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業務のマニュアル化と業務改革

 今週のメルマガ「ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革」で、ノリタケの仕事改革・間接業務のマニュアル化による業務改革についてコラムを書いた。本日は、業務のマニュアル化と業務改革について考えてみたい。これは間接業務、直接業務を問わず共通の課題だ。

業務マニュアルを作るためには、まず標準作業を決める。その上で作業者に理解しやすい様に作業手順を文章化する。文章化には写真、イラスト、図表等が含まれる。

ちょっと余談だが、業務マニュアルで標準作業を決めても、作業は標準化されない。なぜならば教え方が標準化してないからだ。この点にフォーカスをするのが、TWI-JI(企業内訓練・仕事の教え方)だ。
TWI-JIでは、標準作業を分解し教え方のシナリオを作る方法で教え方を標準化している。

業務マニュアルの作成にしても、TWIの作業分解にしても、ただ標準作業を記述するだけではない。標準作業を記述する際に、本当にこの作業は必要なのか?より効率の良い方法はないか?と言う視点で作業を見直しながら作るべきだ。つまり業務マニュアル作成の過程で、業務改善をするつもりで取り組むのだ。

もう一つ重要な事がある。標準やマニュアルは作ったその日から改訂を考える。標準やマニュアルは、今日ベストな方法を決めただけだ。明日もそれがベストとは限らない。標準やマニュアルを放置すれば、作ったその日から陳腐化が始まる。

無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」は現在13分冊2,000ページある。
ムジグラムは、現場からの要求で毎月20ページ程改訂されている。毎月1%は改善が進んでいると言う事だ。

つまり業務マニュアルを決めるだけではなく、業務改善を継続する。

まずは標準作業を決める。作業の「形」を作ると言う事だ。業務マニュアルが「形」を表現する。これが無いのを「形無し」という。形があるから、改善すべき所が見える。そして業務マニュアルが改訂される。この螺旋上昇循環を作る事が業務改革だ。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革

 ノリタケカンパニーリミテドは営業、管理部門などで担当ごとの業務を
マニュアル化する。家族の急病や子どもの行事で特定の社員が休んでも、いつ
でも他の社員が交代できる体制を整える。今後、育児だけでなく、高齢化を
背景に家族の介護が必要になる社員も増える見込みだ。ホワイトカラーの
「多能工化」を進めることで働き方改革を加速する。

記事全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガで、何度も「働き方改革」が「残業時間の上限規制」問題にすり替えられている、と苦言を呈して来た。日経の記事に有るノリタケの取り組みが本来の意味の「働き方改革」に向かう取り組みだと思っている。

記事にはノリタケの取り組みを次の様に紹介している。

  • 複数の社員で対応可能にする。
  • 営業・管理部門の職員が休みやすくする。
  • 社員の働きやすさを推進する。

その結果残業時間が短縮する事になる。残業時間の上限規制や残業時間短縮は働き方改革の目的でも目標でもない。本来の目的は、仕事の質と効率を上げ業績に貢献する事であり、目標はその目的に沿った指標となるべきだ。働き方改革の結果として残業時間短縮が実現するのだ。

ホワイトカラーの仕事は、能力が必要でありブルーカラーの様に簡単に多能工化する事は出来ない、と考えるのはホワイトカラーの思い上がりだ。製造現場で働く職人の仕事を習い覚える方がよほど難しいはずだ。

「事務処理仕事をマニュアル化し誰でも出来る様にする」と言うテーマでQCC活動をしたサークルが昔有った。これは子供が熱を出しても休めない、という切実な問題を解決したかった女性事務員が一人で取り組んだQCC活動だ。「サークル活動」と言う名前の通り、複数のメンバーで取り組む活動が本来のQCC活動である。それにもかかわらず、たった一人の活動が認められてQCサークル誌に取り上げられていた。
彼女は、課題を解決する過程で、参照しなければならない資料を減らすなどの改善を実施し、業務の効率化も同時に達成している。この活動の結果、彼女は子供の誕生日に休暇が取れる様になった。

こういう事が「働き方改革」だと思っている。

以前メルマガで無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」をご紹介した。
第383号「無印良品のムジグラム」

この様なマニュアルがあれば、人財の流動化は怖くはない。新人でもすぐに作業に習熟出来る。必要な人財を必要な部署に回す事が出来る様になる。

従業員に取っても、職場で「余人を持って換えられない存在」と言う評価は嬉しいかも知れない。しかしそれは該当職場に「飼い殺し」にされていると言う事に他ならない。「余人も持って換えられない」と言う理由で、人生に訪れる何度かのチャンスをつかみ損ねているのだ。

本当に部下の事を考えるのであれば、「余人も持って換えられない」と言う耳触りの良い言葉ではなく、ジョブローテーションに出して成長を促すべきだ。

これが本当の意味の「働き方改革」であり、その結果人財は活性化し、企業の業績は良くなる。「残業時間の短縮」はその結果現れる現象に過ぎない。


このコラムは、2017年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第553号に掲載した記事です。

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中国華南の産業構造変化

 いささか大仰なタイトルとなってしまったが,お許しいただきたい.
私は経済評論家でもないし,マーケットウォッチャーでもない.マクロに市場をみて中国華南の産業構造変化を語る資格も,データも持ち合わせていない.自分の身の回りをミクロに見て,中国華南で産業構造変化が起こっていると感じている.

従来電気電子製品のお客様が多かったが、新規のお客様の業種は自動車産業が多くなっている.長期契約をいただいているお客様は,全部自動車関連部品メーカである.
直近に工場無料診断で訪問したお客様2社は2社とも,自動車産業向けに製品をシフトしているところだ.

中国華南の産業構造は,PCなどの電気電子製品が牽引して来たが,現在は自動車産業にシフトし始めているようだ.

自動車産業は非常に裾野が広い産業だ.
完成車メーカを頂点にして,多くの部品メーカが完成車メーカの生産を支えている.業種も電子部品,金属加工,プラスチック部品,ガラス部品,配線部品などなど多岐に渡る.

多くのメーカは電気電子製品向けの部品生産から,自動車部品の生産にシフトしようとしている.そのようなメーカを訪問して感じるのは,まずは品質要求の違いに戸惑っておられると言うことだ.

例えば電子部品業界では,納入品の不良率は20ppm以下であれば,とりあえず合格点がいただける.しかし自動車部品の世界では,納入不良率を語ること自体がナンセンスとなる.

人の命がかかる部品だから,不良はゼロが当たり前と言う考え方だ.
そうはいっても,ウチの部品は,走行系にも,ブレーキ系にも関係ないからと言う声も聞こえるが,フロアマットが原因で市場回収が発生する業界だ.回収はフロアマットの品質問題が原因ではないだろうが,どんな部品であろうと不良ゼロが当たり前と言うことになる.

そのような業界では,不良発生の予防保全が重要となる.
従って,自動車関連メーカの採用監査や新製品立ち上げの工場監査は厳格なモノとなる.この様な工場監査での指摘は,監査官の意図を正確に理解しないと,自分の首を絞めることになりかねない.

受注欲しさに,何でも対応しますと口先で約束して,不良を出してしまう.指摘事項の意図を理解せずに,検査工程などをどんどん追加して,利益が出なくなる.

いずれも発注側・受注側にとって不幸な結果だ.

厳しい納期要求に応えるために,完成品倉庫を拡大する.中間在庫を大量に抱える.見かけの効率を追求し設備を専用化し,稼働率を下げてしまう.
この様な目に見えないロスや潜在的品質不良を抱えている工場もよく見る.こういう状況に陥ると,受注はあるが利益が出ない,キャッシュフローが回らないと言う,経営的に深刻な状況になる.

こういう状況が,我々コンサルの出番だと思っている.


このコラムは、2012年10月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

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続・まず信頼する事

 先週のコラム「まず信頼する事」にお二人の読者様からメッセージをいただいた。今週は続編を書いてみる。

松下幸之助は、従業員に対する「信頼」が重要だと説いた。
些細な言葉上の問題だが、私は従業員に対する「信用」が重要だと思っている。

「信頼」という言葉を分解してみると、「信じて頼る」となる。一方「信用」は、「信じて用いる」だ。つまり従業員や部下を信じて頼ってしまうのではなく、従業員や部下を信じて用いると言う事だ。

たびたびご紹介している私の工場経営の師匠・原田師は「犬の散歩」といっていた。犬を散歩に連れ出すと、好奇心に任せてあちらこちらと歩き回る。飼い主は、リードを持って犬が行きたい方向に任せ、後ろからついて行く。危ない場面でリードをちょっと引っ張ってやれば良い、と言う意味だ。

犬はどうも不当な評価を受けている様で、「○○の犬」とか「犬死に」などとネガティブな意味の表現で用いられる事が多い。「犬の様に働く」と言うと、主人の言いつけに従い盲目的に働くと言うニュアンスがある。しかし犬は好奇心を持ち、色々な事を調べながら散歩をしている。そしてそれを大いに楽しんでいる。仕事もこのように取り組めば、成果を上げる事が出来、仕事を通して成長する事が出来るはずだ。

極論すれば、従業員や部下に失敗させ、そこから学ばせる事が上司の役割だ。
しかし致命的な失敗をさせてしまうと、部下の心が折れてしまったり、会社に大きな損失を与える事になる。そう言う局面で後ろからリードをそっと引いてやる。これが「犬の散歩」の意味だ。

それを可能にするのは、上司が部下を信じて用いる事だ。
部下を信じる事が出来ず、失敗を恐れれば、全てを上司自身で仕事をせざるを得ないだろう。部下が数人しかいない時はそれでも何とかなる。しかし職位が上がり、部下が増えれば不可能になる。

部下を信用出来るのは、常より部下を育成しその能力を高めているからだ。育成とは座学ではなく、仕事を与え成果を出させる事だ。この過程で部下は、能力と自信を高める。部下が失敗するかも知れないと心配していれば、この境地には到達出来ない。

しかしむやみに部下を信用する事は出来ない。部下を育成出来ていると言う自分に対する自信がなければならない。つまり部下を信用すると言う事は、自分自身を信じる事だ。

従業員や部下を信用し、仕事を任せ能力と自信を高める。その先に「信頼」の境地がある、と考えている。


このコラムは、2017年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第539号に掲載した記事です。

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ある社長の悩み・離職率

 仕事柄経営者の方とお話をさせていただく事が多い.
この方の悩みは作業員の離職である.作業員の離職率は年率で50%ほどに達している.

離職率対策として,近隣の工場より高額の給与を出している.また福利厚生も格段に良い.宿舎は広く一部屋に4人,二段ベットではない.食事はトレーに乗せたぶっ掛け飯ではなく,丸テーブルに座ってちょっとしたレストラン並の食事が出る.年に一回従業員を慰安旅行に連れて行っている.

ここまでしても離職率が下がらない.自分にはもう打つ手が無いというのだ.離職する作業員の理由は「仕事がつまらない」ということらしい.

いくら給与や福利を良くしても仕事に対するモチベーションが上がらなければ,辞めてしまう作業者はいるだろう.ひところのように,お金を稼いで田舎の弟,妹を学校に通わせなければならない,家族の生活を支えなければならないという状況が少なくなってきている.最近は工員さんでも立派な携帯電話を持っている時代だ.

仕事のモチベーションは仕事で上げなければならない.
仕事が楽しくなるのは,仕事を達成し上司や仲間から認められる,仕事を通して自己成長の実感がある,という状況になったときだろう.

既に中国は豊かになってきており,給与をたくさん出して「安全・安定の欲求」を満たしただけでは不十分になってきている.
「人から認められる」「自己実現」というより高度な欲求を満たしてあげなければ仕事に対するモチベーションは維持できないだろう.

従業員の離職に関してはこちらもご参照ください。
高離職率
離職率と多能工化のジレンマ
作業員の離職率


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第31号に掲載した記事に加筆しました。

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記憶より記録

 先週のメルマガでは,従業員が学習したことを記録することにより,組織の知恵を蓄積する企業文化について書いた.

今週は,上司,指導者の記録について触れる.

従業員のモチベーションに大きな影響を持つ因子に,公平な評価がある.
自分に対する評価に不公平感を感じると,モチベーションが下がり,逆に自分が正しく評価されていると感じると,モチベーションは上がる.

そのため評価を公平にする,公平感があるようにしておくことは重要である.
例えば,達成した業績が数値で計測可能な場合は,公平感を持たすのは簡単だ.また能力も数値計測が可能ならば,公平に評価が出来る.

しかし数値評価が出来ない場合の方が多いだろう.
例えば,「協調性」という能力をどのように公平に測定したらよいだろうか.
あいつは協調性がある;◎
あいつはちょっと協調性に欠ける;△
などという評価をしていたら,評価者ごとに違う結果が出てしまう.なおかつその結果の説明性が,非常に乏しい.これでは公平な評価とは言えない.

つまり公平な評価とは,

  1. 評価者が変わっても,評価結果の誤差が納得できる範囲にある.
  2. 評価結果に対する説明が可能.

評価の再現性と説明性が保証されていれば,公平な評価と感じるだろう.

では実際に「協調性」に対してどう評価したらよいか.
協調性を発揮した場合とられる行動をリストアップする.逆に協調性が不足している場合にとられる行動をリストアップする.

そして普段の行動から,プラス行動,マイナス行動を評価すれば,評価者に依存しない評価の再現性が保てるであろう.そして記憶による評価ではなく,評価対象者の行動を記録しておくことにより,説明性が確保できる.

つまり,上司は部下の行動を記憶で評価するのではなく記録で評価しなければならない.
これは言葉で言うほど簡単なことではない.しかし上司の評価により,部下の収入・生活が変わる.部下に対する評価は真剣勝負でなければならない.


このコラムは、2010年4月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第147号に掲載した記事に加筆しました。

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記録する文化

 中国の工場で指導をしていてしばしば感じるのは,一部の人間に指導した内容がなかなか全体に伝わらないということだ.これでは指導が,個人の知恵になるだけで,組織の知恵にはならない.

個人の知恵(暗黙智)を組織の形式智とし,それを個人に対して形式智として再教育できるようにしておく.こういう循環を作っておくことが,成長する組織の暗黙智だ.

そのためには,指導した内容を記録として残しす.
例えば先週の「作業に計画性を与える」に書いたような指導をいちいち記録し蓄積しておく.

倉庫で指導した内容を,オフィスに帰って記録する.これは忙しい指導者にとってなかなか出来ることではない.これを自動化する仕組みを作れば良いのだ.

職員全員に,受けた指導を記録させる.その記録を公開,蓄積してゆけば,指導を受けた者が記録をしてゆくことになる.

これをうまく機能させるためには,従業員に対し記録の意義をしっかり理解させる必要がある.
「組織の成長のため」という管理者目線で意義を理解させようと思っても難しい.なぜなら従業員には自分のメリットが感じられないからだ.

従業員目線で教えなければならない.記録するのは自己成長のため.
教えられたこと(インプット)は実践する,人に教えること(アウトプット)によって初めて,知識は能力に変換される.こういうことを,事前にしっかり理解させておく.

そして記録をたくさん残した者が,評価されるようにしておく.言ってみれば,たくさん叱られた者が成長度合いが大きいという共通認識を作る.

こういう記録する文化を作り上げれば,組織の成長速度は加速する.

「原田指導語録」はこうした記録する文化から生まれたものだ.原田氏の秘書が,現場での指導を記録し,まとめたものが「原田指導語録」だ.この記録を読むと,原田氏の指導方法だけではなく,経営哲学を理解できる.
原田氏が世を去られた後も,次の世代がその考えを継承することが出来る.


このコラムは、2010年3月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第146号に掲載した記事に加筆しました。

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続・作業に計画性を与える

 前回は作業員も,与えられた作業を計画することにより,自主性を発揮できるという話を書いた.

当然間接職員も同じだ.作業の手順に計画性を持たせるだけではなく,時間も計画性を与える.

仕事や作業を,緊急性と重要度で層別してみる.
領域1.緊急度,重要度とも高い.   (例)顧客クレーム
領域2.緊急度は低いが,重要度が高い.(例)教育
領域3.緊急度は高いが,重要度が低い.(例)電話のコール
領域4.緊急度,重要度とも低い.   (例)業者との無駄な世間話

領域ごとに時間の使い方を計画する.
領域1.有無を言わさずスピードを上げてやる.
領域2.計画を立てて,計画通りに進める.
領域3.止めても問題ないように工夫する.
領域4.止める.

領域4を全てやめて良いというわけではない.例に揚げた業者との世間話は,世間話により信頼関係を築き,重要な情報を手に入れることもありうる.きちんと目的・計画を持ってやる.無目的に世間話をしていても,重要な情報にアンテナが反応しないだろう.

この様に時間の使い方をきちんと計画することにより,時間の奴隷から,時間の支配者に変わることが出来る.


このコラムは、2010年3月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第146号に掲載した記事に加筆しました。

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高離職率

 先週の雑感「離職率と多能工化のジレンマ」に読者様からメッセージをいただいた。

※F様のメッセージ
 深セン市にある弊社は、日系の電子部品生産会社で、従業員1100人程度です が、作業員の離職率の高さ(定着率の低さ)が喫緊の課題です。今回の離職率に関する雑感は、同感です。

F様の工場では試用期間(3ヶ月)以内に辞めて行く従業員が多いそうだ。離職率が高いと言ってもそれほど高い訳ではない。しかし従業員数が多いので、毎月数十人採用し続けなければならない。
先週ご紹介した中国企業は、離職率が更に一桁高い(苦笑)今まで色々な工場を見て来た私にとっても、衝撃の離職率だ。

ご紹介した中国企業の場合は、1週間以内に辞める者が多いそうだ。
彼ら自身の分析によると、募集時に提示している給与に引かれて応募して来る者が多くあるが、その給与が毎日3時間残業込みの金額である事が、1週間で分かり、辞めて行く。と言う事だそうだ。

では、一人当たりの生産性を上げてより多くの給与を支払える様にする、と考えれば良いのだが、先週のコラムに書いた様にあまりに離職率が高く作業員の教育訓練の暇がない。そのため作業を単純化し大量の人員で生産。離職率は改善されず、悪循環のままと言う状況だ。

離職率の高い企業には共通点があると感じている。
新しく入って来た従業員の「居場所」がないのだ。居場所とは抽象的な言い方だが、安心して居られる場所と言う意味だ。組織や一緒に働く者が自分に関心を持ってくれている、自分の存在を認めてくれる、と言う感覚の事だ。

デール・カーネギーは「人を動かす」の中で、組織や仲間に必要とされている、組織や仲間に対して貢献出来ていると感じれば、人はモチベーションが上がると言っている。

参考:「人を動かす」デール・カーネギー著

工場経営の師匠原田則夫師は、新人採用時に1週間かけて新人教育をしていた。
新人研修の講師は二年目の工員がボランティアで担当する。

新人研修の後、職場に配属されると3ヶ月は班長と交換日記を義務付けられる。交換日記制度で、新しい環境に対する不安を取り除き、企業文化に慣れさせることができる。日記で新人の心の変化が読み取れるので、班長から適時適切な対応が可能となり、新人の離職が防げる。新人は、班長から自分に対し関心を持ってもらっている、組織から守られていると言う感覚を持つので、辞めようとは思わない。それでも辞めようと思う人は、組織文化に合わないので早めに辞めてもらった方が良い、と言うことになる。

新人教育の教師役を2年生の工員が担当すると言う所にも秘訣がある。教える為に勉強するばかりではなく、教えると言う行為が自分に自信を与える。組織や、新人に対して貢献出来ていると言う実感を持つ事になる。

教えあい、学びあう。互いに尊重する。そんな風土・文化があれば、居心地が良い組織になると思う。その結果離職率も下がるはずだ。


このコラムは、2017年7月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第535号に掲載した記事に加筆しました。

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離職率と多能工化のジレンマ

 最近「無料工場診断」で携帯電話を生産している中国企業を訪問した。携帯電話生産の中国企業を訪問指導するのはこれで2社目となる。

この2社に共通しているのは、大勢の作業員を工程に投入するスタイルの生産方式をとっている事だ。そして高離職率と言う共通の悩みを持っておられる。

生産に多人数を投入すれば一人当たりの作業は少なくなり、短期間で作業員を作業習熟させる事が出来る。離職率が高くても、新規に雇用した作業員を短期で戦力化出来ると言うメリットがある。

しかし作業員が多く離職率も高いので、採用が難しくなる。
少人数で生産出来る方式にすれば採用は楽になる。
少人数で生産するためには、一人当たりの作業を増やさねばならない。更に多能工化する事により少人数生産で生産効率が上がる。
しかしここで、離職率の高さが問題となる。作業員が作業習熟する前に離職。多能工育成など不可能な状態だ。

TWI(企業内職能訓練)により、作業習熟化の効率は上がる。副次効果として離職率の低下も期待出来る。実際TWIを導入した企業で離職率が下がるという副次効果が出ている。
しかしこの企業の様に、月次離職率を年間離職率と間違えるほど離職率が高い職場でも有効かどうかはちょっと不安だ(苦笑)

先ずは組織と従業員の関係性を改善する必要があると判断した。
この企業には、先ず行動変容研修の中国人コンサルを送り込んだ。

これで現場監督者と経営層の意識改革が出来れば私たちの出番となる。


このコラムは、2017年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事に加筆しました。

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