品質保証」カテゴリーアーカイブ

終わりなき改善

 ずいぶん昔のことになるが、シンガポールのハードディスク工場を訪問したことがある。
工場を見せていただいて、工程内不良が多いのがすごく気になった。案内をしていただいた幹部の方に質問すると、歩留まり率が80%を超えたので、もう改善はしていない。改善のリソースは全て新機種の立ち上げに投入している、という説明だった。

当時(1993年)のハードディスク業界は、容量アップの競争が激しく、新機種をどんどん投入しないと、旧機種の売値が即下落してしまうという状況だった。

その話を聞いた時に、合理的な経営判断と感じたが、その後もずっと違和感を感じていた。量産製品の生産指導をするようになって、その違和感の原因が分かって来た。

まず第一に、改善リソースと新機種立ち上げリソースがトレードオフ状態になっている事だ。つまり新機種立ち上げに人を投入してしまうと、旧機種の改善を担当する人がいなくなってしまうという事だ。

私たちは、量産開始時に設計完成度、生産技術完成度が一定の水準に達している事を確かめ、その後は現場のリーダが継続的に改善を進める、というやり方をしていた。そのため、新製品の立ち上げリソースは量産開始後すぐ次の新製品に取りかかることができる。

まれに、生産性や品質を改善するために、設計にさかのぼって変更をかける必要がある事もあったが、それが原因で新機種の立ち上げが遅れる事はほとんどなかった。

第二の原因は以下にある。
旧機種の改善により、設計完成度が量産開始時には相当高いレベルに達する事が出来ていた。量産品の設計完成度とは、作り易く不良が出ない、と言う事だ。旧機種の問題の改善は、新機種の設計にどんどんフィードバックする仕組みを作った。
例えば、設計審査時に製造部のメンバーも参加し、生産性のレビューをする。量産試作時は当然だが、技術試作時にも製造部、生産技術が積極的に参加をするようにした。

これは相当効果が高かった。このシステムを導入した当初は、設計部門は仕事が増えると、陰で反対したモノだ。しかし実際には量産リリース後の手間は激減、しかも試作時に製造部や生産技術が手伝うので、試作にかかる設計部門の作業も軽減出来た。

更に大きな効果は、製造部、生産技術の生産側のメンバーが、開発初期から設計に関わるので、彼らの意欲が向上した。それまでは、出来の悪い機種を「造らさせられている」というネガティブな思いがあったが、造り易い機種にするために、積極的に設計に関わるというポジティブな意欲となった。
当然設計部門と生産側のコミュニケーションが格段に上がった。

こういうレベルとなると、製造部がコツコツと改善する。そしてその成果は次の機種の設計に反映されるという、ポジティブサイクルが出来上がる。

私たちが生産していたのは、電源装置であり、ハードディスクの生産とは直接数字の比較は出来ないが、量産開始後3ヶ月以内に工程内不良を100ppm以下にすることができた。つまり直行率が、99.99%という意味だ。歩留まり率は、修理して良品になった物も良品としてカウントするので、歩留まり率は100%だ。

歩留まり率や直行率の目標を置く事は間違いではない。しかし中途半端な目標に満足するのは勿体ない。

改善を阻害する要因(リソース不足)を排除する。つまり製造現場の改善力を鍛え上げる。それにより生産が続く限り改善が継続するようにする。
過去の設計・生産経験を積み上げる仕組みを作る。
私はこの二つに取り組むことにより、ハードディスク工場で感じた違和感を払拭した。


このコラムは、2012年9月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第276号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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顧客クレーム(誤出荷)

 以前、生産委託工場から出荷した製品の中に違う機種が一台混ざっていたというクレームをお客様からいただいた事がある。

クレーム品を調べてみると、製品そのものは同じだがラベル銘版を別機種の物を貼って出荷してしまった事が判明。全く同じ製品なのだが、お客様が仕向け地別に型名の枝番号を変えているので、ラベル違いで3機種ある。ラベルも型名の最後の二桁が違うだけで、他は全く同じである。

したがってラベルを貼り間違えてしまう可能性は、生産開始時点から予測していた。
そのため型番ごとに作業指示書を3セット用意し、ラベル貼り作業、目視検査工程の作業指示書にはラベル現物を表示した。

それでも問題は発生した。

工程の記録によると、内部異物(ケースを振るところころ音がする)不良でラインアウトした物がある。内部異物不良が発しすると、超音波融着してあるプラスチックケースを開けて、中の異物を確認・除去しなければならない。従ってケースは再利用できず交換することになる。ラベルも新たに貼らねばならない。

通常であれば修理完了後ライン復帰しラベル貼り工程、目視検査工程を通るので、不良は発生しないはずである。

更に班長の記憶を調査してみると、修理品のライン復帰時に既に別の機種を生産しており、別の機種が流れているラインで班長が持ち回りで、検査梱包工程を通した事が判明。
このときに班長が作業者に間違ったラベルを渡し、目視検査員も見逃してしまった、というのが真相のようである。

万全を期して不具合が発生しないようにしていても、このように意外な落とし穴があるものである。

注意しなければいけない落とし穴は、修理品のライン復帰、抜き取り検査品の戻し先間違い、など見落としがちなところに潜んでいるモノである。


こちらの記事もご参考に
第八回品質道場「品質改善」


このコラムは、2007年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第6号に掲載した記事に加筆したものです。

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品質クレーム

 エアーバックの回収問題、杭打ち作業のデータ偽造問題などが、社会的にも大きな問題になっている。過去にも品質クレームがきっかけで廃業した牛乳メーカがあった。

一方、1件の異物混入事故で全数市場回収・生産停止をした焼きそばメーカの事例も記憶に新しい。このメーカは事故発生後すぐに生産設備の刷新を決断している。その間市場からは自社製品が消えてしまう。通常ならば消費者から忘れられてしまい、生産を再開しても売り上げは激減してしまうだろう。
しかし事態は逆だった。生産停止期間中も、消費者から激励のメールや電話があったそうだ。生産再開後は以前よりも市場占有率を上げた。

品質クレームをきっかけとし社会的信頼を失ってしまい、倒産してしまう企業、品質クレームがあっても、顧客が離れない企業との違いは何だろうか。

もちろん熱狂的なファンがいる事も要因だろうが、品質クレームに対する処置・対応の差が重要要因と考えている。この違いで、一方は倒産、一方はシェアアップと雲泥の差が付く。

前職時代にこんな経験をしたことがある。

あるお客様向けの、内蔵電源を受注した。
第一ロットの生産が完了し、出荷判定会議を開催した。出荷判定合格の基準を全て満たしていたが、工程内不良0.7%が全て同一部品による不良であった。しかし不良原因は、部品メーカにて解析中でありまだ不明。このため出荷判定不合格とした。
しかし、出荷を止めれば顧客から納入遅延クレームをいただくことになる。
工場には、該当部品を全て(検査良品も)セカンドソース部品と交換、再検査、全検査データで工程能力の再計算をした上で出荷準備をしておく様に指示をし、翌日顧客に、事情説明とお詫びに訪問した。

当然叱られると思い、技術部長も帯同した(同じ叱られるなら2人の方が若干でも心強いと思った・笑)
しかし出荷停止の説明をした後、腕組みをしていたお客様から信じられないお言葉をいただいた。
「さすが横河さん。御社にお願いして正解でした」

実はこのお客様は、従来から電源は自社設計する事に決めており、外部に設計を含めて委託する事は初めてだったそうだ。しかし電子回路設計者が、ディジタル回路にシフトしてしまい、電源設計者が減少。従来の設計を伝承しながら製品化していたが、基本設計が古くコストダウンが思う様に出来ない。そのため同じ業界の競合他社にも電源を供給している前職の会社にオファーをいただいたようだ。

初めての製品で、第一ロットから納期遅延。当然信頼を失っても仕方がない場面だが、逆に信頼を得る事が出来た。
これは正しい処置と対応が出来たからだと考えている。


実は周辺装置のプロキュアメントエンジニアだった頃から品質保証を担当した期間、相当の修羅場を経験して来ました(笑)
第八回品質道場「顧客クレーム対応」では顧客クレームに対する処置・対応に関して私の経験をお伝えします。


このコラムは、2015年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第450号に掲載した記事に加筆したものです。

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QCC成果発表交流会

2016年12月16日にQCC成果発表交流会を開催しました。
5チームのサークルから発表をいただき、50名弱の皆さんとその活動成果を共有しました。
その概要をご紹介します。

  • 検査課チームimg_1482s
    テーマ:完成品の運搬効率改善
    活動内容・成果:
    FQC検査時に完成品を運搬する無駄、完成品梱包箱を積み上げる重量物作業を改善するテーマに取り組み成果をあげた。

    • FQC検査を製造現場端で行うことにより、完成品梱包箱の運搬、開梱、再梱包作業をなくした。
    • 運搬台車を自作し、パレットへの積み替えをなくした。

    コメント:自部門の効率改善ばかりでなく、出荷品の保管方法を改善し、出荷作業も改善する素晴らしい活動であった。

  • 活力チームimg_1483s
    テーマ:投資効率450倍!生産性改善活動
    活動内容・成果:
    理論上の生産台数423台/日に対し300台/日しか生産できていない。営業の要求400台/日を目標にして改善活動。
    以下の改善を実施し、目標を達成

    • 作業員の目標意識の向上
    • ライン長の離席者補助の遅延をなくす
    • 作業員の離席管理改善
    • ロット切り替え時間の短縮
    • その他6項目の改善

    コメント:
    対象の生産ライン(U字セルライン)はラインバランス99%とというほぼ理想的なラインだが、理論通りの生産量が上がらない要因15個をあげ優先順位をつけて4項目の重点改善、6項目の改善を実施。
    テーマ選定、対策実施を優先順位をつけて活動できた。
    改善効果を他のセルラインにも展開し、歯止めもよく行っている。

  • 冲锋チームimg_1485s
    テーマ:I042不良率削減
    活動内容・成果:
    加工要因による不良(6.98%)の原因を洗い出し、対策を実施。
    不良率3.01%まで改善。
    コメント:
    サークルメンバーと部門長が問題点としてあげた項目を1項目ごとに議論し、「すぐやる」「今回はやらない」「QCCで解決する」に分類して活動テーマを決定している。このようなやり方により、会社方針、部門方針にマッチした活動が可能になる。
    特性要因図によりあげた不良要因を、EDS分析、FTIR分析などの科学的ツールを活用し検証している。
  • TEAM広東img_1486s
    テーマ:金型交換80%短縮
    活動内容・成果:
    段取り替え時間短縮活動により、金型交換時間81分→16分(80.2%削減)176分→35分(80.1%削減)することができた。これにより少ロット生産が可能となり、中間在庫が削減できた。
    コメント:
    「問題解決型」のQC活動ではなく、課題を設定し現状とのギャップを埋める「課題達成型」で活動すると、ストーリィの展開がスムーズになる。また中間在庫の削減も大きな成果(スペースの削減、運転資金の効率向上)になっているはずなので、成果にカウントするとなお良い。
  • 先鋒サークルimg_1489s
    テーマ:モータ絶縁不良の改善
    活動内容・成果
    工程内で発生した絶縁検査不良をゼロにする活動。6項目の改善対策を実施し、3ヶ月約90万個生産し絶縁不良ゼロを達成した。
    コメント:
    QCサークル活動を開始してまだ1年足らず。初めての活動で立派な成果をあげることができた。
    対策を検討するときは、発生原因と流出原因に分けて検討すると良い。
    絶縁不良の原因となる金属異物の発生を防ぐのが原因対策。金属異物を除去する、検査するのは流出対策。
  • 表彰式
    参加者の採点により、以下のサークルが表彰されました。

    優秀賞第一位:検査課チーム 発表テーマ:完成品の運搬効率改善

    qcc1

    優秀賞第二位:活力チーム 発表テーマ:投資効率450倍!生産性改善活動

    qcc2

    優秀賞第三位:冲锋チーム 発表テーマ:I042不良率削減

    qcc3

    優秀賞:TEAM広東 発表テーマ:金型交換80%短縮

    qcc4

    優秀賞:先鋒サークル 発表テーマ:モータ絶縁不良の改善

    qcc5

  • 懇親会
    成果発表交流会後の懇親会で、他社のサークルメンバーと交流できました。
    私は、「金型交換80%短縮」を発表したTEAM広東を派遣してくださった総経理から、こんな話を伺いました。
    金型交換時間が1/5になったことで、少ロット生産が可能になり、生産現場のスペースが節約できた。それ以外にも大きな成果があった。事例発表は成型部門のリーダが担当したが、日本語の通訳を後工程の組み立て工程のリーダが担当した。実はこの二人は仲が悪かった(笑)前後の工程には何かと確執があるモノだ。会社代表として二人が発表する事になり、発表練習でお互いの立場をより理解出来たようだ。特に通訳を担当したリーダが遅くまで練習しており普段とは違う一面を見ることができた、と総経理は話してくださいました。
    QCC活動には、サークルや職場のメンバーのチームワークや人間関係改善の効果があります。サークルや職場を超えて協力関係が構築されるのを、総経理は狙ったのかもしれません。

今回事例発表サークルを派遣してくださった企業様

逆転発想

 「逆転発想」とは我ながらへたくそなネーミングだと思う(笑)この「逆転」は一発逆転の逆転ではない。右回りに対する左回り、という意味で正転、逆転という言葉を当ててみた。

例えば、改善活動で誰かが改善案を提案したとする。この時に「○○だからそれは上手く行かない」という考え方を逆転発想すると、「○○という制約を解決すれば上手く行く」となる。

ポジティブシンキングとは少し違う。制約条件により上手く行かないと発想するのではなく、制約条件をアイディアを実現させるための解決課題と考える。
発想の方向を逆にするという意味だ。

設備の可動率を上げるために金型交換時間を短縮する、という改善を考えて見よう。次に使う金型を台車に乗せて事前に準備する、という「外段取り化」を考えたとしよう。段取り替えのエンジニア達は、200kgもある金型を台車に乗せて運ぶのは無理だ,と反対する。しかし金型用の昇降台付きの台車を用意すれば可能となる。

逆転発想が上手く出来ないのは、意外にも経験のある優秀な者だったりする。
長い間「正転」で考える習慣がついているので、発想の転換が難しいのだろう。

市場で発生した発煙事故の原因を検討する時に、電源の過電流保護が働かないと発煙事故につながる、という仮説を立てたとしよう。どのような場合にその様な現象となるか?と設計部門のリーダに質問すると、暫く回路図を睨んで「設計は間違いない。そんなことは起きない。」と正転で考えるので、会話が噛み合ない。どの部品が故障すれば、保護回路が働かなくなるか?という発想で考えて仮説が正しいかどうか検証するのではなく、設計に誤りがない事を先ず考えてしまうのだろう。

QCC活動で改善をしている時も、その改善案には投資が必要だからダメだ、と可能性に自ら蓋をしてしまう事がある。
逆転発想では、先ずはどのくらいの投資が必要なのか見積もり、投資が見合う効果が出るか検討する。更にもっと安く同じ効果が得られる方法がないか検討する,という手順になる。

逆転発想で上手く行く体験をすると、次から逆転発想をする様になる。
この様な体験を「目からウロコが落ちる」というのだろう(笑)


このコラムは、2016年12月5日配信のメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第505号に掲載した記事です。
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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

現場改善

 中国企業で生産改善の指導をしている。行き当たりばったりの改善ではなく、計画的な改善、メンバーの達成感と問題発見能力、解決能力を育成するため、QCCの手法を使って指導をしている。

製造現場の主任さん達から、自工程の問題、改善課題を挙げてもらった。
全部で17項目の課題が集まった。初めてQCC活動に取り組む人たちなので要領が得られない様で、すぐに改善出来る項目が大半を占めていた(苦笑)
それらを「すぐにやる」項目として、取りかかってもらった。これだけでも、相当な改善効果となる(笑)

現状把握、原因分析をしなければ対策につながらない、QCC活動として取り組む価値があるテーマを選び、チームで改善を始めた。

部品の組み付け作業が時間がかかる、という問題だ。
この問題の改善のために、製造,設計、生産技術、品証のメンバーでチームを作り活動する事にした。

先ずは現状把握だ。
どのくらい時間がかかっており、どの作業が困難なのか説明を聞いてもよく理解出来ない(苦笑)作業が大変だと分かっているが、その現状を定性的、定量的に説明する習慣がなかったのだろう。他の機種の倍時間がかかる、だけではさすがに理解出来ない。早速現場で現状把握をする事にした。
目的を持って現場を観察すれば、問題点を整理し、現状の「悪さ加減」を定量的に把握出来る。先ずはここからスタートだ。

今まで経験がない、という事はハンデに違いないが、逆に考えればその分成長の伸びしろが大きいという事だ。
同様の状況で指導した同業の工場では、初めての活動で作業効率を4倍にした事がある。


このコラムは、2016年11月21日配信のメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第503号に掲載した記事に若干加筆したものです。
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QCC活動の効能

 品質月間にQCC活動の効能について考えてみたい。
戦後焼け野原となった日本が「世界の工場」としての地位を築いた背景に品質管理活動があった。その活動を全社従業員にまで展開する役割を担ったのが、QCC活動と言っても良かろう。

既にQCC活動の効能は証明済みだが、その後日本経済はバブルに向かいデフレに陥る。バブル崩壊期にQCC活動が下火になり始めた、という印象を持っている。
バブル崩壊後、日本の製造業が徐々に力をなくして来た。特に電器業界の凋落が目につく。家電業界は軒並み中国企業に買われてしまった。

家電業界の衰退とQCC活動の衰退を結びつけるのはムリがあるかも知れない。
しかしバブル崩壊後多くの製造現場で現場力を失いつつあるのは事実だろう。
日本製造業の現場力の源泉だった人財が、派遣・アルバイトなどの人材に置き換わり、改善力が失われた。QCC活動の様な改善力を鍛える場が無くなれば、現場力を維持する事も困難だろう。

QCC活動の効能は、実際に得られる改善効果だけではなく、人財育成効果があると考えている。特に中国の様に、教育水準にばらつきがある従業員の底上げに大きな効果がある。

監督職の指示通りに作業をするのが仕事と思っている人たちには、改善への動機も意欲も生まれないだろう。しかしQCC活動を通して、自ら作業方法の改善を体験する。この体験を喜びと感じれば成長は早い。

中国の生産現場におけるQCC活動の最大の効能は、人財育成効果だと考えている。
それは知識のみならず、自ら成長意欲を高める効果がある。


このコラムは、2016年11月7日配信のメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第501号に掲載した記事です。
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QCC3.0

日本の製造業が、力を付け「モノ造りニッポン」と言う称号を得た影には、品質に対する継続的改善が有ったと言って良かろう。
当時先を走っていた欧米先進国に一歩でも追いつこうと、執拗なまでに改善活動をして来た。その原動力がQCC活動であり、QC七つ道具などの手法だ。
これをQCC1.0と名付けてみたい。

QCC1.0とは、以下の手順に従った問題解決型活動だ。
現状の問題を把握し、原因を分析し、改善対策を実施する。すなわち現状の「悪さ加減」を見つけ、改善する活動だ。日本の製造業がもっとも得意とする改善活動であり、これはもはや日本企業のDNAと言っても良かろう。これを継続し続けたことにより、他に追随出来ない品質レベルを達成した。QCC1.0が日本の戦後復興を助けたのは間違いない。
しかしそれがビジネスとして成功しているかと言うと、はなはだ疑問だ。
コモディティ化してしまった家電製品などは、中国企業に追い上げられている。
一方日本にはアップルの様な魅力的製品を創造する企業は稀だ。

QCC1.0が有るのならば、QCC2.0も有る。そうでなければわざわざ1.0と名付けた意味がない(笑)

元々QCC活動は、製造現場を中心にして取り組まれて来た。しかしTQCと言う概念が出て来る。全社で取り組むQC活動と言う意味だ。間接部門を含む全社で取り組む活動となってきた。これをQCC2.0と呼びたい。

間接部門も製造部門と同じ様に、現状の悪さ加減を把握し、原因を分析して改善すると言う活動をしたが、製造部門の様には上手く行かない。製造部門の問題は、解決すれば大きな成果が得られるが、間接部門の問題はさほど大きな成果が期待出来ない。それよりも今の業務レベルをもっと上げる、新しい業務に取り組む、と言う活動の方が大きな成果が期待出来る。しかしこの様な活動
は、QCC1.0の現状把握・原因分析の問題解決型アプローチでは、上手く行かない。

そこで考え出されたのが、「課題達成型活動」だ。
例えば、フレキシブルな納期対応をする為に、従来ロットごとにまとめ生産をしていたのを、平準生産に変えたい、という課題が有ったとする。
これを問題解決型アプローチで取り組むと、ムリがある。現状(まとめ生産)の悪さ加減を把握しても、平準生産に移行する対策は出て来ない。
「課題達成型」は平準化生産と言う「理想状態」を実現するための課題を定義して、実現していくと言うアプローチになる。

この事例の活動を、無理やり問題解決型で活動することも可能だ。
「顧客の納期要求に応えられない」と言う問題を解決する活動として、現状把握をしてみたら「まとめ生産」がフレキシブル生産を阻害し、顧客納期要求を満足出来ない原因と判明した。この原因に対する対策を検討する。と言うストーリィになる。
しかし「無理やり感」が漂う。顧客の納期要求に応えられる様に「平準生産を行う」という課題を設定し、どうすれば良いかを検討した方が素直で良い。

つまりQCC1.0とQCC2.0の違いをまとめると以下の様になる。
QCC1.0は「何を改善するか」と言うWhat型の活動。
QCC2.0は「どうやって課題を達成するか」と言うHow型の活動。
別の言い方をすると、
QCC1.0は過去と現在の悪さ加減を改善する活動。
QCC2.0は現在もしくは未来に設定した課題を達成する活動。
となる。
QCC2.0の活動は、「改善」ではなく「改革」を目指すことができる。
しかし先に述べたように、この活動をしていれば「アップル」の様になれるかというと、否定的な答えしか返って来ないだろう。

アップルは、今までユーザが体験したことが無い製品を創造することにより、ユーザに「魅力的品質」を提供する企業と言って良いだろう。
「問題解決」「課題達成」では不十分だ。それに加えて「価値創造」が必要だ。

価値創造型のQCC活動をQCC3.0と名付けたい。
問題解決型活動も課題達成型活動もその活動目標は、自己都合だ。
価値創造型活動の目標は顧客都合だ。顧客が考える理想状態をまず知ることが必要となる。
顧客が考える理想状態(What)をどのように実現するか(How)、QCC3.0はWhat+How型の活動となる。

顧客の期待する理想状態を実現させれば「顧客満足」が得られる。

顧客が期待していなかった欲求を満たせば「顧客感動」が得られる。
アップルが目指しているのは「顧客満足」ではない。彼らはユーザに、どんな製品が欲しいですか?などと言うアンケートはしない。
まだユーザが期待すらしていない「感動価値」を創造しようとしているのだ。

アップルは、天才のアイディアと強力なリーダシップで、感動価値を創造する企業だ。
我々凡人はQCCの様なチームワークを使ったフレームワークで対抗するしかないだろう。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年7月13日号に掲載した記事に加筆しました。
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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

段取り八分

 段取り八分と言う言葉が有る。段取りが出来れば仕事の八割は完成、という意味だ。元々段取りと言うのは、石段を作る時に、高度や勾配から何段の石段にするか計算することを意味したそうだ。現代人は三角関数を駆使し計算機で簡単に解を求めることが出来る。しかし昔の人々にとっては,段取りは高度な技術だっただろう。段取りさえ出来れば、後は人工仕事だ。

工場には「段取り替え」と言う作業が有る。段取り替えそのものは付加価値を生む作業ではない。しかし段取り替えは、生産の出来映え(生産性、品質)を決定する重要な仕事だ。

段取りを抽象化して考えてみよう。段取りの概念を「準備」と置き換えることが出来そうだ。品質管理、品質保証の用語で言えば「予防保全」となる。

例えば、設計審査は製品の生産、顧客に対する品質保証のための予防保全活動である。生産後の出荷判定、初期流動管理も品質保証の予防保全活動だ。
これらがきちんと出来ていれば、段取り八分となる。
往々にして、段取りが不足しているために、工程内不良が多発したり、顧客クレームが発生する。

段取りをせずに、失敗をすれば後悔が生まれる。
段取りが出来ていれば、失敗をしても反省と改善が生まれる。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年12月7日号に掲載した記事に加筆しました。
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第二回TWI成果発表交流会

4月15日に第二回TWI成果発表交流会を開催した。

弊社は昨年3月から、日本産業訓練協会認定トレーナによるTWI導入サポートをお客様にご提供している。
サポート企業様の成果発表と交流を目的に、定期的にTWI成果発表交流会を開催している。

第一回TWI成果発表交流会

第二回TWI成果発表交流会では、3社様から成果発表をしていただいた。
成果発表の一部をご紹介する。

■A社様

  • 導入サポートを受け4ヶ月の間に99件の作業分解を実施し、17部の作業標準を改善した。
  • TWI-JIの作業訓練手法を使って延べ153人に作業訓練を実施し、品質・生産効率の向上に貢献出来た。
  • 外観目視検査員の教育訓練に4時間かかっていたが3.3時間に短縮出来た。

■B社様

  • TWI導入後3年間で達成すべき目標を設定し活動している。
    目標:

    品質:顧客クレーム0件
    効率:50%アップ
    納期:遵守率100%
    安全:安全災害0件、設備故障0件

    1年目の成果:

    顧客クレーム1件
    効率10%アップ
    納期遵守率100%
    安全災害、設備故障0件
    その他教育訓練の時間が50%短縮出来た。
  • 指導員の審査を毎年12月に実施することにした。
  • 教育訓練技能を考課要件とし、昇格時要件とした。
  • 作業員への教育訓練により考課加点される。

■C社様

  • 組長は1件/週、段取り工は1件/2週の目標を設定し、191部の作業標準書作成を計画している。
  • 検査作業員の作業を毎日点検記録している。この記録により、作業員の再指導や作業方法の改善が出来る様になった。

また各社のメンバーと食事をしながらの交流会では、
4段階教授の際に、作業ステップの急所の説明が定型化してしまう。
検査作業の点検記録の方法。
など実践時の悩みや、工夫に関して議論が盛り上がった。
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