月別アーカイブ: 2018年11月

未知の災害

 「失敗から学ぶ」ということは失敗事例から学び、事故や災害の未然対策をすることを目的としている。したがって未知の事例・災害には対処の方法がない、ということになってしまう。例えば2011年に発生した福島原発事故は、1000年に一度の大津波が原因であり全く想定外、事前の対策は不可能だった。本当にそうだろうか?

福島原発事故は、想定外の津波により全ての電源が水没したため電源の使用が不可能となり、炉心が冷却出来ずメルトダウンに至った。

原因が未知の事故・失敗はない、業界を超えて考えればほとんどの事故・失敗は既知の原因によるものである、とこのメルマガで書いてきた

2001年9月11日ワールドトレードセンター同時多発テロ事件発生後に、米国は原子力発電所に対してテロが行われることを想定して、対策を実施している。

津波が想定外であっても、全電源が使用不可能になることはありうる。しかもその事例は10年前にあったのだ。「津波」を「テロ」に置き換えて未然防止を考えるのが「失敗から学ぶ」ということだ。

世の中には多くの失敗事例がある。それをいかに自社の問題として捉え直す事が出来るか、というのが失敗から学ぶための極意だと思う。


このコラムは、2018年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第655号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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仁を志せば悪なきなり

yuē:“gǒuzhìrénrénè*

《论语》里仁第四-4

(注)恶:邪恶

素読文:
子曰わく:いやしくも仁にこころざせば、しきこときなり。

解釈:
志がたえず仁に向ってさえおれば、過失はあっても悪を行なうことはない。

しきこときなり。”を
にくむこときなり。”と読むと「仁を志すならば、人を憎んではいけない」と解釈できます。または
にくまるることきなり。”と読めば、「仁を志していれば、人から憎まれることはない」と解釈できます。

いずれの解釈でも私たちは常に「仁」を大切にしなければならない、という事です。

過去トラブルの再発

 「売家と唐様で書く三代目」という川柳がある。創業者は食うものも食わず、必死に働いて身代を築き上げる。二代目は父親の苦労を見ており、一生懸命に働く。しかし三代目ともなると、子供の頃から大店のお坊ちゃんとして不自由なく育てられる。教養だの芸事だのに精を出し、商売を省みない。その挙句に左前となり財産を失い自宅も売り払ってしまう。その自宅にかけられた「売家」の札が、唐様に格調高く書いてある、というオチだ。

いきなり川柳で始めたが、三代目が身代を潰す、というのが三世代隔てれば失敗を繰り返す、というのに類似していると思ったからだ。

以前このメルマガに「問題は再来する」というタイトルで、同様な信頼性問題が形を変えて5年、10年ほどの周期で再発していると書いた。

一つには、過去の失敗事例が次の世代に引き継がれていないという問題がある。組織内に失敗事例を継承する仕組みがなければ、大店の若旦那が先々代の苦労を知らないのと同じことになる。

例えば未燻蒸処理パレットに消毒液をかけられ、Al電解コンデンサの容量抜け事故が起きた事がある。これは過去の低直流抵抗電解液で封止ゴム腐食による容量抜け事故を知っていれば、想定できたかもしれない。

「薫蒸処理によるAlコンデンサの容量抜け」

「コピー製品」

もう一つは、時代の変化によって再発してしまう例だ。
例えば、ICの微細化に伴い、既知だった不良モードがクローズアップされる。
環境規制により、過去の問題が再発してしまうなどの例がある。

例えば錫ウィスカーは、錫メッキの残留応力がかかっている部分で発生する。これを防止するために少量の鉛を添加すれば良い事が知られていた。しかし環境問題で鉛の使用が禁止され再びウィスカー問題がクローズアップ。

プラスチック材料の難燃剤に使う赤燐が原因でしばしば火災事故が発生する。その対策に臭素を使う事で火災事故は激減した。しかし環境規制により臭素が使えなくなり、赤燐を使いLSIの焼損事故が多発した。

「トラブルは繰り返す」

「プラスチック材料の難燃剤」

いずれにせよ、このような事例は、失敗事例を継承しておけば再発を防ぐ事ができただろう。単純に知っているだけでは無理かもしれないが、原理に遡り、問題を抽象化すれば、次の世代に継承する事が出来るはずだ。


このコラムは、2018年8月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第712号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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問題は再来する

過去に発生した問題は再来する。その理由は二つある。

一番多いのが、問題が発生した真因を把握出来ていないために同じ問題が再来するケースだ。問題の真因が分からないまま流出原因にだけ対策を実施しても流出は発生する可能性が高い。

もう一つは、同じ問題が形を変えて再来するケースだ。例えば以前紹介した信頼性問題を考えてみよう。

高耐圧部品の発煙焼損事故。
1990年代に、CRTディスプレイ装置に使う高耐圧トランスの市場不良がしばしば発生した。25KVのアノード電圧を発生させるフライバックトランス(FBT)は、耐圧性能を上げるため、FBT内部にエポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂は可燃性があるため、難燃性を上げるために赤燐を消炎剤として添加していた。この赤燐が吸湿するとコイルの絶縁皮膜を腐食させる。絶縁皮膜腐食によりコイルがレアショート、ショート部分が発熱し、最終的にはエポキシ樹脂から発煙しFBTが故障する。FBTの故障により、CRTディスプレイの表示が消えるだけではなく、エポキシ樹脂がこげた臭いがし、火災につながる重大事故として扱われる。

当時は、FBTメーカは消炎剤に赤燐を添加するのを止め、臭素系の消炎剤を採用する事により対策した。

しかし臭素は、環境問題の懸念があり、RoSH規制により使用が禁止された。FBTメーカは、臭素系の消炎剤が使えなくなり、赤燐を再使用する事になる。材料開発により、赤燐を防湿コーティングする事により使用可能にした。上記部分は私の推測だが、RoHS規制以降のFBTは難燃消炎剤に赤燐を採用している。

その後CTRを使用したディスプレイ装置は激減し、FBT焼損事故はほとんど話題になっていない。

しかし高耐圧性能を上げるためにエポキシ樹脂を使う部品は他にもあるだろう。同じ不良発生メカニズムが、形を変えて再来する可能性はある。市場で発生している事故は、原因は既知であっても、このように形を変えて事故が5年、10年の期間をおいて再発していると言ってよかろう。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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有意義な会議とは

 1986年11月21日、伊豆七島の大島三原山が噴火した。島内には1万3千人が閉じ込められている。街に迫りだした溶岩が海中に流入したら一大水蒸気爆発が起こり、1万3千人が吹き飛ばされてしまう。日本国最大級の危機的状況が発生していた。

この状況下で、当時の担当省庁である国土庁と関係省庁の役人が緊急会議を開催していた。夕刻から始まった会議はなかなか結論に至らなかった。
その会議の議題はなんと、
[議題1]災害対策本部の名称(をどうするか)
[議題2](災害発生年次は)元号を使うか、西暦にするか
だったそうだ。

これは笑い話ではない。
日経ビジネスオンラインのコラム「ムダゼロ会議術」に出ていた。

しかし私たちは、この事例を笑っていられるのだろうか?
国最大の会議である国会で、ゴシップネタばかり追求し重要案件を議論しない。
採決に入れば、野党は議論が不十分だという。ゴシップネタに終始しただけでなく国会をボイコットしていた人たちが言える言葉ではないだろう。

この話題を取り上げたのは、私たち自身の会議を見直す機会と思ったからだ。政治家やマスコミの批判をするのが本意ではない。

災害発生時の会議の最優先目的は、被災者の生命財産の保護にあるはずだ。そのために現状を把握し、対策を検討。被災者救援の実施計画が会議のアウトプットだ。

社内で行われる会議が、なんとなく開催され定刻で終了。議事録担当者が何を書いたらいいかわからない、なんて会議が横行していないだろうか?

ある企業で行われている改善活動に参加したことがある。
最後にまとめをして終了となった。
経営者からコメントを求められ、素晴らしい改善活動をしていると感じたが、本当に効果が出ているか?という厳しいコメントをした。

活動中メンバーから問題点が指摘され、幾つも改善テーマが見つかっている。
しかし最後の総括会議で、それぞれの改善テーマを誰がいつまでに取り組むかを決めていない。当日あげられた改善テーマは、参加者のノートに埋もれてしまう。せっかく素晴らしい活動をしているのに成果は得られない。

有意義な会議とは、具体的なアクションプランがアウトプットされる会議だ。


このコラムは、2018年7月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第688号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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工程を止める

 生産中に同一不良が大量に発生する。または顧客に不良が流出した。
原因や改善方法がまだ判明しない。しかし客先への納入が必要。この様な状況を経験された方は多いだろう。(経験したことがないという方は、ラッキーな方か、まだ経験が浅い方だろう)

タクトタイムで次々と製品が上がってくる工程で、同一不良が発生すれば、あっという間に大量の不良の山が積み上がる。
こういう状況になった時に生産を止められるかどうかで、その工程の監督者の力量が判断できる。当然顧客の要求納期に答えなければならない。生産を止めれば、納期遅延が発生する。このプレッシャーに打ち勝って生産を止めることは難しいだろう。

しかし冷静に考えれば、不良が発生したまま生産しても納期が間に合うとは言えないだろう。滞留する不良の山をあちこちに移動したり、修理要員を確保するなどが必要となり、生産効率も生産量も落ちる。
最悪の場合、工程内で発生した不良が顧客に流出する。

工程の監督者は、納期通りに「生産」をするのが使命と思っており、生産を止める勇気を持つことができない。しかし本来の使命は納期通りに「出荷」することである。したがって、納期通りに良品を生産しなければならない。

監督職が不良品の「処置」に奔走していれば、いつまでも不良は発生し続ける。勇気を持って工程を止め、不良原因を解析し対策を実施する事が必要な処置だ。


このコラムは、2017年10月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第579号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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海自機墜落「人的ミス」

海自ヘリ墜落は人為的ミス 青森沖3人不明

海上自衛隊のヘリコプターSH60Jが8月26日夜に青森県の竜飛崎沖に墜落、乗組員4人のうち3人の行方が分からなくなった事故について、海自は7日、人為的ミスが原因との調査結果を公表した。方位指示器の誤差を復旧する作業中、バランスを崩して墜落、水没したという。フライトレコーダーや機内の音声データ、救助された乗組員の証言から判断した。

海自は機体に問題がなかったとして、操作手順の徹底など再発防止策を実施し、事故後に自粛していた同型機の飛行を8日以降に再開する。

海自によると、護衛艦「せとぎり」搭載のヘリは夜間の発着艦訓練のため、午後10時33分に艦上を飛び立った。直後に機長席と副操縦士席の方位指示器の値に大きな誤差があることを示すランプが点灯した。

同48分ごろ、復旧作業で機体の姿勢や方位を表示する装置の電源を落とすと、飛行が不安定になり、機首が上がり速力が低下。機長が高さ90~120メートルで速力を上げようと機首を急激に下げ、そのまま墜落した。バランスを崩してから十数秒で落ちたとみられる。

やや強い風が吹いていたが、視界は良好だった。作業に集中するあまり水平線の見張りが不十分になり、乗組員が機体の姿勢が変わったのに気付くのが遅れたという。〔共同〕

日本経済新聞より

その他の新聞記事も合わせて要約すると、
防衛省が墜落したヘリコプターのフライトレコーダを解析した結果、事故原因は「機長が機体の姿勢をしっかり把握しておらず、搭乗員間の連携も不十分だったことが重なって墜落」と言う事で「人的ミス」と結論づけている。

その経緯は、

  • 磁気で方位を確認する方位指示器に誤差が発生とアラーム表示。
  • 機長は誤差を修正するため、操作マニュアルに基づき、方位指示器と連動し、機体の姿勢を確認する装置の電源をいったん切って再起動
  • 電源を切ったことで、この装置と連動している機体の姿勢を維持する機能も低下。
  • その操作で、結果機首が上がって速度も落ちるなど機体姿勢のバランスが崩れた。
  • その結果、機体は降下し続けて墜落した。

この間に「人為ミス」があったとは思えない。唯一人為ミスがあったとすれば以下の記述部分だけだ。

  • 副操縦士や機体後部の2人の航空士も機体の姿勢や周囲の状況を確認しておく必要があったが、これを怠っていたという。

これは墜落の直接原因ではなく、我々製造業で言えば「流出原因」に相当する。

この記事が正しいとすれば、発端となったのは「方位指示装置の誤差」だ。機長は操作マニュアルに従って、機体の姿勢を確認する装置をオフ・オンしてリセットしている。その結果、姿勢確認装置と連動している機体の姿勢を維持する機能も低下、墜落となっている。

機体の姿勢を確認する装置を初期化してしまえば、実際の姿勢とずれが生じ、機体の姿勢維持をする事は出来なくなる。

機長はこの操作をマニュアルに従ってやっている。これは人為ミスではなく、操作マニュアルの不備だ。
こういう状況で、副操縦士らが機体の姿勢や周囲の状況を確認した所で墜落を防ぐ事は出来なかっただろう。流出原因防止を強化しても、発生原因を除去しなければ事故再発は根絶出来ない。

根本原因対策は、
飛行中に方向指示の誤差が発生した時の対応の仕方を変える(マニュアル変更)
又は、飛行中に機体姿勢確認装置のリセットをした場合に、姿勢制御維持装置の処理方法を変える(飛行システムのソフトウェア変更)事になるはずだ。

命をかけて国を守ってくれている自衛官3名が行方不明となっている。
「人為ミス」と安易な答えを出すのではなく、きちんと再発防止につながる原因分析をすべきだ。


このコラムは、2017年9月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第562号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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焉んぞ佞を用いん?

huòyuē:“yōng(1)rénérnìng(2)。”yuē:“yānyòngnìngrénkǒu(3)zēngrénzhīrényānyòngnìng?”

《论语》 公冶长第五-5

(1)雍:孔子の弟子。冉雍。字名は仲弓。
(2)佞:口先がうまいこと。
(3)口给:弁舌が立つ。口数が多い。

素読文:
る人曰く、ようや仁なれどねいならず。子曰く、いずくんぞ侫を用いん?人にあたるにこうきゅうを以ってすれば、しばしば人に憎まる。其の仁を知らず。焉んぞ侫を用いん?

解釈:
ある人曰く、雍は仁者であるが弁が立たない。子曰く、どうして弁がたつのが良いのか?弁がたてば人を口数で言い負かし恨まれる。雍が仁者であるかどうかはわからないが、口数が少ないのは悪いことではない。

以前ご紹介した『巧言令色仁鮮なし』では、孔子は口数の多いものは仁の徳が少ない、と言っています。

全日空便、パネル2度脱落 成田発着の同じ旅客機

7日から8日にかけ、成田空港を発着した全日空便の同じ旅客機から、脱出用シューターを収納する強化プラスチック製のパネル(縦60センチ、横135センチ、重さ約3キロ)が2度脱落していたことが9日、全日空への取材で分かった。

いずれも飛行中に落ちたとみられるが、見つかっていない。飛行に問題はなかった。全日空は同機を整備点検し、原因を調べている。

同社によると、脱落があった機体はボーイング767で、パネルは左主翼の付け根付近に取り付けてあった。7日夜、中国・アモイから到着後になくなっていることが判明。同じ大きさの新しいパネルを取り付けて運航したが、8日夕に中国・大連から戻った際にもなくなっていた。

アモイや大連の出発時にはパネルは脱落していなかったという。〔共同〕

日本経済新聞より

 最近旅客機による重大インシデントが続いている。ANA機のパネル落下事故を整理すると、以下の様になる。

7日、アモイ→成田便がパネル落下。
8日、大連→成田便の同機が再びパネルを落下。

パネルは強化プラスチック(FRP)製。左の主翼の付け根にある緊急脱出用スライドを収納するパネル。緊急脱出時に、高圧窒素を使ってパネルを開き格納された脱出シュータを出す様になっている。

旅客機に乗ると、離陸時に「扉をオートマティックモートにし、相互確認を行ってください」と言う乗務員向けの機内放送が毎回ある。駐機時には扉はマニュアルモードとなっており、扉を開けても脱出シュータは出ない様になっている。飛行中は、オートモードにし異常時に扉を開ければ、脱出シュータが出る様にしておく。今回の落下パネルは主翼後方のシュータ用なので、主翼上の非常口が開くとパネルを吹き飛ばす様になっているのだろう。

全日空は「非常時にパネルを外すための高圧窒素ボトルからわずかな窒素が漏れ、パネルのロックが外れた」と原因を説明している。

原因分析が正しければ、成田の整備工場での修理時に「わずかな窒素漏れ」は修理されているはずだ。翌日同じ事故が再発している。従って以下の問題があったと推測される。

  • 原因推定(又は漏れている場所の特定)が間違っていた。
  • 原因推定はあっていたが、修理が正しく出来なかった。
  • 修理後の点検も正しく行われなかった。

ところで脱出シュータの日常点検整備、修理後の点検はどう行われるのだろう。実際に脱出シュータを出す検査は「破壊検査」になるので出来ない。擬似的に検査をする事になるだろう。

航空機のメカニズムはよくわからないので、エレベータの事例で考えてみよう。
以前近隣のホテルでエレベータが最上階から地下2階まで落下し、乗客が怪我をする事故があった。新聞報道によると、21人!もエレベータに乗っており、緊急時ブレーキが機能しなかった様だ。エレベータは最大13人、1000kgの積載能力しかなく、オーバーすればブザーが鳴り扉が閉まらないはずだ。
従ってこの事故は、エレベータの牽引ワイヤの破断と積載オーバーの検出機能不全の二つが重なった事になる。
緊急ブレーキも機能しなかったが、こちらは設計仕様(定員13人、1000kg)をオーバーしており、緊急ブレーキが正常であっても事故は防げなかっただろう。

日常点検で牽引ワイヤの劣化は発見出来るはずだ。(中国における点検整備は壊れたら修理と解釈されている様だ・苦笑)
しかし積載オーバの検出機能はどの様に検査されているのだろうか?
しばしばエレベータの点検整備の現場を目撃するが、1000kgの錘りも、13人の点検作業員も見た事はない。重量センサーの出力端を操作し擬似的に検査しているのだろう。この場合重量センサーに故障があれば検出出来ない。

今回の全日空機事故も本質原因の他に、正しく検査が行われない流出原因がありそうだ。
あなたの工場で行われている設備点検に「落とし穴」がないか一度点検をしてはいかがだろう。


このコラムは、2017年10月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第571号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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原因調査・再発防止

 11月8日に群馬県でヘリコプター墜落事故が発生した。
乗務員4名全員が亡くなっている。
目撃者は、機体後部から部品が落下した、と証言している。機体に何らかの異変が発生し、機体の制御が出来なくなり墜落した様だ。

航空機事故が発生すると、運輸安全委員会が調査に入り原因の分析および再発防止対策の実施をしている。運輸安全委員会とは、国土交通省管轄の組織であり以下のミッションを持っている。

  • 航空、鉄道及び船舶の事故・重大インシデントが発生した原因や、事故による被害の原因を究明。
  • 事故等の調査の結果をもとに、事故・インシデントの再発防止や事故による被害の軽減のための施策・措置を勧告。
  • 事故等の調査、再発防止、被害軽減といった運輸安全委員会の施策推進に必要な調査・研究

運輸安全委員会のホームページ

今回のヘリコプター墜落事故に関する調査は始まったばかりであり、報告書はまだ出ていないが、過去の事故・重大インシデントの報告書は公開されている。調査報告書が公開されるまで2年程の期間を要している様だ。

例えば以前このメールマガジン(2015年6月8日配信・第427号)で取り上げた、那覇空港での航空自衛隊のヘリコプターと民間機2機が絡んだ離着陸トラブルの事故報告書は公開されている。

那覇空港での航空重大インシデント調査報告書

メルマガ過去記事「空自の復唱「気づかず」 重複の可能性も 那覇管制官」

60ページ以上の運輸安全委員会報告書の書き出しはこうなっている。
“本報告書の調査は、本件航空重大インシデントに関し、運輸安全委員会設置法及び国際民間航空条約第13附属書に従い、運輸安全委員会により、航空事故等の防止に寄与することを目的として行われたものであり、本事案の責任を問うために行われたものではない。”

私たち製造業においても、不良原因調査、安全事故調査を行う機会はしばしば有る。これらの調査の目的は、不良・事故の再発防止であり、問題発生の責任追求ではない。責任追及とすれば、責任逃れ、問題の隠蔽が発生し本来の目的で有る「再発防止」は達成出来ない。

社内や顧客に提出する報告書は、運輸安全委員会の報告書の様な「大作」で有る必要はないし、2年もかけて報告書を作成したのでは改善のチャンスを失する事になる。
(運輸安全委員会の名誉のために申し添えると、対策そのものは既に実施済みで有り、原因・対策とそれに至った調査記録をまとめた報告書となっている)

私たちも運輸安全委員会の基本ポリシーに従って不良・事故調査に当たるべきだ。そして不良・事故発生の再発防止・損失軽減に対する調査・研究を推進しなければならない。

再発防止・損失軽減に対する調査・研究とは

  • 設計基準、製造方法、作業要領などを改善改訂する。
  • それらが遵守される事を確かにする。
  • これら調査・研究対象を広く社外にも求める。

と言う事になるだろう。


このコラムは、2017年11月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第589号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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