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宇宙行けば体重減ります 宇宙機構、飛行士514人解析

 宇宙に行くと体重が減る──。宇宙航空研究開発機構の松本暁子医長らのグループが、30~50歳代の宇宙飛行士延べ514人について、宇宙へ行く前後の体重変化のデータを集め、そんな解析結果をまとめた。

 調査対象は、1961年から2004年の間に宇宙へ行った米国、日本、カナダ、欧州、ロシアの飛行士のうち、米航空宇宙局(NASA)の記録があった男性延べ434人、女性同80人。宇宙飛行の前後で体重が平均2.13%減っていた。

 宇宙では、無重力のため筋肉量が減るほか、体液の移動など様々な要因で、体重減少が起きるらしい。地球に帰還し3カ月~1年経った後も、飛行前に比べて平均約1%軽かった。

(asahi.conより)

 こういうデータの出し方は,大変胡散臭い.
例えば私の場合体重68kgなので,2.13%の体重増減といえば,約1.4kgだ.このくらいの体重変動ならば,朝食前と夕食後では十分起こりうる.また2,3kmジョギングしただけでも,その程度の体重は減る.

たまたまあったデータで,科学的な結論を導こうというのが間違いだ.

宇宙に行く前後の体重データには,測定時条件の誤差+測定誤差+宇宙効果が含まれている.測定時条件とは,測定時に空腹だったかどうかなどの身体的な条件による誤差.測定誤差は,測定器具と測定方法による誤差.これらの誤差が,宇宙効果よりも小さくなくては有意とはいえない.

しかも宇宙効果の中には,個人差によるバラツキ,宇宙滞在期間によるバラツキが含まれる.

従ってこの調査によって得られるのは,宇宙に行くことにより「筋肉量の減少」と「体液の移動」によって体重が減少するかもしれないという仮説だけだ.

体重減少のメカニズムを考えると「筋肉量の減少」は,再評価する価値がありそうだ.しかし「体液の移動」に関しては,移動しても体液はまだ体内にあり,体重変動があるとは思えない.

科学的な結論を得ようとするならば,検証可能な仮説を立て,正しいデータにより検証をしなければならない.
当然データには誤差によるバラツキ,効果によるバラツキが含まれる.これは統計的に検証可能だが,正しいデータを取らなければ誤差によるバラツキの方が大きくなってしまい,有意な結論を導くことはできない.

まずは具体的な仮説を設定する.
この例で言えば「宇宙に行く前後で体重減少がある」は,まだ具体的ではない.
「宇宙滞在時に筋肉量が減り体重が減る」という仮設にすれば,具体性が増す.
その仮説に基づき,必要なデータを集める.
この例ならば,宇宙滞在期間と体重減少量との間に相関があるかどうかという仮説を検証するデータを集めればよい.

その上で各個人の体重減少量のバラツキが,誤差によるバラツキより十分大きいことが検証できれば,この仮説は有意であると結論をつけることができる.

今「イシューからはじめよ」という本を読んでいる.
著者の安宅和人氏は,脳神経科学の研究者であり,経営コンサルタントのキャリアを持つという変わった人だ.
本書の中で,問題を解くことを考えるのではなく,まず問題を見極めよ.その上で価値のある結果を導け.と説いている.

今まで問題解決に関する書籍にはたくさん出会ってきたが,安宅氏のようにまず問題を見極めよ,という主張は新鮮であり,もっともだと思う.

ご興味がある方は是非一読をお勧めする.
ただし今回のコラムに書いたような統計的手法について語っている本ではない.

「イシューからはじめよ」


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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続・売上減少対策

 先週のコラム「売上減少対策」で、中国人オーナー経営者(董事長)の「勘違い」を正し、本当にやらねばならない事に気が付いていただいた例を紹介した。
これに関して、読者様からメッセージをいただいた。

※M様のメッセージ

董事長は今まで金儲け主義でやってこれたので自分に自信があり過ぎたんでしょうね。そんなオジサン私の近くにも居ます。私の会社内で机スペースを1つ借りて、一人で会社をしてらっしゃいます。でも、「とにかく何でもいいからお金儲けたい!!」という気持ち表に溢れ出し、商談はいつも断られています。しかし、100%自分を信じきっているようで、自分で偉くなったと思っている人は周りが見えないしアドバイスも聞こえない。「だから儲からないのだよ。~ 」これを彼の従業員が言っていたらどうなったと思います?董事長は怒って何も聞き入れなかったと思います。林さんからのアドバイスだから董事長は聞き入れたのでは?

従業員が経営者に対し、経営に関する意見を言う。部下が上司に対して、組織運営に関する意見を言う。こういう状況はまま有って良いはずだが、部下側の自制によりほとんど発生しないと思う。

従業員が、経営者や上司に意見を言い、聞き入れてもらう方法を二つ紹介したい。

私もサラリーマン時代には、社長にもの申すなど夢のまた夢(笑)直属の上司にさえ、遠慮がちに意見を具申したモノだ。

なぜこうなるかと言えば、部下に上司に対する依存関係が出来てしまっているからだ。会社をクビになったら困る、考課を下げられては困る、こうした思いが、上司や経営者に対する依存関係を作ってしまう。

方法その1:経営者、上司と依存関係を作らない。
依存関係を作らないためには、仕事上で実績を上げ、上司に一目置かれる存在とならねばならない。一朝一夕にこうなるのは難しいが、日々の努力で上司の信頼を得られれば、上司に対し意見を言う事に恐れを感じる事は無くなる。又このレベルに到達していれば、今の職を失っても別の会社でも、独立してもやっていけると言う自信も出来るだろう。

しかしこの方法は、時間がかかる。手っ取り早い第二の方法をご紹介しよう。

方法その2:虎の威を借りる。
自分の意見が通らないならば、自分より影響力のある人の力を借りてしまう、と言う意味だ。
普段から経営者や上司に影響を与えている人をリサーチしておく。どんな本を読んでいるか?どんな講演会に参加しているか?そう言う事が分かれば、その著者や講師が書いた著作を、全部読むくらいの勢いで読破する。
手っ取り早いと言っても1ヶ月2ヶ月はかかるだろう。しかしその期間は、あなた自身の自己啓発への投資にもなっているはずだ。しかも経営者や上司の思考回路が理解出来れば、先回りして仕事ができる様になる。突き詰めて言えば、これは方法その1につながる。

例えば、経営者が稲盛和夫の書籍を良く読んでいると分かれば、稲盛和夫の本を全部読んでしまう。そして意見を言う時には「稲盛さんの本に有る様に」と枕詞を付ける。これによりその意見や提案は、あなたの意見ではなく、稲盛氏の意見となる。

ある中小企業の経営者は若い頃、一倉定の教えを受け、その教えを守って経営して来た。

「一倉定の経営心得」

息子に経営を譲る時に、心配なのであれこれ口を出す。しかし息子が経営を教わっている師匠が、一倉定の弟子と分かった途端に、何も口を出さず見守る様になったと言う。
息子が、一倉定のレベルに到達しているはずはないが、間接的にでも一倉定の教えを受けていると言う事で、安心するのだ。

もう一つの「虎の威を借りる」作戦は、コンサルを利用する方法だ。
意外と思われるかもしれないが、私に仕事の依頼をされる方は、経営者ばかりではない。勿論契約の決断をされるのは経営者だが、初めに相談に来られる方は、経営幹部であったりすることがある。

経営幹部とは言え、内部の人間では上司部下の関係があり、フラットな姿勢で意見を聞くことができない。だから、利害関係のない外部のコンサルを、利用しようと言う訳だ。
初めてそういうご相談を受けた時には、私自身も「ヘェ~」と感心した(笑)
ご相談者の意見を、経営者にそのまま納得させる様な事はしないが、M様がメッセージでご指摘の様に、外部の人間の意見の方が聞き入れられる傾向が有る様だ。


このコラムは、2014年6月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第365号に掲載した記事を改題・修正・加筆しました。

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売上減少対策

 先週は、化学製品の卸売業を営む中国人オーナー経営者の経営相談を受けた。

50代のオーナー経営者は、東莞で1社卸売業を立ち上げ、その後順調に支社を東莞市内に立ち上げて行った。準備中の会社を含めて現在8社を経営している。危険物を取り扱うので鎮ごとの許認可が必要であり、分社化して経営している。

全体の売り上げは上がっているのだが、最初に立ち上げた会社の売り上げが、1億元/年から半減してしまった。従業員がさぼらずに仕事をするように、賞罰制度を導入してみたが上手く行かない。どうすれば、従業員がさぼらずに、業績に貢献する様に仕事をしてくれるのか?と言うのが相談内容だ。

彼らのビジネスは、元売りのメーカから製品を仕入れ、エリアごとの代理店に卸売りをする。営業マンは、担当代理店を回り注文を取って来る。注文が目標未達の場合は罰金、超過達成の場合は報奨金が出る。

帯同した人事制度系の中国人コンサルは、人事制度の改善を説明していたが、答えはそこにはない。

このメルマガの読者様は、この悩める中国人経営者にどのようなアドバイスをするだろうか?ちょっと考えてみていただきたい。

(考えました?)
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品質意識

 以前「無料工場診断」でお邪魔した工場で,品質保証部ローカルスタッフの皆さんと昼休みに雑談をしたことがある.

アルミダイキャスト製品を中心とした工場だ.
午前中の現場診断で,工程内不良率が高いのがこの工場の問題点だと認識していた.しかし工程内不良品は,また原材料として再利用できる.歩留まりという観点だけを見ていれば,そこそこ良いデータが見えている.従って経営者の問題意識は,リードタイムや納期遵守に関する問題に集中していた.当然工程内不良率を下げてやれば,リードタイム,納期遵守率も改善できる.

品質保証部のスタッフはどんな問題意識を持っているのか興味があり,雑談をしてみた.

彼らの問題意識は「各部署の品質意識が低い」ということだった.
いろいろな部署の実例を挙げて品質意識に関する不満を説明してくれた.

しかし「品質意識が低い」ということは品質保証部にとっては不満ではない.課題だ.
「品質意識が低い」と不満を漏らすということは,自分たちの仕事が全うできていません,ということを言っているのと等しい.

品質保証部の仕事は「品質管理」と「品質改善」だ.
これを通して顧客の満足を得るのが品質保証部の仕事だ.
この二つの任務「品質管理」「品質改善」が円滑に行われるためには,従業員全員の「品質第一のココロ」を養わなくてはならない.

従って品質保証部のスタッフは他部署の人間が「品質意識が低い」という感想や不満を漏らしてはならない.どのようにすれば全社の品質意識が上がるかと真剣に考え,それを実際の施策に落とし込まねばならない.


このコラムは、2009年12月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第130号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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PK活動

 PK活動というのは「ピカピカ・カイゼン活動」のことである.まずは職場の掃除を徹底し,職場や生産設備をピカピカにする.

効果は職場がピカピカになって気持ちが良いだけではない.
職場や設備をいつもピカピカにしておくとちょっとした異変にすぐ気がつくようになる.

いつも油で汚れた床だと,機械から油が漏れていても気が付かない.
設備を毎日拭き掃除をしていると,設備のガタや緩みにすぐに気が付く.

ピカピカにすると言うことは単なる清掃ではなく,予防保全活動である.
小さな異変にいち早く気がつき,問題が発生する前に対策が打てる.

そして職場の整理・整頓を徹底する.
整理・整頓の対象は物だけではない.工程も整理・整頓する.
こうすることにより,工程の流れや作業のムダが良く見えてくる.

工程の流れが良く見えると,不必要な運搬や,流れのつなぎ目で無駄な作業をしているのに気が付く.
作業者の動きをじっと見ると無駄な手の動き,作業のムラ,無理な姿勢が見えてくる.
これらを徹底的に減らしてやれば,生産改善ができる.

いわば整理・整頓・清掃を徹底的にやり生産性を上げるという活動である.

生産改善のために自動機を導入する.すばらしいことだが,まずはPK活動,5S活動のように身近な改善をすることだ.こういう現場の活動を飛ばして自動設備を導入しても,ムダも一緒に自動化してしまうことになる.


このコラムは、2008年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第43号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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続・ローパー

 先週の雑感に書いた「ローパー」(ローパフォーマンス従業員)に関するコラムに読者様から以下のメッセージをいただいた。

※T.O様のメッセージ
 今回の雑感「ローパー」についての貴兄のご意見(特に雇用側の義務・責任 に関するご意見)、“したり”とひざを打ちました。2003年から8年余北京の事務所(中国法人)にて知財のアドバイザー(組織内唯一の日本人でした)をし、中国においては知的レベルの高いはずのスタッフや管理職であっても貴兄ご指摘の様な事態があることがわかっていたからです。
尚、いつも読みはじめるのが、このコラム「雑感」です。今後もこのような話題が提起されることを期待しております。

以前メルマガで、マクレガーのX理論、Y理論をご紹介した。中国はX理論に基づく人材マネジメントが多い様に感じる。

つまり人は本来怠け者であり、仕事は嫌い、自ら進んで創造性を発揮したり、責任を取ったりしない。こういう人たちを管理するためには、飴と鞭の管理が必要。と言うのがX理論によるマネジメントだ。
ダニエル・ピンクのモチベーション2.0と同じレベルだ。

好ましい行動を強化するために報酬を与える。
好ましくない行動を抑制するために罰を与える。

実はこのような人材マネジメントは中国企業だけの特徴ではない。中国の日系企業も同様なマネジメントをしている企業が多く有る。

中国人はまじめに働かないから、金で釣る必要が有る。
中国人に規律を守らせるのは罰金が有効。
このようなことを昔から言われ続けており、盲目的に信じ込んだ経営者がX理論マネジメントをしているのだろう。まぁ、中国人経営者が中国人労働者をこのように見ているのだから、日本人経営者もそれを信じてしまうのかも知れない。

ようは経営者が従業員をX型人間と思えば、従業員はX型人間と見える。X型人間として従業員を扱うから、従業員はX型人間になる。それだけの話だろう。(これをピグマリオン効果と言う)

人の可能性を信じそれを引き出す。これが人材マネジメントの基本だと思う。


このコラムは、2016年4月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第470号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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まとめ造りの無駄

 日系、中華系を問わず多くの生産現場でまとめ造りをしておられるのを、見かける。
一つの工程で複数の作業がある場合、一つの作業を全てのワークに施してから次の作業も同様に全てのワークに施す、このような作業方法を「まとめ造り」と呼んでいる。
それに対して、一つのワークに全ての作業を施し工程の作業を完成させ、順にワークを完成させて行く作業方法を「一個流し」と呼んでいる。ベルトコンベア作業は必然的に「一個流し」作業となる。

先週訪問した工場でも「まとめ造り」をされていた。
各工程で、加工ロット分のワークをまず作業台に並べる。まとめ造りで全てのワークに1作業ずつ作業し、工程作業を完成させる。その後机の上に並んだ作業済みワークをコンテナに入れて、次工程に送る。こんな作業方法を採用しておられた。
コンテナからワークを取り出し作業台に並べる、作業台に並んだワークをコンテナに戻すと言う作業が無駄だ。ベルトコンベアはなくても、一個流しは可能だ。未加工ワークをコンテナから取り出し、全ての作業を完了させた後、加工済みコンテナにワークを入れる。一個流しで作業をすれば、取り置き動作を省ける。従って一度に加工する個数が多ければ多いほどまとめ造りの無駄は多くなる。

一緒に現場を案内してくださった日本人指導者は即座にこの理屈を理解された。
しかし現場のリーダ達は、なかなか納得してくれない(笑)「絶対にまとめ造りをした方が速い」と譲らない。習慣による思い込みだろう。

こういう場合は、いくら理論的に教えても効果はない。体験で腑に落ちる様にしなければならない。教えても、今までの経験や学習によって積み上げた知識がそれを否定すれば、新たな学びは発生しない。体験する事により、今までの経験や学習を通して、新たな知識を作り出す事が出来れば学びが発生する。
つまり「学び」とは、上から与えられて発生するモノではなく、体験を通して自分の中で作り上げるモノだ。

「一個流し」の優位性は、以前このメルマガでご紹介した「封筒貼り」実験で体験できる。

「まとめ造りvs一個流し」↓

10枚分の封筒貼り実験で、一個流しの方がまとめ造りより1/3近く速かった。


このコラムは、2015年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第450号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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まとめ生産

 先週はある工場の訪問指導をした.

典型的なまとめ生産をしていた.
まとめ生産をすると効率が悪く,品質も改善できないと指摘をした.しかし経営者様は,ウチはまとめ生産をしていない.受注に合わせて生産していると反論される.

この経営者様に誤解をさせてしまったが,工程ごとにまとめて生産するという意味でまとめ生産という言葉を使っている.受注生産に対応するのは,計画生産だ.

この工場では,製品投入から組み立て完了までを工程ごとにまとめて生産.生産が完了したら,まとめて検査・梱包をする.
こういう生産方式をまとめ生産といっている.まとめ生産に対応するのは,一気通貫生産だ.

この工場の例では,部品投入から組み立て,検査・梱包までの各工程をドミノ倒しのように一工程ごと次々に生産するのを,一気通貫生産といっている.

まとめて作ると,取り置のムダが発生する.
工程間で一度製品をコンテナなどに入れて溜めておく,そしてそれをまたコンテナから出して,次の工程に投入することになる.この出し入れの手間と,モノを置いておく場所が取り置きのムダだ.

また半完成品を溜めて次工程に流すため,次工程で不良が発見された場合,大量に同じ不良が混入していることになる.一気通貫生産ならば,不良が見つかった時点で前工程の改善ができる.

以前別の工場で指導した事例では,電子部品のリードフォーミングを,翌日生産分をまとめて作業していた.このため翌日の組み立てで,この部品が基板に挿入できない不良が発生すると,昨日作った部品はほとんど手直しをしなければ基板に挿入できないことになる.このため大きな時間ロスばかりではなく,品質リスクも発生する事になる.

この時は組み立てライン横で,組み立てに合わせて電子部品の前加工をすることにした.当初現場リーダの強い反対にあった.前加工と組み立てラインのスピードが違うのでロスが大きいというのだ.

彼が言っていることは当然である.しかしそれは今までのやり方をしていたら,という前提がある.新しいやり方に合わせた改善をすればよいだけだ.

その他にも,10日以上かかっていた工程を,一気通貫生産で1.5日にしたことがある.また別の事例では,乾燥のためのまとめ生産していたのを,インライン乾燥を導入し24時間かかっていたリードタイムを4時間にしたこともある.

工程リードタイムが短くなれば,不良を発見した時に,原因工程がまだ生産中である.すぐに改善ができる.まとめ生産をしていると,不良を見つけても既に原因工程は作業が終わっており,その場で改善ができない.

まとめ生産を止めて,一気通貫生産をすればQCD全てにわたって改善することができるはずだ.
従来どおりのやり方に慣れてしまっていると,なかなか気が付かないものだ.更に生産方式を変える勇気を持たなければならない.勇気を持つためには,うまく行っている事例を見たり,聞いたりするのが一番だろう.


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事です。

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組織間の協力

 中国の工場を見ていると、日系、台湾系、大陸系問わず部門ごとに「蛸壺化」しており、部門間の協力・協調が見られないことが有る。

以前に指導した自動車部品工場は、前工程のプレス工程で加工した半完成品を後工程の転造工程で加工して製品を生産している。プレス工程の方が生産能力が高いため、転造工程の前には半完成品の中間在庫がたまる。
プレス工程は後工程の都合を考えず、自分の都合だけで全力で生産する。
そのため、中間在庫がふくれあがり従業員食堂にまで半完成品を置く様になる。その結果、従業員は食堂が使えなくなり、職場の加工機械の横で食事をする事になる。それでも相変わらず次工程の都合を考えずに生産を続け、経営者は外に倉庫を借りる事を考えはじめる。

購買部門は、受注に従いどんと発注をかける。一気に納入された材料は倉庫に格納される。生産計画は、注文書の納期に合わせ生産計画を立てる。その結果倉庫から生産計画に合わせ、材料が一度に出庫される。プレス工程はすぐに生産完了し、中間在庫に積み上げる。各職場が、自分の都合しか考えていない。

後引き生産にすれば、このような事は発生しない。
しかしロット単位でまとめづくりをしていると、後引き生産のメリットが中々理解出来ない。いきなり小ロットで平準化生産しようと、指導しても理解して貰えない。材料の小口出庫が無駄、段取り替えがムダ、などなど100個もデメリットを並べ立てる(笑)

こういう時に、各部門の代表者に集まってもらって、各自の都合を話し合って貰う。これで上手く行くなら、とっくに問題は無くなっている!と言う声が聞こえてくる(笑)
続きが有る。

もちろん各自の都合を主張してもらっても,上手く行くはずはない。
各自の都合を話し合った後に、役割をチェンジしてもらい相手の立場で議論をしてもらう。
例えば、プレス工程、出庫係が立場を入れ替えて、議論する。

プレス工程の役割をしている出庫係は「一度に出庫されると、プレス工程現場に材料の置き場所がなくて困る」と言う。
「そうは言っても、何度も出庫作業をすれば効率が悪くなる」と出庫係の役割をしているプレス工程が反論する。こういう議論で、プレス工程の責任者が、プレス工程が自分で倉庫に材料を取りにいくと言うアイディアを思いつけば、大成功だ。

いかがだろうか?
この方法は、工場経営の師匠・原田師が実施していたジョブローテーションから思いついた。
原田師は管理職を定期的にジョブローテーションさせていた。製造部長が、購買部に異動になる。こういう事を頻繁にしていた。幹部は皆他の職場を経験しているので、相手の気持ちがわかっている。そのため部門間の対立は、簡単に調和出来る。
模擬ジョブローテーションとして,役割を変更してディベートをしてみたら上手く行くのではないかという発想だ。

まだこの方法を試した事はない。
もし試された方が有れば、是非ご一報いただきたい。


このコラムは、2016年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第469号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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続・朝礼の効果

 東京・浅草橋駅前で、毎朝通勤客に「ガッツ!」と気合いを入れているおじさんがいると、朝日新聞の記事に出ていた↓。

通勤客の中には、彼を見かけると一日ハッピーになる、仕事で落ち込んでも元気になれると言って「グータッチ」をして行く人もいるらしい。多分朝一番にグータッチをした人は、気分が盛り上がり、その日の生産性が上がるのではないだろうか?そして、通勤客が笑顔になり元気になれば、「ガッツおじさん」自身が元気になるはずだ。これが継続の秘訣だろう。ガッツおじさんは20年間「ガッツ!」を毎朝やり続けている。

会社の朝礼もこう有りたい。
毎朝従業員の気分が盛り上がる、朝一番からアクセル全開で仕事を開始できる。
大嶋啓介氏の朝礼は、まさにメンバーのテンションを上げる朝礼だ。

「てっぺんの朝礼」大嶋啓介著

youtubeの動画にも大嶋啓介氏の朝礼の様子が紹介されている。興味が有る方はyoutuveで「大嶋啓介」を検索すれば、多くの動画が見つかる。

問題は継続だが、先週のメルマガ「継続のコツ」に書いた様にコツを押さえれば継続は可能だ。

朝礼の式次第を決めておく。誰でも同じ様に毎朝出来る様にしておけば良い。
注意点は、朝一番に盛り上がる内容とする事だ。
前日の問題点をだらだら話したのでは、朝イチから気分は盛り上がらない。
昨日の問題は昨日のうちに解決しておく。朝礼ではアクションの確認だけで良い。

こちらもどうぞ「朝礼の効用」


このコラムは、2016年1月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第458号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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