品質保証」カテゴリーアーカイブ

QCC活動の原点

QCC活動の原点は、品質管理(QC)を職場単位で勉強する勉強会でした。

第二次大戦後、日本の製造業に対しデミング博士が品質管理を教えてくれました。その理論を勉強するのがQCC活動の始まりでした。
勉強会から職場の品質問題を解決する実践活動に変化し、さらにその範囲が製造現場から間接職場に広がり、製造業からサービス業にまで拡大しています。

この日本発の活動は世界に拡大し、TQC(Total Quality Control)、TQM(Total Quality Managiment)と進化しています。

ヒューレット・パッカード社のTQM、GE社のシックスシグマも日本のQC活動から派生しているのです。
横河ヒューレット・パッカード(YHP)が1970年代にQC活動を導入し成果を上げ、それを米国本社にも展開しました。導入時に10年で市場故障1/10の目標を掲げたQCC活動により、無償修理コストは10億米ドル(全不良品質コストではその3倍以上)の節約、在庫資産で5億米ドルの節約という成果を上げています。
参考:YHP初代社長・笹岡さんの論文

シックスシグマはモトローラから始まっていますが、GEにシックスシグマが根付いたのはGEの医療機器事業部門と横河電機の合弁会社GE横河メディカルシステムのQCC活動が貢献しています。

私自身は横河電機でQCC活動を学び、後半は品質保証部門の責任者として事業部内でのQCC活動推進・指導の立場にありました。独立して14年目となりましたが、製造現場の品質改善、生産改善のお手伝いの原点はQCC活動にあります。

改善リーダの能力と意欲を向上することにより、顧客の業績に貢献する。リーダの能力・意欲向上は業績に対して累積的かつ波及的に貢献するはずです。QCC道場はそのような理想状態を目指して始めました。

2017年から第一期、第二期QCC道場を開催しました。
2018年4月から第三期QCC道場を開催します。

QCC道場詳細

第二期の活動の様子

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続・究極を目指す

 メールマガジン81号の「究極を目指す」に対して読者様からご投稿をいただいた.
「究極を目指す」

※Z様のメッセージ
「究極を目指す」ことこそ日本の製造業の強さの秘密ではないかと思います。

ひとつの上を求める姿勢が、設計開発から現場まで貫通していたからこそ、日進月歩の顧客要求に応えられたのではないかと思います。

但しそれが日本製造業の光だとしたら影もあるわけです。
真の顧客要求から乖離した技術者、技能者のマスターベーションの結果が過剰品質ではないでしょうか。

以前し尿処理プラントの建設に携わっていたことがあります。し尿処理後の排水は河川に放流しますが、その排水はメーカの技術競争の結果、放流河川の水質より遥かに浄化されたものでした。(設置市町村の長が、排水をコップに汲み飲むパフォーマンスまでしたとか、しないとか。) 
排水はきれいであることにこしたことないのでしょうが、明らかにオーバースペックです。
そのための労力や財源は、河川の水質そのものを良くすることに廻すべきです。

日本製の高精度のNC旋盤でしか出しえない寸法公差が図面に記載されている部品。しかし、その精度は本当に製品の機能・性能の向上に寄与するのか?
中国の年季の入った汎用旋盤で出せる精度で十分では?と、思うこと度々あります。

今の短期的収益性を強く求められる産業界の顧客が、要求の機能、性能、耐久性の次に求めるのは、ひとつ上の機能、性能、耐久性ではなく、安さなのではないでしょうか。

ある意味で「ものづくり」の楽しさが欠落してしまった時代なのでしょうか。

Z様,いつもご投稿ありがとうございます.
中国で戦略的な購買活動をされているZ様らしいご意見だ.

このご意見の中には2つのご指摘があると思う.

一つは,顧客・市場の要求を無視したモノ造り.もうひとつは,現場のモノ造りを無視した設計.

  • 顧客・市場の要求を無視したモノ造り:
    商品開発のときに市場の要求を無視しては,売れるモノは造れない.

    しかし市場がローコストを要求しているときに,あえてそれに逆らうモノ造りをすると言うこともありだと思っている.

    顧客が想像できなかった魅力的品質を作り出し新しい市場を作る,と言うことだ.こうすれば価格競争には巻き込まれない.

    こんな事例を紹介すればご理解いただけるだろうか.

    例1.iPodはハードウェアの向こう側に,ネットでの音楽販売という新しいビジネスモデルを作った.
    例2.iPhoneはユーザの想像を超えた使い勝手を実現し,カスタマー・デライトを実現した.
    例3.秋葉オタク向けフィギュアを生産している玩具工場では,あえて手作業のコストをかけて大量産品にない質感で勝負している.

  • 現場のモノ造りを無視した設計:
    これはエンジニアのマスターベーションと言うよりは,無知だと言いきってしまってよいだろう.

    公差をワンランク上げるのにどういう作業が必要になって,どれだけコストがかかるか,エンジニアは現場で物事を考えなければならない.
    商品開発は市場現場に軸足を置かねばならない様に,製品設計は製造現場に軸足を置かねばならない.


このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事です。

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のぞみ34号トラブル

 メルマガ第607号(2017年12月27日配信)でのぞみ34号の車両台車に亀裂が入るという重大インシデントについて考えた。

「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」

本件重大インシデントに対する再発防止策をJR西日本は1月に発表している。
先週末有識者会議は対策の有効性検証結果を発表している。
明らかな兆候がありながら、運行を止められなかった人的要因を以下のように分析している。

  • 担当社員、車掌らのコミュニケーション不足。
  • 意識や価値観を定着させるためには経営トップ層が継続的に発信し続けていく必要がある。
  • トップの安全への関与が弱い。もっと安全にコミットすべき。
  • 運行中に異常事象が発生した場合「列車を迷わず止める」と対処ルールを変更した点は即効性のある対策だが、全ての事象に対応できるものではない。
  • 社員 の力量を高める取り組みとともに、ルールの適時見直しが必要。

有識者会議は以下の提言をしている。

  1. 新幹線部門への物的・人的リソースの投入
  2. 未知のリスクに対する対応力
  3. 車両保守担当社員や指令員など新幹線の安全運行にかかわる社員のスキルアップ
  4. 新幹線車両の異常に対して感知可能な技術的手段の開発・導入
  5. 車両等に関する事項

まだ発生していない未知のリスクは、失敗から学ぶことはできない。
しかし未知のリスク、潜在リスクを洗い出すことはできるはずだ。他社の失敗事例、異業種の失敗事例から学ぶことができる。
失敗事例だけでなく、成功事例の成功要因からも学ぶことができるはずだ。

異なる経験年数の職員、異なる職場の職員がチームになり上記のような議題で定期的に勉強会をする。こういう取り組みが、縦横のコミュニケーションの量と質を上げ、組織が活性化するはずだ。

クラック発生の本質原因に関しては、台車の側バリと呼ばれる構造体に問題があったようだ。
平面度が必要な部分が溶接で接合されている。現場で組み立てる際に平面度を出すために研磨する必要がある。今回の事故車両は過度に研磨されており、強度不足でクラックが入ったようだ。

私は機構設計に関しては素人だが、これは設計不良と思える。
平面度に影響が無い面で溶接接合をすべきだ。
現行の車両を速やかに全数検査し、定期点検項目に追加しなければ同様の事故が再発するだろう。


このコラムは、2018年4月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第649号に掲載した記事に加筆したものです。

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続々・ナゼナゼ5回

 前回予告どおり「ナゼナゼ5回」に関する読者様からのご投稿を紹介したい.

前回の記事メルマガ第80号「ナゼナゼ5回」

80号の感想ですが、ちょっと「ものづくり」からは、外れてしまいますがお付き合いください。
「なぜ、なぜ・・・・」と考えることは、どんな場合でも大切です。

「北の国から」と言うテレビドラマはご存知でしょうか?その中で、こんなシーンがありました。
故郷を離れ東京で自動車修理工場に勤める少年が、ふとしたことから、元々反感を抱いていた先輩を、バールで傷つけてしまう。
 
警察の身元引受人となった堅いサラリーマンの叔父は、「人を傷つけることは、どんな理由があっても許されない。」と少年を叱責する。少年は東京で行き場を失い帰郷する。罪を犯し帰郷した息子に父は、「人を傷つけるほどの怒りは、何だったのか?」とだけ尋ねる。少年は泣きながら、自分の大切な1万円札を盗まれ、使われてしまったこと、それは上京するときに同乗を頼んだ父がトラック運転手に謝礼として渡した1万円札で、その運転手はトラックを降りる少年に父親の手垢のついた1万円札を、父親の愛情だと言ってそのまま少年に差し出した、まさにその1万円札だったことを話すと言うものでした。

結果を見るのでなくその先にあるものを見ようとしなくては、道は拓けないと言うことですね。

Z様のメッセージ

Z様ありがとうございます.

「北の国から」は私も好きな番組で良く見ていた.ご紹介いただいたエピソードはこんな風に感じた.
結果(成果)だけで人を評価するのではなく,そのプロセスをちゃんと評価してやらねばならない.
ひところ流行った「成果主義」があまりに成果に偏りすぎたために現場のモチベーションが下がってしまうと言う逆効果があったと考えている.長期的に見ればちゃんとプロセスも見て,成長を評価してやったほうがより現場が活性化すると考えている.

もう一件読者様からのご投稿を紹介したい.

今回紹介していただいた読者様からの内容も興味深く拝見しました。なぜなぜを5回しなさいというよりも、いわゆるQCの7つ道具の特性要因図を教えた方が、最終的には作業員の身にもつくし、いいのではないかと思います(私の経験上)。

H様のメッセージ

H様,いつもありがとうございます.

特性要因図は視覚的に問題を整理するのに優れたツールだと思っている.
特性要因図を見ながら考えると,次々と要因が思い浮かぶ効果がある.
特にチームで要因分析をする時に効果が高い.「ナゼナゼ5回」をやる時に都度特性要因図を描くのが良いだろう.つまり次のナゼが出るたびにそれを魚の頭にして特性要因図を描くのだ.

これはいかにもめんどくさそうに見えるが,チームで解析をする時にメンバーの力量を上げるのに役に立つ.


このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・ナゼナゼ5回

 メールマガジン第80号で「ナゼナゼ5回」を取り上げた。

読者様からこんなメールをいただいた.

なぜ5は、日本の部品ベンダで問題が起こった場合、考えて提出してもらっています。
しかし、先に真因が頭の中にあり、それに結びつける為に、なぜなぜをしている部分があります。
ツールとして使いこなしているところは、少ないと感じています。

海外ベンダは、8Dレポートという形の回答がよくきています。
この場合も真因に達していない回答が多く、都度、問い合わせとしています。
中国ベンダなどでも、工場や品質管理責任者の対応で違いが多いでしょうか?

S様のメッセージ

S様ありがとうございます.

当時、お付き合いがあったのは台湾企業の中国工場が殆どだったが,不良解析&再発防止レポートでまともなモノを受け取った記憶がない.

独立してそういう工場の指導をして初めて分かったが,CE(カスタマーサポートエンジニア)と呼ばれる苦情処理係がいて彼らが顧客に対するレポートを書いてる.
驚くことに彼らは自社製品の技術的なことは全く理解してない.ただ少しだけ英語ができるので,別にいる解析エンジニアのレポートを英文に直しているだけなのだ.

しかも現物も現場も見ずに解析から再発防止対策まで一人で作文しているだけ.だから再発防止は,作業者に注意した,作業者を教育した,作業者を罰した,という役に立たない報告しかできない.

当然まともな顧客からはクレームが来て,レポートを再提出することになる.
こういう事を何度か繰り返していると,経営者にクレームが入り現場に雷が落ちることになる.

まともなリソースをきちんと割り当てていない経営者自身の責任なのだが,現場に対して何とかしろとしか言わない.

そんなこともあり,レポートの定型化が良く進む(笑)
フォーマット化すれば,能力が低い者でもレポートが書けると思っている.8Dレポートというのもそういう背景があり,あっという間に広まった感がある.

今まで中華系の工場から出てきて,合格点をあげられた報告書は一つしかない.

電解コンデンサメーカの不良解析レポートだった.
実はこのレポートは工場監査に来たお客様が,置き忘れて帰ったものだ(笑)

以前指導していた工場では,まずレポートの構成から教育した.

解析の仕方とか,再発防止の考え方などを教え,デスクに座っている連中の尻を叩いて現場に追い出していた(笑)

彼らが書いてきたレポーはも何度もダメ出しをして書き直させる.
営業からはレポート提出期限の督促がしつこく来る.自分で書いて提出することも何度かあった.

それでもCEたちは嫌がらず夜遅くまで,時に休日でも出てきてレポートの書き直しをする姿勢には感心する.

中には殆ど指導をしなくても書ける様になった者もいた.
彼らはやり方をきちんと指導をされていないだけなのだ.
辛抱強く指導してやればすこしずつでも良くなるものだ.

もう一通「ナゼナゼ5回」にご感想をいただいている.
長くなってしまったので次回紹介したい.


このコラムは、2009年2月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第81号に掲載した記事に加筆したものです。

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ナゼナゼ5回

 メルマガ読者様から「ナゼナゼ5回」を取り上げてみたら?とアドバイスをいただいた.本日のテーマとして考えて見たい.

「ナゼナゼ5回」は表層的な原因ではなく,それを誘発する真の原因まで突き止めるために「ナゼ」を何度も繰り返そうという考えかただ.

「風が吹けば桶屋が儲かる」という例で「ナゼナゼ5回」にチャレンジしてみよう.

・ナゼ桶屋が儲かる?
 →鼠が増えて桶をかじるから.
・ナゼ鼠が増えた?
 →猫が減ったから.
・ナゼ猫が減った?
 →三味線がたくさん売れたから.
・ナゼ三味線がたくさん売れた?
 →盲人が増えたから.
・ナゼ盲人が増えた?
 →風が吹いて目に土ぼこりが入るから.

もちろんこれは笑い話なので,実際にこんな「ナゼナゼ」をしても役には立たない.
因果関係の蓋然性(発生確率)が低いので,5回も繰り返せば確率的に殆ど発生しない原因に突き当たってしまう.

単純に「ナゼナゼ」とただ質問を繰り返すのではなくFTA(故障の木解析)のようなツールを使いナゼナゼを繰り返す方が良いだろう.

以前,新規工場で始めて生産した製品から顧客の工程で不良が見つかった.このときの「ナゼナゼ」の例を紹介してみよう.

1.ナゼ顧客で不良が見つかった?
 →部品が過大電流により破壊していた.
2.ナゼ部品が過大電流で破壊した?
 →高電圧の回路パターンと部品のリードが接触した.
3.ナゼ高電圧の回路パターンと部品のリードが接触した?
 →作業台の縁にある金属が触ったから.
4.ナゼ作業台の縁にある金属が高電圧パターンと部品をショートする?
 →検査用のフィクスチャを使わなかったから.
5.ナゼ検査用のフィクスチャを使わなかった?
 →検査合格品を出荷前に再度機能検査だけしたから.
6.ナゼ検査合格品の機能検査をした?
 →初出荷だったので念を入れた.

これらのナゼと答えの一つ一つにFTAで可能性のある原因を並べ,現物で確認をしている.
更に検査で合格しているのに客先で,不良が見つかった原因も同様に「ナゼナゼ」をする.ここを忘れがちだが,「発生原因」だけではなく「流出原因」もきちんと突き止めておく必要がある.

この「ナゼナゼ」の結果,

  • 出荷前に簡単な再検査(出力がある事をLEDの点灯だけでチェック)をした.
  • 負荷が軽かったので再検査後回路中に電荷が残っていた.
  • 検査フィクスチャを使っていなかったので,電荷をディスチャージできなかった.
  • 検査後製品を梱包箱に戻す時にプリント基板の高電圧パターンと部品リードが作業台縁の金属に接触した.
  • その際に回路中に残っていた電荷が直接部品に流れ部品を破壊した.

という事が分かった.

これらの解析により,

  • 作業台の縁の金属を全て取り除く.
  • 全ての検査は回路中の電荷をディスチャージしてから完了とするよう,検査手順を標準化する.

という対策を採った.

重要なことは「ナゼナゼ」の過程で,現場・現物による確認をすることだ.
これを怠ると「風が吹けば桶屋が儲かる」になってしまう.


このコラムは、2009年1月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第80号に掲載した記事に加筆したものです。

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こちらの記事もどうぞ「なぜなぜ5回」

運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル

最高時速300キロの「のぞみ34号」の台車は破断寸前だった。乗務員は異音などの兆候を察知していたのに、途中駅で「異常なし」と引き継いでいた。

全文

(デジタル版朝日新聞より)

 人身に関わる事故が発生した訳ではないが、重大なヒヤリハット事故だ。
報道から読み取れる事実を時系列に整理すると以下の様になる。

13時33分:のぞみ34号博多駅出発
13時50分頃:乗務員が異臭を報告
      13号車乗客が「もやがかかっている」と申告。車掌も確認。
15時15分頃:岡山駅で保守点検者が乗車。新神戸駅で点検を提案。
      運送指令が問題なしと判断し、運転続行。
16時頃:新大阪到着。保守点検者下車。
    運転手、車掌は「異常なし」とJR東海に引き継ぎ。
16時20分頃:京都駅出発後車掌が異臭を確認。
17時頃:名古屋駅にて車両床下で亀裂油漏れを発見。走行不可能と判断。

今回は何事もなく運行(ほぼ定刻運転だったと推定される)出来たが、脱線事故で多くの死傷者が発生する可能性があった重大インシデントだ。

小倉駅を出発した時点で予兆を発見している。
少なくとも岡山駅で保守点検者が乗車した時点で車両床下を点検すべきだった。

報道によると、岡山駅で保守担当者は輸送指令に「次の駅で止めて点検したらどうか」と進言している。ところが、輸送指令は「運行に支障はない」と判断。

JR西日本は今回のトラブルを受け、社員教育のあり方を改善するほか、「音、もや、臭い」などが複合的に発生した場合は直ちに運転を見合わせ、車両の状態を確認することを徹底するという。「脱線事故後(2005年4月に発生した福知山線脱線事故)、『安全性を最優先する』とやってきたが、生かされていなかった。安全をさらに高めるために努力していきたい」とJR西日本社長は言っている。

この問題の根源は、社員教育や運行判断基準ではない。JRの組織文化に問題の根源が有ると考える。
車両区、指令区、運転区など部門ごとの縦割り組織が国鉄時代から続いているのではなかろうか?部門ごとで責任を押し付けあう体質が残っていないか?

保守点検者は「次の駅で点検してはどうか」と進言するが、指令区から運行続行を指示され従ってしまう。自分の仕事に責任と誇りを持っていれば、次の新神戸ではなく、岡山で車両床下に潜り込んで亀裂を見つけていただろう。
現場から離れた指令区の座席に座ったまま下した運転続行判断が優先される。
運転手、車掌もJR東海に引き継げば責任は終わり。

全てが「定刻運転」第一優先の様に見える。

あくまでも外から眺めた印象だ。事実誤認が有ればお詫びするが、JR職員の方々に問題があるのではなく、JRの組織文化に問題があるのではないかという提言と受け取っていただきたい。

問題の責任を追及する組織は、責任を逃れる、問題を隠す組織風土が生まれる。
問題の原因を追及する組織は、問題を共有し、改善を進める組織風土を持つ。


このコラムは、2017年12月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第607号に掲載した記事に加筆したものです。

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中国的QCサークル事情

 最近中国でQCサークル活動を指導している中国人と知り合った.中国の経営者は,日本的モノ造りの優位性を信じており,QCサークル活動に対しても少なからぬ期待を持っているようだ.

中国では,既に製造業以外でもQCサークル活動が行われている.
上述の中国人QCサークル指導者は中国の通信系会社(携帯電話キャリア)でもQCサークル活動の指導をしている.

ところで,本家であるはずの日系中国工場のQCサークル活動状況は,あまりぱっとしない.大手企業はQCサークル活動を導入しており,グループ会社間で交流会を開催しているところもある.
しかし中堅・中小の工場ではQCサークル活動を導入しているところは多くはない.

QCサークル活動は,活動そのものによる改善効果だけではなく,チームワーク,仕事を通した求心力の醸成,問題解決能力,プレゼンテーション能力などの開発が期待できる.

中堅・中小企業の場合,適切な指導者が社内にいないなどの理由があり,QCサークル活動の挿入に踏み切れない.また外部から指導者を招聘すれば,費用の負担が大きくなる.などの理由により,なかなかQCサークル活動が活性化しないようだ.

また日本でQCサークル活動が停滞しているのも一つの要因だろう.
しかし中国では,リーダクラス育成のためのOJT効果を期待してQCサークル活動を再生できると考えている.

異業種交流の形をとって,QCサークル活動を導入するなどの方法を考えれば,中堅・中小企業にも比較的容易に導入可能だと思う.

日本で生まれ,日本の経済発展に貢献したQCサークル活動が,中国企業だけで活性化しているのを見るのは大変残念だ.

こちらの記事もご参照ください.「中国的QCC事情」


このコラムは、2010年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第154号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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QCC活動の役割分担

 QCCによる改善活動と,日常の改善活動には役割分担があってよいはずだ.大掛かりな改善や,複数の部門の協力がなければ達成できないような改善は複数部門合同のQCC活動に任せるのが良い.

指導先で「顧客提供サンプルの合格率アップ」という活動をしているサークルがあった.事務機器業界の顧客には,サンプル提出後一発合格しているのに,新規業界の顧客向けサンプルは,合格率が低いという.

この手の問題は,顧客の要求仕様を把握する営業,その要求仕様を図面に落とす設計,サンプルを製作する生産技・製造,品質を確認する品証の協力がなければならない.
したがって複数部門合同のQCC活動に適したテーマと考えていた.

しかし活動内容の発表を聞いて考え直した.
今まで不合格となった試作サンプルは3件しかないということだ.
ならば,QCC活動でまとめて対策を検討するまでもない.その都度不良の原因調査と再発防止対策を検討する方が効率が良い.それがきちんと回る仕組みを作ればよいのだ.

例えば,サンプルを出荷する前に,営業,設計,生産技,製造,品証で出荷判定会議をする.サンプルが不合格となったら,このメンバーで原因調査,再発防止をきちんと実施する.

QCC活動では「歯止め」を行う.不具合の再発防止,水平展開,未然防止などをさして「歯止め」といっている.

例えば仕様の確認不足でサンプル不合格となった場合,「仕様確認チェックシート」などを作り仕様確認作業を標準化することである.しかし一番大きな歯止めは,前述した出荷判定会議である.

サンプル不合格の原因は,仕様の未確認だけではない.
製造の問題,治具の問題,測定方法などいろいろな問題があるはずである.それらの問題が出てくるたびに,問題解決の行動を起こすのではない.問題が発生したら自動的にアクションがとられる仕組みを準備しておくのだ.

何をすれば良いかわかっている改善活動は、QCC活動ではなくすぐに改善すべきだ。


このコラムは、2011年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第210号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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データの活用

 製造現場では日々の生産量、不良、故障など色々なデータを記録していると思う。
昨年指導した工場では、工程ごとの生産台数を記録していた。それに加えて投入人員も記録して貰った。これで生産性が分かる。日々の生産性をグラフにしてみると、有る日を境に生産性が飛躍的に向上しているのが分かる。その変節点は「整理・整頓」をした日だった。このグラフから「整理・整頓」により生産性が上がる事を実感出来た。

今年QCCを指導した工場では、設備の故障を記録していた。その記録から設備故障による損失金額を計算する事が出来た。改善活動により年間350万元ほどの損失を低減出来た。もし故障原因も記録していれば、より効果的な設備保全活動が出来ただろう。

工程内不良、客先不良は件数だけ記録していても、不良は減らない。不良発生ごとに、原因を記録しておけば新規製品の設計、工程設計を改善することが出来る。

データを記録する事は目的ではない。記録したデータを活用して改善する事が目的だ。従ってデータは数値データだけでは不十分だ。不良・故障の現象、原因などの言語データが必要だ。これらの言語データにより、潜在問題の予防保全が可能になる。

ルールだからデータを記録するのではない。データを記録する目的を明確にし、どのようなデータをどうやって取得し記録するのか、事前に設計しておく事によりデータは活用出来る様になる。


このコラムは、2017年11月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第588号に掲載した記事です。

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