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挑戦しないと新技術なんてできない

挑戦しないと新技術なんてできない

ホンダ社長 福井威夫氏

普通なら会社が大きくなるにつれて管理が厳しくなる。だんだん時間や予算の管理が厳しくなって個人の自由がなくなり,いちいち上司の了解を取らなければならない。しかし,これではダメ。社員が何もできなくなってしまう。

 ホンダの研究所はそうじゃない。決していいかげんなわけではありませんが,かなりの部分が個人の裁量に任されています。かつて私も相当に自由にやらせてもらった。すべてが勝手に決められるわけではないものの,「会社にとってこれが大切なんだ」と自分で判断すれば,かなりの確率でそのテーマの研究開発ができるのです。そのときはもちろん,会社のお金を使わせてもらう。報告するのは成果が出た後。お金を使った後に,「こういうものができました」とやるわけです。それが許される会社なんです,ホンダは。むしろ,そうでなければ新しい技術なんて生まれてきません。

今回は日経BPのコラムから抜粋した.

最近業績主義の風潮があり,プロセスを評価する事が少なくなってきていると感じている.失敗を評価することもプロセスを評価することになろう.同じシリーズのコラムでキヤノン電子社長 酒巻久氏も「失敗・成功事例集」の作成に力を入れておられるのが紹介されている.

失敗を隠すことで次にまた同じ失敗を繰り返すことになる.失敗の中にこそ次の成功の秘訣が隠れている.99回失敗してもあきらめずに挑戦すれば次の1回で成功する.
エジソンの有名な言葉は,発明は99%の失敗と1%のひらめきから生まれると言い換えても良いだろう.

成果のみに着目すると簡単に成果の出る仕事だけに手を出し,困難が予測される仕事に手を出さなくなる.挑戦する心をなくした組織は,衰退が待っているだけだ.

ホンダ研究所に勤務していた友人は以前ソーラーカーのプロジェクトに手を上げて参加した.ソーラーカーの開発,オーストラリアで行われたレースへの参加.通常の業務から外れてこのプロジェクトに参加する事ができた.

挑戦と失敗が許される組織文化が組織を強くする.

上記のコラムは
「経営者12人の原点 日本,ものづくりの真髄」
という本に紹介されている.


このコラムは、2008年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第35号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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災害復旧

 ラジオ番組でジャーナリストが台風19号関連のニュースにふれて、防災だけではなくそのあとの復旧にももっと目を向けるべきだ、という趣旨の発言をしていた。確かに自然災害の防災には限度がある。ならば被災後の復旧のやり方にも目を向けるべきだろう。

ジャーナリストのコメントは、ボランティア活動のノウハウを継承する仕組みが必要だという趣旨だ。

東日本大地震後のボランティア活動のニュースを聞いて目頭が熱くなったのを思い出す。阪神大災害後のボランティア活動がニュースとして着目されるようになったように思っている。

しかし救援に出向いたボランティアを受け入れ側の行政が活用できていない。ならば過去に経験がある人たちを有効活用しよう、とコメンテータは提案していた。

具体的には、過去に被災した地方自治体のOBが、被災地に出向き指導をするようにしてはどうか、というアイディアだ。

確かに過去に経験のない災害に遭った地方行政の職員がテキパキと復興活動を進められるとは考えにくい。被災経験がある自治体で復興活動をした経験を持つ先輩が応援に来てくれたら、心強いと思うだろう。

こういうアイディアに心から賛同する。
ノウハウを人で伝える、という日本的な手法だ。確かにマニュアルにまとめたノウハウにない、文字以上の情報は人を介して伝わるのかもしれない。

禅に「不立文字(ふりゅうもんじ)」という言葉がある。禅の教義は経典など言葉では伝わらない、という意味だ。

「不立文字」

マニュアルでアルバイトの仕事を管理しようとする現代的な考え方とは一線を画す日本的な仕事の伝承方式だと思う。わざわざ「不立文字」などと禅語を持ち出すくらいだから、日本的伝承方式に反対ではない。しかし効率が悪い。

本当にマニュアルではいけないのか?
我々がマニュアルで伝えたいのは、仕事の手順であり、それに関わる考え方である。禅の教義を伝えたいわけではない。

ディズニーランドの学生アルバイトは年間離職率90%でも、マニュアルにより顧客満足の高いオペレーションができている。
良品計画もムジグラムというマニュアルでオペレーションを記述している。

上手くいっているマニュアルと、残念なマニュアルの違いはどこにあるか?
確信があるわけではないが、マニュアルの作成・改定にマニュアルを使う人の関与がどれだけ反映されているか、というところが境目のような気がしている。

つまりマニュアルの作成や改定にどれだけ実作業者たちを巻き込めるかということに関わっていると思う。神託のごとく与えられたマニュアルより、自分たちの体験を元に作り、日々改定しているマニュアルの方が、きちんと守られるのではなかろうか。

10年前に決められたマニュアルでは、自分たちが作ったマニュアルとは言えない。しかし10年前に作ったマニュアルでも、自分たちの意見が反映され、日々進化しているのならば、それは与えられた(押し付けられた)ものではなくなるはずだ。


このコラムは、2019年10月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第892号に掲載した記事に加筆しました。

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注意喚起と再発防止徹底

 名古屋市は24日、昨年5月に病死した同市中村区の男性(63)について、区役所職員が遺族への連絡を怠り、遺体が半年以上引き渡されずに放置されていたと発表した。職員が男性の遺品を無断で廃棄していたことも判明、市は職員の処分を検討している。

 発表によると、連絡を怠るなどしたのは、同区保健福祉センター民生子ども課の男性職員(40)。昨年5月25日、生活保護受給者の男性が病院で死亡した際、戸籍を調べて速やかに遺族に連絡すべきだったのに、放置。同12月10日になって大阪府に住む遺族に手紙で連絡し、遺族によって葬儀が行われた。市によると、親族と連絡が付かない場合、生活保護受給者の遺体は、生活保護法に基づき自治体が埋葬することになっており、遺体はこの間、葬儀業者が冷凍保管していた。

 また、職員は今年3月、病院から預かった男性のスマートフォンや車検証などを、市の規定に反し、遺族の了承を得ずに廃棄していた。8月に遺族からの問い合わせで判明した。

 職員は連絡の遅れについて「他の仕事で忙しかった」とし、遺品は「家族と話す機会がなく、処分に困って廃棄した」と話したという。同課は「重大なミスで心からおわびする。職員全員に注意喚起し、再発防止を徹底する」としている。

(読売新聞オンラインより)

 「ミス」などという言葉で済ませているが、信じられない仰天事件だ。
当然葬儀業者から遺体の保管料金を毎月請求されていたはずだ。担当者が忘れていても、経理担当者は気がつかなかったのだろうか?数ヶ月間も遺体保管費の支払いが続いたところで、おかしいと気がつくのが普通だろう。不明な請求が半年以上続いていても疑問を持たない。言い換えると税金で運用されている組織にありがちなコスト意識の欠落だ。

他部門の仕事には口を挟まない、仕事ではなく作業をこなしているだけ。
金曜日配信の連載小説「山本品管部長奮闘記」に出てくる経理部、人事部の中国人幹部と同じレベルではないか(笑)
(注)上記の中国人幹部は、その後の展開で大きく成長しています。

区役所は「職員全員に注意喚起し、再発防止を徹底する」と釈明しているが、「注意喚起」では再発防止の効果は期待できない。

根本的には部署間の敷居を下げ、相互にコミュニケーションしながら仕事を進める組織文化を作るべきだ。しかしこれには、働く人々の意識変革が必要であり、時間がかかる。まず即効性のある対策を考えねばならない。

まずは進行中の仕事をすべて可視化する。
すべての仕事の進捗を計画、実績が目に見えるようにすることだ。これを全員が見られるようにする。この予定・実績を全部署全員が閲覧できるようにする。こういう仕組みを作っておけば、止まっている仕事は一目瞭然となる。

部門リーダは、この予定・実績ボードで部門の進捗状況、他部門との協調が確認でき適切な指示、支援ができるはずだ。
各作業に担当者が割り振られており、毎朝自分の仕事を確認することができる。計画が遅れていれば担当者宛にアラートが出る仕組みも簡単だろう。


このコラムは、2019年10月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第895号に掲載した記事に加筆しました。

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状態の見える化

「ベビーベッドに挟まれ乳児死亡 消費者庁が注意喚起」

 消費者庁は15日、木製ベビーベッドの側面にある収納部分の扉が開き、そこから落ちた乳児が頭部を挟まれるなどして死亡する事故があったとして注意を呼びかけた。収納部分の扉のロックが完全にかかっていなかったことが原因とみられる。

 消費者庁によると、今年6月に生後8カ月の乳児が死亡する事故が発生。9月にも生後9カ月の乳児が重症を負ったという。

 消費者庁はベッド側面にある下部収納の扉が開き、そこから落ちたとみられる乳児の頭部が顔を寝具に押さえつけられるように挟まり、乳児は息ができなくなったと推定。扉のロックが完全にかかっておらず、乳児が寝返りなどで接触した拍子に開いたとみられる。

 いずれも保護者が目を離した際に起きていた。

 2件のメーカーは異なっているが、扉はピンを穴に差し込んでロックする形式だった。国民生活センターが再現テストを実施したところ、ピンが穴に入っていなくても扉が止まることがあり、ロックがかかっていないことに気づきにくい構造だった。

(日経新聞より)

 2008年に配信したメールマガジンでベビーベッドの事故をご紹介した。
「中国製ベビーベッドを米国で回収 乳幼児2人死亡」

こちらの事故はベビーベッドを固定しているピンが外れているのに気がつかず、柵が落ちて乳幼児が挟まれて亡くなっている。
今回とほぼ同じ事故原因だ。2008年の事故ではピンを目立つ色としロック状態・アンロック状態を可視化する、という対策だった。

今回の事故も同様に、ロック・アンロック状態を可視化する工夫で事故は防ぐことができたのではないだろうか?

時が経つと忘れてしまうのだろうか?約十年に同様の原因で死亡事故が起きている。今回事故を起こしたベビーベッドの設計者が、私のメールマガジンを読んでいてくれたら、このように事故は発生しなかっただろうと残念に思う。

製造作業での工程飛ばしも「可視化」で対策できるはずだ。
コンベア作業で、休憩後の作業再開時に未作業のワークを次の工程から作業を開始してしまうという事故は容易に想像がつく。作業員毎に作業完了・未完了を「可視化」することで対策が可能となる。

FMEAは自動車関連企業の専売特許ではない。他業種の事故や不良も潜在故障の事例として、自社製品、工程で同様の故障・問題が起きないか、その未然対策を検討する。こういう取り組みはどの業種にも役に立つはずだ。


このコラムは、2019年11月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第904号に掲載した記事に加筆しました。

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心臓手術ミスで4歳死亡 愛知・豊橋市民病院

 愛知県豊橋市の豊橋市民病院は6日、2010年に心臓病の手術を受けた男児(当時4)が、約10日後に死亡する事故があったと発表した。手術の際、血管に空気が入って心筋梗塞(こうそく)を起こしたためで、同病院は手術ミスを認めて謝罪した。
 男児は、心臓の壁に穴が開いたままになる「心房中隔欠損症」と診断され、心臓血管・呼吸器外科などの執刀医3人らが10年11月、穴をふさぐ手術をした。
 手術は、いったん心臓を止め、血管を人工心肺装置につないで行われた。その間、心臓を壊死(えし)させないように冠動脈に「心筋保護液」を流そうとしたが、装置のチューブの接続部が緩み、2回にわたり計32ミリリットルの空気が入ったという。
 このため、心臓に保護液が届かなくなって心筋梗塞を起こして死亡した。
 同病院によると、心臓手術の中では初歩的な手術で、死に至るケースはまれだとして、調査委員会を設置。スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかったとして「人為ミスの可能性が高い」と結論づけた。

(asahi.comより)

 この医療事故の原因は,
「スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかった」ではなく,
「心筋保護液回路に空気が混入した」ことである.

「点検をしっかりしていなかった」は流出原因であり,根本原因ではない.

「点検をしっかりしていない」という人為ミスに対して対策を考えると

  • 点検をしっかりする様に指導をする
  • 点検チェックリストを作り,点検漏れを防ぐ
  • 臨床技師と看護士のダブルチェックとする

という効果を実感できない対策となる.

根本原因「空気が混入した」に対策を考えると,以下の3分類の対策を考えれば良いはずだ.

  • 空気が混入しない様にする
    チューブ接続部分を,カチッとはまるコネクタ方式にする.中途半端な接続が出来ない様にする.
  • 空気が入っても問題ない様にする
    エアートラップを循環回路の中に入れる.
  • 空気が入ったらすぐに循環を停止する様にする
    気泡検出装置を付けておけば,自動で循環装置を停止させる事は簡単だろう.

人為ミスで解析を停めてしまうと,このような対策は出てこない.
上記の根本原因対策の実施が全て不可能だった場合は「しっかり点検しなかった」流出原因に対策を考えることになる.

  • 空気混入により事故が発生する事を知らなかった(あり得ないと信じたいが)
  • 点検箇所が漏れていた
  • 点検したが見つけられなかった(点検困難,誤判断)

それぞれの対策が変わって来るはずだ.

記事を読むと,今回の事故は術中に空気の混入に気が付いたが,正しく処置出来なかった可能性もある.つまり冠状動脈に入った空気を,迅速に抜く操作が出来なかった.
この場合も,上記同様に更に原因を掘り下げる.

  • やり方を知らなかった
  • やり方は知っていたがやり難かった
  • パニックになった

例えばパニックになる原因を更に考える.
初めての体験でパニックになったとすれば,シミュレーション訓練で防ぐ事が出来るはずだ.
術中に発生する可能性のある潜在事故を洗いざらい上げて,その対処方法をシミュレーションできる実地訓練を準備すれば,予防保全が出来るだろう.

工場でも同じ事だ.
事故や,不良の発生を潜在故障としてリストアップし予め対応方法を決めておく.いわゆるFMEAと同じだ.

勝手なことを書いたが,私は医学に関しては全くの素人だ。工学の専門家としての知見から、我々が遭遇する可能性のある事故に置き換えて思考実験をしてみた。


このコラムは、2012年7月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第265号に掲載した記事に加筆しました。

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失敗しないとダメ

――リチウムイオン電池の開発に入る前に三つの研究をしていた。その三つの失敗が成功につながった?

 「今日の講義の中でもその話をしました。失敗しないと絶対に成功はありませんよ、と。企業での基礎研究は、1人で2年くらいやる。見込みがあるかどうかみて、ないとなると次に行く。3番目までは見事に失敗しました。
4番目はリチウムイオン電池。それぞれ失敗した理由はある。失敗を生かした。失敗しないとダメだと思う」

朝日新聞より

 ノーベル賞受賞受賞決定後、名城大学で吉野彰教授が記念講義をされた。
その後の記者会見で上記のように答えておられる。

人は失敗しようとして失敗をしているわけではない。もちろん成功を目指している。当然未知のことに挑戦をしているのだから、失敗はする。しかしその失敗は成功するための失敗だ。失敗の原因を調べ再挑戦する。したがってこの失敗は成功のための失敗となる。つまり成功の過程にある失敗は、ほんとうの失敗ではなく、上手くゆかない方法の発見であり、成功への一歩だ。

本当の失敗とは、挑戦を諦めることである。


このコラムは、2019年11月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第901号に掲載した記事に加筆しました。

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無駄を許容する

 青森県沖で訓練中の航空自衛隊機が墜落した。メルマガ執筆時、パイロットは依然行方不明であり、事故原因も不明だ。「レーダーから機影が消えた」という報道があるが、ステルス機がレーダーで捕捉できるのだろうか?墜落の原因は何か?など知りたいことは多くあるが、軍用機なのでその性能や弱点などを含む情報が公開されることはないだろう。

今日は事故原因からではなく、別の角度でこの事故を考えて見たいと思う。

航空自衛隊は、次期防衛戦闘機としてF35を導入することを決めているようだ。すでに150機ほど納入済み(あるいは納入決定)らしい。保守・修理を考えれば、すべて同型機で揃えるのが常識だろう。

整備・修理用の保守部品、機材、修理・メンテナンス中の予備機などの準備は同一機で運用する方が経済効果が高いはずだ。更に整備・修理工やパイロットも単一機とした方が育成コストが安く済む。

しかしもう少し踏み込んで考えると、揃えた戦闘機に致命的な欠陥が発見されると、代替えで運用できる戦闘機は無くなる。過去のF15が再登板する事になれば、戦闘時に性能的に劣勢になるかもしれない。軍備は相手と拮抗している事により「抑止力」となる。明らかに劣勢であれば、捨て身で本当に戦うことになる。

これは工場も同じだろう。同型の設備に統一しておけば、保守・修理などの運用コストは抑えられるが、その設備に固有な致命的問題が発生すれば生産が止まってしまうリスクがある。

組織も同様だと思う。
アリは働き者だという認識が一般的だが、実は一定割合でサボるアリがいる、という研究結果がある。その不埒なアリを集団から排除してしまうと、別のアリが働かなくなり、怠け者のアリの比率は一定となるそうだ。

全てのアリが休む事なく働き続ければ、多くのアリが疲れ切り集団の存続が危うくなる。「種の保存」原理が働いているのではなかろうか?
人間も、効率ばかり優先する集団より、無駄を許容する集団の方が、生産性や創造性が高くなるのではなかろうか?


このコラムは、2019年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第810号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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オンライン点検

 「オンライン点検」などという言葉があるのかどうかわからない。
通常点検・メンテナンスは非稼働時に行われる。稼働中の設備を止めて、又は非稼働時を狙って点検を行い、必要があれば設備を止めてメンテナンスを行う。

以前JR西日本でのぞみ34号の台車に亀裂が入っているのにそのまま運行した重大インシデントについてメルマガに書いた。

メルマガ第607号:運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル

メルマガ第649号:のぞみ34号

メルマガ第652号:組織事故

この事故は、走行中に異常を感知しながら、運行を止めて点検する判断が出来なかったという問題だ。幸いにも何事もなかったが、一つ間違えれば大事故につながる重大インシデントだ。

直接のぞみ23号に関わる記事ではないが、JRは運行中に線路点検をしている、という記事を見つけた。

「鉄道の点検は列車にお任せ、首都圏でハイテク車両活躍中」(朝日デジタル)

運行車両にセンサーを取り付け、線路などの状況を運行中に監視するという。
通常は保線区の職員が、徒歩で線路の状態を点検する。ハイテク車両はレーザ照射、カメラなどの装備を備え、画像診断でレール、枕木、留め具などの異常を発見する。

新幹線でも「イエロードクター」という路線点検用列車が走っているそうだ。
記事のハイテク車両は営業運転中の車両に点検装備が積み込んであるので、リアルタイムで点検が可能になる。更にこういう仕組みがあると保線要員が歩き回る必要は無くなる。

同様の発想で、車両の各部にセンサーを貼り付け振動解析をすれば、今回重大インシデントとなった台車の亀裂は簡単に発見できるだろう。

工場の設備も同様のことができる。
ベテラン保全マンは、設備の稼働音を聞いただけで設備異常の兆候を察知する。このノウハウをセンサーと音声解析に落とし込むことで、故障する前に予防保全が可能になるはずだ。


このコラムは、2018年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第664号に掲載した記事に加筆したものです。

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朝日新聞ヘリの緊急着陸、部品の摩耗が原因 運輸安全委

 東京都健康長寿医療センター(板橋区)の敷地内にある空き地に4月、朝日新聞のヘリコプターが緊急着陸した原因について、運輸安全委員会は17日、「回転翼を操作するスイッチの部品が摩耗していて操縦に障害が生じた」とする調査報告書を公表した。

 報告書によると、ヘリは4月27日午後、取材から戻る途中に板橋区上空で操縦装置に不具合が生じた。機長は速度を上げようと、回転翼の傾きを操作する「コレクティブスティック」を引き上げようとしたが上がらず、空き地を見つけて着陸した。

 安全委がスティックの摩擦抵抗を緩めるスイッチ部分を調べたところ、ねじが緩んでがたついていた。このため、部品の一部が摩耗し、スイッチを最後まで押し込めない状態になっていたことが分かった。スイッチのねじ部分は覆いがあるため、「目視による点検は不可能だった」と指摘。メーカーに「材質を摩耗しにくいものに変えることが望ましい」とした。

 朝日新聞社広報部の話 予防的に緊急着陸しました。今後も安全運航に一層努めます。

朝日新聞ディジタルより

 私はヘリコプターのメカニズムに関しては,まったくの素人だ.従ってこのコラムは,ヘリコプターの事故を題材にした,メンテナンス,予防保全に関するコラムとして読んでいただきたい.

記事によれば,事故はネジの緩みにより部品が磨耗,コレクティブスティックが操作不能になったということのようだ.運輸安全委員会の報告書には,部品の耐摩耗性をあげることをメーカに推奨しているという.

しかし,部品の磨耗がネジの緩みにより発生したのならば,ここに対策を打たねば事故を未然に防ぐことは出来ないだろう.耐摩耗性の向上だけでは,延命になるだけだ.

常に振動がかかっている部分に使用されるネジは,点検増し締めが必要だ.
しかしこのネジは外部から目視不可能という.ネジの緩みがメンテナンス不良などの人為的原因により発生したのでなければ,ネジは点検増し締めが可能な構造にしなければならないだろう.

操縦不能によって発生するリスクは,乗客,乗務員の生命の危険だ.これはトップクラスのリスクであり,最優先で改善しなければならない.

4月の事故が12月に報告されたのでは,同型ヘリの他の機体に対して点検・予防保全をするのが手遅れになる.

工場の設備も同様だ.
万が一事故があったときは,リスク(生命財産への危険,生産継続への障害など)により優先度,緊急度を決定して,すぐにアクションをとるべきだろう.

設備ばかりではない,車載用の電装モジュールなどは,生産時にモジュール内部のネジ締めは厳重に管理されている.ネジ一点ごとに締め付けトルク,斜行によるネジの浮きがチェックしている.これは抜き取りや目視検査によって行われるのではない.工程内で100%自動検査が行われている.


このコラムは、2010年12月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第184号に掲載した記事に加筆したものです。

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ハインリッヒの法則

 このメールマガジンを読んでおられる方で「ハインリッヒの法則」をご存知ない方はおられないだろう。ハインリッヒという名前を知らなくても「ヒヤリ・ハット」といえばご存知であろう。

大怪我を負うような事故1件につき軽傷事故が29件、事故にはならなかったがヒヤリ・ハットするような事象が300件ある、という経験則をハインリッヒの法則とよんでいる。

これは安全災害だけではない。
例えばお客様の苦情を放置していた結果、保険金未払いで金融庁から業務停止命令を受けた保険会社もある。

我々製造業でも同じだ。
ある製品の工程内不良が0.7%あった。特に出荷を止めなければならないほど不良率が高かったわけではない。しかし全て同一部品による同一現象の不良であった。出荷を見合わせ、解析をした結果部品のロット不良と判明した。検査合格品でも動作環境によっては市場で不良現象が出る可能性があった。

以前指導していた中国企業は、『售后服務部』(アフターサービス部門)に寄せられる顧客からの情報は設計部門にも製造部門にも共有していなかった。

製造部門の工程内不良、アフターサービス部門の顧客からの情報、これらはヒヤリハット情報といっても良いだろう。

不良率だけではなく、不良現象別に不良率をリアルタイムに集計していれば異常を早期発見できる。大量の工程内不良が発生する前に対策することが可能になる。その結果不良が市場に流出するという最悪の結果を未然に防ぐことができる。

アフターサービス部門の情報を全社で共有すれば、顧客クレームの無い製品を設計できるようになるはずだ。また修理情報などから部品の寿命データを収集できる。この結果顧客に対する予防保全サービスの提案ができるようになるし、新製品の設計に活かせば、他社との差別化にもつながるはずだ。

製造の不良情報、アフターサービスのクレーム情報、修理情報などネガティブに捉えることなく、社内で共有する体制を作るべきだ。


このコラムは、2018年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第751号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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