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成長プラットホーム

 先週末は、東莞和僑会方針管理・目標管理勉強会を開催した。
この勉強会は、1年間かけて会員企業の経営者、中国人幹部が方針管理・目標管理を実践する勉強会だ。三回目となる今年は6社が参加している。毎回幹事会社に集まり、勉強会・工場見学をしている。

今回会場となった幹事会社は電子部品を生産するT社だ。
プラスチック部品、金属部品の加工から最終電子部品の組み立てまで原材料から一貫生産出来る工場だ。

昨年、引っ越し直後のT社で勉強会を開催した。当時は新人作業員が多く苦労しておられた。あれから半年あまり、生産ラインの見かけは大きくは変わっていないが、内容は改善が大きく進んでいた。生産性が約1.7倍、直行率は劇的改善が続いており、直近の1ヶ月だけでも20%改善されている。

T社の中国人メンバーは、改善の原動力を以下のように語ってくれた。

  • 作業者の多能工化が進んだ。
  • 作業者に日報を書かせ、毎日達成感や反省を感じてもらっている。
  • 他のラインと比較することにより、競争心を持たせた。

そしてメンバー自身は、方針管理・目標管理勉強会に参加し自分たちで目標を設定したことでモチベーションが上がった。

一緒に参加している企業の良いところを学び、他社からコメントをもらう。そんな活動を通して、現場力を上げてきた。その原動力が参加メンバー自身の成長だと語ってくれた。

参加企業のメンバーの成長プラットホームとして、方針管理・目標管理勉強会を始め、微力ながら裏方として勉強会を支えてきた。彼らの話を聞いて私自身のモチベーションも上がった。


このコラムは、2018年7月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第796号に掲載した記事です。

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経営計画

 先週土曜日は朝から一日東莞和僑会の勉強会に参加していた。
朝からお昼を挟んで2時までは、限定メンバーで目標管理勉強会。3時から5時半までは、一般参加者向けの定例会。その後8時過ぎまで懇親会に参加した。

目標管理勉強会は今年から始めた試みだ。年度事業計画を作る事により、目標管理を勉強している。年末までに2016年の事業計画を作成し発表会をやる予定でメンバーの工場持ち回りで勉強会を開催している。第三回の今回は中国人スタッフも参加して、大人数で開催した。

私も前職時代は、品質保証部門長として、毎年年度計画を作成していた。
事業部室から、事業部年度計画作成の為の基礎データとして各部門の計画提出要求が来る。
品質保証部門の年度計画は、協力工場・仕入れ先指導の出張経費、人材育成費用、品質損失コスト程度しか無い。人員の変動はほとんどないので、労務費は前年のコピペで済んでしまう。

これを年度末にやる訳だが、ほとんど私一人で鉛筆をなめながらやってしまう。品質損失の売り上げ比率を、毎年の品質目標にしているので、営業部門の売り上げ計画から計算すれば来年度の品質損失コストの計画(目標)が出る。次年度の協力工場・仕入れ先指導計画だけは、メンバーが集まって各協力工場、仕入れ先の今年のパフォーマンス評価、来年の計画を作る作業をしていた。

事業部全体の事業計画を立てる事は無かったが、自部門の計画作成はこの程度で良いと思っていた。

しかし目標管理勉強会で、これでは不十分だと気がついた。
年度計画の作成は、予算の確保だと言う観点でしか考えていなかった。もちろん毎月のQA会議では、事業部長に目標の執行状況を報告する。品質損失コストの推移、品質指導の出張経費の執行状況、人財育成費用の執行状況により、計画が予定通り執行出来ているかどうか判断出来る。未達の項目が有れば、対策を議論する事になる。

こういう目標管理活動の計画を、自分が鉛筆をなめながらやってしまう。これが間違いだったと気がついた。人材育成計画や品質損失コストの目標達成施策は、予算の承認が降りた後にメンバーと議論していた。これではメンバーの参画意識を高められない。またメンバーに自部門の年間計画作成する訓練が出来ない。

勉強会の講師を勤めていただいている富田氏は、こういう日常業務を通して中国人幹部の育成をしていたのだろう。初めの2、3年は各部長が持ってくる計画はほとんどザルだそうだ。自分自身でザルだと分かっているので、自ら工夫努力する様になる。

最終的にはA3シート1枚の売り上げ計画が、A3エクセルシート30枚のバックデータを元に作成される。バックデータは顧客の製品別生産計画・新製品投入計画、業界の経済動向および自社の拡販計画が織り込まれている。

製造部門,生産技術部門なども同様に次年度の計画がA3シートで出てくる。

各部門の次年度計画が合体して次年度の事業計画が出てくる。
そこには毎月の人材採用計画、購買計画、設備投資計画が出て来て、それらの計画を実施する為に月次の資金計画が出てくる。

この過程に参加させる事が、最高の人財育成だと感じた。
こういう実戦訓練により経営マインドが育成され、自部門の都合より全体を考える力がつくだろう。

私自身も、そのような心構えで自部門の次年度計画を作っていれば、もっと経営者マインドを高める事がで来ただろう。多分独立後の苦労も少なかったはずだ(苦笑)

東莞和僑会「目標管理勉強会」はさらに進化し「改善交流会」を定例開催している。


このコラムは、2016年5月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第476号に掲載した記事に加筆修正しました。

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続・記録する文化

 先週のコラム「記録する文化」に読者様からいただいた.

※F様のメッセージ
 いつも楽しく拝見しています。
中国企業関連の仕事をしている訳ではないのですが、どのような分野の経営や指導にも当てはまる内容で、いつも本当に勉強させて頂いています。
 29日のメルマガは、企業における大人社会だけでなく、現在の子供たちへの教育全般においても、大変意義深く、考えさせられる内容でした。何事も、処理対応能力だけでなく、根本的な部分から、愛情と誠意を持って育てて(指導して)いくことの大切さを、再認識させて頂けました。
 本当にありがとうございます。これからも楽しみに拝読させて頂きます。

F様,メッセージありがとうございます.
私は製造業の事例を中心に記事を書いていますが,F様のようにご自身のエリアに引き付けて解釈をしていただけると,応用が効くと思います.そのような読み方をしていただけると,私も大変光栄です.

※I様のメッセージ
 本日のメルマガ「記録する文化」、これは中国で職場を管理する際は “必須”ですね。

 私が某ホテルを管理している時、まずフロアーキャプテンに「客室清掃の模範形」を詳しく教え、その後、キャプテンが一般清掃員に教える。
管理者は、一般清掃員が「正確に」「正しく」覚えたかをテストし、理解度を試す。間違いやちょっとしたズレがあれば、その場で修正していく。
管理者は、従業員に要求する「清掃レベル」をハッキリと示し、従業員は覚えたら必ず「サイン」をする。

「何時に」「誰が」「どういう清掃をしたか」を記録によってみえるようにしてからはお客様からのクレームは“ほぼゼロ”になりましたね。

I様,メッセージありがとうございます.
ホテル業界も製造業も,仕事を教えるということは同じですね.まず仕事の意義とその目的を教え,達成すべき基準と方法を教える.

製造業の場合は達成すべき基準が「製品仕様」だったり「検査仕様」であり,定量化しやすいことが多い.定量化しにくいものは「客室清掃の模範形」の形で提示するのが有効ですね.

こういう教え方は,中国だけでなく日本でも同じようにしなければならないと思っています.長らく日本人の「均一性」に依存し,この様な教育・指導が,先輩の背中を見て覚えろ式になっていた.しかしすでにこういうやり方では,日本人でも若い世代の指導は不可能だと感じています.

そうやって教わったことを,記録することを前回のメルマガで推奨したわけですが,I様には更に作業記録をとることも指摘いただきました.作業管理の面で重要なことと思います.

特に作業の結果を検査するのが妥当でない仕事では,作業記録が品質保証の証拠になります.


このコラムは、2010年4月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第147号に掲載した記事に加筆しました。

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ポジティブキーワード

 先週の記事「質問の力」に対して読者様からこんなメッセージをいただいた.

☆H様のメッセージ
今日のテーマの「質問の力」の内容はとてもいいと思いますよ!私もよくします。
言われたからするのではなく、その作業の本質がわかっている人は、色々な角度から質問してもきちんと答えられます。
そういう人は確実に仕事を身につけていくのですよね。

あと、編集後記の内容もよかったです。
マイナスワードの言葉は、マイナスなことしか引き寄せませんからね。
つらいことがあったら、「明日はもっと素晴らしい」と言ってます。
そう言えるようになると、ポジティブに暮らせますよね。

H様メッセージありがとうございます.

行動を変えるというのはなかなか難しい.
しかし言葉を変えるのはそんなに難しくはないはずだ.
たとえば部下に「お疲れ様」といわないで「ありがとう」と言うようにしてみる.疲れていることを,言葉がけでわざわざ認識してもらうよりは,感謝の気持ちを伝えた方が,気持ちがポジティブになるはずだ.
ついつい「お疲れ様」といってしまうが,気をつけていれば「ありがとう」と自然にいえるようになる.

言葉が変わると心が変わる.
「ありがとう」という言葉から自然と感謝の心が出てくる.

心が変われば行動も変わる.自分が変われば部下も変わってくる.

「ウチの部下は出来が悪くて」などと嘆く暇があったらまず言葉を変えてみてはどうだろうか.

H様のポジティブキーワード「明日はもっとすばらしい」は中国では『明天更好』と訳せばよいだろう.短くてよいキーワードだと思う.

私の今年のポジティブキーワードは「いつもニコニコ絶好調」だが「今日もがんばった!」を追加した.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事です。

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続・質問の力

 先週は「質問の力」について記事を書いた.「質問の力」の具体的な事例を紹介したい.

生産現場に行くといつもと違うところで生産の流れが停滞している.通常ボトルネックではない工程がボトルネックになってしまっている.

そこで組長さんを捕まえて質問を始める.
私「このライン調子はどう?」
組長「生産量が上がっていません」

私「どうして?」
組長「○○の工程に新人が入っています」

私「新人だとどうして生産量が落ちるの?」
組長「作業にまだ慣れていません」

私「どの作業が慣れていないの?」
組長「テープを台紙から剥がした後にテープが丸まってしまって…」

私「どうしてテープが丸まるの?」
組長「作業に慣れていないから」

ここで質問と答えが無限ループに落ちてしまう.
実はこの工程では台紙からテープを剥がして製品に貼り付ける作業をしているが,台紙からテープを剥がした瞬間に静電気が発生する.作業者がテープを指先でつかもうとすると静電気で指に吸着してしまい作業がうまく行かないのだ.

ベテランの作業者はこれを経験として知っており,剥がしたテープを指で取りに行かない.逆に静電気の吸着力を利用して指のほうに吸い寄せている.

ベテランと新人の作業をよく観察すると違いは分かる.しかしこの現象のメカニズムに到達できる人はそうはいない.

そこでベテランと新人の作業の様子を指先を拡大してビデオに取る.
これを見せながらどう作業をしているか説明する.その後で静電気で吸着しているメカニズムを教える.

この順番にやらないと,消化不良を起こすだけだ.

質問をすることによって「生産量が落ちている」という現象の根本原因を突き止め,改善方法を考えてもらう.
難しい部分については,こちらで理論武装をしてあげなければならないが少なくともうまくできている作業者の動作を観察することによって新人に教えるポイントは見つけることができるだろう.

このように現場で,質問を繰り返すことによって始めて指導ができる.

生産量が落ちている.ボトルネック工程が変わっている.となれば経験のある管理者ならば,すぐに新人が投入されていると推定できるはずだ.そこで「新人に対してちゃんと作業訓練をしなさい」と班長に指示を出すことはできる.しかしこれでは班長はどう作業訓練すればよいか分からない.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事です。

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質問の力

 先週は「人誑し改善」について記事を書いた.
「人誑し」の方法として「褒め倒す」というのをしばしば使っている.

改善をして成果が出ればうんと褒める.しかし改善の成果が出るまでは褒めるチャンスがやってこない.したがって改善のための行動が一歩踏み出せた時点で褒めてしまう.

失敗しても「失敗の向こうに成功があるのだ」といって褒めてしまう.

知識があるというのは褒めない.
知っているだけでは褒められない,知っていることを行動に移したら褒められる,ということを理解してもらうためだ.

もうひとつよくやるのが「質問」だ.
こうすればいいと教えてしまう.こうしなさいと指示をしてしまう.このほうが手っ取り早いのだが,これを繰り返していると「指示待ち人間」しか育たない.

質問により気付きをもってもらい行動に移す,そんな質問で誘導するわけだ.我々の「質問力」はTVドラマの刑事のように真実を突き止めるための質問ではない.改善に必要な「質問力」はリーダが行動を起こすための質問だ.

なんだか「女誑し」の手管のようだが効果はある.と思っている.

■■ 編集後記 ■■
最後まで読んでいただいてありがとうございます.

日本に一時帰国している間にFMラジオでこんな話を聞きました.

仕事が忙しくても「疲れた」とは言わない.
「今日もがんばった」と言う.
「忙しい」とは言わない.
「充実している」と言う.

名前は忘れてしまいましたが,若いバラエティアイドルの信条だそうです.
前向きでいいですね.私も真似をすることにしました.


このコラムは、2009年8月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第112号に掲載した記事です。

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孤高社員

 以前のコラムで「支持待ち社員」に対する対処法について検討した。
「指示待ち社員」

今回は「孤高社員」について考えてみたい。
「孤高社員」というのは、自分の得意分野や、自分の仕事だと思っている仕事に対しては、情熱を持って率先して取り組み、力を発揮する社員だ。
こういう社員ならば理想的な社員に見えるが、困った事に興味が無い仕事には取り組まない。他人の仕事には、批判はするが協力はしない。従って組織の中では孤立してしまい「孤高社員」となる。

特に日本企業の様に「和」を重んじ、組織内、組織間の協調で仕事を進める組織には、困った社員となる。

中国人幹部に研修をする機会が多く、たまにこういう人にであう。
講師に向って「こういう研修は自分には不要だ」と平気で言うタイプだ。経営者は当人に不足している技量や、心構えを改善したくて研修に派遣しておられる。「職場に戻って仕事をしていろ」と叱り飛ばす事は出来ない(笑)

こういうタイプの人間は、日本人にもいる。若い頃に同僚にこういうタイプがいた。天才的なアイディアを閃き、仕事もできる。しかし仲間と協調するのは苦手だった。私も彼とは一緒に仕事をしたくないと思っていた。案の定、彼は組織の中で遊離してしまい、重要な仕事は回って来ない。
彼とは別の職場になってしまったが、ある時担当している仕事で行き詰まり、彼ならどんなアイディアを思いつくだろうかと、ふと思ったことがある。出来る事ならば、彼をプロジェクトに参加させたいとさえ思った。

「あいつとは仕事をしたくない」と言うのは私の利己的な感情であり、彼の能力を引き出す事がリーダシップなのだと気が付いた。

上記の孤高中国人社員の日本人上司も、どういう職位を与えたら彼が力を発揮するかと考えておられた。

人にはそれぞれ、ネガティブな側面とポジティブな側面がある。
普通の人はネガティブな側面を押し込み、ポジティブな側面を大きくしようとする。しかしネガティブな側面もポジティブな側面も自分自身であり、ムリにネガティブな側面を押し殺そうとすれば、自己否定に陥りがちだ。そうなれば人のパフォーマンスは十分に発揮されない。

天才肌の人にありがちだが、すごい能力があるのに、コミュニケーションが下手だったり、他人と協調することができなかったり、計画通りに仕事を進める事が苦手だったりすることがある。こういう人の苦手を無理やり克服させると、平凡な人になってしまう。

とんがった社員は、もっと尖らせれば良いのではないかと思っている。苦手な側面は、組織でカバー出来るだろう。

天才的な経営者には、女房役の経営幹部が参謀としてついている事例がよくある。苦手を意識するのではなく、天才性を磨く。そういう「孤高社員」の存在を認めることができる組織が成長することができると考えている。


このコラムは、2015年6月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第426号に掲載した記事に加筆しました。

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韓非子

 韓非子は性悪説という先入観念があり,今までまったく興味を持たなかった.しかし日本に帰国した折に,何も考えずに韓非子に関する文庫本を買った.長らく放って置いたが,最近ぺらぺらと眺めている.

韓非子の言葉にこんな説があった.

下君は己の能を尽くし
中君は人の力を尽くし
上君は人の智を尽くす.

自分の能力に頼るのは,下級のリーダ
人の力を活用するのは,中級のリーダ
人の智恵を活用するのが,上級のリーダ
ということだろう.

自分で何でもやってしまえば,部下が育たない.いくら高い能力を持っていたとしても,部下10人分の力を発揮できるリーダはいないだろう.従っていくら能力が高くても,それに頼っているうちは本当のリーダとは言えない.

部下の力を活用して,成果を挙げて初めてリーダと言えるだろう.
しかし韓非子はこのレベルでは中級のリーダだと言っている.
つまり部下にいくら力があっても,リーダの指示に従わせるだけでは,たいした働きはしない.命令・指示に従う部下のモチベーションは高くはない.部下の能力を,いかにしたら100%引き出せるかと,悩むことになる.

上級のリーダは,部下に自ら考えさせる.
自ら考えることにより,部下は成長する.そして命令・指示で動くよりは,自らの考えで動いた方がモチベーションは高くなる.この場合は,いかにすれば100%以上の能力を部下が発揮するかを,考えることになる.

この話をクライアントの中国人幹部たちに話してみた.
一人がこの話に異を唱えた.彼曰く;
100しか仕事が出来ない人に150の仕事を与えたら,仕事の質が落ちる,本人は疲弊する.良いことはない,と言う主張だ.

もっともに聞こえる主張だが,仕事に対する能力は仕事を与えることによってしか成長しない,と言うことを忘れているようだ.

100の能力の者に200も300も仕事を与えたらば,彼の指摘のようになるだろう.しかし少しがんばれば達成出来そうな目標を与える,そしてそれを達成することにより,部下は成長するはずだ.
その時に150の仕事をこなすための方法をこと細かく教えてしまうと,中級リーダと同じことをしていることになる.


このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事に加筆しました。

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部下は上司の鏡

 子供は親の鏡.部下は上司の鏡.従業員は経営者の鏡.
こういうことは皆さんわかっているはずだ.しかし「うちの部下は気が利かなくて」「うちの部下はホウレンソウが出来なくて」なんて言っている人がたくさんいる.それは上司(自分)がだめだと公言しているのと同じだ.

部下が気が利かないのは,上司自身の部下に対する思いやりが足りないからだ.
部下がホウレンソウが出来ないと嘆く上司は「適当にやっといて」と指示を出し「あれどうなってる」を報告を求める.上司自身がホウレンソウが出来ていないと言わざるを得ない.

気が利かない部下を変えることは出来ない.他人と過去は変えられない.
しかし気が利かない部下を替えたところで,多分事態は変わらないだろう.
他人と過去を変えられなくても,自分と未来は変えられる.自分が変われば,他人との関係が変わり,その結果他人も変わる.過去の事実は変わらなくても,その意味が変わる.

子供と同じだ.子供は親が願ったとおりに育つ.悪いことをすると心配していれば,悪いことをするようになる.いつも叱っていれば,叱られることをする人間になる.いつも褒めていれば,自信を持った人間になりいざという時にくじけない.

子供を育てることと,部下の育成には多くの共通点があるような気がする.
もうお子さんが成人していても,こういう本↓に目を通す価値はある.
「子どもが育つ魔法の言葉」ドロシー・ロー・ノルト著


このコラムは、2012年5月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第256号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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社内研修について

 先週は読者様から社内研修についてご相談のメールをいただいた。
いただいた相談にはメールで、私の考えをお伝えしたが、他の読者様にもシェアしたいと思う。

※F様のご相談
 メールマガジンかセミナーだったか覚えていませんが、以前林先生から教育は計画を立てて、計画通り実施しなさいと教わりました。以来毎年年初に教育計画を立てて実施する様にしています。ISOの品質計画に入れているので、年末のレビューで計画の実施状況を確認しています。

計画時には、達成目標と担当者を決めています。
具体的には、目標:現場監督者の研修を年に2回開催する。
責任部署:総務・人事部
としました。
昨年の目標は達成しましたが、効果の実感が余りありません。何処かやり方が間違っているのでしょうか?

仕事を、重要・非重要、緊急・非緊急の2軸で分類し、4つの象限に分ける。
それぞれの象限ごとに、対応の仕方を変える。教育は「重要、非緊急」の象限となり、計画を立てその通りに実行する。と言う考え方を何度かお話したことがある。
重要だが緊急ではない仕事は、しばしば延期することになり、結局やらずに終わってしまう。と言う事が多いのではないだろうか。教育はその典型だ。忙しいから時間がない、などの理由により延期される。

これを覚えていてくださり、実施されたのはすばらしいと思う。

しかし「年に2回研修をする」と言うのは目標として適切ではない。
教育の目的は、知識を与える事、意欲を向上させる事、その結果対象者の行動が変わる事だ。知識や意欲が高まっても行動が伴わなければ、何も変化は起きない。その結果教育の成果を実感出来ないことになる。
目的に合わせて目標を設定しなくてはならない。

従って、教育の成果目標は研修の回数ではなく、受講者の能力向上、行動の変容としなければならない。

計画には、誰に何を教える、その結果能力を何処まで高める。と言う内容が必要となる。そのために各自に要求される能力と現状能力を知る必要がある。個人ごとに「スキルマップ」を作る。「スキルマップ」とは余り適切な名前ではないかもしれないが、その職位に要求される能力と、現有レベルを個人ごとに一覧表にした物だ。

これがOJTを含めた教育計画の大元になる。
先輩の仕事ぶりを見せておけばOJTになると考えるのは、あまりに楽観的だ。

例えば品質部門のメンバーに要求する能力の一つとして「パレート図」を作る、と言う能力を考えよう。
要求されるの応力のレベルは、

  1. 上位者の指導によりパレート図を作図出来る。
  2. 自主的にパレート図を作図し分析が出来る。
  3. パレート図の作成と分析方法を指導出来る。

の三段階に分けることができる。
このレベルは、具体的な仕事を任せることにより確認出来る。

この様なスキルマップを作成することにより、OJTにより教育する内容、研修により教育する内容を分け、研修の計画を立てる。
この計画を立てると、既に能力のある者に集合研修を受けさせると言う無駄もなくなる。
スキルマップを公開することにより、メンバー各自が何を学べば良いか理解出来る。メンバー自身が学習に積極性を持つと言う効果もある。

研修の回数とか研修への参加人数などを研修成果の目標としてしまうと、研修担当者は、研修業者と相談し、余り効果が実感出来ない研修を開催する事になってしまう。その結果研修受講者にも不満が残り、ただ研修業者を喜ばせることになる(笑)


このコラムは、2013年11月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第335号に掲載した記事に加筆しました。

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