経営」カテゴリーアーカイブ

魂のこもった仕事

 NHKテレビ「仕事学のすすめ」の録画を,まとめ見した.

その中に建設機械のコマツ社長・坂根正弘氏が紹介されていた.
坂根氏が社長に就任した時に,社内はこんな状況だったそうだ.
販売した建設機械に対する顧客満足度を,毎月社長に報告していた.そのデータは,サービス部門が顧客に電話を掛け聞き取り調査をしてまとめる.

例えば,自社が販売した建設機械が48時間以上故障で稼動できなかった,など稼働状況も把握していた.しかしこのデータは,経営会議に上げられるだけで,担当営業所,設計部門,製造部門には上がらない.

経営会議で必要だから,データを集め,綺麗なグラフにする.これは「仕事」ではなく「作業」だ.魂を込めて仕事をするということは,その仕事の意味を理解するところから始めなければならない.

データを集める目的は,顧客満足状況を把握し,顧客満足を高めることのはずだ.経営会議にデータを提供することは,手段であって目的ではない.このデータを顧客満足を高めるために,製品設計の改善,生産品質の改善などに役立てなければならない.

日々のルーチンワークに陥り,仕事を作業としてしまうと,仕事には魂がこもらない.
コマツといえば,TQM先進企業だ.そのコマツでさえこういう事態に陥っていたのだ.

毎日の生産記録を班長日報で報告させているが,その記録は誰も見ていない.
品質管理部が毎月工程内不良率をまとめて,QA会議で報告するが,製造部門はそれを把握していない.
顧客クレーム内容は,製造部門にはフィードバックしているが,設計部門にフードバックしていない.

経営会議,QA会議などでのデータを見ると,きちんと運営できているように見えるが,内実は上記のような事態に陥っているのを見ることがある.

一度ご自信の会社で点検してはいかがだろう.

参考書籍
建設機械のコマツ会長・坂根正弘氏のダントツ経営(NHKテレビテキスト)
『ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」』小松正弘著


このコラムは、2011年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第225号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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自分を変える

 5Sを指導している工場で,久しぶりに経営トップとお話をした.いつもは,5S事務局を任されている品質部のトップと仕事をしている.

この工場は5Sを導入した時には,従業員が皆一生懸命やってくれグループ会社の中でもトップクラスの工場になった.しかしそれから暫くして,徐々に管理状態が崩れてきており,いくら発破をかけても導入当時の状態には戻らなくなってしまった.というのがこの経営トップの悩みだ.

各部署のトップの真剣度がまだ足りない.彼らのやる気を変えましょうという話をした.しかし彼は,いくら言っても変わらなければ,取り替えるしかないという心境になっているようだ.

もちろん経営者の方針について来れない人を,無理やり組織に残しておくのは,双方にとって良いことは何もない.

しかし私にはまだ経営トップ自身にも変わらねばならない余地があると思える.5Sが経営の基本であり,その結果業績という数字が出てくる.ということは理解しておられるようだが,まだ心底腑に落ちてはいないようだ.その証拠に,6回の指導でまだ一度も現場指導に立ち会っておられない.今回も指導前の30分ほど話をした程度だ.当然経営者としてしなければならないことはたくさんあるはずだ.しかし5Sが経営の基本だというのならば,5Sの指導に立ち会えないほど重要な仕事とは何であろうか?

「他人を変えることは出来ない.まず自分が変わらなければならない」
という話をさせていただいた.

人を変えれば,組織は変わる.しかし他人は変えられない.だから自分を変えなければならない.
この矛盾をはらんだ議論はなかなか理解し辛いであろう.

「読むだけで「人生がうまくいく」48の物語」という本にこんなエピソードがある.

首を痛めてずっと天井を見たままの患者のために,窓際のベットの病人が毎日窓の外の様子を話して聞かせていた.外を見ることが出来ない患者は,窓際の男が毎日語る話を楽しみにしていた.

ある日窓際の男が退院し,自分が窓際のベットに寝ることになった.
早速窓際の男から聞いていた窓の外の風景を見るのだが,そこには隣のビルの壁があるだけだった.

窓際の男は,自分を変え「絶望」(ビルの壁)の向こうに「希望」を見続けていた.それが隣に寝ていた患者の心にも希望を与えたということだ.

窓際の男は,他人を変えようとしたのではない,自分自身が見ているものを,絶望ではなく希望だと思うように,自分の心を変えたのだ.その結果首を痛めた患者も変わった.

経営者というのは,嵐の日でも雲の上に太陽あることを信じ,それを従業員に語って聞かせることが仕事なのだと思っている.


このコラムは、2011年7月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第212号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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改善の火をともす

 クライアントの工場で改善活動をして成果を上げる.これが私の仕事だがこれだけでは不十分だと考えている.このまま仕事を終わってしまうと,いつしか改善の効果は元の木阿弥となってしまう.

工場のリーダや作業員が継続して改善するモチベーションを植えつけておかなければならない.

まず改善活動を始めるときに改善モチベーションを高めなければならない.
今まで現場で上司の指示どおりに仕事をしてきたリーダたちに,自分で考えて行動を起こさせるためには,それなりの初期エネルギーを与えないとだめだ.

まず小さな改善で成功体験をしてもらう.
しかしここですでに変えることに抵抗を示す.「変更する前に上司に話を通してほしい」といってくる.

無理もない.今まで改善の訓練を受けていない上に,よそ者のコンサルに「ここを変えよう」と言われているのだ.うまく行かなかったときの責任が自分に降りかかってくるのを恐れてしまう.

こういうリーダたちはほとんど死んだ目をしている.

私はこういうメンバーたちにまずミーティングをしている.
私「何のために仕事をしているの?」
 「??」
 「……」
今まで当たり前すぎて考えたこともないのだろう.誰も答えない.
しばらく待って
 「家族のため」
 「会社のため」
などと言う答えが返ってくることもある.

私「仕事をするのは自分のため.
  仕事を通して自分の能力を高めるのが目的.
  能力が高まれば,給料が上がり家族が幸せになる.
  会社も利益が上がる.
  そして自分自身が幸福になる」
そんな話をすると「!!」と目が輝きだすリーダが出てくる.

私「会社のためじゃなくて自分のために仕事をしなさい.
  知識ではなく能力を高めなさい.
  会社は給料をくれてそういう機会を与えてくれる場所だ」

こんな話をして目が輝きだす人が一人でもいれば,その人に改善の方法を教え成果を見せる.成功体験が自信となる.
次々と課題を与え自分で考えさせる.
最後には課題を自分で見つけさせる.

ここまでできるとそのリーダの背中はピカピカと輝きだす.
それを見ている周りのリーダの目が輝きだせば大成功だ.
急速に職場には背中がピカピカ輝いた人間が増えてくる.

言われたことをきちんとこなすリーダよりも,問題を見つけてくるリーダを重用する.そしてそういうリーダが評価される仕組みをきちんと作っておく.

こういうことができて「改善文化」が出来上がってくる.


このコラムは、2009年11月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第124号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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モチベーション

 先週末は東莞和僑会の定例会「方針管理・目標管理勉強会」で東莞市黄江鎮の工場に出かけた。2018年の勉強会最終回は来年の経営計画の発表を行った。

午後は一般の参加者も交え会場となった工場を見学した。数ヶ月おきに工場を訪問しているが、そのたびに新たな発見をする素晴らしい工場だ。

今回の訪問では涙が出るほど感動した。

この工場では「気づき提案」制度があり、全従業員から「ここが不便だから直して欲しい」という気づきを上げることができる。提案された案件は、改善チームが必ず検討し、提案を採用するか見送るかを判断し提案者にフィードバックする。多くは作業手順書の誤記の指摘とか、通路の区画線が消えている、などの簡単なものだそうだが、中には予算をつけて本格的な改善活動とする例もあるという。

この制度に昨年は約24万件の提案があったそうだ。従業員500名ほどなので、年間一人平均480件ほどの気づき提案をしていることになる。驚くことに最も多く提案した人は21,000件の提案をしているという。
毎日100件ほど提案していることになる。
最多提案者には報奨金も出るそうだが、大した額ではない。毎日100件も提案を続けるモチベーションはどこになるのか興味を持った。同じ興味を持った人の質問に対し、直接作業員たちと仕事をしている監督職は自分たちのリーダのために気づき提案をたくさん出してくれるのだ、と答えた。

チームリーダーは、業績でチームが評価される。最も生産性の高いチームは3,000元の賞金が出るという。他にも気づき提案の件数も評価の対象となる。チームリーダのため、チームのためという利他の精神を発揮できる従業員が多くいるということだ。以前メルマガに書いたマズローの第六段階「自己超越欲求」だ。

マズロー第六段階欲求

もちろん提案しても何も変わらない様では提案制度そのものが機能しなくなる。
気づき提案全てに対し、改善チームの検討とそのフィードバックがあるというのも、提案件数をあげるモチベーションになっていると思う。しかしこれはネガティブな要因の排除に過ぎない。「チームリーダを喜ばせたい」というポジティブなモチベーションがあるのが大きいはずだ。

ポジティブなモチベーションが発揮されるのは、チームリーダとメンバー間の信頼関係に基づいた、貢献と感謝の相互依存があるからだ。


このコラムは、2018年12月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第764号に掲載した記事に加筆しました。

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従業員のモチベーション

 デズニーランドの学生アルバイトは、高いモチベーションを持っているのでゲストに最高の感動を与える事が出来る。
中国のハンセン病元患者支援団体「家(JIA)」の学生ボランティアは高いモチベーションを持っているので、ハンセン病元患者が最高の笑顔になる。

このように考えており、どうしたら高いモチベーションを彼らは持てるのか?と言う事を考え続けている。この秘密が分かれば、組織の力は激増するはずだ。

最近気がついた事がある。ひょっとしたら逆なのではないか?
ディズニーランドを訪れたゲストが最高の感動をするから、学生アルバイトのモチベーションがあがる。
ハンセン病元患者たちが最高の笑顔を見せるから、「家」学生ボランティアのモチベーションがあがる。

誰が言っていたのか忘れてしまったが、「幸せだから笑顔になるのではない。笑顔でいるから幸せになる」と言う言葉を反芻していて気がついた。

鶏と卵の問題のようではあるが、行動や体験がモチベーションを高めるというのはあり得る話だ。今までと少し違うアプローチが見えて来た様な気がする。


このコラムは、2015年11月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第451号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力より止めない力

 意味がわからないタイトルだが、備忘録にあったメモだ。

A6サイズのノートを常に携帯しており、思いついたことなど、全てこのノートに書き込んでいる。一冊になんでも書く。後でどこに書いたかわからなくなるのを防ぐためだ。

電子デバイスを使ってcloudに集約すれば良いのだが、街を歩いている時、喫茶店でコーヒーを飲んでいる時などに、ふと思い浮かんだアイディアや、目にした面白いことなどは、いちいち携帯を取り出し、Evernoteにメモすることになる。これが案外めんどくさい。

そんなわけでロディアNO.11の方眼メモを持ち歩いている。しかしこれは補給に困る。日本でまとめ買いをして中国に持ち帰っていたが、気軽に現地調達できないのが難点だ。そんなわけで安物のメモパッドをポケット、机上、ベットの脇など、そこいら中に置いてある。

「継続力よりやめない力」というメモの日付から判断すると、「ライフハック大全」に出てきた言葉のようだ。

「継続する力」を考えると、誰しも挫折感を味わった事があるだろう。
禁煙などが代表的な事例だと思う。禁煙を決意するが、1週間もしないうちにタバコに手を出してしまう。「禁・禁煙」などと言っていた頃もあるが、最近は「禁煙が趣味です」と言っている(笑)つまり禁煙をするためには、時々喫煙しなければならない。そんなわけで今タバコを吸っているのは禁煙するためです、というわけだ。

そのような継続力に欠ける私の心に「継続力よりやめない力」という言葉が刺さった。

個人的な継続力は脇に置いて、組織の継続力を考えると、「継続しようとするよりは、止めない方法を考える」という考え方は示唆に富んでいると思うがいかがだろうか?

5Sの継続が出来ないと悩むより、止めないと決めて、方法を考える方が楽だと思えるがいかがだろう。止めないと決めれば継続する方法を見つける事が出来るはずだ。


このコラムは、2018年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第713号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力

以前5Sの継続力についてコラム「継続力」を書いた。今回は少し違う視点で継続力について考えてみたい。

 事業を起業する事と、経営を継続する事は、異なる能力だと思う。
プロジェクトを起こす事と、プロジェクトで得たモノを継続する力も、異なる能力だ。

5Sを始めたけど継続出来ない。
改善提案を始めた時は皆提案書を書いてくれたが、最近は催促をしても集まらない。
お金をかけてCRMシステムを開発したけれど、営業職員がめんどくさがって使わない。
こんな状況の会社が多い様だ。よかれと思って始めたのに、従業員アンケートをとってみると、不満足要因になっている事すら有る。

うまくいっていない最大の理由は、経営者や経営幹部が率先垂範をしない事だろう。「5Sをやれー!」と経営者が号令をかけても、推進役の品証部長にまる投げでは上手く行くはずがない。経営者も経営幹部も一丸となって取り組まなければ上手く行かない。その上で推進役が機能する。

物理的な障害がある。
営業職員が定時後に帰社し、その上でCRMシステムを開いて報告書を入力する。従業員に頑張りを要求するシステムでは長続きしない。経営者や経営幹部がまず自分で使ってみて、不便な所を修正しなければ使われない。

従業員が、メリットを感じない。
こういう理由で、こうやらなければならない、と言う事を理解させるのは当たり前だ。更にココロで感じるメリットを理解させなければならない。
賞罰制度は効果はないとは言わないが、効果は継続しない。
自分の仕事が、誰かの役に立っている、自分の成長の役に立っていると実感出来る事が、継続のモチベーションとなる。

ある中国企業は、工場見学が有ると職場の班長が見学者に説明している。
見学者は皆経営者であり、自分の父親ほどの年齢だ。その見学者達が自分の説明を聞いて、しきりに感心して帰って行く。当然班長は、その気になり毎日5Sに励むことになる。この企業の経営者はそれが分かっている様で、積極的に工場見学を受け入れている。顧客だけでなく地方都市の役人まで来ると言う。

逆に、他の工場を見せる事も効果がある。
この時の秘訣は、相手の工場の良い所を探して報告する様に予め課題を与える事だ。ただ見学させても、課題が無ければ得られるモノはない。自分たちが優れていると言う思い込みで見学しても、相手のあら探ししかしなくなる。相手の良い点を探すことにより、自分たちは何が足りていないのか考えることになる。

なぜ継続出来ないのか、どうすれば継続意欲が上がるかが理解出来れば、継続は容易になる。


このコラムは、2015年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第410号に掲載した記事に加筆しました。

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継続力

 先週の経営相談室では、社内研修に関するご相談をご紹介した。
その後思い立って、『「やる気を出せ!」は言ってはいけない』を読み直した。
この本は行動科学の石田淳氏の著作で、部下育成について書かれた本だ。

『「やる気を出せ!」は言ってはいけない』石田淳(著)

石田淳氏とは以前香港でお目にかかったことがあり、以来何冊か著作を読ませていただいた。

「部下のモチベーションを上げたい」と言うリーダの願いは、どんな業種でも共通のモノだろう。しかしモチベーションとか、やる気と言うのは人の内側にあるモノであり、外から見ることができない。つまり色々な工夫を凝らし、部下のモチベーションを上げようとしても、その成果は計測不可能だ。
この様な状況では、努力の結果が目に見えず、改善すべき点も見つからない。

石田氏のマネジメント手法は、モチベーションが上がっているときの行動に焦点を当て、その行動が自発的に発生する回数をモチベーションの代用特性とする。これでモチベーションが計測可能となり、何をすればモチベーションが上がり、何をすればモチベーションが下がるかが分かる。

いわゆる計測とフィードバックによる改善のループが出来る訳だ。

彼の書籍の中に、好ましい行動が継続出来ない理由に関する記述がある。
このメルマガ読者様の参考になると思い、ご紹介したい。

継続することにより、好ましい結果が得られる行動は強化したい。
例えば、禁煙とかダイエット。仕事で言えばコツコツと毎日積み上げる様な作業だ。
これらの作業行動は、何度も積み上げる事に意味がある。しばしばおろそかになり継続する事が難しい。目標に対して行動が不足してしまうので「不足行動」と言う。

一方、過剰に発生する行動により、本来期待した行動が出来なくなってしまう行動を「過剰行動」と言う。ダイエット中に間食をする。仕事中にムダな休憩をしばしば取る。こういう行動が「過剰行動」に当たる。
好ましい結果を達成するためには、過剰行動を減らす必要がある。

従って目標を達成するためには、不足行動を増やし、過剰行動を減らせば良い。
モチベーションとかやる気と言う不可視のモノではなく、目に見える行動で評価出来ることになる。

しかし評価出来る様になっても、なぜ好ましい行動が不足し、なぜ好ましくない行動が過剰になるのかを知らなければ、改善出来ない。

不足行動は通常長期間の行動の積み上げで成果が見える。
禁煙やダイエットは一日で達成出来るモノではない。長い間継続して初めて効果が現れる。

一方過剰行動の方は、すぐに成果が得られる。
イライラしている時に1本煙草吸えばすぐに、好ましい精神状態になる。空腹の時に間食をすれば、満腹感と言う成果がすぐに手に入る。

つまり、
 不足行動により成果が現れる時期>過剰行動により成果が現れる時期
もしくは
 不足行動による短期メリット<過剰行動による短期メリット
と言う不等式が成立し、不足行動を起こさずに過剰行動を起こすことになる。

不足行動を起こす動機付けには「恐怖」もあり得る。
例えば、明日までにこの仕事をやらなければクビになる、と言う状況になれば必死になって仕事をするだろう。
医者に煙草をやめなければ明日死ぬと言われればすぐに禁煙出来るだろう。

しかし恐怖による動機付けが有効になる事は余りない。有効になったとしても効果は短期的だ。

ではどうすれば、不足行動を継続することができるのか?
上記の不等式が成り立たなくすれば良いのだ。

不足行動により得られる短期メリットを付加してやる。
又は過剰行動により得られる短期メリットを小さくしてしまう。
こういう工夫ならば出来ると思うがいかがだろうか?


このコラムは、2013年11月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第336号に掲載した記事に加筆しました。

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社内研修について

 先週は読者様から社内研修についてご相談のメールをいただいた。
いただいた相談にはメールで、私の考えをお伝えしたが、他の読者様にもシェアしたいと思う。

※F様のご相談
 メールマガジンかセミナーだったか覚えていませんが、以前林先生から教育は計画を立てて、計画通り実施しなさいと教わりました。以来毎年年初に教育計画を立てて実施する様にしています。ISOの品質計画に入れているので、年末のレビューで計画の実施状況を確認しています。

計画時には、達成目標と担当者を決めています。
具体的には、目標:現場監督者の研修を年に2回開催する。
責任部署:総務・人事部
としました。
昨年の目標は達成しましたが、効果の実感が余りありません。何処かやり方が間違っているのでしょうか?

仕事を、重要・非重要、緊急・非緊急の2軸で分類し、4つの象限に分ける。
それぞれの象限ごとに、対応の仕方を変える。教育は「重要、非緊急」の象限となり、計画を立てその通りに実行する。と言う考え方を何度かお話したことがある。
重要だが緊急ではない仕事は、しばしば延期することになり、結局やらずに終わってしまう。と言う事が多いのではないだろうか。教育はその典型だ。忙しいから時間がない、などの理由により延期される。

これを覚えていてくださり、実施されたのはすばらしいと思う。

しかし「年に2回研修をする」と言うのは目標として適切ではない。
教育の目的は、知識を与える事、意欲を向上させる事、その結果対象者の行動が変わる事だ。知識や意欲が高まっても行動が伴わなければ、何も変化は起きない。その結果教育の成果を実感出来ないことになる。
目的に合わせて目標を設定しなくてはならない。

従って、教育の成果目標は研修の回数ではなく、受講者の能力向上、行動の変容としなければならない。

計画には、誰に何を教える、その結果能力を何処まで高める。と言う内容が必要となる。そのために各自に要求される能力と現状能力を知る必要がある。個人ごとに「スキルマップ」を作る。「スキルマップ」とは余り適切な名前ではないかもしれないが、その職位に要求される能力と、現有レベルを個人ごとに一覧表にした物だ。

これがOJTを含めた教育計画の大元になる。
先輩の仕事ぶりを見せておけばOJTになると考えるのは、あまりに楽観的だ。

例えば品質部門のメンバーに要求する能力の一つとして「パレート図」を作る、と言う能力を考えよう。
要求されるの応力のレベルは、

  1. 上位者の指導によりパレート図を作図出来る。
  2. 自主的にパレート図を作図し分析が出来る。
  3. パレート図の作成と分析方法を指導出来る。

の三段階に分けることができる。
このレベルは、具体的な仕事を任せることにより確認出来る。

この様なスキルマップを作成することにより、OJTにより教育する内容、研修により教育する内容を分け、研修の計画を立てる。
この計画を立てると、既に能力のある者に集合研修を受けさせると言う無駄もなくなる。
スキルマップを公開することにより、メンバー各自が何を学べば良いか理解出来る。メンバー自身が学習に積極性を持つと言う効果もある。

研修の回数とか研修への参加人数などを研修成果の目標としてしまうと、研修担当者は、研修業者と相談し、余り効果が実感出来ない研修を開催する事になってしまう。その結果研修受講者にも不満が残り、ただ研修業者を喜ばせることになる(笑)


このコラムは、2013年11月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第335号に掲載した記事に加筆しました。

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利己と利他

 「利己」とは自分の利を中心に物事を考えたり,行動する事だ.
一方「利他」とは他人の利を先に考えたり,行動する事だ.

利己と利他を公式で表現すると,以下の様になる.
利己:自分が支払うコスト<相手から自分が受け取る利益
利他:相手が支払うコスト<自分が相手に与える利益

つまり利己とは,相手から受け取る利益よりも自分が支払うコストを減らそうと言う考え方や行動である.自己努力により,相手から受け取る利益を一定のまま,自分が支払うコストを減らす努力は,利己とは言わない.
自分が得る利益(対価ーコスト)を増やすために,相手が受け取る利益を減らす事が利己だ.

利己の人は,相手から利益を奪い取る事を優先して考える.

利他とは,相手が受け取る利益よりも自分が支払うコストが大きくなってもかまわないと言う考え方や行動だ.むしろ相手が利益を受け取れるのならば,自ら進んで自分のコストを支払う,と言う人が利他の人だ.

つまり利他の人は,相手に利益を与える事を優先して考える.

どちらが成功するかと言えば,当然利己の人だ.
利他の方が聞こえは良いが,自分の利益を考慮せずに相手に利益を提供しようと言うのは,ボランティアでしかない.崇高な生き方かもしれないが,ビジネスとしては成功出来ない.

こう考えておられる方が大半だろう.二宮尊徳翁も「経済なき道徳は寝言である」と言っておられる.あなたは,いかがだろうか?

短期的な視野で物事を考えれば,利他の人の利益を利己の人が吸い取る構造だ.
しかし長期的な視野で考えると,利己の成功は短期的であり,大成功するのは利他だと思う.

利己のビジネスは,狩猟型のビジネスであり次々と狩り場(新規顧客)を開発する事が必要だ.

一方利他のビジネスは,農耕型のビジネスであり顧客や市場を育成する.その結果ロイヤリティの高い顧客が増え,顧客からの紹介で更に顧客が増える.

利他とはただ単に,相手に献身的な貢献をする事ではない.
相手に献身的な貢献をすることにより,利を得る事だ.

貢献(相手が受け取る利益)が目的であり利は結果だ.
これを間違えて,利を目的として貢献をしようとするから,利己になる.

営業経験がない私が独立した時に決意したのは「利他」を押し通す事だ.

無料工場診断に出かけると,そこまで教えちゃうの?と同行者があきれる程のノウハウを教えてしまう.訪問先の経営者からは,目から鱗でしたと感謝をいただく.
ある工場では,訪問して1週間後に,ここまで改善出来ましたと,写真入りでレポートを送って来てくれた.

同業のコンサル会社を何社も無料で指導している(時々晩ご飯をご馳走して貰っているが・笑)

このようにして集めた感謝が,後に収入・利益になるはずである.


このコラムは、2013年7月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第320号に掲載した記事です。

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