投稿者「master@QmHP」のアーカイブ

聞き間違い

 ネット上にこんな記事が出ていた。海外旅行に不慣れな団体を引率する旅行会社の添乗員は、目的地のイミグレの入国審査で「斉藤寝具店でーす」と答える様指導するそうだ。入国審査の係官には“Sightseeing. Ten days.”と聞こえるのだそうだ。係官は何度も同じことを質問しており、毎回同じ様な答えを聞いているので、耳が順応しているのだろう。すんなりパスするそうだ。

しかし我々の仕事上ではこの様な聞き間違いは重大な問題になりかねない。
復唱などにより相互確認をする必要がある。
多分中国の日系企業では「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)は常識として中国人従業員にも指導しているだろう。日本語を中国語に翻訳してに『菠菜(ほうれん草)』と教えたのでは中国人には意味がわからない。

中国人同士でも聞き間違いによるミスがあるはずだ。私はこんな笑い話で、教えている。

木の下に羊が死んでいるのを見つけた鷹は、今日はあの羊を食べようと思い、旦那に向かって「下面羊死了」(下に羊が死んでいる)と報告。旦那はそれを「下面痒死了」(お下がムズムズするの)と聞き違え、ムラムラしてしまいました。

この様に教えてホウレンソウが良くなるかは不明だが、印象には残るだろう。

ついでに中国の若者教えている「字謎」(なぞなぞ)もう一つ。
「玉」と板書してこれをなんと読むか尋ねる。当然中国人な怪訝な顔をして「yu4」と答える。いやこれは「主動一点」と読むのだと教える。主の点を下に動かすと玉になる、という意味だ。

「主動一点」これが意外と受ける。
受け身でなく、自主的にやりなさいという意味になるからだ。


このコラムは、2021年12月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1235号に掲載した記事です。

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信は轅なり

yuē:“rénérxìnzhīchē(1)(2)xiǎochē(3)yuè(4)xíngzhīzāi。”

《论语》为政第二-22

(1)大车:牛車
(2)輗:牛の首を牛車と繋ぐ横棒
(3)小车:馬車
(4)軏:馬車のながえの端に横木をつけるためのくさび。

素読文:
いわく、ひとにしてしんくんば、なるをらざるなり。大車たいしゃげいく、しょうしゃげつくんば、なにもってかこれらんや。

解釈:
人に信がなくてはならない。牛車に牛をつなぐながえの横木がなく、馬車に馬をつなぐながえの横木がなくては、前に進むことはできない。人間における信もながえの横木と同じだ

ある中国人経営者の戦略

 久しぶりに、中国企業に勤めている友人に会った。彼の会社の中国人経営者は、以前日系企業に勤めており、日本語は堪能、日本びいきの人だ。

日本の品質要求は非常に高い。中国企業は言うに及ばず、欧米企業と比較しても日本企業の品質要求は高い。

中国企業の中には、日本のうるさい要求を嫌がり日系企業の仕事を受けない、と割り切る経営者が増えていると言う。

友人曰く、品質にかかる費用が大きく日系企業向けの製品は利益率が低いそうだ。中国の一流企業でも、日系企業と比べたら楽なモノだそうだ。当然利益率も中国企業向けの方が良い。そんな事情があり、ジワジワと日系顧客向けの生産比率が減っているそうだ。

しかし、この会社の中国人経営者は、日系顧客向けの生産を一定比率キープする様にしていると言う。その理由は、楽な仕事に慣れれてしまうと、日系顧客向けの製品は二度と作れなくなるからだと言う。

当然中国の消費者も、企業もこの先品質に対する考え方のレベルが上がって来るに違いない。

これは生産の品質ばかりではない。
例えば、出荷係のリーダと現場で話をしていると、話の最中にこうでしょ?と図解で説明してくれるのだが、図を描いているのは出荷製品が入っている段ボール箱だ。そんな所に描いちゃ駄目だ!と叱っても、何で?と言う顔をする。

梱包材料置き場にある組み立て前の段ボール箱が平積みになっている所に、昼休みに寝る従業員がいる様で、段ボールは人型に凹んでいる。

我々には当たり前の事が、彼らには当たり前ではない。彼らの当たり前は、我々には許容出来ない。しかしこのギャップは遠からず埋まってしまうはずだ。その時に日本的品質をちゃんと理解し、守れる工場が有利になる。

このメルマガでも何度も言っているが、品質とコストは別の話だ。
品質を上げるためにはコストがかかる、と言うのは言い訳に過ぎない。
コストと品質をトレードオフ関係にしてしまうから、解が得られないだけだ。


このコラムは、2015年4月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第421号に掲載した記事です。

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おにぎりとおみそしる

 小さな白いおにぎりと具のないおみそしる これは、わたしにとって、わすれる事のできないごはんです。
わたしは、東日本大しんさいで、自分の家にいられなくなり、ひなん所で生活していました。その時の食事の内ようです。
それまでのわたしは、おやつを食べて、食事の時には、テーブルにはたくさんのおかずがあって、食後には、デザートまでありました。それが、あたり前だと思っていました。
とつぜんのさいがいを受け、ひなん所で生活をしてみて、わたしが食べていたものが、とてもめぐまれていた事に気が付きました。何日間も、おにぎりとおみそしるだけを食べていましたが、ふしぎとあれが、食べたい、これが、食べたいとは、思いませんでした。おなかがすいて、食べる事ができることだけで、うれしかったからです。
白いおにぎりから、中に梅ぼしが入ったおにぎりになった時は、とてもうれしかったです。
ひなん所から、東京にいどうした時に、はじめて、おかずのついたごはんを食べました。弟が大好きな野菜を見て、「食べていいの。」と聞きながら食べていました。とても、うれしそうでした。

今もまだ、自分の家には帰れないけれど、テーブルには、わたしの好きな食べ物がたくさんならびます。季節のフルーツもたべられるようになりました。
ひなん所で、テーブルも無くて、おふとんをかたづけて、下を向いて食べた小さなおにぎりと具のないおみそしるの味は、ぜっ対にわすれません。こまっているわたし達にごはんを作ってくれた人達の事もわすれません。

ひなん所にいた時は、あまりわらう事ができませんでした。でも、今は、わらってごはんを食べています。つらい事やこわい事もたくさんありました。今は、ごはんを食べて、おふろにはいって、おふとんにねむれる事が、とてもうれしいし幸せです。
これからも、食べ物をそまつにしないで、楽しくごはんを食べていきたいと思います。 (全文)

この文章は、東日本大震災の影響で、福島県浪江町から埼玉県ふじみ野市に避難している小学4年生の常盤桃花さんが書いた作文「おにぎりとおみそしる」だ。この作文が注目を集め、埼玉県教育委員会が震災に関わる出来事を題材に作った道徳教材「彩の国の道徳 心の絆」にも採用された。

突然この様な文章を引用したのは、2012年4月5日に記録したEVERNOTEのメモを偶然見つけたからだ。この作文をEVERNOTEにメモした事すら忘れていた。
作文を読み返し、また涙が出た。
震災からもう4年が経った。当時の事を忘れない様にしたい。


このコラムは、2015年2015年5月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第422号に掲載した記事です。

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自己都合・顧客都合

 サービスや商品を顧客に提供しその対価を得る。簡単に言ってしまえば、これが企業活動の基本だ。この基本活動を、供給者側の自己都合でやるか、顧客都合でやるかで業績は全く変わってしまうと言うのが、私の持論だ。しかし供給側の自己都合による企業活動が横行している様に思える。

例えばスーパーマーケット。「売り場」と言う概念は自己都合だ。「買い場」と言う概念を持てば、顧客都合に近づく。
中国のスーパー(カルフールやウォールマートなどの外資系も含む)は、特設売り場を作るのは、営業時間中だ。通路の中央に特設した売り場の商品を入れ替える、こういう作業を混雑している時間帯に平気でやる。回収する商品、新しくディスプレイする商品を通路に並べ作業をする。当然買い物に来られたお客様は通路を迂回することになる。

10年間観察した経験によると、中秋節の夕刻7時頃が一番すごいことになる。
展示してあった月餅の売れ残りを一気に撤去し、別の商品を陳列する作業が始まる。月餅の販売は中国の重要な季節行事である為、どのスーパーも大量の月餅を展示販売する。これを一気に撤去し別の商品に入れ替えるのだから、混乱の極みとなる。
なぜそんなに急がねばならないのか理解に苦しむ。中秋節の夜にスーパーに行くと月餅はキレイに無くなっている。全て売りつくされたのではなく、夕刻に撤去され「何処かへ」搬送される。

こういうのを「自己都合」によるサービスと言う。
「顧客都合」で販売出来る様になれば、売り上げは増加するはずだ。

工場でも同じだ。
お客様の注文量よりたくさん生産して在庫しておく、と言うのは「顧客のため」に見えるが、様々な「自己都合」が隠れている。例えば、段取り替えに時間がかかり生産効率が悪いのでまとめ造りをする、などの自己都合だ。
顧客都合で生産が出来る様になれば、生産性は相当上がるはずだ。


このコラムは、2015年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第433号に掲載した記事です。

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中田英寿氏、人生の決断 なぜ文化の伝道師に?

 日経新聞電子版に、元サッカー選手・中田英寿氏の現在の活動を伝える記事が出ていた。

「中田英寿氏、人生の決断 なぜ文化の伝道師に?」
(残念ながら記事はすでに削除されていた)

現役選手時代は、トップ下の司令塔に立ちゲームメイクする中田に、日本のサッカーファンは絶大な信頼感を寄せていた。試合後の発言や、欧州チームへ移籍後普通に現地の言葉でコミュニケーションしている姿に触れ、知性の高い人物だと思っていた。

その中田が、W杯ドイツ大会後あっさり現役を引退してしまい、世界中を旅していると聞き、やっぱり「変な人」なんだと納得していた(笑)

記事によると、中田は3年かけて世界90カ国以上、150都市以上を歩き回ったそうだ。その旅の中で「世界を体験しようと思って旅に出たのに、逆に外国人から聞かれることは日本のことばかり。母国、日本の文化について自分は何も知らない」事に気がついたと言う。

こういう気持ちは、日本を離れ海外で仕事をされている方々に共通の感覚ではないだろうか。私自身も中国に住む様になってから、日本に対する愛着心が強くなっている。「八百万の神々」がおわす日本と、日本民族に対する誇りを強く感じる様になった。

中田の「自分は死ぬまで日本人。ずっと日本の文化のことを聞かれ続けられるのなら、日本のことをもっと勉強した方がいい」と言う発言に、強く共感する。

その後、中田は日本全国を旅して回り、日本文化を探求したと言う。
その結果、日本文化を世界に発信することをビジネスとしている。

中田は「日本の作り手はものを作ることに集中しているが、それをどう売っていくかという国内外の市場につなげる人があまりいない」と感じ、自らその役割を担うことを使命としている。

農業生産物、工業生産物を問わず、日本のモノ造りは、最高の品質を誇りとし生産をしているが、それが世界で市場を制覇しているとは言えない。製品は売れて初めて市場に認知される。売れなければないのと同じだ。
製品の価格や品質を売り込むのではなく。日本のモノ造りが、どのような文化背景で成り立っているのか。その文化的背景をセットにして製品を販売する。
そんなことができれば、新たな付加価値を付けることが出来そうだ。


このコラムは、2015年6月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第430号に掲載した記事です。

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実験計画法

 毎月定期的に開催している「品質道場」で、統計的品質管理もテーマとして取り上げている。そこで分散分析も教えている。随分前になるが、工程改善を指導していた工場で、実験計画法を教えようとしたことがある。分散分析が理解出来れば、その延長で実験計画法も使える様になるはずだと考えた。

しかし日本から赴任しておられた経営幹部から、実験計画法はハードルが高い、と辞退された(苦笑)その時は諦めたが、計算式を埋め込んだワークシートを用意し、実験計画法の意味と使い方を理解してもらえば応用出来るはずだと、チャンスを待っていた。

たまたまQCC活動を指導しているお客様工場で、現状の加工技術を別の技術に置き換えて圧倒的なコストダウンを目指すサークルが出て来た。加工条件を決めるために実験計画法を応用するチャンスが来た。満を持して先週末に半日かけて実験計画法の研修をした。

間接部門を含めて十人前後の中国人幹部に実験計画法を教えた。
本来応用して欲しいサークルのリーダは、全く違うアプローチを考えていた様で、余り熱心に研修を聞いていなかった(苦笑)研修の終盤になって、この研修は自分のためにやってくれたんだと気が付いた様だ(笑)

更に数学とは縁がなさそうな製造部門の女性管理者も非常に興味を持ち、研修後に質問で食いついて来た。数式は理解出来ないが、意味は理解出来た様だ。

途中で気が付いたリーダと、女性管理者の二人が実験計画法を応用して成果を出せば、この会社では普通に実験計画法を使う様になるだろう。今週は全力でフォローする予定だ。


このコラムは、2015年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第424号に掲載した記事です。

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家庭も治世なり

huò(1)wèikǒngyuē:“(2)wèizhèng?”
yuē:“《shū(3)yúnxiàowéixiàoyǒuxiōngshīyǒuzhèngshìwéizhèngwéiwéizhèng?”

《论语》为政第二-21

(1)或:ある人
(2)奚:なぜ
(3)书:《書経》

素読文:

あるひとこういていわく:“なんまつりごとさざる。”
いわく:“しょう、こうなるかなこう兄弟けいていゆうに、有政ゆうせいほどこすと。れもまつりごとすなり。なんまつりごとすことをさん。”

解釈:
ある人が孔子に尋ねた“あなたは、なぜ政治に携わらないのでしょう?”
孔子曰く“《書経》に孝についてこうある。「親に孝行、兄妹に親密であれば自ずと政に及んでおる」こう考えれば家庭内にも政治がある。強いて国政に携わることもあるまい”

孔子は国政に携わりたかったのだろうと思います。しかし諸侯が相互の力学的バランスを考え、孔子を宰相として迎えなかったのではないでしょうか?

1円玉から1万円金貨まで…重さチェック 貨幣大試験

 貨幣の重さが規定通りになっているかどうかをチェックする恒例の「貨幣大試験」が22日、大阪市北区の独立行政法人・造幣局であった。貨幣への信頼を維持するために1872(明治5)年に始まり、今年で139回目。

 桜井充・財務副大臣ら約80人が出席。今年度に造られた1円(1枚1グラム)▽5円(同3.75グラム)▽10円(同4.5グラム)▽50円(同4グラム)▽100円(同4.8グラム)▽500円(同7グラム)――や天皇陛下在位20年記念の1万円金貨幣(同20グラム)など計21種類の貨幣を電子てんびんなどで計量し、基準を満たしていることを確認した。

(asahi.comより)

 新聞の記事なのでこれでよいのだが、科学や工学を勉強した人は、こういうレポートを書いてはいけない。

どこがまずいかお分かりだろうか?

重さが規定どおりになっているかどうかチェックする、と言う目的で「貨幣大試験」を行った。そしてその結果は、基準を満たしていることを確認した。とあるが、その基準がどこにも明記されていない。

つまり1円玉が1gと決めてあるが、測定値がいくらならば、基準どおりと判定してよい、と言う基準が明記されていない。

全てのモノにはバラツキがある。
1円玉を作って1gにせよ。と言う製造指示をもらっても、これを達成するのは不可能だ。公差を入れてもらわなければ、モノ造りはできない。

例えば重量1g±0.01gと書いてあれば、造ったモノの内99.9gから1.01gの間に入っているものが合格品だ。

公差が指定してない場合は、有効数字を明確にしておけば、どれだけばらついてもよいと言うことは類推できる。

硬貨の重量の例では、各硬貨の製造工程は完成品の重量の工程管理能力が同じだとすれば、小数点第二位の精度で作れるはずだ。(5円玉:3.75g)
従って各硬貨の重さはそれぞれ、
1円:1.00g
5円玉:3.75g
10円:4.50g
50円:4.00g
100円:4.80g
500円:7.00g
と表記しなければならない。
つまり有効数字が小数点下二桁であることを明記しなさいと言うことだ。

この場合小数点第三位まで測定できる測定器を用い、1円玉であれば0.995g~1.005gまでの製品が合格となる。

ところで、賢明な読者様は測定にもバラツキがあるのがお分かりだろう。
同じモノを同じ人が測定しても測定値が、違う値になる。その測定のバラツキを評価したものを「ゲージR&R」と呼んでいる。

通常は測定のばらつき(σ)は、測定の公差範囲より一桁精度が高くなくてはならない。3σが公差範囲と同じくらいになってしまうと、1000回測定して3回ほど公差ぎりぎりのものを誤判定することになる。


このコラムは、2010年11月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第181号に掲載した記事です。

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「印影を間違えたから」94万人の通知再送付 年金機構

 国から公的年金の運営業務を委託されている日本年金機構が、間違った印影が印刷された国民年金保険料の通知を年金加入者に送っていたことが分かった。千葉、新潟、長野の3県在住の約94万人分に上り、訂正版を再送付した。受注業者のミスのため、再送付にかかった費用は業者負担となったが、同機構は「不手際で迷惑をかけ、大変申し訳ない」としている。

 印影が間違っていたのは、国民年金保険料の控除証明書(10月1日付発行)で、所得税の確定申告などをする際に添付する書類だ。証明書は「歳入徴収官 厚生労働省年金局事業管理課長」名で出されるが、別の役職者の「支出官厚生労働省年金局事業企画課長」と記された印影が印刷されていた。確定申告などで証明書を提出すれば、その年に支払った国民年金保険料の全額を所得控除できるが、印影が間違っていると証明書としての効力がないという。

 同機構によると、3県分を受注した業者が、別の受注業務のために保管していた印影を印刷した。機構は送付前に確認したが、気づかなかったという。証明書は10月下旬~11月初めに発送され、誤りに気づいた年金加入者から
の連絡で判明した。

(asahi.comより)

 なんともお粗末なミスだ。
実は私も以前同様な不具合に直面したことがある。

製品に貼り付ける主銘板ラベルの安全規格ファイル番号が間違っていたのだ。ラベルはこちらでデザインしており、ラベル業者には版下データで渡しているのでこのような不良が発生するはずが無い。

調査の結果、その業者はこちらが渡したガーバーデータが読めずに、確認用のPDF図面から自分達で版下データを起こした。この時に安全規格ファイル番号を間違えて転記してしまった。ということが分かった。

中国では、しばしばこういうことが起きる。
データフォーマットが読めないと分かった時点で、連絡・相談してくれれば何事も発生しなかったはずだ。

勿論この事故はラベル業者の責任である。しかしラベル業者の責任として片付けてしまえば、再発防止ができない。この様な場合も、自己責任と考え再発防止を検討する。

データ出図時のチェックリストに、データファイルタイプの確認を追加し、設計作業者と購買担当者が確認をすることとした。

上記のニュース記事によれば、年金機構には責任が無いような書き方がしてあるが、業者のミスをそのまま顧客に流出させた責任はある。

私の事例では、工場の受け入れ検査で間違いを見つけており、生産現場、顧客には一切迷惑をかけることは無かった。

ところで今回と類似の事故を想定してみよう。
ありがちなのが、設計変更前の部材が誤納入される事故だ。
発注側も、業者も設計変更直後は「変化点管理」で十分注意しており、事故は発生しにくい。しかし設計変更後2回目、3回目の発注で、レビジョンの古い物が納入されると言う事故はありがちだ。

これを防止するために、図面は発注・納入ごとに出図・返却するようにしておくのが効果的だ。

社内においてはISO9001の仕組みにより、図面の最新版が閲覧されるように保障されているはずだ。しかし業者における外部図面の最新版管理を保障するのは容易ではない。
勿論、仕入先を選定する際に、それが保障できるかどうかを監査しているはずだが、それが維持できていることを保証することはそれほどたやすくは無い。

発注時に加工図面を渡し、納品時に図面を回収する。こうすることにより、業者側で旧図面に従って生産をしてしまう事故は防げる。


このコラムは、2010年12月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第182号に掲載した記事です。

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