか?

何れにせよモノ造りの企業としては重篤な病に冒されている状態と言わざるを得ない。


このコラムは、2019年5月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第817号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

ポカミス

 以前作業ミスに関する記事を書いた.

「作業ミス対策」

作業ミスの中でも「ポカミス」分かっているけどついうっかりやってしまうミスについて今回は考えてみたい.

ポカミスが発生する原因として

  • 疲労によるミス
  • 注意力散漫に夜ミス
  • 非熟練によるミス

などが考えられる.

人が作業をすれば必ず疲労やそれに伴う注意力の散漫が発生しうる.また作業環境によっては注意力が散漫になることもありうる.

そのため作業のムダ取りをして作業者の疲労を軽減する.
職場環境を整え,集中力が落ちないようにする.
といったことは必須であるが,これだけでは十分では無い.

ポカミスが発生しないようにする.万が一発生しても次工程に抜けてゆかないようにする.いわゆる「ポカよけ」と「ダブルチェック」が必要だ.

「ポカよけ」というのはミスができないようにすることだ.
例えば取り付け方向を間違えないように,取り付けネジ位置を非対称にする.こうしておけば反対方向に取り付けようと思っても組み付かない.

コピー機を開けるとやたらレバーがあり,それを解除しないと感光ドラムやトナーを交換できないようになっている.このレバーを戻し忘れると扉にぶつかって閉まらないように設計されている.これもポカよけだ.

「ダブルチェック」というのは文字通り2回チェックすること.
作業をした本人がチェックをし次工程の作業者がもう一度チェックする.一人だけでもダブルチェックは出来る.しかし単純に2回見ただけでは「ダブルチェック」にはならない.

例えばネジ締めをする場合,必要なネジをあらかじめ取りおいて作業完了後にネジの過不足が無いことをチェックする.こういう確認が「ダブルチェック」になる.

旅客機に乗ると駐機スポットから切り離される際に「乗務員はドアをオートモードにして相互確認してください」という機内放送が流れる.これが「ポカよけ」と「ダブルチェック」だ.

旅客機は万が一の際に扉を開けると脱出用のシューターが飛び出してくることになっている.しかし駐機スポットで扉を開けるたびにシュータが飛び出すとちょっと厄介だ.
そのためマニュアルモードというのが設けてあり,通常時扉を開けるときはマニュアルモードにしておく.飛行中はオートモードにし万が一に備えている.

このモード切替レバーにポカよけピンがあり,オートモードにしなければこのピンが取り付けられないようにしてある.駐機時扉が開いているときはこのポカよけピンを開閉レバーにタスキ掛けにかかっている帯にくるみこまれている.扉を閉めるためにはこのタスキを取らなければならない.タスキを取るとポカよけピンがでてくるという仕掛けだ.

更に乗務員は一連の動作が終わると,自己確認後別の乗務員と立てた親指を見せ合う.これが「ダブルチェック」だ.

もちろん全ての作業に「ポカよけ」「ダブルチェック」を入れているわけではなく,ポカミスが発生すると安全運行に重大な支障がある作業だけだろう.

非熟練によるミスは作業訓練で補えばよいのだが,それでもしばしばミスが発生する.

ある方から製品ラベルが傾いて貼られるというミスがなかなか無くならないというご相談を受けた.
この場合はラベルが傾いているという不良が工程内で見つかっているので「ダブルチェック」はできていると考えて良いだろう.(理想はラベル貼り工程で「ダブルチェック」がかかること)

またラベルを貼る位置には目印枠をつけてある.不完全だが「ポカよけ」もあるといってよいだろう.

それでもミスが発生する.
いくら作業訓練をしても発生する.
中にはものすごく不器用な人がいて,いくら練習しても上手にならない人はいる.こういう人を作業員として採用するのが間違いだが,まずは教え方を見直してみる必要があるだろう.

こういう作業の下手な人と上手な人(早くしかも正確に貼れる)との差を良く観察すると作業方法の違いが分かる.下手な人は目印線を水平または垂直にして非常にぎこちなく貼る.
上手な人は貼り付けるモノを少しナナメに置いて,目線も真上からではなく少し傾けて目標を見ている.

ただまっすぐ貼りなさいと言うだけではなく,上手くできる人のやり方を教える.それでもだめなら仕事を変わってもらうしかないだろう.


このコラムは、2009年7月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第105号に掲載した記事を修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

モノ造りの心

 先月無料工場診断でヨーロッパ資本の中国工場を訪問した.
ヨーロッパから経営幹部が何人も駐在しておられた.しかし驚いたことに殆ど現場を見ていないように思える.

品証担当のドイツ人と話をしたが,どうも我々と論点がずれている.
顧客から作業ミスの不良が多いとクレームを受けているのに,現場には作業指導書もない.
この点を指摘すると,作業指導書はあるといって,秘書に持ってこさせて見せてくれた.作業指導書は現場ではなく彼のオフィスにあったのだ.

ヨーロッパ資本の中国工場を訪問するのは初めてだったので面食らった.

日本の企業は「現場起点」で物事を考えていると思う.
そういう言い方をすれば,米国の企業は「マーケット起点」だろうか.
ヨーロッパの国々は古くからマイスター(職人)を大事にする文化があると思っていた.日本よりも職人に対する評価は高いように思う.

職人が現場から離れてしまっては,陸に上がった河童のようなものだ.

いずれにせよ,この工場の中国人社長さんは危機感を持っておられるようで再度打ち合わせに呼ばれた.社長さんには改善活動を通して改善リーダの育成をしましょうと提案してきた.


このコラムは、2008年11月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第61号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

明治乳業のビン牛乳、さび混入 159万本回収

 明治乳業(本社・東京都江東区)は25日、大阪府貝塚市の関西工場で製造された瓶入りの牛乳とヨーグルトに赤さびが混入していたとして、関西2府4県の宅配用の5商品計約159万本を自主回収すると発表した。混入は微量で、健康への影響はないとしている。

 22日に顧客から指摘があり、関西工場を調べたところ、回収した瓶を洗浄する作業で、仕上げのすすぎに使う水のタンク内で赤さびが見つかったという。

(asahi.comより)

この手の事故の報道を見るたびに,どうして未然に防げなかったのかと思う.

生産設備は毎日点検しているはずだ.
すすぎ水のタンクの点検が行われていなかった.
または点検は行っていたが,赤錆を見逃した.

すすぎ水のタンクが点検項目から漏れていたのならば,点検項目に追加をすれば良い.
しかしそれだけでは不十分だ.製品に影響を与える可能性のある潜在事故を洗い出して,見直しをする必要がある.

点検項目に入っているが見逃した,この場合の対策はどうすれば良いであろうか.
「作業員に対して点検作業の教育訓練をする」という対策では不十分である.点検の基準はきちんとしていたのか,点検方法に問題はなかったのか,見逃した原因をきちんと解析をして対策を打たなければならない.

作業者が不慣れなためのミスだったとしても「教育をする」で十分とはいえない.
教育方法・資料,教育の時期・頻度について改善すべき事がないか検討しなくてはならない.

以上の対策が出来てもまだ不十分である.
これらは錆の発生を見逃すという流出に対する対策でしかない.
錆が発生するという原因に対する対策が足りていない.

あなたの工場では同様の問題が発生するリスクがないだろうか.
一度こういう問題を出してしまうと,回収のための費用損失が発生するばかりか,顧客の信頼を失うという致命的なダメージを受ける.

致命的な品質不良が発生する可能性のある事故を洗い出してFMEAなどを活用してあらかじめ対策を打っておく必要がある.
業種が違ってもこのような事故は社内を再点検する良いチャンスである.


このコラムは、4月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第31号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

顧客クレーム(傷)

 先週に引き続きお客様からのクレームを紹介しよう.
顧客クレーム(誤出荷)

お客様から返却された製品は,プラスチックケースにカッターナイフで付けられたと思われる傷が一直線についていた.これが梱包箱に2,3個ずつ見つかるという.

製造工程の中ではカッターナイフを使う工程はない.
従って製造工程内で傷をつけていることはありえない.

梱包箱に付き2,3個ずつ見つかっていると言う状況から,開梱時にカッターナイフを使い誤って中の製品に傷をつけたと推定した.一直線の傷跡とも一致する.

工場の中で開梱するチャンスは,出荷抜き取り検査(OQA)だけである.
出荷抜き取り検査では製品に傷をつけないように,カッターナイフの使用を禁止している.カッターナイフの変わりにPWBの切れ端を少し尖らせた物を使用している.

これは以前,プリント基板(購入品)の梱包箱を開梱する際にカッターナイフで傷をつけてしまった経験から,全工場に水平展開した対策である.

さらに箱ごとに2,3個ずつ不良があるというのも,OQAで傷を付けたのを否定する要因である.なぜならOQAの抜き取り数量から言えば,一ロットに一箱分検査すれば十分だからである.

以上の検討から,傷はお客様で開梱する際につけたものと判断.
そのように報告書を作成し,報告した.

再発防止対策はお客様に要求しても良かったのだが,こちらは梱包箱の中に一枚ボール紙を追加して梱包するよう梱包仕様を変更した.身銭を切って再発防止をする必要はなかったかもしれないが,その方がお互いのためと判断した.

以降このお客様から同様の不良返却は一切なくなった.


このコラムは、2007年11月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第7号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

機能検証と妥当性検証

 先週の「失敗から学ぶ:「Galaxy Fold」発売延期」に読者様からコメントを
いただいた。

※I様のコメント

何時も楽しく拝読させて頂いています。
激動の中国で数十年、頑張っていらっしゃる姿に、感動すら覚えます。

さて、今回のメール内容で珍しく「アレ」と思ったのでメールさせて頂きました。

完成を待たずに販売に走る典型と言へば、Windowsが上がると考えます。
当時、某ゲイツらはDOSからの更なるシェアー拡大など狙い、キャラティカルデザインからUNIX系が試していたグラフィカルデザインを模したWindows3.0(もっと前のバージョンもありますが割愛)を無償配布し、市場の反応を見て、間も無くWindows95を販売致しました。
これは、今でも続いている通り、不具合発生毎にバージョンアップの形で、時には有料にて修正しています。
ソフトウェアとハード的に縛りがあるスマートフォンやタブレットを、同じ土俵で考えるのは浅はかかもしれませんが、モノづくりはとりあえずやってみようの精神が大事です。
サムスンのやり方は、顧客を無視していますが、市場で使ってもらい、データーを蓄積させて行く形と考えれば、間違いではありません。
何時もの先生(勝手にそう呼んでいます)の意見なら、そこを突いて来るかなと思ったので、初めてメール致しました。

日本に戻って既に7年経ちますので、感覚に変化があるかも知れませんが、モノづくりの現場は忘れていないつもりです。

これからも有益な情報、よろしくお願いいたします。”

 ご指摘の通り、ハードウェアとソフトウェアは同列に考えるのはむつかしいと思う。

市販ソフトウェアの場合は開発費以外の変動費コストはかなり低くなる。したがってα版、β版と称して市場にばらまき、反応を見る(バグ取りをする)のはアリだと思う。

しかしハードウェアの場合は1台ごとにコストがかかっているのでサンプルバージョンを無料配布して市場の反応を見ることはできないだろう。
以前頻発したリチウムイオン電池の発煙・発火事故などが発生すれば、無料配布なのだから、というのは免責にはならない。

巨大化・複雑化するソフトウェアの信頼性検証は相当困難だろう。どれだけ検証評価をしても「バグはもう一つある」というのが業界の常識の様だ。そんな訳で銀行システムや、航空券発券システムがダウンしても「バグならしょうがないか」という諦めが社会的に許容されているように見える。

しかし今回の事例のようにハード購入後わずか数ヶ月で壊れてしまうというのは、購入者にとって許容できるレベルではないと思う。当然生産者にとっても無償保証期間内の故障なので莫大な品質損失が発生する。

先週の記事は、「そんなことにならないように事前検証をしっかりしましょう」というつもりで書いた。

ソフトウェアのバグも社会的に大きな損失を与える可能性大だが、どうすれば良いか、実は私にもわからない(苦笑)
「10連休後にアクセスが集中したら」の様に過去事例から検証パターンを作ることくらいしか思いつかない。
そういう意味ではI様がご指摘の通り「市場で使ってもらい、データーを蓄積させて行く」ことになる。(業務システムでは不可能だろうが)

しかしハードウェアの機能検証、妥当性検証は、もっと簡単に出来そうだ。

例えばスマホの寿命を5年(機能の進化が激しいのでもっと短い?)とし、1日の開閉回数を10回とすれば、10×365×5=18,250回程度の開閉試験を実施すれば確認できるはずだ。

保護シートを剥がしてしまったために故障したという事例もあった様だが、妥当性検証評価に「ユーザが間違って保護シートを剥がしたら」という仮定を評価項目に加えることはそんなに難しくはないだろう。


このコラムは、2019年5月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第824号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】