生産改善」カテゴリーアーカイブ

改善の成果

 お客様の改善をお手伝いする時に,改善の成果を保証して欲しいと経営者に言われることがある.日系企業でそういう要求を受けることは滅多にないが,中華系企業の経営者はそういう傾向が強い.安からぬ料金を払う訳だから,その費用対効果を考えることは当然だ.

通常私の方から,無料診断などで問題点を見つけ,段取り替えの時間を1/3にしましょう,外に借りている倉庫を半分にしましょう,工程内不良を1/3にしましょう,などと目標を設定して仕事を始めることが多い.

しかし,本当にそんな成果が出せるのか不安に思っているのか,もっと詳細に成果を定義して欲しいと言う要求をよくいただく.では現在の財務状態を調査させていただき,活動後の財務状態と比較し,効果があった分を成果報酬としていただきましょうか?と言うと,財務状態は教えられないと言われる(苦笑)

では中国系のコンサル会社はどうしているのか,時々一緒に仕事をする仲間に聞いてみた.彼らは,こういう研修を何時間しました,現場で何時間改善指導をしました,と「活動の記録」を膨大な資料にまとめて,報告している様だ.そこまでやっても,成果報酬を値切られるそうだ(笑)

それは当然だ.顧客は,何をしてくれたかよりは,いくら儲かったかが問題だ.いくら活動報告をしても,改善出来たと言う実感が無ければ,満足はしない.

例えば,まず5Sから始めなければ,どうにも駄目だ,と言う工場に5Sから始めましょう.と提案すると,では成果を保証して欲しいと言われる.当然5Sが定着すれば,色々な経営指標が改善されるはずだ.従業員の士気が上がる,と言うのは離職率の低下で測定出来るだろう.しかし離職率が高いのは従業員の士気以外にも要因がある.これを士気の要因と,その他の要因に分類することはほぼ不可能だ.

例えば,外部に倉庫を借りている工場に,倉庫を半分にしましょう,と言うと興味を持ってもらえる.問題意識のある経営者ならば,即座に毎月○万元経費が浮くと計算出来るからだ.

問題意識があっても,解決出来ないのは正しい解決課題が定義出来ないからだ.
倉庫が狭い問題に対し,収納効率を上げると言う課題にしてしまうと,在庫を半分にすると言う解は見つからない.または自動倉庫を導入すると言う,対策を考えれば,費用対効果の問題で実現出来なくなる.本当の問題は,必要以上に生産するから倉庫が狭くなるのだ.従って,まとめ生産をしないと言うのが課題となる.社内や業界の常識にとらわれていると,こういう解決課題が設定出来ない.

こういう工場が,しばしば倉庫管理系統(システム)を教えて欲しいと,要求して来る.
それではうまく行かないから,生産改善をしましょう,と提案するのだが,中々理解してもらえない.系統(システム)さえ勉強すれば,魔法の呪文の様に問題を解決出来る訳ではない.

我々が提供するサポートの効果は,目に見える改善効果だけではない.経営幹部から現場リーダに対し,改善能力を育成し,改善意欲を向上することだ.
成果だけを求めると,我々が自分で改善をしてしまえば済む.しかしそれでは改善が継続することにはならない.下手をすれば,改善した結果も維持することが出来なくなる.

我々の仕事の最大の効果は,組織の改善意欲を向上させ,改善文化を定着させることだと考えている.


このコラムは、2012年12月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第286号に掲載した記事に加筆修正しました。

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雑巾がけ

 私が小学生の頃(コミック「三丁目の夕日」の頃)は、教室の清掃は児童の仕事だった。床は雑巾がけをした。以前中国企業の指導をしたおりに、仲間の中国人コンサルにそんな話をしたことがある。

中国では、学校でも職場でも「清潔工」と呼ばれる専門の清掃担当者がいる。
汚す人と掃除する人の役割分担が明確になっている(笑)
私たちの世代は汚した人が掃除すると躾けられた。

当時指導していた中国企業からは「精益生産系統」(TPS)を指導してくれと依頼されていたが、TPSを実践できるレベルにはなく、これがTPSだといって5Sの指導をしていた(笑)仲間の中国人コンサルも日本の小学校におおいに興味を持ったようだが、今では子供達が教室の雑巾掛けをすることはないのかもしれない。

私の友人の工場は、従業員全員で床の雑巾がけをしている。
1万クラスのクリーンルームの塵埃度を測定すると、千クラスの値となる。多分毎日床を雑巾がけをしているからだと思う。クリーンルームの中は極力歩かない、掃除機をかけない。これは床に堆積した埃が空中に舞い上がるからだ。床を雑巾がけすればクリーン度が上がる、これにはちゃんと因果関係があるように思う。

ところで、当時指導した中国企業は我々に騙されて(笑)TPSの代わりに5Sの指導を受けたわけだが、5Sだけでも生産性は3倍以上になった。


このコラムは、2018年11月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第750号に掲載した記事です。

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続々・道具に神が宿る

 99号の「道具に神が宿る」に対するS様のメッセージから引き続き話題を広げたいと思う。

私は日本人の勤勉さの根底に「道具に神が宿る」という精神性があると考えている。道具に感謝する、道具を大事にする気持ちが日本人の勤勉さの基本であり、工業立国を支えた精神性だと考えている。

中国の生産現場を見ると残念ながらそういう気質は感じられない。
ペンチをハンマー代わりにする.エアードライバーをリュータの代わりにしてネジ穴周りの塗装を剥がす。こんなことを平気でやる。

仕上がりだけを見ても道具に対する愛情・尊敬の念が感じられない。
私の住んでいるアパートの扉についている蝶番を止めるネジは2/3がネジ頭のプラス溝が潰れてしまっている。

同じようにNC加工機を使っても、日本のように機械に名前をつけて可愛がるという発想は世界的に見てもまれなのではないだろうか?愛情を持った扱いが、徹底的なメインテナンスや加工機を自らの工夫で進化させようという意欲につながると考えている。

欧米では「一神教」をベースとした宗教観により機械を擬人化する事が宗教的忌避となる。中国にも道具に対する愛着は長い歴史の中にあったはずだと思う。しかし現代中国は職人の腕を育てるよりは新しい加工機を買うと言う即効性重視に陥っている。

私はNC加工機などの設備も「道具」と位置づけている。定義の違いを考えると、実はS様の考えと私の考えには共通性があるのではないだろうか。

☆S様のメッセージ

ちなみに、上記のマシニング加工機などマザーマシンと呼ばれる加工機も日本は物真似から始めました。弊社の自動旋盤も、今は日本製が世界の主流ですが、50年前はスイスのトルノス社のコピーでした。
 自動車も然り。その他の家電製品類も舶来と呼んで輸入品が最高だといわれた時代もありました。でも工作機械でも自動車産業でも、コピーから創めた産業が、世界一と呼ばれるまでになった。
 そこにあるものは、職人気質ではなく、「先生に追いつきたい!」との日本人の勤勉性だったと思います。
その日本人の特性が裏目に出た産業が時計産業ではないでしょうか?
生産数量は世界一!機能だって、時を刻むという性能だって世界一です。SEIKO,CITIZEN,CASIO…これらのメーカーに勝る海外企業はありません。
でも、クォーツでもなく、時を刻む精度もそれほどでもないスイス製のほうが、今でも相変わらず高級品です。
 安くて良いものを大量に生産する。そんな「効率的モノづくり」を成熟させすぎた結果でしょうか…
今の時代は半導体産業と民生商品では携帯電話が、そんな道を歩んでいるように小生には見えます。

  • 安くするために、大量生産を続ける
  • 不良品を防ぐために、標準化された生産ライン=誰でも同じ品質=職人の排除
  • ハードウエアではなくソフトウエアで機能を構成する。=簡単なモノ造り

そんな構成の産業は、いずれ中国に持って行かれるでしょう。そうなった時に、時計産業のように高付加価値のモノづくりをどのように見出すか?
日本企業の命題は非常に大きいと思います。

「効率的モノ造り」の功罪

セイコーは世界で初のクウォーツ腕時計を商品化している。
これも物真似と揶揄されるかもしれないが、他の発明品を1/1000の大きさにするのも一つの発明だ。
 ところがS様がおっしゃるとおり、廉価品を大量生産したところに今日本が弱体化してしまった遠因がある。もちろん当時はモノが行き渡ってなく、廉価なモノを大量に要求している市場があったので、当時の考え方が間違っていたとは思わない。
 生産の効率と品質を上げどんどんコストダウンをしてモノ造りをした。その結果モノと一緒に「貧乏」も量産してしまった。

今はマーケットのあり方が変わってしまった。
規格大量生産品は作れば作るほど「貧乏」になる。
顧客が欲しがるモノを少しだけ造る時代だ。
スイスの高級時計路線はこれを頑なに守っているのではないだろうか。

コストダウンばかり考えるのではなく、顧客が価値を感じるところには思い切ってコストをかけてゆく、という発想の転換が必要だと考えている。


このコラムは、2009年6月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第101号に掲載した記事です。

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道具に神が宿る

 以前「道具」というテーマで記事を書いた。今読み返してみると、随分そっけない書き方だ。今回はもう少しこってり書いてみようと思う。

モノに魂を見る、というのは日本人特有の民族性ではないだろうか。針供養など使い古した道具が供養され神になる、という精神性を他の国では寡聞にして聞いた事がない。
日本の文化というのは民族の均一性を土台としている。したがって神が複数あることを恐れない。実際日本には「八百万(やおよろず)の神」がおわす。仏教に「山川草木悉皆仏性」という言葉があるが、自然やモノに神が宿るという考え方をしている。

一方一神教の世界では神が複数存在することそのものが脅威である。繰り返し行われている宗教戦争を見れば一目瞭然だ。ロボットが神を冒涜する存在だと言う議論は我々日本人には理解できない。創造主以外が人間的な物を創り出すことに宗教的忌避を感じるのだろう。
彼らにとっては神は唯一無二の絶対なるものだ。したがって道具に神性など見出すはずはない。

日本のモノ造りを支えてきたのが、この「道具に神が宿る」という精神性ではなかろうか。日本のモノ造りががまだまだ優位性を保っているのは、「モノを造る道具が作れる」というところにあると考えている。
生産設備が作れる、生産設備を作るための設備が作れる。という競争優位点はまだ日本国内に残っていると考えている。これらのモノ造りの現場力は日本の文化が背景となって育て上げられたモノだと思う。

日本的モノ造りの心が外国に伝わってもその国の文化に沿って独自の形で進化定着することになるだろう。今我々が見ている中国の生産現場はまだまだ物真似の段階である。日本的モノ造りの心が中国でどのように進化するかを知るには、あと10年20年の時間が必要だろう。

その間日本国内に残っているモノ造り、残さなければならないモノ造りを更に進化させなければならない。日本が忘れかけているモノを進化させなければならない。


このコラムは、2009年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第99号に掲載した記事です。

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続・若手中国人リーダ

 先週紹介したC君と同じ工場で働く製造部長さんを紹介したい。彼も30代の有望な若手中国人リーダだ.

彼の職場の改善指導をした時に、物のおき方を変えるともっと効率よく作業できますよ。という話をした。

次の回に訪問した時に、彼から加工前の部材置き場を変えたら生産性が17%上がったと報告を受けた。きちんと作業員の歩行時間を評価して立派な報告であった。

自分でちゃんと考え実行に移す。それを相手に分かるようにプレゼンする。簡単そうだが、これがきちんとできる人はそうは多くはない。

しかし私にはちょっと物足りない。
実はこの歩行時間は「外段取り」にできるはずなのだ。彼は私のヒントだけで改善はできたのだが、改善効果は明らかに「机上計算」だけだ。そして歩行時間を「外段取り」にすることに気がつかなかった。

彼にはもっと現場でモノを考えるように指導する必要がある。


このコラムは、2009年4月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第94号に掲載した記事です。

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若手中国人リーダ

 大手日本企業の中国工場で働くC君は、会社の現地化政策によりこの4月から副工場長に昇格した。

初めて彼と会ったとき生産現場の指導で「ここはこうしたらどう?」と質問をしたら「実は同じことを上司に提案しました」と切り替えされた。よくいる口先だけは立派な事が言えるが、行動が伴わないタイプかなと思ってしまったが、どうも違ったようだ。その後彼と一緒に現場で指導をしていて分かった。

訪問指導日の朝、ミーティングの時に「今日の課題」を彼から言って来る。簡単なことのようだが、これができる中国人若手リーダはそうはいない。与えられた課題をこなす事が出来る人はいくらでもいるがいつも物足りなく感じていた。

自ら課題が提起できるのはリーダとして重要な資質だ。

またC君は全く遠慮なく私をこき使ってくれる(笑)
今まで指導した工場で中国人リーダから直接質問や依頼のメールを受けることはなかった。彼は「○○をコストダウンしたいが、良い方法(材料)はないか」とどんどん私に仕事をくれる。

他部署の力をうまく借りる人間性も備えているようだ。

職場では部下の作業員を集めてしょっちゅうミーティングをしている。面白いのはミーティングが終わるときに、自分がポンと一つ手を叩くと参加者が「了解」の合図のように全員でポンと手を叩くようにしている。まるで決起集会のあとの一本締めのようだ。

C君は自分の部下ではないが、このような人材と一緒に仕事が出来て彼の成長の手助けができれば、こんな光栄なことはない。


このコラムは、2009年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第93号に掲載した記事です。

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見る

 見るという行為は、視覚で外界を知覚することをいう。その他に看る、観る、視る、診ると使い分けることがある。

看る:見守る。世話をする。
(例)新人の面倒を看る。病人を看る。
観る:対照を眺めて見る。
(例)映画を観る。観光地を観る。
視る:注意して見る。
(例)不良品を詳細に視る。熟練工の手の動きを視る。
診る:調べて判断する。
(例)脈を診る。医者に診てもらう。

生産現場での「見る」行為は漠然と見るのではなく、注意して「視る」判断を伴う「診」である必要がある。

ところで見るという行為は、個人の思考に依存する。したがって見えないはずのモノが見えたり、実際にあるものが見えなかったりする。

例えはこの動画は6人の男女が2個のボールを動きながらパスをしている。
動画を見て、何回パスをしているかを数えるよう指示される。
その結果が正解であろうと不正解であろうと、重大なことを見逃してしまう。

生産現場で「視る」にせよ「診る」にせよ、虚心坦懐、既成概念を捨てて見る必要がある。そのためには「現場百度」何度も見ることだ。生産現場で見ようとしているモノは、そこにあるから見えるのではない。見ようという意思があるから見えるのだ。


このコラムは、2020年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第984号に掲載した記事です。

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生産性改善

 中国でバイヤーとして活躍されている方から先週のメルマガ「改善の火をともす」の感想をいただいた。感想というより中国モノ造りを叱咤激励する檄文(読み方によっては愚痴・笑)をいただいた。

この方は定期的にサプライヤーを集めて合同の改善報告会をしておられる。こういうことができる人が本当のバイヤーだと思う。
脅し、すかしでコストダウンを迫る、納期遅れには電話で怒鳴りつける、こういうバイヤーにはできないことだ。

相手に感謝されつつ自社にもメリットをいただく。何事もこうありたいと思う。

メッセージの中に合同改善報告会で中国サプライヤーの社長さんに改善の推進をお願いすると、「改善要員を雇いましたから大丈夫です。」と答えるシーンが出てきたが、思わず苦笑しながら頷いてしまった。
顧客から品質クレームがあると、即座に検査装置を買ってきてこれで大丈夫だと安心する中華系経営者を思い出した。

人を雇えば改善ができる、検査装置を買えば不良が減る、という明るく屈託のない思考回路では改善など不可能だろう。

ところで私も前職時代に生産委託先工場の経営者、品質責任者を自社のインドネシア工場に招き「グローバルQA会議」を開催した事がある。工場の見学、各社からの品質改善の取り組み発表と言う丸1日のプログラムだ。

さすがに全員同業者であり、みな真剣なまなざしで参加してくれた。
しかし自社工場の経営者から「ノウハウの流出」を恐れる声が出て、大変残念に思った。こちらの思惑ではお互いに切磋琢磨してレベルを高めあうことを想定していた。
今持っているノウハウにしがみつく姿勢とは対極の考えかただ。しかも目に見えているところなどたいしたノウハウではない。

そんな訳で2年目に台湾資本の中国工場で第二回グローバルQA会議を開催してその後は継続できなくなってしまった。
無理を承知で開催したので2回も開催できたことでよしと考えているが、少し残念だ。


このコラムは、2009年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第125号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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無駄の反対語は何?

 「無駄の反対語は何?」—無駄学の東大・西成准教授が自民党国交部会で意見

渋滞学や無駄学の研究で知られる東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻准教授の西成活裕氏は2009年3月12日、自民党本部で開かれた同党政務調査会国土交通部会で「無駄とり」に関する意見を述べた。「皆さん、無駄の反対語が何か分かりますか?」—西成氏は発言の冒頭で、部会に参加した同党の国会議員たちにこう問い掛けた。無駄とは何かを理解していないと、反対語をすぐに思い付くことはできない。西成氏は「頻繁に使用している言葉だが、無駄の定義は実は明確でない」と指摘した。

 では、無駄とは何か。「無駄を定義するには『目的』と『期間』を明確にすることが欠かせない」と西成氏は言う。特に「期間」を定めることは重要だ。組織のメンバー全員が目的を共有していても、目的を達成する期間が異なると、それぞれ違う結論を導き出すからだ。

 例えば、短期的な視点に立つ上司と長期的な視点に立つ上司がいたとする。両者とも、厳しい経済状況の中、コスト削減に迫られていた。そんな時、部下が「スキルアップ講座を受講したい」と言ってきた。部下に講座を受けさせれば、短期的にはコストが掛かる。そのため短期的視点の上司は「受講は無駄だ」と断った。しかし、長期的視点の上司は、「受講が部下の能力やスキルの向上につながれば、将来的には会社の利益につながる」と考え、許可した。この例の場合、両者の目的は「会社の利益を上げること」で同じだ。しかし、目的を達成するまでの期間が異なるので、取る行動が違ったのだ。
つまり、目的だけでなく期間も明確にしなければ、系統立てて会社の無駄とりをすることはできない。

(INTERNET BPnetより)

 一見ムダに思えてもその「目的」を考えれば、ムダではないという事例はいくらでもある。
作業の下準備がその良い例だ。
下準備をきちんとしておけば、効率も良くなるし、品質も良くなる事が多い。
よく「段取り8分」というが、段取りがきちんとできれば仕事の8分は完成したようなものだという意味だ。

以前中国の工場で、壁のペンキ塗りをした事がある。
我々の常識からすれば、マスキングテープを使い養生をしてから塗り始めるのだが、いきなり塗り始めた。その結果床にはペンキが落ち、腰板にもペンキがはみ出した。

後で拭き掃除をすれば良い。拭き掃除は掃除係の仕事。だから自分たちには関係ない、という考え方だろう。
その結果工場をきれいにしようという「目的」に反して、汚してしまいムダな仕事を生んでいる。

人に仕事を頼むときも同じだ。
きちんと仕事の目的・方法を教え、相手が理解できていることを確認した上で作業を開始しなければならない。これは上司にとって手間がかかることだ。ここで「あれやっといて」と指示をすれば手間は省けるが、結局やり直しをすることになる場合が多い。そのたびに部下の無能さを呪い、自分が忙しくなるだけだ。

目的のあるムダを省けばこういうことになる。

更に西成氏は「期間」という時間軸を取り入れて説明している。長期視点に立った日本的経営が、バブル崩壊後多くの経営者には「ムダ」に見えてしまった。そして一斉にムダを排除した。それが現場力の弱体を招き、更に大きなムダを生んでしまった原因だと考えている。

ところで「ムダ」の反対語は何だろうか?実は私も今のところ妙案はない。

成功の反対語はこちら


このコラムは、2009年3月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第89号に掲載した記事です。

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逆境をチャンスに

 景気の後退による売り上げの減少など,経営をしていれば必ず苦しいときはある.
照明の節電,残業規制など経費の節約も重要である.しかし苦しいときほどこのような守りの対策ではなく,攻めの経営でピンチをチャンスに換えたいものである.

  • 徹底教育による少数精鋭化
     経費節減時に真っ先に対象になるのが教育費ではないだろうか.しかし苦しいときに徹底的に教育をし従業員の能力を向上する事が重要である.経費がなければ自分たちで徹底的にOJT(現場研修)をすれば良い.
    前職勤務時代にインドネシアに自社工場を立ち上げた事がある.
    事業拡大を目指し,生産量を確保するためであった.しかし操業開始時がちょうど市況のどん底で,新工場に出せる生産が確保できなくなってしまった.
    このとき我々は徹底的に第一期生の作業員を鍛え上げた.
    市況が戻った時に生産が一気に拡大,大量の作業員を雇用しこの一期生たちがリーダとして生産現場を引っ張った.
    通常生産能力の急激な拡大は往々にして品質問題などを引き起こすものだが,この工場には無縁であった.
    その後もこのリーダたちが核となり,自慢できる工場になった.
  • 技術の蓄積
     不況時に固定経費を削減するために従業員の解雇は常套手段かと思う.
    生産工場の場合,すぐには利益につながらない開発設計などが整理の対象になりがちだ.
    しかし苦しいときにこそ次のメシのタネを仕込む必要がある.
    あたらな商品カテゴリィ,高生産効率,高付加価値,高フレキシビリティなど戦略を定め資源を投入する.この技術の蓄積が,未来のメシのタネを作り出す.
    FOXCONNというと今では巨大なEMSグループであるが,コネクタメーカとして操業した当時は何度も景気の上下に大きな影響を受けていた.
    不況時に余剰エンジニアを使って当時紙図面が主だった金型図面を,全てCAD化した.
    このときの財産が,金型設計製作のリードタイムを圧倒的に短くし競合他社との差別化に貢献した.
  • 工程改善
     生産量が減っているので,工程改善などを徹底的に実施する良いチャンスだ.徹底的にムダ取りをし,工程改善・少人化を図る.

経費がないという理由で守りに入ってはいけない.工夫次第で金をかけずに工程改善することはいくらでもできる.
苦しいときに前向きに改善を継続してゆく.このときに達成した体質改善が景気が戻った時に一気に大きな利益をもたらす.


このコラムは、2008年6月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第38号に掲載した記事です。

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