経営」カテゴリーアーカイブ

 臨済宗円覚寺・横田南嶺管長のお話をうかがう機会があった。もちろん直接お目にかかってお話を伺ったわけではない。ありがたい事に、世界中のどこにいても、日本の高僧のお話を聞く事が出来る。IT技術により、私たちは計り知れない自由を手に入れている。

もちろん横田老師や私が若い頃は、そのような自由はなかった。(驚く事に横田老師は私より相当お若い様だ)横田老師は、若い頃に影響を受けた書籍の著者や、尊敬する方に直接手紙を書き会いに行っている。直接会って話を聞く。ネット上にある情報から得られる知識の数十倍、数百倍の価値があるはずだ。

既に若くはない私も、見習わなければならない。

横田老師のお話で特に印象に残ったのは「戒」に関するお話だ。「戒律」「十戒」などの「戒」だ。「受戒」「戒名」は、私の様な葬式の時だけ仏教徒になる様な不信心な者でも知っている。

「戒」とはやってはいけない戒律と言うイメージが有った。
しかし横田老師によると、「戒」とは良き習慣、良き習慣に導くと言う意味だ。

つまり「殺すべからず」と言う戒律は、やってはいけない事として、殺人罪と言う罰則とセットで、守らされている。
「戒」を良き習慣と理解すれば、「殺すべからず」と言う戒律は「命を愛する」と言う良き習慣となる。

良き習慣が、正しい智慧を生む。正しい智慧に基づく行いが慈悲である。
お釈迦様は、良き習慣を身につける事により幸せになる方法を説かれたのだ。

ここまで聞いて、すとんと腑に落ちた。
これは5Sの「躾」そのものだ。私には仏教を説き、布教する力はないが、5Sを通して、「戒」を説く事は出来る。

5Sとは、働く人々を幸せにするモノでなくてはならない。その結果企業の利益が上がる。これが5Sの根本原理・原則でなければならない。

「いろはにほへと―鎌倉円覚寺 横田南嶺管長 ある日の法話より」


このコラムは、2016年7月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第483号に掲載した記事です。

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比喩力


 リーダに必要な能力として「説得力」「感動力」を前々回,前回のメルマガで考えてみた.部下を説得と納得で動かす力「説得力」は「感動力」によってパワーアップする.
今週は同じく「説得力」をパワーアップする力「比喩力」を考えてみたい.

相手を説得・納得で指導する場合,「相手目線」で話をすることが必要だ.
相手が理解可能なレベル,または少しの努力で理解可能なレベルで話をする.

以前生産現場の班長たちに5Sの意義を教えたことがある.班長たちには,朝礼で作業員たちに分かりやすく教えるように指示をした.翌朝朝礼の様子を横から観察してみると,作業員に「5Sをしっかりしなさい」と言っている.これでは駄目だ.

中学を卒業して,農村から出稼ぎに来た作業員たちにいきなり5Sと言っても,通じない.彼らが理解できる比喩で説明しなければならない.

例えば「整理」の説明をする時.
整理とは使わないものを捨てるということだ.これは誰しも「もったいない」という気持ちが有り,なかなか捨てられない.

こんな比喩で説明する.
畑の作物を収穫した後,すぐに残っている作物を捨て次の作付けをする.ウラナリの実があっても,次の作付け時期を逃してしまえば,収穫ができなくなる.ウラナリの実をもったいないと感じて残しては駄目だということは,彼らにもよく理解できるだろう.

農村では収穫した芋を穴を掘って埋めておく.しかし都会には穴を掘る土地が無い.だから使わない在庫は整理しなければならない.

こんな比喩で説明すれば,理解しやすいだろう.

難しいことを難しいまま説明をすると,自分が難しいことを分かっている様な気がする.しかし,相手が理解できて初めて説明の意味がある.難しいことを相手に合わせ簡単に説明できる能力が必要だ.

これがリーダに必要な比喩力だ.


このコラムは、2010年3月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第145号に掲載した記事に加筆したものです。

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感動力


 先週のメルマガではリーダに必要な能力として「説得力」を考えてみた.
今週はリーダに必要な能力として「感動力」を考えてみたい.

感動力というのは、部下を説得・納得させる時や,部下のココロをつかみ引っ張って行く時に重要な力だ.同じ話をするのでも,聞く人に感動を与える話が出来れば,相手のココロに伝わる力が増す.

まず話のツカミとして,感動のエピソードを話す.そしてその後にこちらが伝えたいことをそのエピソードから抽出すれば良いのだ.

例えば人を助ける,という話をする時にこんなエピソードを枕にする.

妊娠している奥さんが定期健診に行く日に,勤務があり付き添ってやれない警察官がいた.彼はその日の朝出勤する時に「今日一日いいことがあるように,おまじないをかけてやる」といって奥さんを抱きしめてやる.

奥さんは病院に行くために外出するが,その日一日本当に良いことばかりが起こる.バスに乗ったら,車掌が座っている乗客を立たせて座らせてくれた.一人で診察の順番待ちをしていたら,通りかかった看護婦が順番待ちの列の先頭に並ばせてくれた.そして席を譲った人も,順番待ちをしていた人たちも,笑顔で快く譲ってくれたのだ.

仕事が終わって帰宅したご主人に,一日の出来事を話すと彼は笑顔で「おまじないが効いた様だね」といって彼女の背中から,朝抱きしめた時にそっと貼った紙をとって見せた.その貼り紙にはこう書かれていた.
「私は警察官をしており仕事で妻に付き添ってやれません.どうか妻を助けてやってください」

こういうエピソードで感動したココロには,素直に相手の言うことが染込んで来るだろう.

感動力を磨くのは簡単だ.たくさん本を読んで感動する話をメモすれば良いだけだ.

若い中国人に仕事をする意味と意義を教えたい時には,こんな本が役に立つ.
「私が一番受けたいココロの授業 人生が変わる奇跡の60分」

著者の比田井和孝先生は,地方都市の専門学校で就職指導をしておられる.彼もまた感動力の持ち主であり,感動力で若い学生さんに働く意義と喜びを教えておられる.

比田井先生の新著も要チェックだ.
「私が一番受けたいココロの授業 講演編 与える者は、与えられる」


このコラムは、2010年3月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第144号に掲載した記事に加筆したものです。

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予知能力

 リーダーの資質として「予知能力」をあげたい.
予知能力といっても,オカルトチックな能力ではなく,ロジカルな推論による能力だ.

例えば生産現場のリーダが,作業台の上にネジが一本落ちているのを見て,どう考えるかという能力だ.このケースを例として考えてみよう.

何も感じないのは論外だ.

すぐさまネジを拾い上げ,作業現場の5Sを保つ.
これではリーダーとはいえない.初歩の作業員レベルだ.

ネジの種類を調べ,どこから来たネジなのかを考える.そしてそのリスクに対し適切な予防処置を取る.これができて初めて現場リーダーといえる.

つまりネジが製品に組み込むためのものであれば,閉め忘れや脱落の可能性を予知し,完成済み品に影響が無いことを確認する.

またはネジが設備から脱落したものであれば,ネジが脱落した設備で生産した場合の製品品質への影響を予知し,適切な処置を取る.

こういうことが予知能力だと考えている.

同じものを見ても,どこまで予知が出来るかでその人の能力が決まる.
例えば他社のリコールのニュースを見たときに,自分たちの仕事に引き寄せて予知が出来るかどうかということだ.リコールなどの事件ばかりだけではなく,日ごろの出来事の中から多くのことを予知できるようにならなければならない.

これはモノ造りの現場だけでの能力ではない.
例えば,若者の離婚率上昇の新聞記事を読み,作業者の採用難を予知する,というのは人事部職員に要求される能力だろう.

こういう能力は,本を読んでも身に付く能力ではない.
日々目の前にある現象やモノから何が予測できるのか,鍛錬をする必要がある.
私は部下とこういう問答をしょっちゅうやっていた.
なんでもない物事を見聞きしたときに,それをいかに深く考察・洞察してその影響を予知するという,問答をするのだ.

部下の予知能力がシャープになるだけではなく,自分の訓練にもなる.実はこういうことをやるのが結構面白いのだ.


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・究極を目指す

 メールマガジン81号の「究極を目指す」に対して読者様からご投稿をいただいた.
「究極を目指す」

※Z様のメッセージ
「究極を目指す」ことこそ日本の製造業の強さの秘密ではないかと思います。

ひとつの上を求める姿勢が、設計開発から現場まで貫通していたからこそ、日進月歩の顧客要求に応えられたのではないかと思います。

但しそれが日本製造業の光だとしたら影もあるわけです。
真の顧客要求から乖離した技術者、技能者のマスターベーションの結果が過剰品質ではないでしょうか。

以前し尿処理プラントの建設に携わっていたことがあります。し尿処理後の排水は河川に放流しますが、その排水はメーカの技術競争の結果、放流河川の水質より遥かに浄化されたものでした。(設置市町村の長が、排水をコップに汲み飲むパフォーマンスまでしたとか、しないとか。) 
排水はきれいであることにこしたことないのでしょうが、明らかにオーバースペックです。
そのための労力や財源は、河川の水質そのものを良くすることに廻すべきです。

日本製の高精度のNC旋盤でしか出しえない寸法公差が図面に記載されている部品。しかし、その精度は本当に製品の機能・性能の向上に寄与するのか?
中国の年季の入った汎用旋盤で出せる精度で十分では?と、思うこと度々あります。

今の短期的収益性を強く求められる産業界の顧客が、要求の機能、性能、耐久性の次に求めるのは、ひとつ上の機能、性能、耐久性ではなく、安さなのではないでしょうか。

ある意味で「ものづくり」の楽しさが欠落してしまった時代なのでしょうか。

Z様,いつもご投稿ありがとうございます.
中国で戦略的な購買活動をされているZ様らしいご意見だ.

このご意見の中には2つのご指摘があると思う.

一つは,顧客・市場の要求を無視したモノ造り.もうひとつは,現場のモノ造りを無視した設計.

  • 顧客・市場の要求を無視したモノ造り:
    商品開発のときに市場の要求を無視しては,売れるモノは造れない.

    しかし市場がローコストを要求しているときに,あえてそれに逆らうモノ造りをすると言うこともありだと思っている.

    顧客が想像できなかった魅力的品質を作り出し新しい市場を作る,と言うことだ.こうすれば価格競争には巻き込まれない.

    こんな事例を紹介すればご理解いただけるだろうか.

    例1.iPodはハードウェアの向こう側に,ネットでの音楽販売という新しいビジネスモデルを作った.
    例2.iPhoneはユーザの想像を超えた使い勝手を実現し,カスタマー・デライトを実現した.
    例3.秋葉オタク向けフィギュアを生産している玩具工場では,あえて手作業のコストをかけて大量産品にない質感で勝負している.

  • 現場のモノ造りを無視した設計:
    これはエンジニアのマスターベーションと言うよりは,無知だと言いきってしまってよいだろう.

    公差をワンランク上げるのにどういう作業が必要になって,どれだけコストがかかるか,エンジニアは現場で物事を考えなければならない.
    商品開発は市場現場に軸足を置かねばならない様に,製品設計は製造現場に軸足を置かねばならない.


このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事です。

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常識・非常識

 常識と非常識の境目について考えて見た。
1月21日付の朝日新聞の記事「知られざる可能性を追う 卵で世界を救いたい」にゆで卵の料理法が紹介してあった。
我々の常識では、ゆで卵は白身が外側、黄身が内側だ。しかし1785年刊行の料理本に紹介されている「黄身返し卵」は黄身が外側白身が内側になる。

黄身が外側にあるゆで卵は、我々にとって「非常識」だ。
黄身は卵黄膜に包まれており、その外側に卵白、卵殻があるという構造が常識だ。ゆで卵は黄身が内側にある、という常識は卵黄膜の存在に依存している。
卵黄膜を破る方法があれば、卵黄と卵白の比重差、固化温度差により、黄身が外側にあるゆで卵を作ることが可能になる。

したがって「非常識」を実現するためには「常識」を支えている要因に対するブレークスルーを見つければ良いことになる。

100均ショップは、なんでも百円という非常識を実現した。
100均ショップのパラダイムシフトは、売価はコストに利益を上乗せするいう常識を、売価を固定し利益は売値からコストを差し引いたモノという常識変更により実現している。現在はコストに利益を上乗せして売価を決める考え方の方が非常識といってもいいだろう。

つまり常識と非常識の境目は流動的だということだ。
時代と共に変わる。業界ごとにも違う。技術的ブレークスルーがあれば変わる。逆に考えれば、非常識を常識にした者が時代を作るということになる。

卵の例に戻ると、外から卵殻を破れば「死」、内から卵殻を破れば「誕生」となる。
外からの常識・非常識のパラダイムシフトは危機になるが、内からのパラダイムシフトは機会になる。
日々「非常識」にチャレンジしたい。


このコラムは、2018年1月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第620号に掲載したコラムです。

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米航空会社、乗客引きずり下ろす 映像拡散、批判集まる

 米国のシカゴ国際空港で9日、米ユナイテッド航空が自社の便に職員を乗せるため、すでに搭乗していた乗客を機内から引きずり下ろす映像が交流サイトで拡散し、同社への強い批判が起きている。ミュノス最高経営責任者は「全職員にとって心が乱れる出来事。何が起きたのか詳細に調査を行う」との声明を出した。

(以下略)

 ユナイテッド航空(以下UA)は自社の社員4名を乗せるため、既に搭乗している乗客から4名翌日の便に変更を依頼。誰も降機しないので、4名指名して降ろしたと言う。指名された4名は全てアジア系の乗客だったそうだ。内1名は翌日の予定があると言って拒否。警察官を動員し引き摺り下ろした。
私も動画映像を見たが、犯罪者を扱う様な態度だった。顧客に対する行動とは思えない。

この報道を見て思い出した事件がある。
カントリーソング歌手が、ギターを手荷物運搬職員の手扱いで壊された事件もUAだった。当時ギターの弁償を求めて9ヶ月もUAと交渉したがらちがあかず、被害者のデーブ・キャロル氏はその顛末を“United breaks guiter”という歌にしてYoutubeに上げた。その結果UAは自らの非を認め、賠償に応じた。

更に私の記憶によると、デーブ・キャロル氏の動画は、UA社内で社員研修用の資料として活用されていると聞いた。今回のニュースを見て私の記憶違いであった様だ。他の航空会社がUAの事例を社内研修に活かしているのだろう。

UAは自らの不適合事案から学ぶ事もなく、また同様な問題を引き起こしている。いくら経営者が反省していても、現場の職員が理解していなければ意味がない。現場で起きている事を、いちいち経営者や幹部が判断する事は不可能だ。現場にいる職員が判断せざるを得ない。

航空会社は、飛行機を飛ばす事が仕事ではない。顧客や荷物を安全快適に目的地に届ける事が仕事だ。そんな簡単な事がなぜ分からないのか。現場の職員達にとって、所属している組織に「安全感」を感じられないのだろう。「組織に対する安全感」とは仕事を執行していく上で、「権限を委譲され、守られている」と言う実感をのことだ。

同じく米国の空港で、後部座席からの搭乗案内に従わない乗客に対し、まるで犯罪者に対する様な扱いをした職員がいたそうだ。見かねて「なぜ人を家畜のように扱うんだい?もう少し人間らしく扱えないものかな?」と注意すると、職員は「でも規則通りにやらないと、問題になってこっちがクビになりかねません」と答えたそうだ。この職員は、組織から信頼されていないと感じており、自分も組織を信頼する事が出来ない状態になっている。

自分の仕事の目的を理解せず,「自社社員を乗せるために客を降ろせ」という上司の指示の方が優先順位が上がり、上司の指示に従わなければ、職を失う。この様な職場に「安全感」はない。その結果、現場職員は「恐怖」に支配され仕事をし、本来企業が目的とする仕事をする事が出来ない。そして顧客は離れて行く。

これらの航空会社の事例は、極端すぎるかも知れない。しかし自社の現場前線でこの様なほころびが発生していないか点検してみてはいかがだろうか。ほんの小さな齟齬が取り返しのつかない大問題になる事はままある。

私の個人的な感想であるが、UAという会社の組織は自由闊達からほど遠い所にある様だ。経営状態は分からないが、この会社に未来があるとは思えない。前職時代に、米国西海岸に出張する時にUAを使った事がある。客席乗務員が、全員中年の女性だった。中には老眼鏡を着用している女性もいた。帰国後航空会社に詳しい友人に聞いた所、UAは太平洋路線に乗務すると、乗務明けに必ず休暇を取る事になっている。太平洋路線は、先輩の客席乗務員によってシフトが埋まり、若い客席乗務員は大西洋路線のシフトが割り当てられるそうだ。
まるで体育会系運動部の様な組織だ。私の感想は20年程前のナイトフライト一回だけの経験に因るモノであり、未だにUAは営業を続けているので、私の見立ては間違っているのだろう(笑)


このコラムは、2017年4月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第524号に掲載した記事です。

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大学生の中国工場視察

 日本の大学生のために,企画した香港・中国視察旅行のお手伝いをした.
日本の若者が広く海外に目を向け,卒業後のキャリア形成の一助とする企画だ.

私は,中国工場視察のプランニングと当日の引率を担当した.

最近日本の若者から覇気が感じられないと思っていた.毎年明治大学の経営学部3,4年生に特別講義をさせていただく機会がある.授業の前に経営者になりたい人の挙手を求めているが,昨年はついにゼロだった.

経営学を勉強したら,皆経営者にならなければならないと言うことはないが,経営者になりたい人がゼロと言うのは残念な結果だ.(講義後のレポートを見ると,経営者を目指している人も何人かいた.ただ彼らがシャイなだけだったのかもしれない・笑)

若者に夢がないのは,我々の世代の責任なのだろうと思う.
お父さんが毎日疲れた顔をして会社から戻ってくる.子供に自分が夢を目指して働いている姿を見せていない.そんな大人を見て育った若者に,夢を持てと口先で言っても心には響かないだろう.

若者に夢がないということは,今不景気だと言うよりもっと深刻な危機状況だ.不景気なのは今だけだが,若者の夢は未来に影響を与える.

しかし今回中国にやって来た15人ほどの若者は違っていた.
ただ単位が取りたくて学外研修に参加したわけではない.学外研修に自費,または親に金を出して貰って来ている.明らかに目の色が違った.

そんな彼らを,中国企業の工場に連れて行った.
たぶん工場見学など,小学校の社会見学以来だろう.どんな工場でも良かった.狙いはその工場の経営者を紹介することだった.

弱冠33歳の経営者は,10年前に日系の工場から独立し,仲間3人と金型を作る工場を始めた.
この10年間で仲間と共に夢を実現してきた姿を見てもらいたかったのだ.

彼らは,香港でも私が尊敬する日本人経営者たちと直に懇談してきた.
皆さん「香港ドリーム」を実現してきた経営者だ.

今回の視察旅行に参加してくれた学生たちが,人生の夢を見つけ,すばらしい仕事を見つけることを期待している.


このコラムは、2012年3月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第249号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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メイ三兄弟

 あるプロジェクトをメイさん兄弟が担当しました。
課長がメイさん三兄弟に、プロジェクトの内容を説明し、スケジュールを決めました。ちょっとだけ挑戦的なスケジュールです。しかし課長が提示した予定は1週間ほど余裕を差し引いた日程でした。遅れても1週間あれば何とかなる、という腹づもりでした。

会議終了時に「三人でちゃんとできる?」と質問するとリーダ役のメイ長男が「没問題!」と元気よく答えてくれます。

さてプロジェクトのスケジュールが半分過ぎた頃、課長は三人を集め会議を開きました。「プロジェクの進み具合は大丈夫?」と質問すると、進捗管理担当のメイ次男は「没関係!」と胸を叩きます。

プロジェクト完了の日になりました。しかし課長のところには誰も報告に来ません。課長は三人の席に行き「プロジェクトは終わった?」と質問すると、末っ子のメイ君は「没方法」とうなだれています。
この後、課長とメイ三兄弟は1週間連日残業でプロジェクトを完成させる事になりました。

陳腐な寸劇だが、こういう事が度々発生していないだろうか?
自分の経験では「没問題」「没関係」「没方法」の三兄弟がしばしば顔を出す。
この没(メイ)三兄弟は三つ子のように仲が良い(笑)

私同様に頭が痛い問題と考えている方もおられると思う。
こういう問題をすぐさま根絶できる妙薬はないかもしれないが、ちょっとした予防薬のようなものはある。

没三兄弟が顔を出すのは、YES/NOで答えられる質問をしているからだ。
上記の「できる?」「大丈夫?」「終わった?」は全て答えはYESかNOで答えられる。YESかNOで答えられる質問をクローズクエスチョンという。YESかNOで答えられない質問はオープンクエスチョンという。

上記の質問をオープンクエスチョンに置き換えるとどうなるだろうか。
「できる?」→「プロジェクトの進め方や技術的に気がかりな点は何?」
「大丈夫?」→「プロジェクトの進捗で気がかりな点は何?」

こういう質問にすれば、メンバーは問題点を考え、気がかりな点をあらかじめ議論し対策を考えておく事ができる。上司としては、この質問でメンバーの力量を測る事ができるはずだ。

こういう質問をしておけば最後の「終わった?」には、元気よくYESと答えてくれると思うがいかがだろう。


このコラムは、2018年1月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第612号に掲載した記事です。

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川中産業の逆襲

 メルマガ293号でスマイルカーブについてコラムを書いた。
「スマイルカーブ・再び」
つまり笑っている口元の二次曲線の縦軸が付加価値を示すとすると、ボトムの所が製造業。付加価値の高い両側が、設計、サービスだという理論だ。

製造部門に携わっている方には夢も希望もない理論だ。
同じ製造業でも、川上(素材、原料)川中(部品)川下(完成品)に分けると、川中がスマイルカーブの真ん中であり、付加価値が低い所となる。

つまり川中産業の顧客である川下産業からは、コストダウンを要求される。
無理難題も飲み込まなければ、注文が貰えない。
仕入れ先の川上産業からは、コストアップの一方的な通達を受ける。
拒否すれば、原材料の仕入れが出来なくなる。

そういう産業構造に耐えるだけではなく、改革をしようとコラムで提案した。

コラムを読んだ友人に勧められ
『崖っぷちの会社』が生まれ変わった3つの方法」という本を読んだ。

著者の中山氏は、成熟産業である紙加工業(川中産業)を生業とし、しかも工場は地方都市の零細企業だ。三代目経営者として経営を引き継いだはよいが、倒産寸前まで追い込まれる。
そんな状況から1年間で業績を155%アップさせた。

復活を果たした彼の戦略は、
・技術(ノウハウ)を公開する
・コミュニティを作る
・ブランドを作る
この3つで業績を上げた。

私がいつも提案していることを、実現されている。
こういう状況を実現すれば、「下請け体質」から脱却出来る。
業績が上がるだけではなく、仕事が楽しくなるはずだ。


このコラムは、2013年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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