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修理ミス原因、社員を書類送検へ 山形・松下温風器事故

 松下電器産業製の石油温風機で一酸化炭素(CO)中毒事故が相次いでいる問題で、山形県警は山形市の男性(84)が意識不明の重体となった05年12月の事故について、同社の無償修理(リコール)の際の給気ホース交換ミスが原因と判断した。修理した山形ナショナル電機(山形市)の社員(52)を業務上過失傷害の疑いで山形地検に書類送検する。

前回のメルマガではメンテナンスのミスについてお話したが、今回は修理ミスである。

給気ホースの交換作業が不適切であり、作業後の確認も不十分だった。このため給気ホースが脱落、不完全燃焼により一酸化炭素が発生し事故に至った。

記事では交換作業後の安全確認を怠ったと報道している。しかし作業そのものがきちんと品質を保証できるようになっていなかったことが問題である。誰がやっても同じ品質を確保できるように作業標準を決め、作業手順を作成する。これがトラブルの未然防止である。

今回のようにリコールによる作業は作業品質の保証を事前に作りこんでおくことが特に重要だ。

皆さんの工場では工程内で発生した修理品の確認をどうしておられるだろうか。不良と判定した工程に戻しライン復帰させる。これでは不十分と考える。

たとえば電気製品の組み立ての場合不良と判断する工程は電気検査工程が主である。ここで不良と判断されたものはラインアウトし修理されて工程に再投入される。

当然修理には半田付け作業も含まれるわけであるから、半田付けの目視検査から再投入しなければならない。不良が発生した電気検査工程に戻したのでは、修理工程での半田付け作業の品質は検査されないことになってしまう。

通常半田槽を出た直後のタッチアップ工程に「修理品再投入口」と表示をしておき、ここに再投入する。半田付けのタッチアップ、目視検査の後に電気検査を実施するように指導している。こうしておかないと修理作業の品質確認が十分とはいえない。

皆様の工場の修理作業とその確認作業を見直してみてはいかがだろう。


このコラムは、2007年12月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第10号に掲載した記事に追記しました。

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統計的思考

 私の世代は、高校3年の時に数学で統計と確率を勉強した。全員ではなく、理系クラスだけだった。大学に進学して電子工学を勉強したが統計確立理論とその応用は、夏期集中講座があっただけだ。それらの教育を受けて、統計確率理論を応用する統計的思考が身に付いたとは言い難い。工学部にいた時でさえ、どのように応用出来るかよく理解できず、単位取得が最重要目的だった(笑)

就職して、回路設計エンジニアとして仕事を始めた。製品の精度を決める回路部品の精度を決定する際に、部品の最大値・最小値を使って計算していた。最大値・最小値で設計すると、必要以上に高精度の部品を使うことになっているのでは?と言う疑問があり、当時普及し始めたPCでプログラムを組み、シミュレーションで証明しようとしたことがある。

それを見た先輩が見かねて、「バラツキ」について教えてくれた。
今思い出せば「大数の法則」を分かり易く教えてもらった。これが私にとって最初の実践的統計思考との出会いだった。

その後、品質保証の仕事をすることになり、40代にして統計確率理論を再勉強した。この時に身につけた統計的思考が今でも役に立っている。

統計数字は、身近な所にもある。
例えばTV番組の視聴率。先週のニュース番組の視聴率は20.2%だった、と言う会話がよく出て来る。ほとんどの人は、自分がどの番組を見ていたかを報告した記憶は無いはずだ。放送局の方も、今何人の人が番組を見ているかを知る方法はない。視聴率は、無作為に選ばれた家庭をサンプルとして、全体(日本の視聴者)を統計的に計算し推定している。本来視聴率は幅を持っている。

こういう統計的思考法は、品質管理に大いに役に立つ。
例えば、工場で生産した製品は全て全く同じに出来ている訳ではない。バラツキがある。生産したモノを全て計測出来れば、そのバラツキの範囲を知ることができ、製品規格の範囲に入っているかどうか検証出来る。しかし、計測にコストがかかる。または計測をすると出荷出来なくなる場合もあり得る。製品強度とか、アンプルに入った薬液の量などは、計測が破壊試験となるため、全数検査は出来ない。サンプルの計測により、全体を推定する統計手法が必要になる。

製品のバラツキを減らす工程改善をした。改善の前後のデータから、改善の効果があるのかないのか、こういう判断をするのを「検定」と言っている。

実は統計的思考は、ギャンブルにも応用可能だ。
長・半ばくちをする場合、10回やれば5回は偶数が出る、こう考えるのは平均値だけを考えているのと同じだ。統計的思考を使えば、10回の内8回長の目が出るのは、偶然のバラツキなのか、イカサマなのか判断出来る。

外貨投資に出て来るボリンジャーバンドは、過去の値動きのバラツキを示している。例えば2σのボリンジャーバンドを越えるのは、過去のバラツキから判断すると、2.3%となる。

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このコラムは、2012年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第287号に掲載した記事です。

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平均値と中央値

 最近コロナウィルス治療薬の治験のニュースで「中央値(メディアン)」と言う言葉を目にした方も多いだろう。

治療薬の効果を確認する場合、2群のサンプル(患者)に対して治験の薬とプラセボ(治療効果がない偽薬)を投与して、効果が出る期間を測定。両群で治癒期間に有意差があれば、効果ありと判定する。この時治癒期間を平均値ではなく中央値を使う。

中央値とはサンプルデータを大きさ順に並べてちょうど真ん中にある値をいう。
治験の場合は、治験薬を処方した群とプラセボを処方した群それぞれの治癒期間を大きさ順に並べ中央の治癒期間で薬効の有無を判定することになる。

なぜ平均値ではなく中央値を使うのか、ちょっと考えてみよう。

治療効果がない場合、治癒期間は長くなる傾向にある。
効果があっても被験者のばらつきによって治療期間が長い治験者がいると、治癒期間の平均値は大きくなる。するともともとプラセボを処方された群との差が小さくなってしまい、治療薬の効果が薄まって見えてしまう。

例えば年収で考えるとわかりやすいかもしれない。
年収300万円の社員が10人、社長が3000万円の年収の会社の平均年収は6000万円÷11≒545万円となる。しかしこの会社には年収545万円の人は一人もいない。
中央値は300万円。この会社の人の年収を代表する値は平均値より中央値の方が適切と考えて良いだろう。つまり分布が正規分布ではなく、離れ値がある場合は中央値でその集団を代表させるのが妥当となる。

治験の場合、薬の効果でなく被験者の自然治癒力で回復する人が混じる可能性がある。この場合治癒期間は長めになると予測される。

集団の特性を代表する値には、平均値、中央値、最頻値があり、目的に合わせて使い分ける必要がある。


このコラムは、2020年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1056号に掲載した記事です。

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エアバック回収

 以前このメルマガで、タカタのエアバック回収問題を論じた事がある。

ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

問題は一向に収束の気配がなく、ますますエスカレートしている様に見える。
メルマガには、タカタに対して厳しめのコメントを書いたが、いろいろな力学が働いているようで、タカタに対して気の毒な印象を持っている。

通常リコール責任は、完成品メーカにあるはずだ。そのためリコールに関してタカタは積極的な発言を控えて来た。これが米国消費者に「消極的な態度」と言う印象を与えたようだ。それが米国自動車業界(もしくはそれに肩入れしている人々)にとって絶好の攻撃対象になってしまったのではないだろうか。
米国にとって自国が自動車産業を生み出し、育てたと言う自負があるだろう。それが東洋の小国に取って代わられた、と言う忸怩たる思いがあるようだ。

巨額にふくれあがったリコール費用や、制裁金でタカタの経営が危ういと聞いている。
自動車部品から撤退して、本業に戻ると言う選択肢はもうないだろう。自動車部品に参入して、構えが大きくなってしまった。撤退は即倒産廃業の意味を持っている。

今更だが、このような事態に至らないために打つ手がなかったのか考えてみた。
タカタは後戻りできないかもしれないが、同じリスクを冒さないために他業界の経営者も考える必要があると考えている。

同じ自動車部品業界のBOSCH社は、顧客に提供する部品に関して「搭載要件書」を提示し、想定外の使用方法による事故から、自己防衛しているそうだ。

これは購入部品だけではなく、設計の再利用を目指す「モジュール化」にも必要な事だ。適用する製品と、設計モジュールのインターフェイスをきちんと定義しておかねば、設計不適合が発生する。インターフェイスとは、取り付け寸法だけの事ではない、環境条件、適用範囲など全てを含む。

以前システム製品の設計をしていた頃、あるメーカのCRTディスプレイを採用した事がある。採用が決定し、サンプル機の提供を受けた時に、先方の品証エンジニアが来社した。当方でCRTディスプレイを組み込む最終製品を見せてくれと要求された。まだ市場リリースしていない製品だ。即諾する訳にはいかない。理由を聞くと、想定外の使用(実装)がされていないか品質保証の立場で確認させてほしい、と言う事だった。
メーカ側の品質保証部門としては、当然の理由と判断し関連部署を説得し、要求に応えた。

品証エンジニアは、CRTディスプレイが組み込まれた状態を確認し、CRTのアノードキャップの端から25mm以内に金属の機構部品があるから、25mm以上の距離を確保してくれと要求して来た。

CRTのアノード電極は25kVの電圧が印火されており、空間距離を25mm開ける様にと言う要求だ。アノード電極には、半径25mm以上の絶縁キャップがついており、過剰な要求だと感じたが、メーカの品質保証の姿勢に敬意を評し、要求通り設計変更に応じた。

当然機構設計者は快諾する訳はない。既に設計は終わっているのだ。従って機構部品に追加工をする事になり、強度計算をやり直し、コストもあがる。そこをなんとか、と説得した(笑)

この時、先方の品証エンジニアから「最終製品の品質保証を確かにしたい」と言う姿勢を学んだ。後に自分自身が品質保証部門に異動した時に、基本理念となった。

セットメーカと部品メーカは、利益対立する存在ではない。顧客の顧客まで品質保証する、運命共同体だ。
セットメーカは、部品メーカを守る気概を持たねばならない。
部品メーカは、セットメーカを支える気概を持たねばならない。


このコラムは、2015年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第449号に掲載した記事に加筆しました。

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続・列車逆走事故

 6月1日夜に発生した横浜市シーサイドライン自動運転列車逆走事故をメールマガジン835号「列車逆走事故」で取り上げた。

「列車逆走事故」

運輸安全委員会は6月14日に事故原因を発表している。

 横浜市の新交通システム「シーサイドライン」で無人の自動運転車両が逆走した事故で、車両内の電気系統が断線したまま約50分間運行していたことがわかった。国の運輸安全委員会が14日、調査経過を公表した。

 事故は1日に折り返し駅の新杉田駅で起きた。駅側の自動列車運転装置(ATO)が出した方向転換の指示が車両側のモーター制御装置に伝わらず、逆走したとみられる。

 運輸安全委によると、モーターへの指示は、車両内のケーブルを通じて制御装置に伝わる。一方、新杉田駅を出る下り方向への指示と、同駅に向かう上り方向への指示はそれぞれ別のケーブルで伝えていた。

 運転装置の記録から、事故の約50分前に下り運転をしていた際、下り方向の信号を伝えるケーブルが断線したとみられる。シーサイドラインには断線を検知する仕組みがなく、いずれの方向指示もモーターに伝わらなくなった場合は直前までの方向に進むようになっていた。そのため列車はそのまま走り続け、
終点の金沢八景駅で別系統のケーブルを使って上り方向に折り返した。再び新杉田駅に着いた際に断線でモーターの進行方向が切り替わらず、事故が起きたとみられる。

朝日新聞ディジタルより

 駅側ATOから車両側制御装置に「下り方向への指示」「上り方向への指示」が別ケーブルで伝わる。という記述が理解に苦しむ。ケーブル中を「指示」が車両制御装置に伝わる。というと回線中をコマンドが伝わり、それに対しACK・NACK(了解・非了解)の返事が返ってくるイメージを持つ。一方上り・下りの指示がそれぞれ別のケーブルで伝えていた、ということは「指示」というよりON・OFFの電気信号でモーターの回転方向を制御していたのだろう。

問題の根本原因である断線原因について触れていない。断線があることを前提とするならば、ATOと車両制御装置間の通信は双方向とし、コマンドとアクノレッジのやり取りをするようにすべきと考えるがいかがだろう。
装置間の電気信号配線を光ファイバーにすれば二重化しても配線数は少なくなるはずだ。

ところで記事を注意深く読んで見ると「運転装置の記録から、事故の約50分前に下り運転をしていた際、下り方向の信号を伝えるケーブルが断線したとみられる」とある。そのすぐ後に「シーサイドラインには断線を検知する仕組みがなく」と書いている。断線を検出する仕組みがないのに、「約50分前に断線」と断定できるのだろうか?


このコラムは、2019年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第841号に掲載した記事に加筆しました。

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誤操作

 中国メディアによると、香港発大連行き中国国際航空106便で10日、機体が約7千メートル急降下するトラブルがあった。中国の航空当局は13日、操縦室内で電子たばこを吸った副操縦士が、空調装置を誤操作したことが原因とする調査結果を発表した。

 トラブルは10日午後7時半(日本時間午後8時半)ごろに発生。高度約1万メートルを飛行中の操縦室内で電子たばこを吸っていた副操縦士が、煙が客室に漏れるのを防ごうと空調装置を操作した際、誤って客室内の空調システムを停止させた。そのため客室内の酸素が不足し、高度約3千メートルまで緊急降下したという。

 客室では天井から酸素マスクが下りたが、その後空調が復旧し、機体は再び通常の高度に上昇。午後10時半(日本時間午後11時半)ごろ、大連空港に着陸した。乗員・乗客計162人にけがはなかった。(瀋陽=平賀拓哉)

(asahi.comより)

 基本的には、コックピットで操縦士が喫煙するなど論外だ。電子タバコでも方式によっては、一酸化炭素を吸入することになる。

血液中のヘモグロビンは肺で酸素と結合し体全体に酸素を配給している。
ヘモグロビンは一酸化炭素との親和性も高い。一酸化炭素との親和性は高度に依存し、上空にゆけば一酸化炭素と結合しやすくなる。従って操縦中の喫煙は、相対的低酸素症を引き起こし、事故などで急減圧の際に脳に十分な酸素が配給されず、判断力等の低下につながる可能性がある。米国FAAでは、乗務時はもとより乗務8時間前からの喫煙を禁じているそうだ。

当然この事故の原因は副操縦士の規則違反にある。
飲酒の様に、喫煙による血中ヘモグロビンの一酸化炭素親和性を測定出来れば類似の事故は再発防止できるかもしれない。しかしあまり現実的とは思えない。それよりは、今回の事故で見つかった「誤操作」のリスクを解消する対策の方が有効だと思うがいかがだろう。

この事例では、副操縦士の人為ミスは「情報の誤り」「認識の誤り」「判断の誤り」「行動の誤り」の内の「行動の誤り」に分類される。

「行動の誤り」を防止するためには、
・行動そのものを取りやめる。
・行動の誤りを誘発する要因を排除する。
という対策が考えられる。

  • 行動そのものは取りやめる対策
    記事から判断すると、客室の酸素濃度が低下すると自動的に高度を下げる機能が装備されているようだ。この機能を外してしまうと本当に空調設備の故障が発生した時に困る。
    上空では客室空調設備の停止ができないようにインターロックをかけておく。
    上空で意図的に客室空調を止める必要がなければ、この対策は有効だろう。
    操縦室も空調を止める必要があるのだろうか(もちろん喫煙以外に・笑)
  • 行動の誤りを誘発する要因を排除する対策
    「押し間違えた」という人為ミスを誘発する要因を考える。
    似ているので押し間違える。
    近くにあって一緒に押してしまう。

    客室設備の操作盤と操縦室内の操作盤を分ける。
    スイッチの色・形を客室系と操縦室系で別にする。
    などが考えられる。
    操作盤の配置変更は、難しくてもスイッチの色・形の変更は現場レベルでも可能だ。

航空機会社の新機種設計にこのアイディアを取り入れれば未然防止となる。

我々製造業でも、職場での喫煙が重大な事故原因となる可能性がある。
工場そのもの、設備、従業員に甚大な被害が発生するだけでなく地域社会にも被害は拡大するだろう。

このような重大リスク対策を従業員のモラルだけに頼っていても良いだろうか?


このコラムは、2018年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第694号に掲載した記事です。

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メンテナンス・修理工程

 先週配信のメールマガジン第745号でライオンエアのB737MAX機の墜落事故を取り上げた。墜落の原因として仰角センサー(AOA)の故障(メンテナンス修理問題を作り込んだ)という仮説で、修理・メンテナンス時に問題を作り込む可能性について検討した。

(ブラックボックスの解析により対気速度計の故障により、機体の速度、高度が異常値となっていたことが判明したようだ)

この記事に対して読者様からメッセージをいただいた。

※O様のメッセージ
 初めまして。いつも配信を楽しみにしています。
私も今まさしく、「修理過程で不具合の要因を作ってしまった」という場面に接しています。修理が発生すると、「以前もこうやって修理した」という、作業者の経験に依存して工程を完了してしまうように感じています。世界市場で有名な企業でも、日本の町の小さな工場でも、不具合の規模こそ違えど、発生する品質の問題は類似していると思いました。

航空機の機体整備を製造業の観点で見直すと、設備点検・メンテナンスに相当するだろう。視野を広げれば、生産ラインでの修理作業も同類になる。

量産品の生産ラインでは、事前に故障モードを洗い出し、故障部位の特定方法、修理方法などをあらかじめ決めておく。ほとんどの場合は、類似の製品を過去より継続的に生産しており、過去の経験智を活用できるだろう。

それでも問題は発生する↓(苦笑)
顧客クレーム(誤出荷)

量産機種の良いところは、不良現象の蓄積が早いこと、修理要員の習熟が早いことだ。なにせたくさん作るので不良数も多い(苦笑)

一方、一品モノの生産となるとなかなか不良事例が集まらない。修理要員も不良箇所を突き止めるのに時間がかかる。修理手順も確立できていない場合が多い。設備点検・メンテナンス修理も同様だ。

これらの修理作業を経験・記憶に頼らず、経験・記録により累積できるようにするのがコツだと思う。

この記録をFMEAの潜在不良として蓄積する。
(工程FMEAに展開するよりは、機能ごとに潜在不良を蓄積し設計FMEAに近い形にする方がよかろう)これにより作業員や修理要員の経験智を累積することができ、共有が可能となる。

このような作業をするときは、現象から原因を推測する帰納法と、原因から現象を予測する演繹法を行ったり来たりしながら分析をする。このような訓練を積めば、生産開始前にあらかたの不具合は対策済みになるはずだ。


このコラムは、2018年11月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第747号に掲載した記事に加筆しました。

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熟練工

 日本の中小企業の事例だ。この工場は精密部品の挽き物加工、直径1.0~10mmといった小径の部品加工を得意とする工場。製品は弱電用機構部品だ。この工場では常時4、5名の検査員が、顕微鏡で製品検査作業を行っている。

仕上がり寸法などは、AOI(自動光学検査)で自動化できるだろう。しかし熟練検査員の目視検査が必要不可欠だという。

検査員は顕微鏡をのぞいて、部品の雰囲気の変化を感じとる。「雰囲気」とはあいまいな表現だが、光の反射が違うなど「いつもと何かが違う」といったレベルの些細な差異だ。不良品とはいえないが、製造セクションにその感触を伝えることで不良が出る前に改善できると言う。

その「雰囲気の変化」が使用材料の間違いとか、熱処理工程の異常など、目視検査基準には書いてない不良や異常であったりするのだろう。

自動検査装置ではこの様な「雰囲気の変化」を見つけることは出来ないだろう。検査装置に人工知能を搭載すれば可能となるかもしれないが、熟練工達の暗黙智がなければ、計算機は学習出来ない。

日本と中国(もしくは途上国)に工場がある方は、ご経験があると思うが、日本工場の目視検査員は消費者リスクギリギリで検査するが、中国工場の目視検査員は生産者リスクを食いつぶして検査する。つまり、日本の目視検査員は顧客の受け入れ検査ギリギリの線で合格判定し、中国の目視検査員はオーバーキル気味で検査する、ということだ。

日本人検査員が年齢が高めで、良い具合に視力が衰えているとか、中国人検査員が職業的使命感に燃え、寸分の不良も許さない、などの理由があるかも知れない。しかしこれは真因ではないだろう。

この違いを生むのは、日本には長期安定雇用(企業側だけではなく従業員側も)の傾向があるためではないだろうか?この道何十年の熟練工がいる日本の工場と、離職率が月当たり二桁にならんとする中国工場では熟練工の暗黙智に大いに差があるだろう。

この差を埋めるには、日本の熟練工の暗黙智を彼らが定年になる前にAI化する。又は中国工場の企業文化を日本の企業文化に近づけ、中国人従業員の安定雇用を進める。この二つしか選択肢がないと思うが、あなたはどう思われるだろう。


このコラムは、2019年3月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第792号に掲載した記事に加筆しました。

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バスケットシューズ

 スポーツ用品大手ナイキの「大失態」が米メディアをにぎわせている。米大学バスケットボール界のスーパースターが20日の試合で、履いていた同社製シューズが壊れたため膝を痛めて負傷退場。全米に衝撃を与えた影響で同社の株価が急落し、ロイター通信は21日の時価総額への影響を約14億6千万ドル(約1621億円)とまで算出した。

 負傷したのは男子の全米大学体育協会(NCAA)1部デューク大のエースで、プロのNBAで抜群の人気を誇るレブロン・ジェームズ選手の再来との呼び声も高いザイオン・ウィリアムソン選手。有名校との黄金カードで、靴底がはがれたために足を滑らせて転倒した。

(共同通信)

 バスケットの試合中にシューズの靴底が剥がれ、転倒。選手が怪我をした、というニュースだ。記事ではナイキの株価が急落したとあるが、2月27日には終値で86.17USDを付け2月の高値を更新している。

事故の翌日の終値は83.95USD前日の終値84.84USDから1.1%下落したが、27日の終値で2.6%上げている。市場は報道より冷静の様だ。

ナイキは過去にタイ工場で若年労働者を雇用し不祥事を起こしている。
おかげで当時顧客から中国工場の安全衛生管理監査を受ける事となった(苦笑)
その監査で工場玄関に掲げた「女工募集」の横断幕が、男女雇用均等の精神に反していると指摘を受けた(苦笑)

すでに10年ほど前になるが、スポーツシューズはナイキだろうがNBだろうが1足60元程度だった。もちろん中国製の偽物だ(笑)
エアークッションがついたナイキもどきのランニングシューズを使っていた。エアークッションに穴があきエアーが抜けた。そして程なく靴底がパックリと剥がれた。ランニングマシンで躓いた程度で怪我などしなかったが、相当恥ずかしかった(笑)

スポーツシューズメーカの大方は、すでに中国での生産を撤退しているだろう。ニュースの当該シューズはベトナム生産ということだ。

ネットの情報を見ると、怪我をした選手よりナイキに同情的な論調だ。

  • トップ選手なのに1万5千円程度のシューズを履いていた。
  • 身長、体重ともに大きな選手なので靴に負荷がかかりすぎた。
  • 三週間も同じ靴を履くなんて非常識。

どうも私の常識とは別世界の様だ。バスケットシューズを履く選手の体格が大きいことは想定範囲だろう。もしプロユースに使って欲しくないのならば、それなりに機能・性能を加減して設計し、その様に宣伝すべきではなかろうか。もちろん「アマチュア仕様」などとうたって宣伝することはない。逆に高機能モデルに「プロ仕様」と宣伝すれば良いだけだ。
こうしておけば、プロ選手がヤワな靴を選ばなくなるし、マニアがプロ仕様を喜んで買うのではなかろうか?


このコラムは、2019年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第793号に掲載した記事です。

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地下鉄脱線事故

 6月1日夜に発生した横浜市シーサイドライン自動運転列車逆走事故を先週配信のメールマガジン835号「列車逆走事故」で取り上げた。

「列車逆走事故」

6月6日早朝に横浜市地下鉄ブルーラインで脱線事故が発生した。
新聞記事に事故原因が公表されている

「点検作業、手順書なし ブルーライン脱線事故」
  横浜市営地下鉄ブルーラインの脱線事故で、横浜市交通局は近く事故調査委員会を局内に立ち上げる。保守作業員が「横取り装置」と呼ばれる器具を点検した後、線路上に置き忘れた初歩的ミスが原因とみられるが、現場ではこの器具の点検に関する手順書がなく、作業時の役割分担があいまいなことも判明。組織や職員の意識の問題点を洗い出し、再発防止につなげる。
 (以下略)
全文

朝日新聞ディジタルより

記事によると、夜間保線作業に使った「横取り装置」を本線上に置き忘れた。そのため、始発列車が横取り装置に乗り上げ脱線した。という経緯の様だ。

横取り装置とは、工事用車両が側線から本線に乗り入れるための分岐装置だ。レール脇に設置されており、使用時には固定ピンを外し本線側に接続する。固定ピンを外すと回転灯とブザーが警報を発生する仕組みになっている。

本来横取り装置が本線につながっている間は、固定ピンを外したままにする様設計されていたのであろう。しかしこの作業時には固定ピンを戻し警報を止め、作業終了後も横取り装置の撤去を忘れてしまった。

固定ピンは、横取り装置の外し忘れ防止の「ポカ避け」として設計したのだと思われる。しかしその設計意図が現場に伝わっていなかった。もしくは警報音がうるさいので故意に固定ピンを戻した。といういわゆる「人為ミス」だ。

新聞記事には保守管理所は3ヶ所あり、事故を起こした保守管理所だけが作業手順書を作っていなかった、と書いてある。しかし「作業手順書」がないのが原因ではなく「標準作業」を決めてないのが原因と考えるべきだろう。

通常生産現場では、設備治具の設計者が標準作業を決めているだろう。従ってポカ避けの設計思想がきちんと現場に反映される。さらに標準作業が遵守され、それを確認する作業を織り込んで作業手順書を作成する。作業手順書は実際に作業をする側で作成するのが通常だろう。

今回の事例では横取り装置の標準作業は装置の設計部門で作成。その手順書は保守作業部門で作成する。とするのが合理的の様に思う。標準作業には固定ピンの役割(ポカよけ)が明示してあり、固定ピン脱着のタイミングが明確に規定してある。
手順書には、標準作業に従った作業の手順と確認方法が規定してある。

生産現場でも、生産技術が開発した設備・治具に関する標準作業は生産技術が作成。その作業手順書は製造部門が作成。標準作業と作業手順書に矛盾がない事を品質保証部門が確認。

煩雑な役割分担の様に見えるが、設計思想をきちんと現場に伝え、現場は自分たちがやりやすい作業手順を決めることができる。


このコラムは、2019年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第838号に掲載した記事です。

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