月別アーカイブ: 2018年4月

予知能力

 リーダーの資質として「予知能力」をあげたい.
予知能力といっても,オカルトチックな能力ではなく,ロジカルな推論による能力だ.

例えば生産現場のリーダが,作業台の上にネジが一本落ちているのを見て,どう考えるかという能力だ.このケースを例として考えてみよう.

何も感じないのは論外だ.

すぐさまネジを拾い上げ,作業現場の5Sを保つ.
これではリーダーとはいえない.初歩の作業員レベルだ.

ネジの種類を調べ,どこから来たネジなのかを考える.そしてそのリスクに対し適切な予防処置を取る.これができて初めて現場リーダーといえる.

つまりネジが製品に組み込むためのものであれば,閉め忘れや脱落の可能性を予知し,完成済み品に影響が無いことを確認する.

またはネジが設備から脱落したものであれば,ネジが脱落した設備で生産した場合の製品品質への影響を予知し,適切な処置を取る.

こういうことが予知能力だと考えている.

同じものを見ても,どこまで予知が出来るかでその人の能力が決まる.
例えば他社のリコールのニュースを見たときに,自分たちの仕事に引き寄せて予知が出来るかどうかということだ.リコールなどの事件ばかりだけではなく,日ごろの出来事の中から多くのことを予知できるようにならなければならない.

これはモノ造りの現場だけでの能力ではない.
例えば,若者の離婚率上昇の新聞記事を読み,作業者の採用難を予知する,というのは人事部職員に要求される能力だろう.

こういう能力は,本を読んでも身に付く能力ではない.
日々目の前にある現象やモノから何が予測できるのか,鍛錬をする必要がある.
私は部下とこういう問答をしょっちゅうやっていた.
なんでもない物事を見聞きしたときに,それをいかに深く考察・洞察してその影響を予知するという,問答をするのだ.

部下の予知能力がシャープになるだけではなく,自分の訓練にもなる.実はこういうことをやるのが結構面白いのだ.


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事に加筆したものです。

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帰宅難民

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 先週の大雪により、首都圏を相当混乱した様だ。帰宅時間帯にターミナル駅で入場規制が行われている映像を見た。若い頃金沢に住んでおり、太平洋側大都市の積雪に対する脆弱性を嗤って、雪かきの憂さ晴らしをしたものだ(笑)

帰宅難民に関して冷泉彰彦氏がメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』に面白い論考を書いておられた。

大雪の予報が出ていたにも関わらず多くの帰宅難民が発生したのは、目で見なければ納得しない、実際に何かが起きて実感しないと動けない、という日本人の悪しき習慣によるものだ、と冷泉氏は指摘している。

「雪が積もり始めないと退社の決断ができない」
「鉄道が運休になって初めて帰宅指示が出た」
など笑えない事例は、情報入手の速度、判断の速度以前の問題であり、「先走って判断したら外れた時に非難を受ける」という組織文化、「見える化しないと動けない」という心理的習性が日本の組織にある、と冷泉氏は指摘している。

三現主義は、現場で現物を手に取り現実をきちっと見て判断せよ、と教える。
したがって見える化しないと動けないという弊害を生むのだろうか?

私には別の日本的習性が帰宅難民問題を発生させたのだと思える。
それは「横並び習性」だと思うがいかがだろう。

「全員即刻退社」と指示をすれば、皆すぐに退社する。
「帰宅困難になりそうな者は早めに退社」と指示をすると、互いの顔を見合いなかなか退社できない。こういう習性がないだろうか?
つまり集団の中で、突出するのを避ける。個よりは群れを尊重する。農耕民族であり村社会の日本に、ありそうな習性だ。

しかしこれは日本人だけの習性ではない様だ。
米国心理学者・アッシュのは次のような実験をした。8人中7人がサクラで、簡単な問題に一斉に答える実験をする。7人のサクラがわざと間違った答えを示すと、被験者も間違った答えを選択する傾向にあるそうだ。これを「集団同調行動」という。

人為ミスと簡単に片付けてしまう問題・事故も人の心理に迫る分析をすれば、より有効な再発防止対策を見つけることができるはずだ。

参考:「ヒューマンファクター10の原則」


このコラムは、2018年1月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第622号に掲載した記事に加筆したものです。「今週のニュースから」は「失敗から学ぶ」と改題し同じ趣旨で継続執筆しています。

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木鶏

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 安岡正篤「禅と陽明学」を読んでいる。


この本の中に「木鶏」が出てくる。ちょっとご紹介したい。

木鶏の原典は《列子・黄帝篇》だ。
『紀渻子為周宣王養斗鶏,十日而問:「鶏可斗已乎?」曰:「未也;方虚驕而恃気。」十日又問。曰:「未也;猶応影向。」十日又問。曰:「未也;猶疾視而盛気。」十日又問。曰:「幾矣。鶏雖有鳴者,已無変矣。望之似木鶏矣。其徳全矣。異鶏無敢応者,反走耳。」』

闘鶏師・紀渻子が周宣王のために闘鶏を育てる。周宣王は紀渻子にその成長を尋ねる。
紀渻子は以下のように答えている。
十日目:虚驕(きょきょう)にして而して気恃(たの)む。
二十日目:なお影響に応ず。
三十日目:なお疾視(しつし)して而して気を盛んにす。
四十日目:幾(ちか)し。鶏、鳴くもありと雖(いえど)も、已に変ずることなし。之を望むに木鶏に似たり。其の徳全し。異鶏敢(あえ)て応ずるもの無く、反って走らん。

10日目はまだ虚勢を張り、己の気を恃むところがある。
20日目はまだ相手の気勢に応じてしまう。
30日目はまだ相手を睨みつけて気勢を発してしまう。
40日目は相手が威嚇しても応ぜず。木彫の鶏のごとくしている。相手は戦わず逃げ出すだろう。

訓練によりただ所作(技術)を身につけても、強い闘鶏にはならない。徳を全うし初めて最強の闘鶏が完成する。

当然技術を養わなければ、戦えない。戦闘技術を磨いた上で、敵に動揺しないココロを養う。

気迫だけに頼るようでは、相手の戦闘能力が高ければ負ける。
戦闘能力をつけても、相手の気迫に応じて動くようではまだ足りぬ。
相手を威嚇できるレベルになっても、相手の気迫がより強ければ負ける。
威嚇にも平然としていれば、相手が恐れてかかってこない。
ということだ。

本当に力のある者は「泰然自若」としていられる。

安岡師の書籍には「木猫」も出てくる。
木猫がいるだけで、ネズミが逃げてゆく。最強の猫だ(笑)

安岡師はこの話を『知者不言、言者不知』(知る者は言わず、言う者は知らず)という老子の言葉で締めくくっている。

企業交流

 毎週配信しているメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】の「今週のニュースから」のコラムでは、他社、他業種、他業界の事例を学び、自社の未然防止対策を考えようとしばしば申し上げている。
しかし「他社の事例を学ぶ」と言っても、そうは簡単ではない。私のコラムもニュース記事からの推測になっている部分も多い。(推測であっても、思考訓練として重要なので、自分なりにケーススタディを続けている)

ではどうすればより深く他社事例から学びを得られるか。多くの企業と交流するチャンスを持てば良いのだ。

私は職業柄、業種・業界を越えて色々な企業を訪問するチャンスがある。元は多品種微量生産の重電メーカの設計者、後に量産電源の品質保証だった私は、職業人生の中で、非常に多くの業種・業界の企業と交流があった。今の仕事になってそれが加速している。

今、顧問先で指導しているQCC活動で総務部門が「従業員満足の向上」と言うテーマで課題達成型のQCC活動に取り組んでいる。サークルメンバーに、まず従業員が満足して働ける理想状態を定義してみよう、と指導しているが、どうにも思い浮かばないそうだ。そこで、私の知り合いの工場にお願いして、工場見学交流会をしていただくことになった。

自社の専業に関わる技術については、そうは簡単に公開出来ないだろうが、従業員満足のためにどんな取り組みをしているのか、お互いに交流する事は可能だ。しかも業界が全く異なるので、お互いの利害関係は、害する所は極小となり、利する所が大きくなるはずだ。

この様な交流を上手くやるコツは、まずこちらから公開出来る情報を先に出す事だ。ジャンケンは後出しが必勝テクニックだが(笑)情報は先に出した方が上手く行く場合が多い。交渉ではないのだ。先方から情報がいただきたいのであれば、先に良質な情報を提供するに限る。

水は高いところから低いところに流れる。しかし情報は低い方から高い方に集まるのだ。私はこれを「逆エントロピー増大の法則」と呼んでいる(笑)(念のために申し上げておくが、熱力学にも、情報工学にも逆エントロピー増大の法則などと言う法則は無い)

現に私の周りにはその様な志しの高い人が集まっており、色々な交流が行われている。


このコラムは、2015年3月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第417号に掲載した記事に加筆したものです。「今週のニュースから」は「失敗から学ぶ」と改題し同じ趣旨で継続執筆しています。

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精益生産

 精益生産とは中国語でリーンプロダクションのことだ.
マサチューセッツ工科大学がトヨタ生産方式を研究してまとめたのが,リーンプロダクションなので,TPS(トヨタ生産方式)とは親戚関係だ.

年末に企業研修を提供しているパートナーから相談を受けた.バネ製造の中国民営企業に現場リーダ研修を提案したが,精益生産に関する研修を追加して欲しいと,顧客から要求を受けているとのことだ.

バネの生産と言うと,各生産工程をバッチ処理生産をする生産方式が,主流と理解している.その工場の現場リーダにどのように精益生産を教えたらよいか,という相談だ.

私もアイディアはない.
そこで仕事納めの日に工場を訪問し,現場を確認させていただいた.
200余りの顧客に,1万種以上の製品を生産している.生産方式は典型的な工程単位のバッチ生産である.現場は想像以上にきちんとしていた.経営者によると,精益生産により更なる改善をしたいと言う.

既に,「後引き生産方式」を取り入れたと言っている.しかし彼らは,
「受注生産」のことを「後引き生産(Pull Production)」
「計画生産」のことを「押し込み生産(Push Production)」
と理解しているようだ.

彼らのモノ造りには,今の時点では精益生産はハードルが高すぎると判断した.
現場のリーダに精益生産の知識を与えても,それを自工程に応用する能力にはならないだろう.

経営者の真の要求は,現場リーダの問題発見能力・問題解決能力の向上だ.
最近QCC活動を導入し,11サークルが活動を始めたという.

この顧客には,QCC活動の実践指導により,問題発見能力・問題解決能力の向上を目指す研修を提案した.会議室に集合してQCC手法を教える知識研修ではない.現場の問題を解決する実践を通して知識を能力に変換する研修だ.実践訓練を受けたリーダは,職場でQCサークルのリーダとして活躍する.その連鎖で,組織内に改善文化が出来上がるはずだ.


このコラムは、2011年1月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第186号に掲載した記事です。

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QCC活動の原点

QCC活動の原点は、品質管理(QC)を職場単位で勉強する勉強会でした。

第二次大戦後、日本の製造業に対しデミング博士が品質管理を教えてくれました。その理論を勉強するのがQCC活動の始まりでした。
勉強会から職場の品質問題を解決する実践活動に変化し、さらにその範囲が製造現場から間接職場に広がり、製造業からサービス業にまで拡大しています。

この日本発の活動は世界に拡大し、TQC(Total Quality Control)、TQM(Total Quality Managiment)と進化しています。

ヒューレット・パッカード社のTQM、GE社のシックスシグマも日本のQC活動から派生しているのです。
横河ヒューレット・パッカード(YHP)が1970年代にQC活動を導入し成果を上げ、それを米国本社にも展開しました。導入時に10年で市場故障1/10の目標を掲げたQCC活動により、無償修理コストは10億米ドル(全不良品質コストではその3倍以上)の節約、在庫資産で5億米ドルの節約という成果を上げています。
参考:YHP初代社長・笹岡さんの論文

シックスシグマはモトローラから始まっていますが、GEにシックスシグマが根付いたのはGEの医療機器事業部門と横河電機の合弁会社GE横河メディカルシステムのQCC活動が貢献しています。

私自身は横河電機でQCC活動を学び、後半は品質保証部門の責任者として事業部内でのQCC活動推進・指導の立場にありました。独立して14年目となりましたが、製造現場の品質改善、生産改善のお手伝いの原点はQCC活動にあります。

改善リーダの能力と意欲を向上することにより、顧客の業績に貢献する。リーダの能力・意欲向上は業績に対して累積的かつ波及的に貢献するはずです。QCC道場はそのような理想状態を目指して始めました。

2017年から第一期、第二期QCC道場を開催しました。
2018年4月から第三期QCC道場を開催します。

QCC道場詳細

第二期の活動の様子

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続・究極を目指す

 メールマガジン81号の「究極を目指す」に対して読者様からご投稿をいただいた.
「究極を目指す」

※Z様のメッセージ
「究極を目指す」ことこそ日本の製造業の強さの秘密ではないかと思います。

ひとつの上を求める姿勢が、設計開発から現場まで貫通していたからこそ、日進月歩の顧客要求に応えられたのではないかと思います。

但しそれが日本製造業の光だとしたら影もあるわけです。
真の顧客要求から乖離した技術者、技能者のマスターベーションの結果が過剰品質ではないでしょうか。

以前し尿処理プラントの建設に携わっていたことがあります。し尿処理後の排水は河川に放流しますが、その排水はメーカの技術競争の結果、放流河川の水質より遥かに浄化されたものでした。(設置市町村の長が、排水をコップに汲み飲むパフォーマンスまでしたとか、しないとか。) 
排水はきれいであることにこしたことないのでしょうが、明らかにオーバースペックです。
そのための労力や財源は、河川の水質そのものを良くすることに廻すべきです。

日本製の高精度のNC旋盤でしか出しえない寸法公差が図面に記載されている部品。しかし、その精度は本当に製品の機能・性能の向上に寄与するのか?
中国の年季の入った汎用旋盤で出せる精度で十分では?と、思うこと度々あります。

今の短期的収益性を強く求められる産業界の顧客が、要求の機能、性能、耐久性の次に求めるのは、ひとつ上の機能、性能、耐久性ではなく、安さなのではないでしょうか。

ある意味で「ものづくり」の楽しさが欠落してしまった時代なのでしょうか。

Z様,いつもご投稿ありがとうございます.
中国で戦略的な購買活動をされているZ様らしいご意見だ.

このご意見の中には2つのご指摘があると思う.

一つは,顧客・市場の要求を無視したモノ造り.もうひとつは,現場のモノ造りを無視した設計.

  • 顧客・市場の要求を無視したモノ造り:
    商品開発のときに市場の要求を無視しては,売れるモノは造れない.

    しかし市場がローコストを要求しているときに,あえてそれに逆らうモノ造りをすると言うこともありだと思っている.

    顧客が想像できなかった魅力的品質を作り出し新しい市場を作る,と言うことだ.こうすれば価格競争には巻き込まれない.

    こんな事例を紹介すればご理解いただけるだろうか.

    例1.iPodはハードウェアの向こう側に,ネットでの音楽販売という新しいビジネスモデルを作った.
    例2.iPhoneはユーザの想像を超えた使い勝手を実現し,カスタマー・デライトを実現した.
    例3.秋葉オタク向けフィギュアを生産している玩具工場では,あえて手作業のコストをかけて大量産品にない質感で勝負している.

  • 現場のモノ造りを無視した設計:
    これはエンジニアのマスターベーションと言うよりは,無知だと言いきってしまってよいだろう.

    公差をワンランク上げるのにどういう作業が必要になって,どれだけコストがかかるか,エンジニアは現場で物事を考えなければならない.
    商品開発は市場現場に軸足を置かねばならない様に,製品設計は製造現場に軸足を置かねばならない.


このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事です。

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のぞみ34号トラブル

 メルマガ第607号(2017年12月27日配信)でのぞみ34号の車両台車に亀裂が入るという重大インシデントについて考えた。

「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」

本件重大インシデントに対する再発防止策をJR西日本は1月に発表している。
先週末有識者会議は対策の有効性検証結果を発表している。
明らかな兆候がありながら、運行を止められなかった人的要因を以下のように分析している。

  • 担当社員、車掌らのコミュニケーション不足。
  • 意識や価値観を定着させるためには経営トップ層が継続的に発信し続けていく必要がある。
  • トップの安全への関与が弱い。もっと安全にコミットすべき。
  • 運行中に異常事象が発生した場合「列車を迷わず止める」と対処ルールを変更した点は即効性のある対策だが、全ての事象に対応できるものではない。
  • 社員 の力量を高める取り組みとともに、ルールの適時見直しが必要。

有識者会議は以下の提言をしている。

  1. 新幹線部門への物的・人的リソースの投入
  2. 未知のリスクに対する対応力
  3. 車両保守担当社員や指令員など新幹線の安全運行にかかわる社員のスキルアップ
  4. 新幹線車両の異常に対して感知可能な技術的手段の開発・導入
  5. 車両等に関する事項

まだ発生していない未知のリスクは、失敗から学ぶことはできない。
しかし未知のリスク、潜在リスクを洗い出すことはできるはずだ。他社の失敗事例、異業種の失敗事例から学ぶことができる。
失敗事例だけでなく、成功事例の成功要因からも学ぶことができるはずだ。

異なる経験年数の職員、異なる職場の職員がチームになり上記のような議題で定期的に勉強会をする。こういう取り組みが、縦横のコミュニケーションの量と質を上げ、組織が活性化するはずだ。

クラック発生の本質原因に関しては、台車の側バリと呼ばれる構造体に問題があったようだ。
平面度が必要な部分が溶接で接合されている。現場で組み立てる際に平面度を出すために研磨する必要がある。今回の事故車両は過度に研磨されており、強度不足でクラックが入ったようだ。

私は機構設計に関しては素人だが、これは設計不良と思える。
平面度に影響が無い面で溶接接合をすべきだ。
現行の車両を速やかに全数検査し、定期点検項目に追加しなければ同様の事故が再発するだろう。


このコラムは、2018年4月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第649号に掲載した記事に加筆したものです。

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続々・ナゼナゼ5回

 前回予告どおり「ナゼナゼ5回」に関する読者様からのご投稿を紹介したい.

前回の記事メルマガ第80号「ナゼナゼ5回」

80号の感想ですが、ちょっと「ものづくり」からは、外れてしまいますがお付き合いください。
「なぜ、なぜ・・・・」と考えることは、どんな場合でも大切です。

「北の国から」と言うテレビドラマはご存知でしょうか?その中で、こんなシーンがありました。
故郷を離れ東京で自動車修理工場に勤める少年が、ふとしたことから、元々反感を抱いていた先輩を、バールで傷つけてしまう。
 
警察の身元引受人となった堅いサラリーマンの叔父は、「人を傷つけることは、どんな理由があっても許されない。」と少年を叱責する。少年は東京で行き場を失い帰郷する。罪を犯し帰郷した息子に父は、「人を傷つけるほどの怒りは、何だったのか?」とだけ尋ねる。少年は泣きながら、自分の大切な1万円札を盗まれ、使われてしまったこと、それは上京するときに同乗を頼んだ父がトラック運転手に謝礼として渡した1万円札で、その運転手はトラックを降りる少年に父親の手垢のついた1万円札を、父親の愛情だと言ってそのまま少年に差し出した、まさにその1万円札だったことを話すと言うものでした。

結果を見るのでなくその先にあるものを見ようとしなくては、道は拓けないと言うことですね。

Z様のメッセージ

Z様ありがとうございます.

「北の国から」は私も好きな番組で良く見ていた.ご紹介いただいたエピソードはこんな風に感じた.
結果(成果)だけで人を評価するのではなく,そのプロセスをちゃんと評価してやらねばならない.
ひところ流行った「成果主義」があまりに成果に偏りすぎたために現場のモチベーションが下がってしまうと言う逆効果があったと考えている.長期的に見ればちゃんとプロセスも見て,成長を評価してやったほうがより現場が活性化すると考えている.

もう一件読者様からのご投稿を紹介したい.

今回紹介していただいた読者様からの内容も興味深く拝見しました。なぜなぜを5回しなさいというよりも、いわゆるQCの7つ道具の特性要因図を教えた方が、最終的には作業員の身にもつくし、いいのではないかと思います(私の経験上)。

H様のメッセージ

H様,いつもありがとうございます.

特性要因図は視覚的に問題を整理するのに優れたツールだと思っている.
特性要因図を見ながら考えると,次々と要因が思い浮かぶ効果がある.
特にチームで要因分析をする時に効果が高い.「ナゼナゼ5回」をやる時に都度特性要因図を描くのが良いだろう.つまり次のナゼが出るたびにそれを魚の頭にして特性要因図を描くのだ.

これはいかにもめんどくさそうに見えるが,チームで解析をする時にメンバーの力量を上げるのに役に立つ.


このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・ナゼナゼ5回

 メールマガジン第80号で「ナゼナゼ5回」を取り上げた。

読者様からこんなメールをいただいた.

なぜ5は、日本の部品ベンダで問題が起こった場合、考えて提出してもらっています。
しかし、先に真因が頭の中にあり、それに結びつける為に、なぜなぜをしている部分があります。
ツールとして使いこなしているところは、少ないと感じています。

海外ベンダは、8Dレポートという形の回答がよくきています。
この場合も真因に達していない回答が多く、都度、問い合わせとしています。
中国ベンダなどでも、工場や品質管理責任者の対応で違いが多いでしょうか?

S様のメッセージ

S様ありがとうございます.

当時、お付き合いがあったのは台湾企業の中国工場が殆どだったが,不良解析&再発防止レポートでまともなモノを受け取った記憶がない.

独立してそういう工場の指導をして初めて分かったが,CE(カスタマーサポートエンジニア)と呼ばれる苦情処理係がいて彼らが顧客に対するレポートを書いてる.
驚くことに彼らは自社製品の技術的なことは全く理解してない.ただ少しだけ英語ができるので,別にいる解析エンジニアのレポートを英文に直しているだけなのだ.

しかも現物も現場も見ずに解析から再発防止対策まで一人で作文しているだけ.だから再発防止は,作業者に注意した,作業者を教育した,作業者を罰した,という役に立たない報告しかできない.

当然まともな顧客からはクレームが来て,レポートを再提出することになる.
こういう事を何度か繰り返していると,経営者にクレームが入り現場に雷が落ちることになる.

まともなリソースをきちんと割り当てていない経営者自身の責任なのだが,現場に対して何とかしろとしか言わない.

そんなこともあり,レポートの定型化が良く進む(笑)
フォーマット化すれば,能力が低い者でもレポートが書けると思っている.8Dレポートというのもそういう背景があり,あっという間に広まった感がある.

今まで中華系の工場から出てきて,合格点をあげられた報告書は一つしかない.

電解コンデンサメーカの不良解析レポートだった.
実はこのレポートは工場監査に来たお客様が,置き忘れて帰ったものだ(笑)

以前指導していた工場では,まずレポートの構成から教育した.

解析の仕方とか,再発防止の考え方などを教え,デスクに座っている連中の尻を叩いて現場に追い出していた(笑)

彼らが書いてきたレポーはも何度もダメ出しをして書き直させる.
営業からはレポート提出期限の督促がしつこく来る.自分で書いて提出することも何度かあった.

それでもCEたちは嫌がらず夜遅くまで,時に休日でも出てきてレポートの書き直しをする姿勢には感心する.

中には殆ど指導をしなくても書ける様になった者もいた.
彼らはやり方をきちんと指導をされていないだけなのだ.
辛抱強く指導してやればすこしずつでも良くなるものだ.

もう一通「ナゼナゼ5回」にご感想をいただいている.
長くなってしまったので次回紹介したい.


このコラムは、2009年2月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第81号に掲載した記事に加筆したものです。

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