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現場改善

 中国企業で生産改善の指導をしている。行き当たりばったりの改善ではなく、計画的な改善、メンバーの達成感と問題発見能力、解決能力を育成するため、QCCの手法を使って指導をしている。

製造現場の主任さん達から、自工程の問題、改善課題を挙げてもらった。
全部で17項目の課題が集まった。初めてQCC活動に取り組む人たちなので要領が得られない様で、すぐに改善出来る項目が大半を占めていた(苦笑)
それらを「すぐにやる」項目として、取りかかってもらった。これだけでも、相当な改善効果となる(笑)

現状把握、原因分析をしなければ対策につながらない、QCC活動として取り組む価値があるテーマを選び、チームで改善を始めた。

部品の組み付け作業が時間がかかる、という問題だ。
この問題の改善のために、製造,設計、生産技術、品証のメンバーでチームを作り活動する事にした。

先ずは現状把握だ。
どのくらい時間がかかっており、どの作業が困難なのか説明を聞いてもよく理解出来ない(苦笑)作業が大変だと分かっているが、その現状を定性的、定量的に説明する習慣がなかったのだろう。他の機種の倍時間がかかる、だけではさすがに理解出来ない。早速現場で現状把握をする事にした。
目的を持って現場を観察すれば、問題点を整理し、現状の「悪さ加減」を定量的に把握出来る。先ずはここからスタートだ。

今まで経験がない、という事はハンデに違いないが、逆に考えればその分成長の伸びしろが大きいという事だ。
同様の状況で指導した同業の工場では、初めての活動で作業効率を4倍にした事がある。


このコラムは、2016年11月21日配信のメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第503号に掲載した記事に若干加筆したものです。
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QCC活動の効能

 品質月間にQCC活動の効能について考えてみたい。
戦後焼け野原となった日本が「世界の工場」としての地位を築いた背景に品質管理活動があった。その活動を全社従業員にまで展開する役割を担ったのが、QCC活動と言っても良かろう。

既にQCC活動の効能は証明済みだが、その後日本経済はバブルに向かいデフレに陥る。バブル崩壊期にQCC活動が下火になり始めた、という印象を持っている。
バブル崩壊後、日本の製造業が徐々に力をなくして来た。特に電器業界の凋落が目につく。家電業界は軒並み中国企業に買われてしまった。

家電業界の衰退とQCC活動の衰退を結びつけるのはムリがあるかも知れない。
しかしバブル崩壊後多くの製造現場で現場力を失いつつあるのは事実だろう。
日本製造業の現場力の源泉だった人財が、派遣・アルバイトなどの人材に置き換わり、改善力が失われた。QCC活動の様な改善力を鍛える場が無くなれば、現場力を維持する事も困難だろう。

QCC活動の効能は、実際に得られる改善効果だけではなく、人財育成効果があると考えている。特に中国の様に、教育水準にばらつきがある従業員の底上げに大きな効果がある。

監督職の指示通りに作業をするのが仕事と思っている人たちには、改善への動機も意欲も生まれないだろう。しかしQCC活動を通して、自ら作業方法の改善を体験する。この体験を喜びと感じれば成長は早い。

中国の生産現場におけるQCC活動の最大の効能は、人財育成効果だと考えている。
それは知識のみならず、自ら成長意欲を高める効果がある。


このコラムは、2016年11月7日配信のメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第501号に掲載した記事です。
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QCC3.0

日本の製造業が、力を付け「モノ造りニッポン」と言う称号を得た影には、品質に対する継続的改善が有ったと言って良かろう。
当時先を走っていた欧米先進国に一歩でも追いつこうと、執拗なまでに改善活動をして来た。その原動力がQCC活動であり、QC七つ道具などの手法だ。
これをQCC1.0と名付けてみたい。

QCC1.0とは、以下の手順に従った問題解決型活動だ。
現状の問題を把握し、原因を分析し、改善対策を実施する。すなわち現状の「悪さ加減」を見つけ、改善する活動だ。日本の製造業がもっとも得意とする改善活動であり、これはもはや日本企業のDNAと言っても良かろう。これを継続し続けたことにより、他に追随出来ない品質レベルを達成した。QCC1.0が日本の戦後復興を助けたのは間違いない。
しかしそれがビジネスとして成功しているかと言うと、はなはだ疑問だ。
コモディティ化してしまった家電製品などは、中国企業に追い上げられている。
一方日本にはアップルの様な魅力的製品を創造する企業は稀だ。

QCC1.0が有るのならば、QCC2.0も有る。そうでなければわざわざ1.0と名付けた意味がない(笑)

元々QCC活動は、製造現場を中心にして取り組まれて来た。しかしTQCと言う概念が出て来る。全社で取り組むQC活動と言う意味だ。間接部門を含む全社で取り組む活動となってきた。これをQCC2.0と呼びたい。

間接部門も製造部門と同じ様に、現状の悪さ加減を把握し、原因を分析して改善すると言う活動をしたが、製造部門の様には上手く行かない。製造部門の問題は、解決すれば大きな成果が得られるが、間接部門の問題はさほど大きな成果が期待出来ない。それよりも今の業務レベルをもっと上げる、新しい業務に取り組む、と言う活動の方が大きな成果が期待出来る。しかしこの様な活動
は、QCC1.0の現状把握・原因分析の問題解決型アプローチでは、上手く行かない。

そこで考え出されたのが、「課題達成型活動」だ。
例えば、フレキシブルな納期対応をする為に、従来ロットごとにまとめ生産をしていたのを、平準生産に変えたい、という課題が有ったとする。
これを問題解決型アプローチで取り組むと、ムリがある。現状(まとめ生産)の悪さ加減を把握しても、平準生産に移行する対策は出て来ない。
「課題達成型」は平準化生産と言う「理想状態」を実現するための課題を定義して、実現していくと言うアプローチになる。

この事例の活動を、無理やり問題解決型で活動することも可能だ。
「顧客の納期要求に応えられない」と言う問題を解決する活動として、現状把握をしてみたら「まとめ生産」がフレキシブル生産を阻害し、顧客納期要求を満足出来ない原因と判明した。この原因に対する対策を検討する。と言うストーリィになる。
しかし「無理やり感」が漂う。顧客の納期要求に応えられる様に「平準生産を行う」という課題を設定し、どうすれば良いかを検討した方が素直で良い。

つまりQCC1.0とQCC2.0の違いをまとめると以下の様になる。
QCC1.0は「何を改善するか」と言うWhat型の活動。
QCC2.0は「どうやって課題を達成するか」と言うHow型の活動。
別の言い方をすると、
QCC1.0は過去と現在の悪さ加減を改善する活動。
QCC2.0は現在もしくは未来に設定した課題を達成する活動。
となる。
QCC2.0の活動は、「改善」ではなく「改革」を目指すことができる。
しかし先に述べたように、この活動をしていれば「アップル」の様になれるかというと、否定的な答えしか返って来ないだろう。

アップルは、今までユーザが体験したことが無い製品を創造することにより、ユーザに「魅力的品質」を提供する企業と言って良いだろう。
「問題解決」「課題達成」では不十分だ。それに加えて「価値創造」が必要だ。

価値創造型のQCC活動をQCC3.0と名付けたい。
問題解決型活動も課題達成型活動もその活動目標は、自己都合だ。
価値創造型活動の目標は顧客都合だ。顧客が考える理想状態をまず知ることが必要となる。
顧客が考える理想状態(What)をどのように実現するか(How)、QCC3.0はWhat+How型の活動となる。

顧客の期待する理想状態を実現させれば「顧客満足」が得られる。

顧客が期待していなかった欲求を満たせば「顧客感動」が得られる。
アップルが目指しているのは「顧客満足」ではない。彼らはユーザに、どんな製品が欲しいですか?などと言うアンケートはしない。
まだユーザが期待すらしていない「感動価値」を創造しようとしているのだ。

アップルは、天才のアイディアと強力なリーダシップで、感動価値を創造する企業だ。
我々凡人はQCCの様なチームワークを使ったフレームワークで対抗するしかないだろう。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年7月13日号に掲載した記事に加筆しました。
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段取り八分

 段取り八分と言う言葉が有る。段取りが出来れば仕事の八割は完成、という意味だ。元々段取りと言うのは、石段を作る時に、高度や勾配から何段の石段にするか計算することを意味したそうだ。現代人は三角関数を駆使し計算機で簡単に解を求めることが出来る。しかし昔の人々にとっては,段取りは高度な技術だっただろう。段取りさえ出来れば、後は人工仕事だ。

工場には「段取り替え」と言う作業が有る。段取り替えそのものは付加価値を生む作業ではない。しかし段取り替えは、生産の出来映え(生産性、品質)を決定する重要な仕事だ。

段取りを抽象化して考えてみよう。段取りの概念を「準備」と置き換えることが出来そうだ。品質管理、品質保証の用語で言えば「予防保全」となる。

例えば、設計審査は製品の生産、顧客に対する品質保証のための予防保全活動である。生産後の出荷判定、初期流動管理も品質保証の予防保全活動だ。
これらがきちんと出来ていれば、段取り八分となる。
往々にして、段取りが不足しているために、工程内不良が多発したり、顧客クレームが発生する。

段取りをせずに、失敗をすれば後悔が生まれる。
段取りが出来ていれば、失敗をしても反省と改善が生まれる。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年12月7日号に掲載した記事に加筆しました。
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第二回TWI成果発表交流会

4月15日に第二回TWI成果発表交流会を開催した。

弊社は昨年3月から、日本産業訓練協会認定トレーナによるTWI導入サポートをお客様にご提供している。
サポート企業様の成果発表と交流を目的に、定期的にTWI成果発表交流会を開催している。

第一回TWI成果発表交流会

第二回TWI成果発表交流会では、3社様から成果発表をしていただいた。
成果発表の一部をご紹介する。

■A社様

  • 導入サポートを受け4ヶ月の間に99件の作業分解を実施し、17部の作業標準を改善した。
  • TWI-JIの作業訓練手法を使って延べ153人に作業訓練を実施し、品質・生産効率の向上に貢献出来た。
  • 外観目視検査員の教育訓練に4時間かかっていたが3.3時間に短縮出来た。

■B社様

  • TWI導入後3年間で達成すべき目標を設定し活動している。
    目標:

    品質:顧客クレーム0件
    効率:50%アップ
    納期:遵守率100%
    安全:安全災害0件、設備故障0件

    1年目の成果:

    顧客クレーム1件
    効率10%アップ
    納期遵守率100%
    安全災害、設備故障0件
    その他教育訓練の時間が50%短縮出来た。
  • 指導員の審査を毎年12月に実施することにした。
  • 教育訓練技能を考課要件とし、昇格時要件とした。
  • 作業員への教育訓練により考課加点される。

■C社様

  • 組長は1件/週、段取り工は1件/2週の目標を設定し、191部の作業標準書作成を計画している。
  • 検査作業員の作業を毎日点検記録している。この記録により、作業員の再指導や作業方法の改善が出来る様になった。

また各社のメンバーと食事をしながらの交流会では、
4段階教授の際に、作業ステップの急所の説明が定型化してしまう。
検査作業の点検記録の方法。
など実践時の悩みや、工夫に関して議論が盛り上がった。
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中国生産

 「世界の工事、中国に陰り 『労働コスト』日本を逆転」と言う記事が日本経済新聞電子版に出ていた。かいつまんで記事の趣旨を説明すると以下の様になるだろう。
中国の労務費の上昇および円安効果により、ドル建てで単位労働コストを比較すると、2013年に中国の単位労働コストが日本の単位労働コストを上回り、逆転現象は2014年も拡大している。中国市場の成長鈍化により、中国での投資を見合わせる、中国での生産比率を下げる、などの対策を執っている企業がある。中には生産を日本回帰する企業もある。

記事に出ている事例は本当であり、大筋では記事の論説は正しいだろう。
しかし本当に自分の事業にも当てはまっているのか検証すべきだ。盲目的に記事を読み付和雷同する事はさけたい。
金融機関が試算した単位労働コストは「製造業」と言うくくりでのデータだ。同じ製造業でも、衣料品と自動車部品では単位労働あたりの付加価値が違うはずだ。

今お手伝いしている日系中国工場は、日本本社の仕事を移管受け入れしている。
移管開始直後は、日本本社の半分ほどの労働生産性しかなかった。それでも単位労働コストは中国の方が安いと判断され移管を進めておられる。受け入れ側の中国工場では中国人職員がQCC活動で、日本の労働生産性を「あるべき姿」と設定し改善を繰り返した。その結果、生産量ではまだ日本本社には及ばないが、1人省人化に成功し生産効率では日本本社を上回ってしまった。

労働コストの上昇、為替レートの変動、中国市場の成長鈍化などの経営環境の変化は一工場経営者がコントロールできる訳はない。出来る事は自工場の労働生産性をあげる事だ。

しかし大局を見誤っては行けない。
電子・電機業界に関して言えば、今中国に独自投資で生産進出しても投資を回収するのは難しいかもしれない。2009年に相談を受けた会社には、すでに工場が有る日系企業もしくは中華系企業に生産委託する方式をお勧めした。

自動車業界に関して言えば、技術力さえあればまだ間に合うと考えている。

これらの違いは、ローコスト生産をするか、消費地生産をするかの違いだ。
このメルマガで何度もお話ししているが、中国は既にローコスト生産国ではなく、消費地生産の国だ。
簡単に言えば中国は「下請け」から「お客様」に変わったのだ。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年12月7日号に掲載した記事に加筆しました。
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自動化のための自動化

 毎月1回くらいのペースで「無料工場診断」に出かけている。
先週はプラスチック成形の中国企業を訪問した。

経営者(董事長と総経理)とちょっと話をして、早速現場に行ってみた。現場では生産技術のエンジニアたちが、待ち構えていた(笑)
次々とこの工程を自動化したいが、どうしたら良いか?と質問攻めに逢った。

労務費が徐々に上昇している。深センの最低賃金はこの8年間で2.5倍となった。安価な製品単価で競争優位をアピールしている中国企業にとっても同じ条件だ。生産ボリュームゾーンが電気・電子製品から自動車産業に移行している。自動車用部品は、安いだけでは採用されないという事も、理解しているだろう。

そんな彼らの頭にあるのは、コストダウン=自動化という公式の様だ。

この公式を全面否定するつもりはないが、投資効果を無視した自動化は、自動化のための自動化であり、エンジニアの自己満足でしかない。

品質安定のために自動化する場合もある。この場合も本来、投資効率を考えるべきだと考えている。しかし通常、品質不良損失が過小評価される事が多く、間違った判断をしがちだ。品質とコストがトレードオフ関係にならない様にする事を優先した方が良い。

彼らから受けた質問の一つを紹介しよう。
プラスチック成形の丸椅子に製品型名、バーコード、注意書きなどのラベルが3枚貼ってある。3枚のラベルを貼る作業が、成形サイクルタイム内で完了しないため、成型品を成形機から取り出す作業1名、ラベル貼り1名で作業している。ラベル貼り作業を自動化出来れば、1人少人化出来る、というのが彼らの発想だ。

こういう発想を「自動化のための自動化」と呼んでいる。
本来この問題は、成形作業員の手待ち時間に、ラベル貼り作業をナガラ化出来ない、という問題だ。ここでの改善課題は、ラベル貼り作業を簡単化する事により成形作業員がラベルを貼ることができる様にする事だ。

私ならば、この改善課題の答えとして、ラベルを1枚にする事を考える。
貼付けラベルの枚数を少なくすれば、作業時間の短縮とラベルコストの削減が一度に可能となる。その結果作業員1名の少人化が可能となる。
しかも自動機開発の投資は必要ない。

改善コンサルの私としては、自動化を提案した方が売り上げ増になる。ほとんどの売り上げ金額は、設備製造メーカの取り分となるが、私にも設備設計のコンサルフィーとして、若干の取り分は発生する。
しかし私は楽しくない(笑)

投資コストなし(ラベル版下変更のコストのみ)で、同じ効果が得られる。
更に現場のエンジニアが、「金を出さずに、知恵を出す」考え方を習得すればその企業の一生の財産となるはずである。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2012年10月1日号に掲載した物です。
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手段と目的

 コラム「トイレそうじの効能」「そうじ資本主義」という書籍を紹介した。

この書籍の中で著者の大森氏は、日本の経営者は「手段志向型」欧米の経営者は「目的志向型」だと指摘をされている。

手段志向型の組織は、同じ手段(例えばそうじ)を共有することにより、全員の一体感を高め、組織に対する貢献意欲の高い組織になる可能性がある、と私は考えている。

しかしマイナスの側面もある。
例えば、製品開発時にシーズ優先で商品企画を進めてしまう。
製品実現技術という手段ありきで商品企画をすることにより、技術者の独りよがりになってしまう。その結果、機能も品質も一流なのに売れない。
日本の企業が業績不振に陥っている原因が、ここいらにありそうな気がする。

例えば日本の家電製品は、こんな技術もあんな技術も盛り込んで、すばらしい機能と品質を実現している。しかし開発途上国の人々にとっては、米を炊く、衣服を洗濯する、という目的に対して高機能は必要ない。

中国人の日本製炊飯器の爆買いが話題になっているが、残念ながらそれは「マスマーケット」ではない。米食市場におけるシェアは、韓国、中国の企業にとられているのではないだろうか?
(中国では美的が50%、アジア全体では中国企業が80%というデータがあった)

日本人にとって「おいしく米を炊く」は目的になりうるが、中国や東南アジアの国々の人にとっては「手軽に米を炊く」が目的になっているのだろう。
私が中国で使っている炊飯器は10分もあれば炊きあがる(笑)

手軽に米を炊くことを目的にしている人々にとっては、米を炊くのに30分以上かけ、しかも二桁値段が高い炊飯器は必要ない。

目的と手段の混同は製品開発ばかりではない。生産現場の改善活動にも、目的と手段の混同が見られる。

多くの中国人経営者が「日本的生産システム」を教えてほしいという。
彼らが言う日本的生産システムとは、コンピュータシステムのことではない。
具体的に何がしたいのかを問うと『精益生産系統』(トヨタ生産システム)を導入したいのだと言う。

本来何らかの「目的」があって「手段」としてトヨタ生産システムを導入する、というのならば理解できるが、いきなりトヨタ生産システムだ。

目的を達成するために、解決課題を設定し、そのために必要な手段を選択する。
これが正しいプロセスだと思う。

以前指導した台資企業は、『精益生産系統』を教えてほしいと言われ工場を訪問した。工場内を案内してもらいながら、具体的に何に困っているか質問した。倉庫が狭くて困っている、という。社内では足りずに社外に倉庫を借りており、その支払いが5万元/月だという。

この企業の改善目的を精益生産系統導入ではなく、倉庫経費の削減と定義すれば、より具体的かつ実現可能な手段がいくらも出てくるはずだ。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。
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第一回TWI成果発表交流会

 9月18日に第一回TWI成果発表交流会を開催した。
今年3月から、TWI-JI導入サポート、TWI-JI公開研修を開催して来た。
半年間の活動成果を発表し交流するのが狙いだ。

TWI-JIとは作業員に対する仕事の教え方を定型化した現場監督者技能のことだ。
教える内容、教え方を定型化することにより、人に依存せずに、いつでも再現可能になる。

以前生産委託先を指導していた時にこんなことがあった。
検査工程がネックになっており、製品が停滞する。このまま放置すれば、未検査品が下流工程に流出しかねないと考え、検査作業を観察した。その結果ムダな作業動作が多い事に気が付いた。作業方法を変更すれば、サイクルタイムが短縮できる。
班長を呼んで変更した作業方法を検査員に教える様にお願いした。班長は一生懸命教えてくれたのだが、作業員が教えられた通りに作業が出来ない。ついに班長が怒り出し、作業員が泣いてしまうと言う最悪の事態となった(苦笑)
この状況に気が付いた組長が教え直し、検査工程はスムーズになった。
この時の経験で、人に教えると言うのは個人のスキルに依存する技能だと感じた。誰でもが教えられる様に、教える方法を標準化する事の重要性に気が付いた。

当時は山本五十六の教授法を参考にし、我流の8ステップの教授法を考えた。
その後TWI-JIでは四段階教授法を使っている事を知り、8ステップよりずっとスマートだと感じた。
そんな経緯があり、TWIを勉強した。直接中国人監督者に教えられる様に、助手に日本産業訓練協会の公認トレーナーの資格を取得してもらった。

第一回目のTWI成果発表交流会では、3社から成果発表をしていただいた。
成果発表の一部をご紹介したい。

  • 3台の設備を使う多工程持ち作業への適用
    それぞれの設備のサイクルタイムが異なっており、手待ちになるのを恐れる作業員は、毎回違う作業手順で作業をしていた。この工程の作業分解をして標準作業を決めTWI-JIにより作業指導をした。その結果手待ち時間が見える化され、改善の対象が明確になった。現在手待ち時間を減らす活動を実践している。
    そして、サイクルタイムが明確になった事により安全在庫の削減にまで活動が拡大している。
  • 切断作業の効率向上
    従来2台の切断設備を2人で作業していた。作業分解を実施する事により、2台の設備を1人で作業出来る様になった。しかも作業に習熟する期間を30日から7日に短縮出来た。
    今後はTWI-JIによる指導の機会を増やしたい。新入社員研修、職場異動研修、多能工化研修ばかりでなく、作業効率が平均より20%下回ったときも再研修することにした。
  • 導入してから6年目の活動報告
    中国にTWIが持ち込まれたのが2008年、公認トレーナの教育プログラムが開始されたのが2009年なので、中国でもっとも古株のTWI活用企業の活動経緯は参加者に大きな感銘を与えた。
    現在はTWI-JIは間接部門にも展開され、全社で活用している。
    活動の結果2010年との対比で、生産性は1.6倍、工程内不良は1/3以下になっている。離職率も半減した。

これからTWIを導入しようと考えている参加者からは、

  • 教え方を標準化しただけで生産性や品質がよくなると分かっていなかったので、違う活動の報告発表を聞いているのではないかと思ってしまった。
  • 自分たちの改善活動は10%、20%の改善を目標にしているのに、今日の発表では50%、80%の改善が当たり前の様に報告されているのに驚いた。
  • 発表の中に、外観検査員へのTWI-JI指導による教育訓練期間の事例があったが、自社も外観検査工程があり、参考になった。

等の感想が上がった。

  • 導入時に社員の抵抗はなかったか?それをどう克服したか?
  • 資料作成に時間がかかるが,どう克服したか?
  • 導入後長く継続しているコツは何か?

等々、実際に苦労している実践者同士の交流は意義があったと思う。

この様な交流会により、活動推進者のモチベーションを上げる、同じ様に努力している他社の事例からヒントが得られる、など仲間同士で切磋琢磨して成長することができるだろう。

今後も半年に1回交流会を開催し、TWI導入成果をより上げるお手伝いをしたいと考えている。

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経験技術の蓄積

 社内の技術を共有化する第一歩は「標準化」だろう。作業要領書や設計標準などを作ることにより、誰でも一定水準の品質を守る事が出来る様にする。
ほとんど全ての日系企業はこのレベルをクリアしているだろう。

中国企業で、作業標準がない工場を指導したことがある。
生産現場に渡されるのは、製品の分解図だけだ。各ラインの班長が分解図面を元に、組み立て手順を決め作業者を割り振る。こうして出来上がった製品は、組み立てるたびに違う手順で組み立てることになる。同時に組み立てた製品もラインごとに違う手順で組み立てる。

こういうやり方をしたのでは、コスト・品質・納期を管理する事は難しい。

標準化とは、やらなければならない事、やってはいけない事を決める事だ。
その結果QCDのバラツキを抑える事が出来る。

一方で標準化をすると言う事は、進歩を一度止める事だ。
今日最高の技術や手順を標準化しても、それが明日も最高だとは言えない。
むしろ明日も一ヶ月先もそれが最高と言うのでは、進歩がないと言う事だ。

また全てを標準化すると言うのも現実的ではない。

それを補うために「事例集」を作ることを、推奨している。
いわゆる失敗事例を集めたものだ。標準化するものと、事例集として蓄積するものを分ける。

例えば、SMTセラミックコンデンサのクラック破壊に関する事例は、設計部門には、プリント基板レイアウトの設計標準として配置場所に制約を与える。
製造部門には、「取り扱いベカラズ集」の様な事例集を作るのだ。

失敗ばかりではなく、うまくいった事も事例集に出来る。成功要因がどこに有ったのか分析し、蓄積する。失敗原因の共有事例は良く聞くが、成功要因も共有したら良い。

こういう方法により、現場のノウハウ・経験技術を組織の智慧として蓄積継承する。そしてその智慧が蓄積する方法が組織の暗黙智となる様にする。
こういう努力は、画期的な技術革新が起こらない領域では強い競争力になる。
継続しなければ蓄積出来ない経験技術は、後から参入して来るライバルには決して追いつけないものだ。


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