投稿者「master@QmHP」のアーカイブ

宇宙船を工場に もう1つ世界を創る

 国際宇宙ステーション(ISS)に9月、1台のハイテク機器が届けられた。
無重力空間で動く世界初の3D(3次元)プリンター。開発したメード・イン・スペース(米カリフォルニア州)は2010年創業、社員25人のベンチャー企業だ。

 宇宙で必要な物資をロケットで運ぶ従来手法では費用も時間もかかる。ならば宇宙で作れば良いというのが開発の動機。3Dプリンターがあればあとは設計図を送るだけですむ。「10年後に人類が宇宙で暮らすようになっているか?答えはイエスだ」。最高戦略責任者(CSO)のマイク・チェン(29)は真顔
だ。

全文はこちら

(日本経済新聞電子版より)

 「使う場所で作る」非常に啓示に富んだ考え方だ。運搬をなくし、その場で必要なモノを必要な数だけ作る。究極のJITだ。

自動車工場にタイヤのミニプラントを作り、タクトタイムに会わせ4本ずつタイヤを作る。
製品組み立てラインの最終工程の横で梱包材料を生産し、その場で梱包する。

普通に考えると「そんなバカな」となる。タイヤも梱包材料も、まとめて造るからコストが下がる、と考えのが常識だからだ。しかしその常識が成り立っている前提が変わってしまえば、常識は常識ではなくなる。

例えば、発泡スチロールの梱包材料を生産するためには、大きな成形機と金型が必要だ。とても組み立てラインの横になど置けない。だから梱包材料メーカで生産したモノを、せっせと運ぶことになる。これが常識だ。
しかし、緩衝材料を梱包箱に流し込むだけで製品を固定することができれば、成形機も金型も要らなくなり、空気を運ぶような梱包材料の運搬も不要となる。

宇宙船の中で、修理やメンテナンスの部品を造る。と言う事は非常識だった。だから必要な部品は、予め備蓄しておくか、後から届けるのが常識となる。その常識の前提は、旋盤などの重量のある加工機械を宇宙まで運ぶ事が困難だからだ。無重力でも使える3Dプリンターが登場すれば、その前提は崩れ、常識が常識ではなくなる。

しかも、3Dプリンターが有れば、修理部品、保養部品の製造ばかりでなく、新しい装置を製造する事も可能になる。

日経新聞の記事によると、こういう発想を現実化したマイク・チェンと言う若者は、シリコンバレーにあるシンギュラリティ大学で勉強したそうだ。
シンギュラリティ大学は、大学といっても学位や博士号があるわけではない。世界中から優秀な人材を集め、貧困や環境、エネルギーなど世界的な課題を解決する狙いで08年に設立された。

こういう組織が、常識を覆し、新しい技術で世界を切り拓いて行く人材を育成する。
私も、宇宙開発などの世界的な課題でなくとも、工場の中にある身近な課題を解決する仲間が集まる組織を作りたいと、常々思っている。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事に加筆しました。

義を見てなさざるは勇無きなり

yuē:“fēiguǐ(1)érzhīchǎn(2)jiàn(3)wéiyǒng(4)。”

《论语》为政篇第二-24

(1)鬼:先祖の霊
(2)谄:へつらう
(3)义:正義
(4)勇:勇気



素読文:

いわく、あらずしてこれまつるは、へつらうなり。みてさざるは、ゆうきなり。

解釈:

自分の祖先でもない霊を祀るのは諂いだ。なすべき正義を見て行動しないのは勇気なきなり。

力がない市井の庶民が義を見て為さぬのは保身行動の場合もあるでしょう。しかし為政者としては義をみれば為さねばなりません。

シンギュラリティ

 シンギュラリティとは計算機が人間の能力を超える時点と理解していた。
それは2045年、まもなくやってくる。私もその時まで生きている可能性がある。

シンギュラリティを最初に提唱したレイ・カーツワイルは、$1,000で手に入るコンピュータの性能が全人類の脳の計算性能を上回る時点としている。

理化学研究所らは、17億3000万個の神経細胞が10兆4000億個のシナプスで結合された神経回路のシミュレーションを行い、生物学的には1秒間に相当することを、京(10.5ペタflops)は40分かかって計算した。10兆4000億個のシナプスというのは、ちょうど人の脳の神経回路1%程の規模に相当し、小型霊長類であるサルの全脳の規模に達しているとのこと。

カールワイルの定義では全人類(60億人)の計算能力といっているので、10.5ペタflops×(40分×60秒)÷60億=4.2ギガflopsこの程度ならば現在の市販PCの処理能力でも足りるのではなかろうか。

平木敬は別の定義をしている。人間の脳の処理能力はゼタ(100万ペタ)FLOPS級。シンギュラリティーとは、自らを改良し続ける人工知能が生まれること。

2045年には多くの仕事が機械化されており人は働かなくなる。しかもAIが人の代わりに考えてくれる。AIはAIによって進化し続ける。こういう世の中に生きることは人類にとって楽しいのだろうか?


このコラムは、2019年11月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第903号に掲載した記事に加筆しました。

データを看える化

 工程内不良率のデータをきちんと収集しているが、何のために収集しているのか不明という事例を良く見る。

工場全体の工程内不良率が毎日集計されており、翌日にはそのデータが出てくる。データは各ラインから上った生産ロット毎の工程内不良率をエクセルで集計している。ピボットテーブルまで使った高度な集計処理をしている。

しかし出てきたデータはただの数字の羅列で、ここからは何を言いたいのか、データを収集した意図が見えてこない。

まずはデータを看える化する。
工程内不良率を折線グラフにするだけでも相当に違う。
更にこのデータから何をしたいのか、その意図に従ってデータを加工する。データを加工すると言ってもデータそのものを加工するわけではない。データの見せ方を加工するという意味だ。

工程内不良の発生要因によって層別をする。
例えば部材ロット、生産ライン別にデータを層別し、各要因の工程不良率に対する影響度を分散分析により評価する。
この分析により部材のロットが工程不良に与える影響が支配的であり、生産ラインの違いは誤差と判断できれば、工程内不良をp管理図でモニターしていれば、部材の品質改善に役立てる事ができる。

工程内不良を低減しようとして部材を全数検査した後生産投入した。しかし工程内不良率は上がってしまった。
この様な場合に、事前に工程内不良の支配的要因が何かを把握していなければ、部材の検査・選別方法が悪いのか、工程内不良の支配的要因が部材以外にあるのかを判断する事ができない。

品質管理には統計的手法が威力を発揮する。
中国語の良いテキストは見た事が無いが、日本語ならば良いテキストはある。
これは日系企業にとって有利な条件だと思う。あなたの工場でもこの優位性を活用してみてはいかがだろうか。


このコラムは、2009年7月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第108号に掲載した記事です。

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孔子

指導法

 論語にこういう一節がある。

子曰:“中人以上、可以語上也。中人以下、不可以語上也。”

《論語》第六雍也-十九

読み下し文にすると、子曰く、中人ちゅうじん以上には、以てかみぐべきなり。中人以下には、以て上を語ぐべからざるなり。

簡単に言えば相手のレベルに合わせて指導すべきだということだ。
部下の指導時に、いきなり難しいことを教えても消化不良になるだけ。逆に簡単なことをくどく説いても相手のモチベーションは下がる。
個人的には、相手のレベルより少し高いヒントを与え、考えてもらうようにするのがいいと思っている。「教わった」というより「自分で考えついた」と感じる方が身に付くだろう。
この一節は教える側の心得であるが、逆に考えることもできる。教えを請いたければ、その教えを受けるレベルまで成長しなければならない、ということだ。

孔子はこうも言っている。

子曰:“生而知之者上也。学而知之者次也。困而学之又其次也。困而不学。民斯爲下矣。”

《論語》第十六李氏-九

子曰く、生まれながらにして之を知る者は上なり。学びて之を知る者は次なり。くるしみて之これを学ぶは又其の次なり。困みて学ばざるは、民にして斯を下と為なす。

生まれながらにして知っている者が上。
学んで知る者が中。
困難に出会って学ぶ者は下。
困難に出会っても学ばない者は下の下。

上にはなれないかも知れないが、中でいたいモノだ。指導者の立場にあっても、学び続けることが必要だ。


このコラムは、2017年11月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第593号に掲載した記事です。

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前例

 「前例」という言葉は保守的な組織と革新的な組織を見分ける試薬だ。
「前例」という言葉を歓迎するのは保守的な組織。「前例」と聞いてがっかりするのが革新的な組織。

法曹界は判例という「前例」が判断基準となる。
銀行の様な硬い企業や、同じ企業内でも総務部の様な部門はどちらかというと「前例」が珍重される。
一方ベンチャー企業や、同じ企業内でも開発部門では「前例」を忌避する。

同じ人でも年齢を重ねるほど「前例」に頼る様になる。これを長年の積み重ねによる「知恵」と考えるか、年齢とともに保守的になったと考えるべきか。

古典に学ぶという姿勢も、前例主義と言えるかも知れない。
中国古典の論語にこんな一節がある。

「子曰く、学びて思わざればすなわくらし、思いて学ばざれば則ちあやうし。」

(為政第二-15)

学んだことを思考しなければ知識を生かせない。考えるだけで先人の知恵を学ばねばあやうい。という意味だ。

つまり学ぶのは「前例」であり、学んだ上で「革新」を考える。というのが孔子の教えだ。
こういう「前例」が2500年前からある。先人の知恵は学ぶべしだ。


このコラムは、2018年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第737号に掲載した記事です。

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百世代変わらぬもの

zhāngwèn:“shíshì(1)zhī(2)?”
yuē:“yīn(3)yīnxià(4)suǒsǔnzhīzhōu(5)yīnyīnsuǒsǔnzhī(2)
huòzhōuzhěsuībǎishìzhī(2)

《论语》为政第二-23

(1)世:王朝の世代
(2)可知也:(疑問文)知ることができるだろうか。(肯定文)知ることができる。
(3)殷:中国古代の王朝(前17世紀頃~前1046年)
(4)夏:中国古代の王朝(前2070年頃~前1600年頃)
(5)周:中国古代の王朝(前1046年~前771年)

素読文:

ちょうう:“十世じっせいるべきや。”
いわく:“いんれいる。損益そんえきするところるべきなり。しゅういんれいる。損益そんえきするところるべきなり。あるいはしゅうものは、ひゃくせいいえどるべきなり。”

解釈:

子張が訪ねた“十代後のことがわかるものでしょうか?”
孔子曰く“殷は夏の時代の礼を受け継いでいる。大きくは変わっていない。周は殷を引き継いでおり根本は変わっていない。周以降百代後も根本は変わらないだろう”

時代時代によって為政者の考えは変わるかもしれません。しかし根本にある「礼」は変わらない、と孔子は言っています。ある意味、現代中国も昔からの王制と変わりがないのかもしれません。

そうじの効果

440号のコラムで、「トイレ掃除の効能」について書かせていただいた。
コラムの中で紹介した書籍「そうじ資本主義」を読んだ。

書籍の中に、そうじに関するアンケート調査の結果が紹介されていた。
大阪商工会議所が414社に対して実施したアンケート結果だ。

そうじの効果を直接効果の間接効果の二つに分けている。

  • 直接効果は、そうじによる効果だ。そうじを自社でやる、専門業者に委託するどちらにも同じ様に発生する。
  • 間接効果は、そうじという行為による効果だ。従って自社でそうじに取り組む場合に発生する。

【直接効果】

  • 職場環境の安全、公衆衛生の向上
  • 効率向上
  • 不良、コスト削減

【間接効果】

  • モチベーション、モラルの向上
  • チームワーク、連帯感の向上
  • 設備機械、備品の耐久年数向上
  • 売り上げ向上

そうじを専門業者に委託すると間接効果は発生しない。
経営者、経営幹部のあなたは率先してそうじに取り組む価値が有りそうだ。
効果があれば、ぜひお知らせたただきたい。

<p></p><hr><p></p>
このコラムは、2015年10月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第444号に掲載した記事です。

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20世紀型人員管理

「20世紀型人員管理」とは言い過ぎかも知れないが、ある中国民営企業の経営者を見ていて「20世紀型人員管理」と言う言葉が頭に浮かんだ(笑)

彼は国営企業出身で、独立し設計製造販売の企業を経営を経営している。ニッチな市場では、今年上半期の販売量で中国トップ10に入る企業だ。

多分国営企業勤務時代の名残りなのだろう。彼の頭にはマクレガーのX理論しか無い様だ。多くの中国人経営者と同様に、命令や強制で管理し、目標が達成出来なければ処罰といった「アメとムチ」によるマネジメント手法が有効と考えている様だ。

この企業で定期的に訪問指導をしているが、最終日のまとめ会議時の総括では、大声で幹部を批判する。成果に対する賞賛は一瞬で終わる。我々を退席させた後、延々叱り続けている様だ。

この企業では、会議に参加した経営幹部、管理職はいっさい発言しない。
彼らがおとなしい性格と言うわけではなさそうだ。自分が主催する部門の会議では部下がいっさい発言しない(笑)

この会社の風土は、従業員のレベルが低いから厳しく「要求」しなければ人は働かないと言う経営者の思い込みが作り上げている様に見える。
彼は、我々の「生産改善を通して幹部人員の改善能力、意欲を向上させる」と言う理念には、大いに賛同している。幹部、管理監督職の能力向上が有用だと考えている。そして研修に参加しない者は「罰金」を課す(苦笑)

X理論は既に中国でも限界に来ている。X理論信奉者は、80后、90后は理解出来ないと嘆く。

この企業を本当に改革するのは、現場の指導ではなく経営者の考え方を変える事だ。相当挑戦的な課題だが、まだ指導期間が残っている。困難ではあるが価値のある挑戦だと考えている。


このコラムは、2016年8月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第488号に掲載した記事です。

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新世界秩序

近代の世界秩序は軍事力で保たれてきたと言えるだろう。
第二次世界大戦後、ソ連、東欧対自由主義諸国の冷戦状況に対処するためNATOが結成される。
ソ連崩壊後東西冷戦は終結したように見えたが、イスラム武装勢力対米国・NATOの対立となる。
クリミア・ウクライナへのロシア武力侵攻により新たな米露対立が発生する。

現代は中国の経済発展により、経済は米中の二極対立となった。対立・秩序の基軸が軍事力から経済力に転換した。

そして今年になって新コロナウィルスの爆発的感染が世界に広がった。
中国は情報の隠蔽、改ざんにより世界から信頼を失う。米国は大統領の無能が露呈し信頼を失ってしまった。

世界は軍事力、経済力の均衡で秩序が維持されてきた。現在この時点で世界の秩序を維持するものは軍事力でも経済力でもない。
世界の秩序を維持するのは『道徳』であると言いたい。
道徳とは正直、誠実に他人を思いやる力だ。「3.11」で賞賛された日本人の道徳力を今こそ発揮する時だ。老子、孔子という道徳の始祖を持つ隣国も我々に追随するはずだ。


このコラムは、2020年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第967号に掲載した記事です。

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