生産改善」カテゴリーアーカイブ

続・質問の力

 先週は「質問の力」について記事を書いた.「質問の力」の具体的な事例を紹介したい.

生産現場に行くといつもと違うところで生産の流れが停滞している.通常ボトルネックではない工程がボトルネックになってしまっている.

そこで組長さんを捕まえて質問を始める.
私「このライン調子はどう?」
組長「生産量が上がっていません」

私「どうして?」
組長「○○の工程に新人が入っています」

私「新人だとどうして生産量が落ちるの?」
組長「作業にまだ慣れていません」

私「どの作業が慣れていないの?」
組長「テープを台紙から剥がした後にテープが丸まってしまって…」

私「どうしてテープが丸まるの?」
組長「作業に慣れていないから」

ここで質問と答えが無限ループに落ちてしまう.
実はこの工程では台紙からテープを剥がして製品に貼り付ける作業をしているが,台紙からテープを剥がした瞬間に静電気が発生する.作業者がテープを指先でつかもうとすると静電気で指に吸着してしまい作業がうまく行かないのだ.

ベテランの作業者はこれを経験として知っており,剥がしたテープを指で取りに行かない.逆に静電気の吸着力を利用して指のほうに吸い寄せている.

ベテランと新人の作業をよく観察すると違いは分かる.しかしこの現象のメカニズムに到達できる人はそうはいない.

そこでベテランと新人の作業の様子を指先を拡大してビデオに取る.
これを見せながらどう作業をしているか説明する.その後で静電気で吸着しているメカニズムを教える.

この順番にやらないと,消化不良を起こすだけだ.

質問をすることによって「生産量が落ちている」という現象の根本原因を突き止め,改善方法を考えてもらう.
難しい部分については,こちらで理論武装をしてあげなければならないが少なくともうまくできている作業者の動作を観察することによって新人に教えるポイントは見つけることができるだろう.

このように現場で,質問を繰り返すことによって始めて指導ができる.

生産量が落ちている.ボトルネック工程が変わっている.となれば経験のある管理者ならば,すぐに新人が投入されていると推定できるはずだ.そこで「新人に対してちゃんと作業訓練をしなさい」と班長に指示を出すことはできる.しかしこれでは班長はどう作業訓練すればよいか分からない.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事です。

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続・異常感度を上げる

 先週のメルマガ記事「異常感度を上げる」では,中国工場での正常と異常の閾値が我々が期待するレベルと大いに異なっている、という事例をご紹介した。この記事にたくさんの方に共感していただけたようで,コメントのメッセージを7件頂いた.
異常を異常と感じない事例を紹介いただいた方もあり,なるほどと,一人で頷いていた.事例を他の読者様とも共有したいと思う.

  • 3本並んだ蛍光灯が「チカチカ」していても、誰も取り換えようとも取り換え依頼をお願しようともしない。
  • 食堂に並んだ蛇口が壊れても、他が使えるので、問題ない。
  • 日本でギァから異音がすれば、大騒ぎになるが中国では、機械が動いている限り問題にならない。
  • 中国の露天でマグカップを買う、自宅に帰ってよく洗うとヒビがある。今のところ中身も漏れず、使用上なんら問題なければ、没問題となる。執拗に交換を迫れば応じてくれるが、交換したヒビのあるマグカップは、再び店頭に陳列される。

私が一番驚いたのは,中国工場で見たトイレのロック.
扉の取っ手の下にくるりと回すレバーがついており,固定部分に引っ掛けて外から扉を引いても開かないタイプのロックだ.
しかし扉は外から押して開くようになっており,ロックは機能しない.この扉が出来てすでに,何年もたっているようだが,そのまま使っていた.

このような代替のない機能不全まで,放置されているのに驚いた.

このような状況を打破するために,TPM(Total Productive Maintenance)の自主保全活動を,導入すると良いだろうと思っている.

I様からはこんなコメントを頂いた.

 小生、中国深せんに赴任中です。小生の専門はTPMです。中国でまさかTPMをやる事になるとは夢にも思いませんでした。日本の仲間は、TPMは中国人にはムリだと言っていましたし、小生もそうだと思っていました。が、違っていました。日本よりすんなり受け入れられたのです。苦労はしましたが、根付きつつあります。

大変心強いメッセージを頂き,私もTPMの導入推進に自信が持てた.


このコラムは、2010年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第167号に掲載した記事に加筆しました。

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職人の技、機械に伝承 44年の「勘」をデジタル化

 レーザーが当たると、金属の粉末がいくつもの四角形を描いて積み重なり、凹凸のある部品ができあがる。新潟県刈羽村にある従業員約170人のバルブメーカー、日本ドレッサーの工場では、大型の3Dプリンターが昼夜を問わず動き続けている。

 「熱を加えると、どう変形しますか?」。図面を手にした設計担当の三橋栄治さん(39)が尋ねると、顧問の田代為常さん(67)は「この材料は縮むので、少し大きめにつくろう」と応じた。田代さんはバルブづくり一筋44年。この会社の競争力を支えてきた「職人」の一人だ。

 その田代さんの職人技を、三橋さんがつくる設計図を介して3Dプリンターに学ばせている。親会社の米ゼネラル・エレクトリック(GE)から1年前に導入されたものだ。国内の製造業の働き手は減る一方。高齢化する職人たちの技術をどう伝承していくかが課題のひとつだった。

(朝日新聞デジタルより)

 日本のモノ造りを支えて来た職人の技を伝承しなければならない。私も同じ危機感を持っている。しかし職人の勘を3Dプリンターに学ばせると言うのは、違和感を持つ。

「熱を加えると、どう変形しますか?」
「この材料は縮むので、少し大きめにつくろう」
この会話は、多分非専門家の記者の理解だろう。熱を加えて縮む材料をバルブに使用しているとは思えない。例えば、加工中に熱が発生するので穴径は加工後縮む、と言う意味だろう。
確かにこれも職人の勘には違いない。しかしこのような問題はコンピュータでシミュレーション可能だ。職人は経験により一瞬の判断で収縮後の穴径が図面通りとなる様にドリル径を選択できる。コンピュータは時間はかかるがより正確にそれを計算できる。従ってコンピュータシミュレーションの結果を使い完成図面を加工図面に置き換えれば良いはずだ。

職人の真価は他にあると思っている。

同じくバルブを生産している佃製作所(池井戸潤「下町ロケット」・笑)は、手で加工する技術が高く、高性能なバルブを作る事が出来る。こういう技術は長年の積み重ねが必要だ。
長年の鍛錬によって磨かれた「巧みの技」がなければ、ディジタル化した「勘」も実際に加工が出来ない。こういう「巧みの技」を残せるのは日本しかないと思っている。

巧みの技を持っている中小零細企業が後継者難により、廃業せざるを得ないと言う事例があると聞く。日本の産業の財産が失われていく様な焦燥感を感じる。


このコラムは、2016年1月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第457号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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データは現場・現物で見る

 不良の低減とか生産性の改善をする場合,データは重要な鍵になる.しかしデータから見えてくることだけでは改善はできない.

例えば工程間の作業バランスを改善するために,各工程の作業時間を測定し机上で検討してもあまり良いアイディアは出ない.
つまり計測した作業時間データは,今の作業方法によるデータでありそれをいくらひねっていても大きな改善にはならない.

作業時間と仕上がり数量から平均作業時間を求めても何も分からない.このデータからは,作業者ごとの作業時間のばらつき,作業者間の作業時間のばらつきは見えてこない.

作業現場を良く観察することにより改善するポイントが分かる.着眼点はばらつきだ

理論的な作業時間分析どおりに作業ができていることはあまり無い.作業時間のばらつきから無駄な動作が見えてくる.作業者間のばらつきから,習熟度に依存してしまう作業や,細かな作業方法の違いによる効率の差が見えてくる.
これらは現場でしか分からない改善ポイントだ.

不良統計データも現場・現物で見直す.同じ不良現象の中に,別の原因が含まれている事がある.
例えば異物や傷による外観不良は統計データだけでは,改善ポイントは見えない.現場・現物を見ることにより初めてどこで,どうして異物や傷が発生しているかがわかる.

データを取る事が無駄というわけでは無い.悪さ加減を知る,改善効果を測定するためにもデータは必要だ.改善に役に立たないデータの収集や加工はやめる.その時間があれば現場に出かけるほうが効果が高い.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事です。

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続・改善のコツ

 先週のコラムで「改善のコツは,解決すべき真の課題を見極めること」と申し上げた.例えば不具合が発生した場合などは,解決すべき課題が間違っていると,更に大変なことになる.

レストランで,料理に異物が混入しているのをお客様が見つけたとする.この時の優先解決課題は,異物混入防止ではない.まず優先して解決する課題は,目の前で怒っているお客様の不満足を解消することだ.

これは製造業でも同じだ.
顧客工程で不良品が見つかった時に,お客様は同一ロットの部品を使って生産を継続してよいかどうか,まず悩むはずだ.それに対して適切な解決策をまず提供することが必要だ.顧客のラインが止まっているのに,再発防止対策の話などしても顧客不満足は解消できない.

不具合発生に対し,不具合が発生しないようにするのが解決課題ではあるが,それが第一優先の解決課題でないことは,顧客視点で考えれば明白だ.

まずは「応急処置」をする.その上で,不具合が発生しないように改善する.
その改善の着眼点は,

  1. 原因を除去する.
  2. 原因があっても影響が出ないようにする.
  3. 影響を軽減する.

例えば,購入したプリント基板のダンボールを開梱する時にプリント基板のパターンに傷をつけてしまい,部品実装後に機能不良が見つかる不具合があったとする.

パターンに傷をつけてしまう原因は,カッターナイフで段ボール箱を開梱するからだ.

  1. 原因を除去する.
    納入用の梱包を,コンテナ通い箱にする.
    開梱にカッターナイフを使用しなくて良くなる.
  2. 原因があっても影響が出ないようにする.
    段ボール箱の上下に,段ボール紙を敷く.
    ダンボールに傷がつくだけでプリント基板には影響なし.
  3. 影響を軽減する.
    最上段のプリント基板は,部品面を上にする(片面基板の場合)
    傷がついてもパターンは断線しない(ただし外観不良になる可能性はある)

これは過去に遭遇した工程内不良の事例だ.
当時私が取った対策は,カッターナイフで開梱するのを止める,だった.プラスチック片の先端を切り落とし,尖った形状にしてカッターナイフの代わりとした.これならば梱包用の透明テープは切ることが出来るが,銅箔には傷がつかない.


このコラムは、2011年8月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第217号に掲載した記事です。

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改善のコツ

 「人生を変えるほんの小さなコツ」という本が8月8日に出版される.

この書籍は,「たった一つの小さなコツがあなたを変える」というメールマガジンで小さなコツを配信し続けている野澤卓央氏が書かれたものだ.毎日メルマガを書き1500個以上のコツを配信されている.

私たちにも大いに参考になるコツが出ている.

「大きなことを達成したければ,
 大きなことをしようとせず.
 些細な習慣を身につけたほうがいい」

改善も同じである.
いきなり大きな改善を達成しようとしても,困難なことが多い.
もちろん困難であればあるほど,改善がうまく行ったときの達成感は大きくなる.しかし成功体験がまだ少ない場合,改善メンバーの心が折れてしまうのが一番怖い.

まずは,小さな改善を毎日継続することだ.小さな改善を積み重ねることによって,その次にある大きな目標も見えてくる.

このようなことは教えて分かることではない.毎日改善を繰り返すことで,気が付くモノだ.

「人を育てるコツ
 大切なことは教えるのではなく気付かせる」

改善をする時には,適切な相談相手を持つことが重要だ.

「相談相手を選ぶコツ
 夢のない人があなたの夢を笑う」

適切な相談相手でなければ,あなたが達成しようとしている状態を理解できない.つまり相談しても,得られるものはない.逆にそれは無理だと笑われる.

しかし専門家に相談すればよいということではない.
最近,完成品倉庫が狭くて困っているという相談を受けた.
これをMRPの開発をしているシステム屋さんに相談すれば,MRP導入のアドバイスがもらえるであろう.しかし完成品倉庫が狭いというのは,出荷量よりたくさんモノを造るからだ.この問題を解決せずにMRPを導入しても,問題解決にならないばかりか,生産改革のチャンスを失う.

「完成品倉庫が狭い」という問題は,必ずしも解決課題ではない.
完成品倉庫が狭いのはなぜか?という問題の深掘りをし本当の解決課題を見つけなければならない.

では最後に私の改善のコツを

「改善の最大のコツは
 解決すべき真の課題を見極めること」


このコラムは、2011年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第216号に掲載した記事です。

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データの活用

 データを活用して仕事のパフォーマンスを評価する。生産活動の中で日常的に行われていると思う。SPC(統計的工程管理)SQC(統計的品質管理)もその一種だが、1日の生産量、品質の出来映え、納期の遵守率など単純なデータで管理する事も多い。

管理すべき指標に合わせて採取するデータが変わる。
例えば、生産量のデータを毎日記録していても生産性は分からない。生産に要した時間、作業人数を記録する事により一人当たりの単位時間生産量が計算できる。これが生産性の指標になる。

当たり前の事だが、これが出来ていない工場を時々見かける。
ある工場では、品質指標として「直行率」(手直しなしで工程内検査を合格する率)と「品質達成度」を毎日記録していた。「品質達成度」が平均90数%となっている。
日々の推移を見るグラフでは、ほぼ毎日100%を達成しており、1日だけ85%と言う日が有った。これで平均が100%近くになるはずはない。よく見ると、品質達成率が125%の日がある。
またもう一つの品質指標である「直行率」を見ると、0%(手直せずに完成する製品が0個と言う意味)の日が沢山ある。

このような状況で、平均90数%の「品質達成率」と言うのは奇異だ。担当者に「品質達成率」の意味を尋ねると答えられない(笑)

このように作成したグラフが、毎月の経営会議なり品質会議で一人歩きしている。

どこかに間違いがあるはずだ。収集しているデータがおかしい、データを計算しているExcelの計算式がおかしい、指標そのものがおかしい、と言う事を確認しなければならない。

実はこのような事はままある。
標準作業時間を決める時に、ストップウォッチで作業時間を計測しただけの値を使っている。
部品調達率を計算する時に、ベンダーの納期回答に対する差異を使っている。
ベンダーの品質能力の指数に、受け入れ検査合格率だけを使っている。
顧客に対する納期遵守率に、納期変更後の日付を使っている(苦笑)

例を挙げれば、いくらでも出て来るだろう。

またこのような事例は現場だけではない。
経営者がバランスシートしか見ていないのでは?と疑問を持たざるを得ない事例を良く目にする。この様な工場では、材料在庫、中間在庫、完成品在庫が大量にある。こういう状態で受注が増えれば、あっという間に資金がショートし倒産する。

事例に挙げた工場では、コンサルに指導を受けてKPI管理をしている。
グラフを作成するためのExcelシートはコンサルが提供してくれたそうだ。管理すべき指標が正しいのか、指標が正しく管理出来ているのかをコンサルは指導しなかった様だ。

こちらもご参考に
「データの活用」


このコラムは、2016年8月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第488号に掲載した記事です。

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単機能人材

 中国で生活していると色々な場面で,仕事が細分化され,それぞれの仕事に人が割り当てられているのを見る.

レストランに行くと,入り口にいるチャイナドレスの女性が客を席に案内する.それで彼女の仕事は終わりだ.次にテーブルの食器を準備する服務員が来る.この服務員に料理をオーダすることは出来ない.担当が違うのだ.メニューを持って来てくれれば,運がいい方だ.
その後黒服を着たオーダ受付係が来る.
料理を運んで来る者も,運んで来るのが仕事だ.テーブルの上に料理を並べたりはしない.別の服務員がテーブルに並べる.
皿を下げに来た服務員にお勘定を頼んでも,別の人が勘定書を持って来る.
全ての作業が役割分担されており,お互いにその分担線を越えたりはしない.
キャッシャー担当は,他がどんなに忙しくとも持ち場を離れることはない.
このような組織は,相互の連携が重要となるが,運が悪いと延々と待たされることになる.

オフィスの近所には,靴を生産する零細工場がいくつかあるが,採用募集の貼り紙を見ると,ミシン工,裁断工,手縫い工,雑用をこなす普工と細分化されているようだ.

品質保証部の中も細分化されている,受け入れ検査,工程内品質管理,出荷検査,品質エンジニア,顧客クレーム担当,ISO担当,それぞれに管理者がおり,作業者がいる.

このような組織は往々にして,部分最適となりがちだ.自部署のエゴで仕事をしがちなので,更にこれらを束ねる管理者が必要となる.

製造現場も同様であり,班長は自工程で決められた量だけ決められた時間内に仕上げることだけが仕事だと思っている.改善は別の人がやるモノ.へたをすると,品質は検査係の仕事だと思っている.

作業員やスタッフの流動性が高いために,この様なスタイルとなったのだろう.各自の作業責任範囲を狭くして,短期間で熟練出来る様になっている.しかしこの方法は,流動性が高いという問題を解決する対策にはなっていない.毎日同じ仕事をしていれば,成長感を感じられず転職して行くことになる.悪いことに,意欲の高い者から辞めて行く.

ある工場では,加工の前処理作業を一人のベテラン作業員が担当していた.彼女が辞めてしまうと,別の作業者が熟練するまでの間,生産が停滞する.他の作業員の育成をする必要があるが,経営者は彼女は病弱な夫と子供を抱えており,辞めたりしないと言い切っていた.従業員一人一人の家庭の事情まで把握できており,立派な経営者と感じたが,それが本当の従業員のためになっているとは思えない.

その工場では彼女一人しか出来ない作業だが,作業そのものは単純な研磨作業だ.他の工場に転職しても,同じ様に高い給与がもらえるとは思えない.更に悪いことに,そのベテラン作業員は自分の職位を守るために,他の作業員に作業のやり方を教えたりはしない.

従業員思いの経営者ならば,彼女が辞職した後も生活できる様にするだろう.
単機能人材に,高い給与を払ってやることが思いやりではない.それでは飼い殺しだ.

多機能人材を育成すれば,どこの工場に転職しても良い給料が得られる.これが本当の意味での「雇用の保証」だと思う.

多機能人材がどんどん育つ仕組みを作れば,自社の経営効率も上がる.
製造現場では,セル生産方式などを導入するためには多能工を育成しなければならない.作業員ばかりではなく,スタッフも多能工化を進めることが必要だ.
まずは,現場の班長たちに改善も自分の仕事だと理解させてはいかがだろう.

こちらもご参考に
単機能人材
続・単機能人材


このコラムは、2012年7月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第268号に掲載した記事に加筆しました。

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PK活動

 PK活動というのは「ピカピカ・カイゼン活動」のことである.まずは職場の掃除を徹底し,職場や生産設備をピカピカにする.

効果は職場がピカピカになって気持ちが良いだけではない.
職場や設備をいつもピカピカにしておくとちょっとした異変にすぐ気がつくようになる.

いつも油で汚れた床だと,機械から油が漏れていても気が付かない.
設備を毎日拭き掃除をしていると,設備のガタや緩みにすぐに気が付く.

ピカピカにすると言うことは単なる清掃ではなく,予防保全活動である.
小さな異変にいち早く気がつき,問題が発生する前に対策が打てる.

そして職場の整理・整頓を徹底する.
整理・整頓の対象は物だけではない.工程も整理・整頓する.
こうすることにより,工程の流れや作業のムダが良く見えてくる.

工程の流れが良く見えると,不必要な運搬や,流れのつなぎ目で無駄な作業をしているのに気が付く.
作業者の動きをじっと見ると無駄な手の動き,作業のムラ,無理な姿勢が見えてくる.
これらを徹底的に減らしてやれば,生産改善ができる.

いわば整理・整頓・清掃を徹底的にやり生産性を上げるという活動である.

生産改善のために自動機を導入する.すばらしいことだが,まずはPK活動,5S活動のように身近な改善をすることだ.こういう現場の活動を飛ばして自動設備を導入しても,ムダも一緒に自動化してしまうことになる.


このコラムは、2008年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第43号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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まとめ造りの無駄

 日系、中華系を問わず多くの生産現場でまとめ造りをしておられるのを、見かける。
一つの工程で複数の作業がある場合、一つの作業を全てのワークに施してから次の作業も同様に全てのワークに施す、このような作業方法を「まとめ造り」と呼んでいる。
それに対して、一つのワークに全ての作業を施し工程の作業を完成させ、順にワークを完成させて行く作業方法を「一個流し」と呼んでいる。ベルトコンベア作業は必然的に「一個流し」作業となる。

先週訪問した工場でも「まとめ造り」をされていた。
各工程で、加工ロット分のワークをまず作業台に並べる。まとめ造りで全てのワークに1作業ずつ作業し、工程作業を完成させる。その後机の上に並んだ作業済みワークをコンテナに入れて、次工程に送る。こんな作業方法を採用しておられた。
コンテナからワークを取り出し作業台に並べる、作業台に並んだワークをコンテナに戻すと言う作業が無駄だ。ベルトコンベアはなくても、一個流しは可能だ。未加工ワークをコンテナから取り出し、全ての作業を完了させた後、加工済みコンテナにワークを入れる。一個流しで作業をすれば、取り置き動作を省ける。従って一度に加工する個数が多ければ多いほどまとめ造りの無駄は多くなる。

一緒に現場を案内してくださった日本人指導者は即座にこの理屈を理解された。
しかし現場のリーダ達は、なかなか納得してくれない(笑)「絶対にまとめ造りをした方が速い」と譲らない。習慣による思い込みだろう。

こういう場合は、いくら理論的に教えても効果はない。体験で腑に落ちる様にしなければならない。教えても、今までの経験や学習によって積み上げた知識がそれを否定すれば、新たな学びは発生しない。体験する事により、今までの経験や学習を通して、新たな知識を作り出す事が出来れば学びが発生する。
つまり「学び」とは、上から与えられて発生するモノではなく、体験を通して自分の中で作り上げるモノだ。

「一個流し」の優位性は、以前このメルマガでご紹介した「封筒貼り」実験で体験できる。

「まとめ造りvs一個流し」↓

まとめ造りvs一個流し

批量制造vs一个流

10枚分の封筒貼り実験で、一個流しの方がまとめ造りより1/3近く速かった。


このコラムは、2015年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第450号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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