月別アーカイブ: 2020年4月

賢者は他人の失敗から学ぶ

 「賢者は他人の失敗から学ぶ」ベンジャミン・フランクリンの名言らしい。
そしてこう続く「愚者は自分の失敗にも学ぼうとしない」。

失敗から学ぶ3ランクは、他人の失敗から学ぶ、自分の失敗から学ぶ、自分の
失敗からも学ばない、となる。
ベンジャミンの言い方を借りれば、
◯賢者:他人の失敗から学ぶ
△並の人:自分の失敗から学ぶ
×愚者:自分の失敗からも学ばない
というランク付けになる。

例えば、1月14日付のブルームバーグのニュースに以下のリコールニュースがあった。

トヨタ自動車は、米国で「レクサス」および「トヨタ」ブランドの一部車種約69万6000台を対象にセーフティーリコール(無料の回収・修理)を実施すると発表した。燃料ポンプが作動しなくなる恐れがあるという。

どのような故障なのか、その原因は何か、まだ何も発表されていない。
この時点で「他人の失敗」から学ぶことは、賢者といえどもほぼ不可能だろう。

しかしこの事故を抽象化し、「動力源が断たれた時に発生する事故」としたならば、

  • ガスストーブのガス開閉スイッチの故障の挙動。
  • ノンストップシステムの停電時の挙動。
  • フォールトレラントシステムの待機システム替え装置故障時の挙動。

など、抽象化した内容を自社製品に当てはめて考えることが出来るのが、本物の賢人と言えるのではないだろうか。

以上に挙げたような例は、当然製品設計時に考慮されているはずだ。
「設計時に考慮しているから大丈夫」と安心するのではなく「本当に大丈夫?」と考え検証するのが品質保証の立場だ。


このコラムは、2020年1月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第931号に掲載した記事です。

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三種の鏡

夫れ銅を以って鏡と為せば、以って衣冠を正す可し。
古を以って鏡と為せば、以って興替を知る可し。
人を以って鏡と為せば、以つて得失を明かすにす可し。
朕常に此の三鏡を保ち、以って己の過ちをして防ぐ。

中国の古典『貞観政要』の一節だ。じょうがんせいようとは唐代の皇帝・太宗の言行録と言われており、政治の要諦が記されている。

青銅鏡で己の姿を映せば、衣冠の乱れを正すことができる。
過去の事例に学べば、興替こうたい(盛衰)を知ることができる。
人の意見を聞けば、己の過ちを知ることができる。

上に立つ者の心得として心に留めたいと思った。
「自分の姿を見直す」「過去に学ぶ」のは普通にできるだろう。

一番難しいのは「人を以って鏡と為す」だろう。
信頼する上司・先達の意見は聞けても、年少者・部下の進言はなかなか素直に聞けないものだ。当然年少者や部下が年長者・上司に進言するには勇気がいる。
その言いにくいことを、勇気を出して言ってくれている、ということに感謝すべきだ。
人を以って鏡を為すの要諦は「虚心坦懐」だ。


このコラムは、2020年2月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第936号に掲載した記事です。

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木鐸たらん

fēngrén(1)qǐngjiànyuē:“jūnzhīzhìwèichángjiàn。”
cóngzhějiànzhīchūyuē:“èrsān(2)huànsàngtiānxiàzhīdàojiǔtiānjiāngwéiduó(3)。”

《论语》八佾第三-24

(1)仪封人:儀の国の防人さきもり
(2)二三子:諸君。年長者が若者に呼びかける時に使う。
(3)木铎:世人に警告を発し教え導く人。(weblio参照

素読文:
封人ほうじんまみえんことをう。わく:“くんここいたるや、われいまかつまみゆることをずんばあらざるなり。”
じゅうしゃこれまみえしむ。でてわく:“さんなんうしなうことをうれえんや。てんみちきやひさし。てんまさふうもっ木鐸ぼくたくさんとす。”

解釈:
儀の防人が孔子の一行に面会を求めて言った。「この関を通られる君子には、全てお目にかかっております。ぜひお目にかかりたい」
孔子の門人たちは、孔子を防人の部屋に案内した。
面会を終えた孔子は門人に言う。「諸君。私が下野されたことに失望することはないぞ。世の道徳が地に落ちて久しいが、天は私を世の木鐸としようとしているのだ」

官位を辞し弟子と共に諸国巡遊の旅をしていた孔子らしい言葉です。

コロナウィルス

 中国のコロナウィルスは収束に向かいつつあるように思える。しかし欧州、米国などまだこれからも拡大しそうな勢いだ。ダントツの感染者数だった中国を欧州勢が追い上げている。

コロナウィルス感染者数

このデータを別の角度から見てみる。
感染患者の死亡率の大きい順に並べ替えて見た。

コロナウィルス死亡率

感染者数で4位のドイツは死亡率で見ると0.34%となりダントツの低さだ。
スイス、韓国、米国が続いている。韓国はよくわからないが、ドイツ、スイス、米国は医療機器や医薬品メーカが多い印象がある。重篤な患者に使用する人工呼吸器や、症状を抑える医薬品などが豊富にあったのではないだろうか?

中国は強権で感染拡大を抑え込み、収束方向に向かいつつあるように見える。一方感染が一気に広がったドイツでは、99.66%の患者が治癒している。

このような危機を救うのは政治の管理力よりも産業の技術力だろう。


このコラムは、2020年3月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第958号に掲載した記事です。

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成功の秘訣

「私は失敗しない。なぜなら、成功するまでやめないからだ」
大ヒットしたたまごっちの開発者・横井昭裕氏の言葉だ。

同様の格言はいくつかある。
「失敗は成功のもと」
「99回の失敗は99個のうまくいかない方法の発見」
「人は100回失敗することはできない、その前に成功してしまうからだ」

横井氏の格言は成功するまでの失敗はカウントしない、ポジティブな思考から生まれているのだろう。実際横井氏は玩具メーカを独立して10年間は売れない時代だったそうだ。しかしこの10年間が、たまごっち大ヒットの助走路だったのではないだろうか。

S字成長曲線という考え方がある。S字の左から始まる下部分を「緩やかな成長期」中央の上昇部分を「成長期」右に向かう上部分を「停滞期」と分ける。
学習もしくは訓練の初期段階はなかなか成果は出ない。ゆっくりと成長する。その努力が臨界点を越えると中央部の劇的成長段階に入る。その後成長は停滞し成熟期となる。

横井氏は玩具メーカ勤務時にすでに成熟期まで達していたのだろう。独立して10年間停滞期を経験した。この時期に「成功するまでやめない」という信条で仕事に取り組み、2度目の臨界点を迎えたまごっちの爆発的なヒットとなった。

S字成長曲線は一つのS字にとどまらない。成熟期に入っても努力を続ければ次の成長期がやってくる。「§字成長曲線」と言えばいいだろうか。


このコラムは、2020年3月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第960号に掲載した記事です。

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道徳

 コロナウィルス感染対策で中国と民主主義諸国の格差を感じる。人権よりも国家を優先させる対策が感染拡大を押さえ込んだように見える。中国の対応が素晴らしかったと言うつもりはない。もっと早く手を打っていれば、世界中に拡散しなかっただろう。すぐに手を打てなかったのも一党独裁に遠因があったように思う。

しかし日本国内で感染者が、他人に感染させることを目的に外出し、目的を果たしたと言う報道を見た。日本人の道徳はそこまで落ちてしまったのか、と言う諦観と強権で国民を従わせる方が効果的なのかと言う失望を感じた。

一神教の社会では「神の目」が民衆の道徳観の根本にある。神の心にそう行動をすれば祝福され、天国にゆける。神の心に反する行動をとれば地獄に落ちる。死後の苦痛を避けるために善行を積む。「神の目」であるから誤魔化すことはできない。

日本でも神や仏を信じる人はいる。しかし大多数の人は無信仰だ。では日本人の道徳観の根本は何か。「世間の目」が日本人の行動規範の元になっていると思う。「恥」を知る文化だ。「武士道」がその根本にある。武士道は武士だけではなく、町民、農民にも根付いていたのだろうと思う。

しかし核家族化、地域社会の関係希薄化などにより「村社会」が消滅し「個」が重視される社会となった。その結果「世間の目」が機能しなくなってきたのだろう。
災害時に日本人の道徳の高さがしばしば海外で賞賛とともに報道される。
日本人の道徳は過去の栄光になってしまったのではなかろうか。


このコラムは、2020年3月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第957号に掲載した記事です。

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危機

 3月13日に発表になった中国国内のコロナウィルス感染者は8人増、内武漢の増加が5人、海外からの帰国者が3人だった。中国国内でのコロナウィルス危機はそろそろ収束に向かい始めたと期待できそうだ。

ところで「危機」という言葉は「危険+機会」に因数分解できる。危険を乗り越えることで成長機会が与えられる、という意味だと理解している。

残念ながら、中国でうまくいった方法をそのまま日本に適用することは不可能だろう。感染拡大防止のための都市封鎖、大量の医療スタッフを武漢に強制派遣、1日で病院を建設、外来者の強制隔離、人権を尊重する民主主義国家の日本で許される施策ではないかもしれない。しかし他人に感染させることを目的に外出する罹患者に保護すべき人権があるのだろうか?

休校中の児童をファミレスやカラオケに行かせる親がいるという。近所の公園にはマスクをしていない子供達が遊んでいる。たかが数週間の春休み前倒しで大騒ぎになっている。しかし中国では1月末からずっと休校だ。休校中の児童向けにインターネットによる授業が行われている。日本でも「危機」を「危険+機会」に転換する発想があれば、教育のICT化を進めることが出来たはずだ。


このコラムは、2020年3月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第955号に掲載した記事です。

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問題解決能力

 以前のメルマガで問題を定義する能力について書いた。

「問題を定義する能力」

学生は問題を解く力を学習するが、実社会で仕事をしている人間は問題を解決する能力が問われる。その第一歩が「問題を定義する能力」であるという趣旨だった。

社会人として要求される能力は次のような段階がある。

  1. 指示・命令を実行する行動能力
  2. 前例に従って自主的に判断・実行する能力
  3. 問題を発見し対応を検討し実行する能力

第一段階は、すでに解決すべき課題が明示されているので、課題を解決する行動能力だけで課題は達成できる。こういう仕事は、新人研修時の仕事だ。何かを考えたり、創造する仕事にはならない。

第二段階は、すでに前例のある課題を与えられた場合。前例を調べて自主的に解決方法を決定し、実行する。前例踏襲で解決できる。しかし前例踏襲で満足している組織には成長がない。どの事例を適用すれば良いか考えるが、創造的な能力は磨かれない。例えば、慢性不良が解決できないのは前例踏襲の対策しか実施していないからだ。

第三段階は、問題を発見・定義し、革新的対応を創造する能力が必要となる。
例えば、慢性不良の解決、生産方式の革新、新商品の開発、などは前例踏襲が役に立たない。創造的な発想、アイディアが要求される。


このコラムは、2020年3月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第954号に掲載した記事です。

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指示と復唱

 春節休暇が開け、新型コロナウィルス感染拡大中の中国に戻った。
しかし外出もままならぬ状況にあり、一時日本に撤退している。2月以降毎日部屋にこもり読書生活を送っている(苦笑)

「機長からアナウンス第2便」内田幹樹著

内田幹樹氏はJALのパイロットをしておられた。海外出張が多かった頃、前作の「機長からアナウンス」を読んだ。続編は前作より興味深かった。
本書中に、2004年から2005年前半JALグループは重大インシデントが続いた、という記述があり、航空・鉄道事故調査委員会の重大インシデント報告書を調べてみた。

参照報告書:
「航空重大インシデント調査報告書 AI2005-1」
 平成17年 1 月28日発行

ボーイング・737-400型JAL機が、平成16年4月9日大阪国際空港ー熊本空港便が使用滑走路とは逆方位の滑走路07へ進入を行い、最終進入経路に入る直前に熊本飛行場管制所からの通報により、進入滑走路の誤りに気付き、進入を中止するという事故だ。一歩間間違えば滑走路25番で離陸滑走を開始していた自衛隊機と正面衝突事故となる重大インシデントだ。

滑走路25番と滑走路07番は別の滑走路の様に見えるが、一本の滑走路だ。滑走路の後にくる番号は方角を表す。滑走路25番は北から250°滑走路07番は北から70°の方向を向いていることを示している。つまり風向きによって25番、07番を使い分ける。滑走路が平行に複数ある場合はLCR(左、中、右)の記号を併用する。

管制塔はまず25番滑走路から自衛隊機を離陸させ、その後に25番滑走路にJAL機を着陸させようとしていた。しかしJAL機の操縦席では、出発時の予定通り07番滑走路に着陸と思い込んでおり重大インシデントにつながった。

思い込みによる人為ミスの典型例といっても良いだろう。
管制塔からの指示に対してコックピットからの応答は「ラジャー」だけだった。聞き取れなかった、着陸に備えて指示聞き取りが散漫になっていた、などの理由があったのだろう。しかし指示の復唱があれば、もしくは管制塔から復唱要求があれば、インシデントは防げたはずだ。

指差し確認、指示復唱は仕事の基本だ。「重要なことは復唱せよ」ではダメだ。
指差し確認、指示復唱が習慣になるまで徹底しなければならない。
会議の決定事項は、ホワイトボードのコピーを配布すればよかろう。しかし口頭指示をやめて、全て文書指示にするのは現実的ではない。


このコラムは、2020年3月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第952号に掲載した記事です。

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ピンチをチャンスに

 世界同時金融危機の時にメルマガにこんな記事を書いた。

「世界経済の低迷」

今回の新型コロナウィルスの感染拡大は、世界同時金融危機より深刻な影響になりそうな勢いだ。
こういう時期に経営者は3K経費を削減すると言われている。「3K」とは交通費、交際費、広告費だ。製造業の場合は広告費はほとんど必要ないと思う。
製造業の経営危機時に削減する「3K」は交通費、交際費、教育費だろう。

しかし経費の削減だけではピンチをチャンスに変えることはできない。
今中国の工場は、材料が入ってこない、従業員が戻ってこない、注文がない、など大逆境だと思う。しかしここで仕込みをしておかなければ、感染が沈静化した時に一気に立ち上がることはできない。

金融危機時受注が半減した友人の工場は、固定経費の徹底削減をした。
トータルで300万元/年の削減ができたと言っていた。
例えば、生産ブロアのレイアウトを変更し、2台あるエレベータを1台で運用するように改善した。これでエレベータの保守点検費用は半分になった。平常時にこのような改善をするのはほとんど不可能だろう。日々の生産があり、ラインを止めてレイアウト変更は難しい。

平時から従業員の教育は重要だとほとんどの経営者は考えている。以前は教育してもすぐ辞めてしまうので、教育など無駄だという経営者もいた。しかしその後、そういう人たちの消息は杳として聞こえてこない(笑)

教育には経費がかかる、と考えるのは「思考停止状態」だ。
工夫次第で経費をかけずに教育研修はできる。

例えば、若手に過去に発生した不良とその再発防止対策をまず整理させる。
その内容を上級の職員を交えて再検討をする。この様なディスカッションで、若手は過去の不良事例を自ら学ぶことになる。そしてディスカッションの中でより良い対策が生まれれば、組織全体の学びになるはずだ。
この様な工夫をすれば、間接職場も同様に学びを得られるはずだ。


このコラムは、2020年3月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第951号に掲載した記事です。

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