信頼性技術」カテゴリーアーカイブ

デンソー燃料ポンプ

 低圧燃料ポンプのインペラ(樹脂製羽根車)において、成形条件が不適切なため、樹脂密度が低くなって、燃料により膨潤して変形することがあります。そのため、インペラがポンプケースと接触して燃料ポンプが作動不良となり、最悪の場合、走行中エンストに至るおそれがあります。

(トヨタホームページ・リコール情報より)

 トヨタ車に使われたデンソー製・燃料ポンプ内部のインペラに不具合があり、リコールとなっている。

ガソリンポンプ部品に樹脂が使われていると知り驚いた。プラスチック部品のソルベントクラックを引き起こす筆頭がガソリンだと思っていた。ガソリンタンクは金属製だと思っていたが、調べてみるとプラスチック製もある。

当然燃料ポンプのインペラの材料もガソリンに対する耐性を持っている。インペラには、ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有した強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)だということだ。
成形時の金型の温度が低いと結晶化度が低くなり、樹脂(PPS)の密度が低下。PPSの内部に生じた隙間にガソリンが侵入してインペラが膨潤した。膨潤変形したためインペラが回転しなくなる。というメカニズムのようだ。

金属製インペラならば、プレス加工で簡単に作れるはずだ。それでも樹脂製にするメリットがあったのだろう。

リスクのある技術を製品に応用する際には、事前に十分な検討により未然防止を仕掛けておくべきだろう。

統計的ばらつき:材料のばらつき、設備のばらつき、作業のばらつきなど依存的事象:成型条件(温度、圧力、時間)作業方法など

これの検討によりリスク要因が常に管理範囲となるよう仕組み仕掛けを用意すべきだろう。
この事例は「成型温度の管理が不十分だった」という学びだ。


このコラムは、2020年11月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1054号に掲載した記事です。

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三菱の洗濯機に発煙・発火の恐れ 6万9千台無料修理へ

 三菱電機は21日、99年7月に発売した全自動洗濯機計6万9166台で、パネルのスイッチ部分から発煙・発火の恐れがあるとして、無料で部品を交換すると発表した。対象製品は「MAW―V7QP」と「MAW―V8QP」の2シリーズで、00年7月まで製造した。

 昨年8月と10月、運転中にスイッチ部分から発煙、発火する事故が1件ずつあった。制御基板の設計に問題があり、コンデンサーの劣化で発煙・発火する場合があることが分かったという。

(アサヒ・コムより)

 こういうニュースを見ると『元エンジニア』の好奇心が疼き始める。

コンデンサの事故というと、四級塩電解液を使ったコンデンサの液漏れ水系電解液による寿命問題が思い出される。

しかし今回の事故は、これらの問題とは微妙に時期がずれている。

モータの進相コンデンサの寿命による扇風機、洗濯機の事故も最近報告されている。
しかし今回の不具合はスイッチパネル近辺からの発煙なので、この問題でもなさそうだ。

こんな故障発生メカニズムを推定してみたがどうだろうか。
スイッチパネル部分の電源の安定化のために入れられた電解コンデンサが劣化、リップル電流が増加、リップル電流によりコンデンサが発熱、更に電解コンデンサが劣化。

スイッチパネル程度の消費電力でこの様な不具合が発生するかどうかちょっと疑問である。やはり現物を見ないことには本当の原因は見えてこない。

この様に回収事故の記事からあれこれ考えるのは単なる「野次馬精神」ではない。同様な事故を未然に防ぐために必要な事だ。失敗事例を未然防止ができる程度まで、詳細原因を社会が共有できればこの様な回収事故はもっと減ると思うのだが。


このコラムは、2008年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第21号に掲載した記事です。

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トラブルは繰り返す

 潜在不適合のキーワードをリストアップしようと思い、過去の不具合事例を調べてみた。こういう調査には、製品評価技術基盤機構の事故情報のデータ
ベースが役に立つ。

独立行政法人・製品評価技術基盤機構:ホームページ

昨年の第四四半期の事故情報レポートには233件の事故情報が報告されている。
このうち難燃材料・赤リンによる事故が41件ある。電気製品の事故件数は119件なので、電気製品の事故の40%は難燃材料・赤リンによる事故だ。

プラスチックに添加した難燃剤・赤リンによる金属マイグレーションで電極間短絡が発生し、発煙事故に至っている。

実は赤リンによる発煙事故は、随分前から断続的に発生していた。
TV受像機、コンピュータのCRTディスプレイモニターには2万ボルト前後の電圧を使っている。高電圧の発生にはフライバックトランスという昇圧トランスを使用する。フライバックトランスは絶縁のためにエポキシ樹脂を充填する。エポキシ樹脂の難燃性を上げるために、赤リンを使用していた。

赤リンが吸湿すると、巻線の絶縁を劣化させ高電圧がショートする。
通常フライバックトランスがショートすれば、保護回路が働き火災などの事故には至らないが、TV受像機内に堆積した埃などに類焼し火災になることもある。火災にならなくとも発煙などがあり、大問題となる。

1980年代にはこの問題を解決するために、各メーカは難燃剤を赤リンから臭素に変更した。しかしその後、環境規制(RoHS規制)により臭素が使えなくなり、赤リンが復活する。さすがに昔と同じように赤リンを使ったわけではない。赤リンをアルミ化合物でコーティングし、吸湿を防いでいる。

絶縁特性を要求しない用途には、このような処置は不要であり、従来通りの赤リン難燃剤もまだ生産している。従来通りの赤リン難燃剤を誤用した最初の大トラブルは、富士通製HDDの事故だろう。HDDに内蔵した制御用のLSIの封止材料に通常の赤リン難燃剤を使用し、回収事故を起こしている。2002年の事だ。

10年スパンで、同じ問題を起こしているような気がする。
「ほとんどの問題は再発問題だ」と言った人がいたが、なかなか失敗から学ぶことができないようだ。


このコラムは、2017年6月26日配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事です。

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リコールのTDK加湿器が火元か 長崎の介護施設火災

 4人が死亡した長崎市の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」の火災で、電子部品大手のTDK(東京)の上釜健宏社長は22日、長崎市内で記者会見し、リコール(無償回収・修理)の対象になっている同社製加湿器が火元となった可能性が極めて高いことを明らかにした。

 1998年9月に発売した加湿器「KS―500H」で、ヒーターなどに不具合があり、99年1月にリコールを通産省(現経済産業省)に届け出た。販売された2万891台のうち約26%の5509台が回収されていない。上釜社長は「亡くなった4人の方々、遺族の方々、負傷された方々などに、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。

 TDKによると、KS―500Hは長崎の火災のほか、焼損16件、発火14件、発煙16件の計46件の事故を起こしている。火災となったり、けが人が出たりしたケースはないという。

 都道府県別の事故件数は北海道が10件、東京が9件、埼玉が5件、千葉、静岡、三重が各3件、栃木、愛知、京都が各2件、秋田、宮城、群馬、長野、富山、兵庫、宮崎が各1件。

 KS―500Hは内部で蒸気を発生させる蒸発皿にヒーターを十分に固定できていないものがあり、ヒーターが変形して蒸発皿から外れ、底の部品に接触するなどして発煙、発火することがある。異常発熱すると、ヒーターの温度は1000度を超えるという。

 TDKは15日に長崎県警から連絡を受け、21日に火元の部屋にあった焼けた加湿器を確認。ヒーターの一部が蒸発皿から外れ、脱落するなどの不具合があったことから、過去の不具合と同様に脱落部分が異常発熱し、ほかの部品に触れて発火した可能性が極めて高いと判断した。

 TDKは回収への取り組みが不十分だったとして、全国のグループホームなどに加湿器の使用状況を確認する作業を22日から始めた。

 火災は8日夜、ベルハウス東山手が入居する4階建てビルのうち、入所者の居室がある2階から出火。入所者の女性3人と、元入所者で建物3階に住んで
いた女性(82)の計4人が死亡した。

(日経電子版より)

 2月8日に発生した、長崎の認知症グループホームの火災について先週のコラムで、加湿器のショートは「原因」ではなく「現象」だと書いた。
丁度2月22日の日経電子版に、上記記事が出ていた。

記事によると、加湿器内部のヒーターが動作中に脱落、加湿器内部に接触、接触部分が加熱され焼損に至った、という事が判明した。

製品は燃えてしまっているため、ショートして発熱した様に見えるが、焼損の原因はショートではなく、ヒーターの脱落だ。
そしてヒーターの脱落にも原因がある。
ヒーターの固定が不十分だという作業不良が原因であり、作業不良が発生し易いという誘因があったはずだ。

例えば、ヒーターの固定箇所の機構設計が、ロバストになっていなかった。ヒーターの固定作業方法が、作業者によってばらつく様になっていた。

ここまで原因調査を深堀して初めて有効な再発防止対策が検討出来る様になる。

メーカのTDKは、99年1月にリコール届けを出し、回収を告知している。この時どのような「再発防止対策」を施したのかは、外部からは窺い知る事はできない。
残念ながら、TDKはリコール届けを出してすぐに、加湿器事業から撤退している。加湿器を生産しなくても、同じ轍を踏まないための、ノウハウ化は可能だ。

今回の事件を
「発熱箇所が脱落し、機構部品と接触する」
という潜在故障現象として、設計FMEAや工程FMEAで検証レビューをすれば、他社の失敗事例でさえ、共有出来るだろう。

他業界の企業もこのようにして、失敗事例から「未然防止対策」を引き出せば不必要な品質損失コストの発生を防ぐことができる。品質損失コストは、自社が負わなければならないものだけではない。社会全体、被害に遇われた方及びその家族の方々すべてに損失が発生している。その損失は、金銭的な補償で補いきれるものではないはずだ。これらの損失を未然に防止する事は、企業の社会的責任でもあるはずだ。


このコラムは、2013年2月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第298号に掲載した記事です。

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加湿器にショートの痕跡か 長崎グループホーム火災

 長崎市東山手町の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」で高齢女性4人が死亡した火災で、火元の部屋にあった加湿器とみられる電気製品にショートのような痕跡があることが県警への取材で分かった。県警は燃え残りを分析し、出火原因の特定を進める。

 県警は12日、4人の死因を一酸化炭素中毒と発表した。司法解剖の結果、4人に目立った外傷はなかった。火元は2階中央付近の男性入所者の居室と断定した。

 火元の部屋からは、加湿器とみられる焼け焦げた電気製品が見つかっている。この電気製品付近の焼け方が特にひどかったという。施設内は禁煙で、暖房はエアコンのみを使用。加湿器は、希望者に施設側が貸し出していたという。

 一方、長崎市によると、火災が起きた8日午後7時30分ごろ、本来は2人の職員が勤務すべきところ、このホームでは当直の女性職員(56)1人しかいなかった。別の職員1人が出火直前に早退し、交代で出勤予定だった職員が遅刻していたためだった。長崎市による、ホームの運営会社への聞き取りで分かった。

 3階に居住していて亡くなった中島千代子さん(82)を担当していた訪問介護のヘルパーも出火直前に朝食用のパンを買いに出て部屋を離れていた。長崎市は、当時の勤務実態を詳しく調べる方針だ。

(asahi.comより)

 先週に引き続き焼損事故だ。

高齢者のグループホーム火災は、現場調査により、加湿器が火元と判明した。記事には加湿器のショートが原因の様に書かれているが、加湿器のショートは現象であり原因ではない。
しかも、加湿器のショートは火災後の現象であるだけの可能性もある。

例えばAC電源の様に電圧が高い部分の半田付けに不良が発生し、断続的に接触・非接触を繰り返す。接触・非接触のたびに火花が発生しプリント基板の絶縁がじわじわと劣化。最終的にAC100Vがショートし発熱焼損。つまりショートに至る前に、半田付け不良という原因がある。

実はこういう事例が意外と多い。

電源スイッチが使用中に劣化し接触抵抗が上がる。接触抵抗が上がり発熱。ますます接触抵抗の上昇が加速する。最終的に発煙焼損。
結果的に電源スイッチが丸焦げになっているので、スイッチのショートの様に見えるが、原因はスイッチ接点の接触不良である。

電源ケーブルのコネクタが、挿抜による外力でカシメ部分が緩んで来る。カシメ部分の接触抵抗が上昇し発熱、同様のプロセスにより発煙焼損。これもコネクタのショートの様に見えるが、電源ケーブル挿抜の外力が直接カシメ部分にストレスを与える様になっている機構設計のミスだ。

結果的には、製品がショートし発熱焼損した様に見えるが、原因は製造不良であったり、設計不良だったりする。ここまで原因の解析を深める事により、再発防止を検討することが可能となる。


このコラムは、2013年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

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データセンター電源障害の原因は製造時の組み立てミス

 さくらインターネットは6日、同社の西新宿データセンターにおいて2008年12月に発生した電源障害の原因と再発防止策について発表した。

 この障害は12月19日12時35分ごろに発生。電源設備からの発煙により一部電源の供給が停止し、収容しているインターネットサービスに影響が出た。SNS「GREE」やブログサービス「SeeSaaブログ」なども利用できない状態になり、同日19時30分に復旧した。

 さくらインターネットによると、消防庁の現場検証やメーカーによる解体調査、成分分析調査、再現試験などの結果、製造時において発生した組み立てミスにより電源設備が局部的に過熱したことが原因との結論を得たとしている。

(INTERNET Watchより)

 この記事だけを見ると、何が不良だったか分からないがさくらインターネットのホームページによると、電源の中に使われている変圧器の巻き線が設計どおりに作られていなかったため内部で発熱し発煙に至った、とある。
変圧器の巻き線の位置がずれていたために変換効率が落ち、ロスしたエネルギーが熱となって変圧器の内部温度を上昇させたものと思われる。

サーバは24時間365日連続で稼動しなければならない。電源の故障は即機能停止につながる。従って電源の信頼性設計は非常に重要になる。そのため高信頼性のサーバは電源が冗長化してあったりする。すなわち電源を複数台用意しておいて1台が壊れても他の電源でバックアップする様になっている。

更に電源の故障は容易に発煙・発火につながる。安全性設計も重要だ。

電源にとって変圧器は安全性・性能に大きな影響を持つキーコンポーネントだ。変圧器内部の巻き線位置がずれれば、効率や電磁波ノイズに影響を与える。製品の製造工程では検査しにくい項目だ。

今回の事故は製造での組み立てミスということになっているが、設計的な配慮が足りていないといわざるを得ない。このような重要部品を作業者の注意力だけに頼って生産するというのはムリがある。巻き位置を固定するには位置出し様にダミーのテープを貼っておけば良いだけだ。

ダミーテープのコストをケチっても、このような不良が発生すれば節約したコストの100倍は損失が発生するだろう。またこの先回収修理などをすれば節約コストの1000倍の損失が発生する。


このコラムは、2009年3月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第88号に掲載した記事に加筆したものです。

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ボーイング737Max墜落事故

 3月10日エチオピア航空302便(737Max8)が離陸直後に墜落事故を起こした。
乗客乗員157人全員が死亡。昨年10月29日にも、インドネシア・ライオン航空610便(737Max8)が墜落し、乗客乗員189人全員が死亡している。両事故機は、離陸直後上昇中に何度も機首下げ動作を繰り返し墜落している。わずか5ヶ月弱の間に同様な事件が2件発生した。

公式事故原因はまだ発表されていないがAOAセンサー(仰角センサー)の出力に誤りがあり、失速回避のため機首下げ動作を繰り返したためと報道されている。
巡航高度まで上昇中に機体が機首下げ動作をすれば、当然操縦士は機首上げ操作をする。コンピュータによる機首下げ動作と操縦士による機首上げ動作を繰り返した挙句に墜落した様だ。

巡航高度に達する前に上昇、下降を繰り返したわけだから乗客・乗員の恐怖は大変なものだっただろう。コックピットもこの様な状況で冷静に判断が出来たか疑問が残る。

この事故で思い出すのが、1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故だ。

「航空機事故から」

この事故は副操縦士の誤操作により、操作の矛盾が発生し自動操縦に切り替わった状態で着陸やり直しをしたため失速墜落している。

墜落機(エアバス)の設計思想は操作に矛盾があった場合、コンピュータ操作を優先する様になっていた。一方当時はボーイング社は操作に矛盾があると、人の操作を優先する設計思想だった。

失速の自動回避はコンピュータ優先にせざるを得ないのかもしれない。

事故原因はまだわからないが可能性を考えてみると、

  • AOAセンサーの故障
  • AOA警報システムのバグ
  • 操縦システムのバグ

が考えられるだろう。

ソフトウェア業界のには「バグはもう一つある」という格言(?)がある。検証・デバッグを繰り返してもまだバグは残っているという警句だ。

我々の製造現場でもIOTが進めば、システムの複雑度が上がりバグによる障害が発生する可能性が上がるだろう。

AOAセンサの点検整備が地上でできるのかどうか定かではないが、もし異常値を示した場合の検出方法を検討する必要がありそうだ。

世界中に737Maxは200機稼働しているという。各機が平均1日1往復フライトの稼働率だとすれば、半年で2回の事故は27ppmの事故発生率となる。
家電製品に使われる電子部品の不良率であれば、許されるかもしれない。運悪く不良品を購入してしまっても、新品と交換すれば済んでしまう事もある。
しかし300人以上の人命がかかっているとすると27ppmの事故率でも許されない。


このコラムは、2019年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第799号に掲載した記事です。

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タカタの巨大リコール 「教訓」置き去り

 世界で累計1億台近い車がリコール(回収・無償修理)となるタカタ製エアバッグ問題。特定の火薬の材料が長く高温多湿にさらされて、水分が浸入すると、作動時に破裂して金属片が飛び散る恐れがある。自動車メーカーが交換を急ぎ、巨額の潜在的な債務を抱えるタカタの経営再建の議論が進む。だが消費者にとって最も大事な安全、業界全体で巨大リコールの再発をどう防ぐかという“教訓”は置き去りのままだ。

(以下略)

全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガでタカタのエアバッグリコール問題を過去3回取り上げた。
エアバック回収
ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

今回のニュースで、事故原因が相当はっきりしたようだ。

エアバッグを急激に膨らませるインフレーターに入れた硝酸アンモニウムが、異常爆発し金属製のインフレータを破壊しその破片が飛散して、死傷事故が発生した。なぜ異常爆発したのかと言うのが核心の問題点だが、温湿度などの環境条件により経年変化した、と言うのが結論の様だ。

ネットに残されている事故の記事を検索してみると、米国で8件、マレーシア5件、日本3件の情報を見つける事が出来た。
マレーシアで5件と言うのを見ると、高温高湿環境による劣化が想起される。
しかし米国ではカリフォルニア州:3件、オクラホマ州、バージニア州、テキサス州、ペンシルバニア州、オクラホマ州、フロリダ州等に各1件点在しており高温高湿気候の場所に偏在しているとは思えない。乾燥気候で年間を通して涼しい気候のカリフォルニア州で3件も発生している。
これは気候要因ではなく、対象車両の台数(分母)の違いと考えた方が合理的かも知れない。

事故車の経年数でまとめてみると、以下の様になった。
17年:1台
15年:1台
14年:1台
13年:4台
11年:3台
10年:1台
8年:1台

カリフォルニア州の3台は、15年、13年、11年使用している。環境要因よりは累積時間が効いているのだろう。
火薬の様な化学材料は、必ず劣化する。普通に考えると経年変化により爆発力が減少又は消滅し事故時に膨らまないと言う不良になると予測してしまう。今回の事故では、火薬が経年変化で爆発力が増加すると言う故障モードがあると分かった。
インフレーター(火薬の金属容器)に欠陥が有ったとすると、火薬の爆発力の変化とは無関係に今回の事故モードの潜在原因となりうる。インフレーターに常に機械的応力がかかり続けているとは考えにくいので、経年変化による劣化ではなく、初めから有った材料欠陥と考えられる。経年劣化の様に見えていた
のは、エアバッグが作動する様な事故発生のポアソン分布に従っているだけなのかも知れない。

いずれの場合にせよ、10年以上交換なしで正常に動作する事を設計仕様に追加するには、コストバランスを考えれば困難だろう。もちろん人身事故の可能性を、コストとトレードオフする事は出来ない。

車検点検などで、エアバッグの定期交換を義務づける。
一定年月が経ったら、エアバッグを交換しなければエンジンがかからない様にする。等の対策を実施したら良いだろう。
もちろん化学材料の改良に取り組むのも良いとは思うが、自分自身の過去の経験(難燃添加剤による絶縁材料の劣化、プラスチック添加剤による耐候特性劣化など)から、本質的解決よりは予防保全を確実にする方が安全だと考えている。

ユーザに安全コストの負担を強いることになるが、これによって安心を買えるのはユーザだ。何が何でもメーカがコスト負担をしなければならないと言う風潮を改めた方が良いと思う。


このコラムは、2017年5月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第530号に掲載した記事に加筆しました。

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ラピート台車亀裂

 大阪・難波駅と関西空港を結ぶ南海電鉄の特急「ラピート」の台車に約14センチの亀裂が見つかった問題で、以前にも別の車両の同じ部分で亀裂が見つかっていたことが同社への取材でわかった。この亀裂を含め、同社はここ2年間、計4両で七つの亀裂を確認。国の運輸安全委員会は構造上の問題がないか調査している。

全文

(朝日新聞ディジタルより)

 南海電鉄は他の車両の台車を緊急点検し、別の車両でも溶接部分で約10cmの亀裂が見つかった。17年11月、1車両から約17.5cmと約3.8cmの亀裂を確認したほか、今回約14cmの亀裂が見つかったのと同じ車両から約4cmと約6.5cmの亀裂を発見。19年4月、別の車両で約14cmの亀裂を発見している。

過去に類似の事象がありながら、運輸安全委員会は今回ようやく、本件を「重大インシデント」に指定し調査を開始している。

17年に亀裂を発見した時、南海電鉄は運輸安全委員会に報告をあげている。しかしこの時運輸安全委員会は、「修理するまで運行していない」ことなどを理由に重大インシデントに認定しなかった。本来重大インシデントとは,人身事故には至らなかったが重大な影響があると想定される事故を意味するものだ。そして今回発生しなかった重大事故を未然に防止する活動を起こすのが本来の姿のはずだ。

運輸安全委員会のホームページには,17年の事故に対する調査報告はない。

新聞記事によると、亀裂はモーター(710kg)の荷重を支える箇所に発生。その部分は溶接部位となっている。

機械工学に関しては素人であるが、溶接箇所に応力や衝撃がかかり続ける構造とするのは設計ミスなのではなかろうか?

以前メルマガに書いたのぞみ34号台車亀裂は、溶接部位を研磨したことにより溶接部位の強度が低下し発生した。

のぞみ34号トラブル

最初に発見したラピート台車の亀裂を、専門家が調査していれば今回の事故は発生しなかったのではなかろうか?のぞみ34号の事故は2017年12月に発生している。南海電鉄はのぞみの事故後に自社の台車亀裂を見直すチャンスがあったはずだ。


このコラムは、2019年9月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第871号に掲載した記事です。

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周辺技術の重要性

 メルマガ187号の今週の雑感で,中国人経営者は機を見るに敏で,儲かると思うとすぐに工場を作ってしまう,という事例を紹介させていただいた.

メルマガ187号:LED灯工場訪問

その中国人経営者が作っているLED灯は,LEDチップは買ってくればOKだ.
DC電源回路と,ランプの設計が出来れば,生産できるような気になる.
しかしそのような設計技術だけでは,モノ造りは出来ない.

まず,品質を作りこむモノ造りの技術が必要だ.
更に製品の寿命を保証する信頼性技術.DC電源の設計にも,部品の技術,故障を発生させない予防的設計技術.更に製品を安全に輸送するための,梱包設計技術.
などなど必要な周辺技術が,思いつくままにいくつも上げられる.

当然このような周辺技術だけでは,製品設計は出来ない.製品の機能実現のためのキーとなる設計技術が必要だ.しかし,お客様に安心・満足していただくためには,この様な周辺技術は欠かせない.

今生産している製品がどんなに簡単な部品であっても,その周辺技術が幾つもあるはずだ.華やかな技術ではないかもしれない.しかしそのような地味な技術をしっかり磨くことで,お客様の安心・満足を得られる.

そういう周辺にしっかり目をやる気配りと,その気配りを製品に反映する技術を差別化要因にすることが出来るはずだ.


このコラムは、2011年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第189号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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