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新規・珍奇技術

 以前ご紹介したプラスチック製インペラの燃料ポンプのリコールが拡大している。

「デンソーの燃料ポンプ」

通常はプラスチック材料をグリースなどの油脂が付着する環境では使用しない。
ガソリンもプラスチック材料を侵し、膨潤、破断などの不具合を発生させる。今回の回収は耐油脂製プラスチック材料の強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用している。ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有しガソリンが付着しても問題はないはずだ。だが、成形時の温度が低いと、樹脂密度が低くなりガソリンにより膨潤する。

市場不良発生により、初めてこの現象に気がついたというのではお粗末だ。
当然新規材料なので分からなかったということはありうるだろう。

燃料ポンプに使用することを決定した時点で、使用環境で変形などの変化が発生しないことを確認すべきだ。なぜなら燃料ポンプのインペラに関して過去から、燃料ポンプの寸法制度、ゴミの巻き込みなどで回収騒ぎを起こしている。このことに着目すれば、「プラスチック・インペラの寸法精度」というキーワードが出てくるはずだ。もちろん加工精度には問題はない無かろう。しかし使用中の変動も考えるのが設計者の役割だ。

新規・珍奇技術を採用する時は十分な検討が必要だ。
新規技術を採用すれば、同業者の一歩前に出られる。この誘惑に勝つのは困難だろう。
珍奇技術を採用してしまうと業界標準とはならず、供給性や価格で不利になる。

しかしナーバスになるだけでは、競争力のある製品は作れない。
事前に想定できる事態を列挙し、事前に対策することで問題を回避したい。


このコラムは、2021年8月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1172号に掲載した記事です。

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ユーザ・エクスペリエンス

 「おもてなしの経営学 アップルがソニーを越えた理由」という本を読んだ。

著者の中島聡氏は、初期の月間アスキーに高校生アルバイトとしてプログラムを書いたりしていた伝説の人である。またマイクロソフトでウインドウズのユーザインタフェイスを設計した人としても有名だ。

「ユーザ・エクスペリエンス」という言葉はソフトウェア・ユーザビリティを越えた「使いごごち」のような概念の言葉である。中島氏はこの言葉に「おもてなし」という日本語を当てている。

ギーク(エンジニア)オタクっぽい本であるが、製品やサービスをどう設計しなければならないか、という観点で読むとモノ造りへのこだわりが見えてくる。

造る側(サービスを提供する側)のこだわりは「床屋の美学」(自己満足)である。ユーザのためのこだわりを持たなければならない。

ビルゲイツのこだわりは市場を取ること、相手に勝つこと。
一方アップルのスティーブジョブスのこだわりはユーザに感動を与えること。
このこだわりがあるからアップルはコンピュータメーカから脱皮できた。

これが「おもてなしの経営学」である。


このコラムは、2008年10月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第55号に掲載した記事です。

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無料工場診断

 先週の無料工場診断は、いつもと違い工場からの依頼ではなく、販社さんからの依頼であった。
納期、不良などで困っておられる販社さんから自社工場の改革をしたいというご要望である。

工場を訪問してみると、作業員をドンと並べて生産する前時代的な生産方式であった。品質を保証するための仕組みも不十分と見た。

生産性はあまり考慮していないようだ。
例えば、完成品は梱包箱に入れられラインエンドに積み上げられている。この一山が、QCチェックを受けると2名の作業員が箱をベルトコンベアに載せ製品倉庫担当の作業者が待つエリアに送り込まれる。倉庫担当者2名はコンベアで送られてきた箱をパレットに並べ倉庫に搬入作業をしている。

皆さんはこの作業のムダが見えるだろうか?

コンベアに乗せて、下ろす。この作業は何も付加価値を生んでいない。
コンベアに製品を載せている作業員2名は全く無駄な作業をし、倉庫担当者にコンベアから製品を下ろしもう一度積み上げるという無駄な作業を発生させている。

ラインエンドにパレットを置き梱包作業者、またはミズスマシが梱包完了品をパレットに積む。
QCチェックが終わったら倉庫担当者が各ラインエンドに引き取りに来る。
こうするだけで2名の作業者は削減でき、箱を積み上げる無駄な作業も1回省略できる。

またこの工場は納期問題を多発させているにもかかわらず、膨大な完成品在庫を持っている。
多分生産計画のやり方に何か問題があるはずである。完成品在庫を半分にするだけで、莫大な利益が出るはずである。

いずれにせよ、たくさん宝の山を抱えたすばらしい工場である。
多分あっという間に30%は生産性が上げられるであろう。
QCDすべてにわたって大きな改善が出来そうである。


このコラムは、2008年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第第56号に掲載した記事です。

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大阪市の電車型おもちゃに不具合 電池が60度まで過熱

 大阪市交通局は22日、市営交通案内所などで販売していた電車型玩具「スルッとKANSAI どこでも電車 大阪市交通局66系」に、電源を切った状態でもコントローラー内の電池が60度近くまで過熱する不具合が見つかったと発表した。被害の報告はないという。
発売元の「スルッとKANSAI」は同種玩具5種類の販売を中止し、発売済みの商品については不具合があれば点検済みの商品との交換か返金に応じる。

この記事には原因が書いてないが、製造不良により電池を過放電させるような短絡路ができていたのであろう。

では何故この不良が見つからなかったのか?
電池で動作するこの製品の機能検査は、電池ではなくDC電源を使ったのではないだろうか?
DC電源ならば1A軽く流せても、電池にとっては厳しい値となる。

また検査に電池を使っていても機能検査が短時間ですんでしまえば、気がつかないこともありうる。

検査項目に消費電力を入れておけばこのような不良は発見可能になるはずだ。単純にDC電源に電流制限をかけておくだけでも良いだろう。

このようなよその製品の事故記事から、自社製品の不良未然防止対策を考える事が出来る。
このような事例を集めて自社製品用のFMEA(故障モード影響解析)の項目を充実してゆく事が出来る。

今回の事故の教訓は
「ショート事故は0Ωショートとは限らない」ということだろう。


このコラムは、2008年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第第48号に掲載した記事です。

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台湾・韓国企業の夜逃げ

香港日本商工会主催のセミナーで香港工業会のスタンレー・ラウさんのスピーチを聞きました。

短い時間であったので概要のみでしたが、台湾企業の「夜逃げ清算」はベストソリューションだと冗談をおっしゃっていました(笑)

私のセミナーでは「夜逃げ」は推奨しませんが、もっと事例を交えて具体的な戦略のお話をしました。

スタンレー・ラウさんのスピーチにご興味を持たれた読者様があったようなので、もう少し詳しく説明することにする。

毎年労働者の最低賃金が上昇し続けている。その上昇幅は十数%である。
今年の電機労連の賃上げが1000円だからその絶対額でも華南地区の賃金上昇のほうが大きい。

また中国政府の政策変更により、ローテク産業に対し「来料加工」の優遇政策が取り消されている。これにより今まで優遇を受けていた税金還付がなくなる。

追い討ちをかけるように元高、材料費の高騰である。

このような経営環境の悪化に経営を継続できなくなる工場が増えてきた。
工場をたたんで、もっと労務費の安い中国内陸やベトナムに転出しようにも今年から施行されている「新労働契約法」によりままならない。
会社をたたむ時に従業員を解雇することになり、従業員の勤務年数にあわせて「経済保証金」を支給しなければならないからだ。現有の設備を売り払ったところで、「経済保証金」がまかなえない。

そんな窮地に陥った企業が夜逃げをしているのである。
生産設備も、原材料、完成品もそのままにしてある日突然経営者が姿をくらませてしまう。

日系の企業では考えられないことだが、台湾、韓国系の企業で夜逃げをしてしまうところがでている。

これで一番戦々恐々としているのが、中国のローカル政府である。
「来料加工」という制度は、工場には法人格がなく、鎮などのローカル政府が建物と従業員を来料加工廠に貸していることになっている。従って夜逃げをされてしまうと、労働者に経済補償金を払わねばならないのは、ローカル政府なのだ。


このコラムは、2008年7月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第42号に掲載した記事です。

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勝てる戦略

谷、準決勝で敗れる 五輪3連覇ならず

 柔道女子48キロ級準決勝で、谷亮子(右)はドゥミトル(ルーマニア)に敗れる

北京五輪は2日目の9日、五輪3連覇を目指していた柔道女子48キロ級の谷亮子(トヨタ自動車)が準決勝で敗れ、3位決定戦に回った。

(asahi.comより)

  ジムで運動をしながら実況中継を見ていたが、明らかに格下の選手に負けてしまった。大変残念な結果になった。

ドゥミトル選手は「負けない作戦」で戦っていたように見える。自ら組まない。
相手に組ませない。こういう試合を見ているとフラストレーションがたまる。

一方われわれの戦いの場である世界の工場中国の戦況はどうだろうか。
「最低賃金の上昇」「新労働契約法の施行」「原材料高」「元高」不利な状況がそろっている。今までどおりの戦略で戦っていては必ず負ける。

雇用コストの上昇を上回る生産改善を狙う。
原材料・元高に負けない付加価値を生み出す。

「勝てる戦略」を持つ必要がある。


このコラムは、2008年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第第第46号に掲載した記事です。

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モノ造りの力

 このメルマガで何度も「モノ造りの力」ということをお伝えしてきた。
先日テレビ朝日の番組でFAMZONという婦人靴ブランドを紹介しているのを見た。ヒール部分を交換できるパンプスをデザインし、人気になっているそうだ。気分によってヒールの色や形を変える、出かけるシチュエーションに合わせてヒールの高さを変える、そんなアイディアが多くの女性に受けているのだろう。

同社のホームページを見ると昨年6月に100足限定で販売開始、9月に正式販売後数日で在庫がなくなり販売停止、11月に再度販売開始している。

生産上の問題でもあったのだろうか?
番組では1/100mmの精度が必要だと紹介していた。
勘合部分は金属をインサート成形しているので、精度に問題はないはずだ。
多分靴底とヒールの接触部分の平面度精度が1/100mm必要になるのだろう。

このヒールを生産しているのは、カメラ部品を生産している町工場だ。
元々高精度の部品を生産していたのだろう。それでも量産をするのに苦労があったようだ。

アイディアを形にする、デザインを実現するためにはモノ造りのブレイクスルーが必要になる。

ノートPCのボディをアルミ合金にするために、Appleは工場にNCマシンを何台も並べた。これはあまり美しいモノ造りの力ではないが(笑)MacBookProのキーボードタッチは他社のNotePCとは別次元だ。

誰かが頭の中に描いたモノ、誰かが図面の上に描いた線を実現するのは、現場の匠によるモノ造りの力だ。


このコラムは、2018年4月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第651号に掲載した記事です。

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モノ造りのプライド

 日本で購入したスティック糊を開封した。
購入した時には気がつかなかったが、先日開封した折に思わず「すげぇ~」と声が出てしまった(笑)

中国のモノ造り現場にいるとがっかりすることが多い。

「見えない部分の品質」
「中国的モノ造り現場」

見えない部分はどうでもいい。製品説明書がくしゃくしゃに入れられている。
そんな中国的製品を見慣れてしまった者にとって、衝撃的な体験だった。

衝撃的な感動を受けたスティック糊はスティックのお尻の部分にT字型の紙片が差し込まれていた。T字の横の部分が包装袋の幅と同じ長さになっている。
つまりこの小さな紙片は円筒形のスティック糊が包装袋の中でくるくる回ってしまわないように回転留めの役割を果たしている。

店頭に陳列した際に、お客様に対してスティック糊が「そっぽを向く」という失礼がないように、いつも正面を向くようにしてあるわけだ。

こういうこだわりを、「モノ造りのプライド」と私は言いたい。
コストや手間より優先するモノ。それがプライドとかこだわりというモノだ。


このコラムは、2018年12月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第755号に掲載した記事です。

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渾水摸魚

 húnshǔi:水が濁っている間に魚を捕る。
どさくさに紛れて利益を上げる。と言う意味の中国成語だ。

武漢封鎖中の2月上旬。
中国ではマスクが足りず、マスクの争奪で傷害事件が発生するほどだった。BYD、富士康など全く異業種がマスクの生産を表明した。
日本向けに出荷予定のマスクも輸出許可が出ずに倉庫に滞留。真偽は判らないが、国内需要に回されたのではなかろうか?コロナ禍真っ最中、そんな状況だった。

最近はマスクの増産も進み、海外に出荷する余力も出てきたようだ。

「中国、マスク輸出外交に綻び 粗悪品多く許可制導入」

マスクなどの医療物資を援助した国は127カ国に達するそうだ。しかしオランダやスペイン、フィンランドなどで粗悪品が大量に見つかっている。

そのため中国当局は4月1日から輸出企業に許可制を導入し、10日からマスクなど医療分野に厳格な製品検査や申告を義務付けた。その結果、4月1日から13日までに、マスク3,165万枚、防護服50万着、ウイルス検査キット118万個、人工呼吸器677台で品質基準に適合していない製品などが見つかったため没収している。

20世紀末から中国の生産工場を指導しているが、相変わらずだなぁと感心する。
儲かりそうだと思うと、果敢に参入する。石橋を叩いて壊す日本人とは対極のチャレンジ精神だ。
しかし第三者の検査で不良をリジェクトするようではダメだ。モノ造りの基本的な考え方や技術を磨かなくてはならない。

周辺技術の重要性


このコラムは、2020年4月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第969号に掲載した記事です。

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アビガンの生産

 「アビガン原料、中国頼み 政府の備蓄3倍目標に盲点」

日本企業が開発したアビガンが新型コロナウィルス感染症治療の有効性を期待されているが、国内の備蓄を増やす目処が立たないと言う。
その原因は

  • 原材料の生産を中国に依存している。
  • 新型コロナウィルス感染症の治療には、インフルエンザ治療の3倍必要。
    200万人分の備蓄では不十分。

原材料を国内生産するためには、環境対応にコストがかかりすぎる。そのため環境規制のゆるい中国に生産を移管してしまっている。

以前メールマガジンでこんな記事を書いた。

「日中モノ造りの発展」

日本も中国も製造業の出発は、低コスト生産力から出発している。その後日中の発展を分けたのは、製造力を磨いた日本と、高度生産設備を手っ取り早く先進国から導入した中国の戦略の違いだ、と言う主旨だ。

アビガンの開発は高い技術力が必要だったはずだ。しかしアビガンは海外での基本特許が切れていると言う。中国では原材料からアビガンを生産できる。中国でもアビガンは必要だ。日本に原材料を輸出する余裕はない。

多くの局面で中国の技術力は日本を凌駕し始めている。
このままでは、日本は中国の下請けに転落するのではなかろうか。日本の環境規制を緩くすることは不可能だろう。制約を嘆いても何もならない。制約は進歩のジャンピングボードと考えたい。


このコラムは、2020年4月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第969号に掲載した記事です。

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