月別アーカイブ: 2022年1月

個人の使命

 個人の使命の一番深い部分には、「信仰」が有るのではないだろうか。
信仰とは宗教だけではない。日本には、無宗教の人が多い。仏教でも多くの宗派がある。キリスト教など、多くの異なる宗教が混在している。これらの人々が争いごとも無く平和に共存しているのは、宗教だけではなく、道徳とか武士道というものが信仰の対象としてあるからではないかと考えている。

生きてゆく上で、拠り所となるものが信仰だと考えている。

中国で缶ビールを積載したトラックが横転する事故が有った。新聞の記事には、道路に散乱した缶ビールを失敬して飲んでいる男性の写真が掲載されていた。同じような事故が日本で発生した時に、散乱した缶ビールを飲んでしまう人がいるだろうか?

地震で被害を受けた商店から、商品を略奪する群集を海外からの報道で見る。
日本でも同じような略奪が発生することがあるだろうか?

日本人にとって、道徳とか武士道が拠り所となっているので、こういうことは日本では発生しないというというのが私の希望的観測だ。

仕事でも同じだ。
仕事のための拠り所となる使命が明確であれば、どんな仕事でも意義がある。
NASAのオフィスで働く黒人の清掃夫に、あなたの仕事は何ですか?と尋ねたら、「ロケットに人を乗せて、月に送り込むことさ。そのために俺はここで掃除をしている」と答えたそうだ。

レンガを積み上げている作業者に、あなたの仕事は何かと尋ねた時に
「見りゃ分かるだろう。こうしてレンガを運んで積み上げるのが仕事だ」
「レンガを積み上げて、教会を作っている」
「人々の安寧のために、教会を作っている」

と答える3人の作業者がいた時に、誰が一番モチベーションが高いか、一番仕事のパフォーマンスが高いか、明確だろう。

目前の作業ではなく、仕事を見つめる。仕事によって達成される自分の使命、自分の夢を考える。こういうことが考えられる人にとって、あらゆる仕事は苦役ではなく、夢を実現するチャンスだ。

作業を教えるのではなく、仕事を教える。更に使命を持つ、夢を持つことを教えられれば、あなたの従業員のパフォーマンスは上がるはずだ。


このコラムは、2010年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第162号に掲載した記事です。

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透ける可能性ある水着、自主回収 アディダス

 アディダス・ジャパンは14日、今年4月以降に全国で販売した女児用の水着が、着用して水にぬれると肌が透ける状態になると発表した。同社は自主回収する。薄いブルーと、薄いピンクの水着で6モデル、10種類が対象。
問い合わせは、同社の製品回収センター(0120・774・435)。

 同社によると、主に小学校高学年までで、身長100~160センチを対象とした「女児用スイムウェア」。これまでに、約4千着を販売した。生地と色の薄さが透ける原因だとしている

(asahi.comより)

 スポーツウェアの業界では、新製品の「設計検証」「製品の妥当性検証」をどのような手順でやっているのだろうか?今回の様な不具合は、出荷後ではなくもっと早くに発見出来たはずだ。

本来この様な問題は、製品に使う材料を決定する段階で、問題に気が付かねばならない。

電気・電子製品の場合、新規に採用する部品・材料は設計の初期段階で、部材及び、それを供給するメーカの評価を実施する。長期信頼性など時間がかかる評価については、評価計画とリスク回避の代替案を初期設計審査で確認する。

今回の様な、透ける素材を使って水着をデザインするということはありえない。初期評価でサンプルを濡らしてみればすぐに分かることだ。

また、万が一不幸にも初期設計の段階で不適合に気が付かなかった場合も、設計検証で洗い出す仕組みになっている。それでも気が付かない場合は、量産開始前の第三者(普通は品質保証部)の製品妥当性検証で気が付く。この妥当性検証は、完全に利用者の立場で評価を実施することになっている。

電気・電子製品の設計者は安全事故を発生させない様に、最大限の注意を払う。水着メーカにとって「透ける」という不適合は、電気・電子メーカの安全事故と同等の致命的不適合だろう。

衣料メーカにとっては、意匠性が重要なのは理解できるが、基本的な機能の評価がおろそかになったり、手薄になると、今回のような回収騒ぎとなる。

「保証」と「補償」は紙一重。品質保証は「先手必勝」だ。


このコラムは、2010年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第162号に掲載した記事です。

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月にロボット「なんかさせたる」 「まいど」組合挑戦へ

 今度は、月でロボットになんかさせたるねん――。大阪の町工場発の人工衛星「まいど1号」を開発した東大阪宇宙開発協同組合(大阪府東大阪市)は27日、2015年を目標に人型の二足歩行ロボットを月に送り込む構想を発表した。まいど1号で得た経験を生かし、将来的には地質調査などで貢献したいという。

 同組合の計画では、車輪型ロボットを15年に月に送り込もうという政府の宇宙開発戦略本部の構想に「便乗」。予算も補助金などで数億円を見込むが、それが無理でも、全国の人に支援を呼びかけたいという。

 人型ロボットには、まいど1号で得た放射線対策や放熱技術を応用し、人間より小さなサイズを想定している。開発には全国の中小企業の技術を結集したいとしている。会見した同組合の吉田則之・副理事長らは「ハードルは高いが、『ものづくり』の技を世界にアピールしたい。2本足で無理だったら、四つんばいになってでも」と話した。

(asahi.comより)

 東大阪の中小企業が集まって人工衛星「まいど1号」を打ち上げた話は、まだ記憶に新しい。プロジェクトに参加しなくても、そのニュースに触れて元気の素を得た経営者、若者も多いのではないだろうか?

その東大阪宇宙開発協同組合が、人型ロボットを創って月に送り込むという。「月でロボットになんかさせたるねん」という夢を掲げたプロジェクトだ。金融危機以来、日本だけが景気回復から取り残されているように見える。特に製造業の停滞感、閉塞感が厳しい。そんな中で「元気」を与えてくれるプロジェクトをまた東大阪宇宙開発協同組合がぶち上げてくれた。

製造業をボトムとするスマイルカーブ、つまり笑ったときの口の形の底が製造業であり、より付加価値の高い口の端の方にサービス業、金融業などが位置するという考えかたが浸透し始めている。中小企業だけではなく、大手企業までがモノ造りから離れ始めている。

しかし製造業がなくなるはずは無い。

このメルマガで再三提案しているが、スマイルカーブは、製造業の中でも適用できる。
顧客から支給された図面どおり加工するモノ造りが、スマイルカーブのボトムだ。付加価値を高めるために、ありえないサービスを提供する非常識なQCDを実現する現場力、魅力的付加価値を創造するR&Dを磨かなければならない。

R&Dといっても大企業がやるような、商品、素材の研究開発である必要はない。
新しい加工技術、素材の利用技術で良いのだ。東大阪宇宙開発協同組合の様に力を合わせれば、大企業でもやらない開発をも可能にする。

私も、こんな物を造りたいと言う依頼を仲間内に紹介していたが、世の中に無い全く新しいアイディアを実現できないかという話も出てきており、盛り上がっている。
「中国華南モノ造り協同組合」を立ち上げてみようかという気になっている。

時として、血縁や利害関係で結ばれた仲間より、夢の実現を目的に結ばれた仲間の方が団結力は強くなる。


このコラムは、2010年5月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第151号に掲載した記事です。

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人物評

gòngfāngrén(1)yuēxiánzāi(2)xiá

《论语》宪问第十四-29

(1)方人:人を評論する
(2)赐也贤乎哉:赐(子貢)も賢いものだなぁ。疑問語気。

素読文:
こうひとたくらぶ。いわく:“けんなるかな。われすなわいとまあらず。”

解釈:
孔子は子貢の人物評をからかって偉くなったものだと言ったのでしょう。しかし孔子自身も人物評をしばしばしています。子貢は孔子に「お前は器だ」と言われています。孔子は「君子は器であってはならない」と言っています。格調の高い瑚琏の器と言われてもがっかりしたでしょう。

中国・華南におけるQCサークル活動

先週は広州市で開催された「広東省2010年科技創新与優秀QC小組成果発表大会」に呼んでいただき、参加をしてきた。

広東省科学技術協会、広東省質量協会、広東省科学技術諮詢服務協会が開催者に名を連ねており、180人ほどが参加する盛大な成果発表会であった。3日間で70サークルほどが活動成果を発表するそうだ。

中国広東省では、QCサークル活動が始まってすでに30年。今回参加した成果発表会はすでに10年継続しているそうだ。

今回の参加により、自分の不明を思い知ることになった。
今まで中国におけるQCサークル活動は、日系企業の中で細々と行われており、その活動は企業単位で縦にまとまっており、日本本社との交流はあっても、横方向の交流はないと考えていた。

しかし今回成果発表を聞いた11サークルは中国ローカル企業のほうが多かった。業種はタバコ、家電、空調、オートバイ、塗料、洗剤などの製造業だ。

中には日本で発表しても十分通用する活動もあった。
活動内容は「問題解決型」であり、ほとんどが不良の低減をテーマとしていた。製造部門主体でQCサークル活動が行われているようだ。中には明らかに製造間接・設計の活動テーマや、生産性改善、コストダウンの活動もあり「課題達成型」活動の切り口で取り組んだ方が良いテーマも有った。

「問題解決型」→「課題達成型」→「顧客指向型」に活動内容が変遷してゆく過程で、製造部門中心の活動が、全社的な取り組みに変わってゆくはずだ。

活動成果だけではなく、QCサークル活動にはOJT教育・訓練効果がある。むしろOJT効果のほうが大きいと考えている。
問題解決能力、改善能力、チームワーク(リーダシップ、フォロワーシップ)、QC手法活用能力、プレゼンテーション能力などを「計画的に」OJT教育・訓練できる。

日本ではQCサークル活動が下火になりかけているが、やり方を変えれば中国でも大きな成果を上げ、組織力を向上させることが出来るはずだ。


このコラムは、2010年4月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第150号に掲載した記事です。

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のぞみギアケース破損、9年前の類似トラブル生かされず

 山陽新幹線で3日、博多発東京行き「のぞみ56号」(N700系)のギアケースが壊れた問題で、上越新幹線でも2001年に同じようなトラブルが起きていたことが分かった。ともにギアケース内の歯車のベアリングが壊れ、部品がケースを内部から破損させていた。JR西日本の担当者は上越新幹線のトラブルを把握していなかったといい、教訓が生かされなかった。

 JR西によると、のぞみのギアケース破損は、ケース内の小歯車の両側にあるベアリングが壊れ、部品が大歯車とケースの1センチのすき間に挟まったためとみられる。ベアリングが壊れた原因は不明だが、モーターの動力を小歯車に伝える軸が何らかの原因でずれたことなどが考えられるとしている。

 JR東によると、上越新幹線のギアケースが壊れたのは01年4月22日。新潟発東京行き「Maxあさひ」(E1系)が高崎駅(群馬県)―熊谷駅(埼玉県)間を走行中、台車の異常を示す警告ランプが点灯した。列車はそのまま東京駅に到着し、折り返して新潟まで運行した。

 車両基地で点検したところ、ギアケースが割れて潤滑油が漏れていた。
その後の調査で小歯車のベアリングが壊れ、その部品がケースを破損していたことが分かった。JR東は、ベアリングを押さえつけていた部品が不良品で、「遊び」ができていたと断定。改善策を講じたという。

 JR東によると、上越新幹線のトラブルの原因は鉄道総合技術研究所(東京)で究明し、国土交通省に報告した。
 

(asahi.comより)

 「のぞみ」の車内に白煙が立ち込めたと言うニュースの続報だ。
このニュースを読むと、以前発生した上越新幹線での事故では、発煙する前に警告ランプが点灯し、故障が認知されている。しかしのぞみの事故の場合は、警告ランプが点灯せずに発煙が発生したようだ。ギアケースの破損と同時に、警告ランプが点灯しなかった原因も究明・改善しなければならないだろう。

乗り物に限らず、発煙・発火は利用者に多大な恐怖心を持たせる。あってはならない事故だ。予防保全、未然防止に最大限の努力を払わねばならない。

昔から、10年に一回同じような不良が再発されると言われている。
それは不良・事故を経験した現場の記憶が薄れて行き、また同じ事故を引き起こしてしまうためであろう。

不良・事故の経験を現場の記憶として継承してゆくには限界がある。
記憶として残すのではなく、記録に残し更に、組織の暗黙智として仕組み・仕掛けに落とし込まなければならない。

上越新幹線の事故の後に、車両保守点検手順、車両の製造手順、設計基準等が改定されただろうか?基準書、手順書の形で組織の暗黙智を形式智にしておくのが、過去の経験を忘れない方法の一つだ。

以前、積層セラミックチップコンデンサに亀裂が入る不良事故を経験した事がある。当時想定していたよりも、はるかに簡単にチップコンデンサには亀裂が発生することが分かった。そのため設計基準を変え、製造での加工方法も変更した。

しかし2年後、別の事業部で同じ不良が発生した。
当時私は大いに反省をし、毎月定例開催されていた全社QA会議の他に、全事業部の品質エンジニアが情報を共有しあうための月例会議を発足させた。そこで議論された内容は、技術資料・議事録として残り、全社に公開する。

これも組織の暗黙智を継承してゆくための仕組みと仕掛けになるだろう。


このコラムは、2010年3月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第144号に掲載した記事です。

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温泉施設、過去2人死亡 硫化水素か、入浴客重体

 北海道足寄(あしょろ)町の旅館「オンネトー温泉 景福」で2014年10月、男性入浴客が浴槽内で倒れて重体に陥る事故があり、道警が業務上過失傷害の疑いで捜査している。事故直後の保健所の測定では、温泉に含まれる硫化水素ガス濃度が国基準を大幅に超えていた。この施設では以前にも2人が同じ浴槽で倒れ死亡しており、道警はこの2件についても経緯を慎重に調べている。

(朝日新聞電子版より)

 この男性は、未だに意識不明で入院中だそうだ。
この事件以前にも2013~2014年に3人が入浴中に倒れ、救急搬送されている。内2名は死亡している。この時の死因は「溺死」、「虚血性心疾患」として片付けられている。同じ温泉旅館で3人が入浴中に死亡している。少なくとも3人目が硫化水素ガス中毒と判明した時点で過去2名の死因が正しかったのか再検証すべきではなかったのか?

「事態を重く見た環境省は今年9月に再発防止に向けた検討会を設置し、硫化水素を含む温泉の安全対策について基準を見直す方向で検討している」と記事にあるが、事故発生後2年経ってもまだ検討段階なのかと行政の行動速度に不信感を覚える。

この事故の原因は何だったのだろか?
直接の原因は硫化水素ガスが浴室内に高濃度で存在した事だ。
温泉であるから硫化水素がすが出る事はやむを得ないのかも知れない。しかし人が入浴するのならば、健康に害がない程度に排気や換気が必要だろう。
この温泉施設にはそのような設備はなかった。
そればかりではなく、硫化水素学の濃度を測定した事すらなかったそうだ。

別の記事によると、温泉旅館の主人は1987年開業以来一度も硫化水素ガス濃度検査を受けていないと言っている。監督官庁である保健所も、事件後初めて硫化水素ガス濃度を測定し、基準を超えている事を把握した。
保健所の監視要領には2年に1度立ち入り監視をする事が定められているが、監視項目に硫化水素ガス濃度の測定は含まれていない。
環境省の基準では都道府県知事が必要と認めた時には、温泉施設にガス濃度の測定を命じる事が出来るとなっている。しかしどのような時に測定を命じるのか基準は示されていないとある。そのため北海道ではガス濃度測定を命じた事はないそうだ。

法律に規定ないからやむを得なかった、などというのは言い訳に過ぎない。福島県、群馬県などは定期的にガス濃度測定を行っている。

少なくとも2人目の死者が発生した時点で、硫化水素ガスによる死亡の可能性を検証すべきだったはずだ。その上で、行政監視に欠陥がないか調べれば、3人目の犠牲者は出なかったはずだ。

工場の安全災害も同様だ。
マニュアルに書いてないから何もやらない、という考えを改めねばならない。
マニュアルは作成された時点で、想定した事態に対応出来る様に書いてある。当然その時点で想定出来なかった事に対する手順は書いてない。
それらを補って行くのは、マニュアルを運用している者の責任だ。日々発生するヒヤリハットから重大事故の潜在要因を見つけ、マニュアルを改訂せねばならない。


このコラムは、2016年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第499号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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続・のぞみ34号トラブル

負の連鎖が引き起こした亀裂『偶然発生でない』

 新幹線のぞみの台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、台車の鋼材が薄く削られた経緯などを検証した川崎重工業の委員会は28日、製造元の同社内のコミュニケーション不足に過度な現場依存が加わる「負の連鎖」が引き起こしたとの結論を明らかにした。新幹線の重大事故に繋がった恐れのある台車の製造不備は、現場任せの企業体質に原因があった。

(以下略)全文

(産経WESTより)

山陽新幹線のぞみ34号の台車に亀裂が入ると言う重大インシデントに関して以前このメルマガでも検討した。

「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」
「のぞみ34号トラブル」

調査によって明らかになった経緯詳細については、上記新聞記事をご参照いただきたいが、概略をまとめると以下の通りとなるだろう。

亀裂が入った「側バリ」を製造していたメーカが鉄道用部品の生産から撤退。代替えメーカに対して現場監督職が「台座鋼材を削ってはいけない」と言う注意事項を伝えていなかった。

台座鋼材を削ったため、強度不足となり軸バネの弾性応力により徐々に亀裂が入った。

製造時の注意事項をまとめた「作業指導票」は、強度に影響が及ぶとして台車枠の鋼材を削ってはいけないと規定してあった。しかし仕入先メーカが削ったのが原因と読める。

生産移行前のメーカは同じ問題を起こしていない。と言うことは、代替えメーカにおける問題点は以下の二通りとなるだろう。

  • 代替えメーカに正しく製造仕様が伝わっていなかった。
  • 製造仕様は正しく伝えたが代替えメーカが正しく作業しなかった。

側バリは列車の安全重要部品と思われる。
生産工程の変更という4M変動に対してきちんとレビューができていなかった、というのがJR側の問題点だ。

代替えメーカを指導した現場監督職にとっては「台車鋼材を削ってはいけない」というのは常識であり、伝達する必要を感じなかったかもしれない。
また「作業指導書」の規定も理由が書いてなければ、その重要性は理解されない。

記事によると、メーカ変更時に設計、製造、品証の各部門がレビューをした様だ。しかしそのレビュー内容が生産指導に出かけた現場監督職に伝わっていなかった。初品生産時に生産現場の監査が適切に行われていなかった、などの隠れた問題点がまだありそうだ。

「初品」の検証は出来上がった製品の検証だけでは不十分だ。その後に生産される製品も品質が保証できるかどうかを検証せねばならない。現場作業員が正しく生産方法を理解している。そして作業員が変わってもそれが保証される仕組みがある、ということも検証せねばならない。


このコラムは、2018年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第730号に掲載した記事です。

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貧して恨まず、富みて奢らず

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《论语》宪问第十四-10

素読文:
いわく:“ひんにしてうらむこときはかたく、みておごることきはやすし。”

解釈:
子曰く:“貧乏でも恨みがましくならないことは難しい。しかし富んで奢らないのはたやすいことだ。”

経営理念

 以前色々な企業の経営理念を調べてみた事がある。グローバル企業であるジョンソン&ジョンソンは、「我が信条」として経営理念(企業の行動規範)を定めている。

ジョンソン・エンド・ジョンソン:我が信条

我が信条には、企業が果たすべき責任の対象が明瞭に記述されている。

第一の責任:お客様に対する責任。
第二の責任:従業員に対する責任。
第三の責任:地域社会に対する責任。
第四の責任:株主に対する責任。

この信条がだだの文章上の「お飾り」ではない事を示すエピソードをご紹介したい。全米を震撼させた「タイレノール殺人事件」だ。

タイレノールは、ジョンソン&ジョンソンが販売している解熱鎮痛剤だ。
米国ではシェア35%を占める、誰もが知る薬だ。そのタイレノールに何者かがシアン化合物を混入させた。イリノイ州の少女ほか7名の犠牲者が出た。

この事件でジョンソン&ジョンソンは、タイレノールに毒物が混入された事を公表し、125,000回に及ぶTV放映、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけた。約31,000本のタイレノールを回収する為に要した費用は、1億米ドル、当時の為替レートで言うと277億円だ。

回収は、1982年9月29日に最初の犠牲者が死亡した後1週間も立たず10月5日に決断されている。回収以外にも製品パッケージを再設計している。

これらの迅速な活動は、危機管理マニュアルがあったからではない。経営者以下全従業員が「我が信条」を共有していたからだ。8人目の犠牲者は絶対に出さない、という強い使命を持って直接回収に関わった2,500人ばかりではなく全従業員が一体となって努力したのだろう。

その結果事件発生後たった2ヶ月で、事件前の80%まで売り上げが回復したそうだ。

危機管理マニュアルがあったとしても、こうは上手く行かないだろう。
法律の前に道徳がある様に、業務マニュアルの前に理念があるべきだと思う。


このコラムは、2016年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第499号に掲載した記事です。このメールマガジンでは、市場不良などの事例から再発防止対策のヒントをお伝えしています。

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