月別アーカイブ: 2022年7月

チェックリスト

 先週号でポカミスについて記事を書いたが、ミスの防止(流出防止)にはチェックリストが良く使われている。一種のダブルチェックだ。
今回はチェックリストの効能を別の切り口で考えて見たい。

私は自分一人でする作業にも自己チェックリストを作っている。
定例セミナーの開催にも自己チェックリストがある。
当日会場に持って行く物リスト。講演テーマの決定、会場の予約、セミナーの告知、参加者への会場案内、参加者へのお礼、議事録の作成など一連のスケジュール。
これらがチェックリストの形になっている。

持ち物リストは前の日にプリントアウトし、鞄につめながら各項目にレ点を付けてゆく方式になっている。
スケジュールリストはwebのスケジュール管理ソフトにTODOとして登録してある。その日にしなければならないTODOアイテムが朝メールで届くようにできる。

こんな仕組みによって「ついうっかり」を防止している。

このチェックリストにはもうひとつ目的がある。
将来この仕事を部下に任せるときに、このチェックリストが業務マニュアルになる。
スケジュールリストは仕事の流れに沿って時系列にTODOアイテムが並んでいる。
各TODOアイテムごとに、誰と相談して決めるか、誰の承認決済を貰うかなどを追加してゆけば立派な業務マニュアルになる。

ホワイトカラーのオフィスワークは非定型要素が多くあり業務マニュアルを作るのが困難だ、という話を良く聞く。そう考えていたら一生かけても業務マニュアルなどできない。

まずは不完全で良いから、チェックリストを作る。それを運用しながら改善する。この運用・改善のプロセスを通してチェックリストに魂を入れる事ができる。

持ち物リストのようなモノは業務マニュアルまで昇華することは少ないかもしれないが、将来業務マニュアルに進化させることを前提にチェックリストを作れば良いのだ。

自己チェックリストができたら、相互ダブルチェックが働く仕掛けを用意する。
例えば業務プロセスが完成し報告書や伝票などを上司のチェック・承認を貰うために提出する時に、自己チェック済みのチェックリストを添えて提出するように義務付ける。

まだ業務に慣れていない部下には上司が部下と一緒にチェックリストを内容をチェックする。こうすることにより上司は部下のその業務に対する理解度、習熟度が把握できる。このプロセスがOJTそのものだ。

こういう習慣をつけることにより「ホウレンソウ」もうまく行くようになる。
必要があれば、このような「報告・連絡・相談」アイテムをチェックリストの中に入れておけば良い。「ホウレンソウ」とは部下から上がってくるのを待つのではなく、部下が「ホウレンソウ」をするように上司が仕向けることだ。


このコラムは、2009年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第106号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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中国工場の力

 先週は、広東省恵州市にある中国大手家電メーカの工場を訪問した。
副総経理の案内で30分ほど生産現場を見せていただいた。工場を一目見て、日本人が指導した工程だとすぐにわかった。

一年前に訪問して、これではダメだと私を連れてきた友人はその変貌振りに驚いていた。多分この一年の間に、日本人を招聘し指導を受けたのだろう。短時間の訪問だったため詳細は分からないが、少なくともパッと見には良くできた組み立てラインになっている。

台湾、香港を含めた中華系企業は顧客に品質が悪いといわれると、すぐさま検査装置を買ってくる。これで品質は大丈夫だという考えだろう。
これでは良品を選択しているだけで、品質は良くならない。

しかしこういう割りきりがあるため、日本人を連れてきて工程改善をする、ということをいとも簡単にやってしまう。技術を教わればそのレベルには容易に到達できる。

しかし日本のモノ造りのココロの本当の強さは、技術的なノウハウではないと考えている。本当の強さは、毎日現場が進化する仕組みと仕掛けだ。私の仕事も、コンサル契約が終わった後も現場が継続的に改善を続けるようになることだと考えている。

中華系企業がこれに気がついたときに本当の競走が始まると考えている。


このコラムは、2009年6月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第103号に掲載した記事です。

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禄を求るには

zhāng(1)xuégān(2)yuē:“duōshènyánguǎyóuduōjiànquè(3)dàishènxíngguǎhuǐyánguǎyóu(4)xíngguǎhuǐzàizhōng(5)。”

《论语》为政第二-18

(1)子张:孔子の弟子。姓はせんそん、名は師、あざなは子張。
(2)干禄:士官し俸禄を求めること。
(3)阙:取り除く、はぶく。
(4)尤:人に咎められること。
(5)在其中:求めずとも得られる。

素読文:
ちょうろくもとむることをまなぶ。いわく:“おおきてうたがわしきをき、つつしみてあまりをえば、すなわとがすくなし。おおあやうきをき、つつしみてあまりおこなえば、すなわすくなし。げんとがすくなく、おこないにすくなければ、ろくり。

解釈:
子張は士官のしかたを学びたがった。孔子曰く“多くの意見を聞き、疑わしいものは避け、謹んでその他の確実なことを言っておれば、悔いはないだろう。多くを見て、危ないことは避け、自信のあることだけを言っておれば、悔いはないだろう。発言に咎めなく行いに悔い少なければ、禄を得ることはできるだろう。”

孔子は高名すぎて、どこからも士官の声がかかりませんでした。
子張は優秀ではあった様ですが、孔子の弟子たちの間では評価が低かった様です。
孔子より48歳年下であり、その他の弟子たちから軽んじられていたのかもしれません。

君子の心得
五美と四悪
賢者を尊び、衆を容れる
聞は達に如かず
聞は達に如かず
恭寛信敏惠ならば仁
ともに仁を為す 曾子の子張に対する評価も高くはない
難きを為す 子游は子張に対し「然しかれども未いまだ仁じんならず」と言い切っています。

自責で考える

 失敗の原因を追求し適切に再発防止対策をする。不良改善の鉄則だ。
工程内不良でも、客先不良でも「人為ミス不良」が原因という不良解析が多い。作業者にとっては「自責」であるが、不良を解析する生産現場のエンジニアや品質担当者にとっては「他責」だ。こういう不良解析をしていると、対策として「作業者に注意した」「作業指導をした」などという効果の実感できない再発防止対策となる。

自責で考える必要がある。
例えば「作業方法がやりにくい」という原因であれば作業方法の改善、治具化、設計変更などの対策を検討すべきだる。「作業員の勘違い」であれば作業指導書の記述を改善すべきだ。

他責にすれば有効な解決方法は見つからない。
景気が悪いから売り上げが上がらない。
作業員の人件費が上がったので利益が減少。
顧客の使用方法が悪いから壊れる。

これらの分析は全て「他責」であり、言い訳程度の効果しかない。「他責」をやめなければ成長はない。


このコラムは、2021年11月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1216号に掲載した記事です。

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メモリィの寿命

 5~6年の利用で制御装置のメモリーが寿命となり、後方カメラや運転支援システムなどの機能に不具合が生じると指摘している。

日本経済新聞

テスラのリコール記事だ。記事には続けて以下の文章がある

NHTSAによると、対象車両の制御装置は容量8ギガ(ギガは10億)バイトのNAND型フラッシュメモリーを搭載する。車を起動するたびにメモリーを消費し、平均5~6年で制御装置そのものが故障するという。

車を起動するたびにメモリィを消費し平均5~6年でメモリィが故障する、とはどういう意味なのだろうか?
起動・停止時に初期化したり、走行記録(例えば走行距離の積算値など)を不揮発メモリィに書き込むことになるだろう。毎日車を起動・停止したとして6年で5000回程度の書き込みとなる。この程度で寿命となる半導体メモリィがあるのだろうか?

他紙は、ボンネットにあたる部分が走行中に開いて視界を遮るおそれがある、と報道している。後方映像が表示されないのはトランクの開閉でケーブルが損傷するためとしている。

いずれにせよフラッシュメモリィが5~6年で寿命になるとは思えない。
プログラムのバグで記録エリアのアドレスポインタの更新が5~6年でオーバフローするというのはありそうだが。

日本経済新聞には技術系の記者も大勢いるはずだ、記事のチェックが漏れたのだろうか?

【編集後記】
記事の技術的な内容が間違っていても困る人はほとんどいないでしょう。
メモリィは5、6年で壊れる、と思ってもらえれば電気製品のメーカは喜ぶかもしれません(笑)
困るのは、よそ様の失敗から学ぼうなどという欲深かの人だけです。


このコラムは、2022年1月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1239号に掲載した記事です。

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ケアレスミスと人為ミス

 人の作業ミスにケアレスミスと人為ミスがある。普通はこれらのミスを区別することはないだろうが、今回はこの二つのミスについて考えたい。

ケアレスミス:注意不足で発生するミス。
人為ミス:人が関わるミス。ヒューマンエラー。

人為ミスの中にケアレスミスが含まれているような図式だが、

  • ケアレスミスを注意力という属人的なものに依存するミス。
  • 人為ミスは人の思考・動作などに関わるミス。

と分類してみた。

例えば外観検査で、未検査のものを検査済みと間違え合格とするのは、ケアレスミス。
合格基準に満たないものを合格と判断するのは、人為ミス。

どちらも人に関わるミスだが、原因が違う。ケアレスミスは「不注意」という属人的な問題。一方人為ミスは認知、動作など人の特性に依存する問題。
このように分類して考えてみよう。

普通に考えると、ケアレスミスは注意して作業をする、ダブルチェックする、などというあまり効果・効率を期待できない対策をとりがちだ。

一方人為ミスを属人的な問題と考えてしまうとケアレスミスと同じになってしまうが、人の動作や認知の特性によって発生する問題と解釈すれば、個人に依存しない対策を考えることになる。

こう考えれば、
「間違った方法では作業できないようにする」という発想が生まれるはずだ。
つまり冒頭で申し上げたケアレスミスと人為ミスのどちらもミスが発生しない方法を考えるということだ。

人が絡むミスを一括りにしてしまうと「作業員に再教育」など効果が疑わしい対策になりがちだ。誰がやっても同じ効果が期待できる作業方法の改善を考えるとよいだろう。

例えば、
ケアレスミス:注意力を発揮しなくてもよい作業方法に変える。
人為ミス:人の判断を極力減らす作業方法に変える。


このコラムは、2022年1月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1242号に掲載した記事です。

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中国ゼロコロナ政策に暗雲、トヨタやVW天津工場停止

中国ゼロコロナ政策に暗雲、トヨタやVW天津工場停止

 中国のゼロコロナ政策を受け、トヨタ自動車とドイツのフォルクスワーゲンの現地工場は約1週間前から操業を停止している。新型コロナウイルスのオミクロン変異株が中国という世界最大の自動車生産拠点で感染拡大し始める中、世界的メーカーの運営に支障が出る兆しを示すものだ。
(以下略)

四季報オンラインより

                   

 中国は冬季オリンピックの開催もあり、何としてでもコロナを抑え込もうとしている様だ。私が住んでいる広東省東莞市でも、コロナ感染者が見つかると、その地域をロックダウン(マンション単位だけでなく、道を封鎖し町内ごとロックダウンしたりする)さらに住民全員を対象にPCR検査を実施する。

私が住んでいる地域から少し離れた場所でコロナ感染者が見つかった時は連続3日間全員PCR検査が実施された。午前中検査すると、夕方までにその結果がスマホに反映される。日本の報道でPCR検査をしても結果は翌日以降になると聞いた。千人単位のPCR検査結果を半日で出す中国の体制が、とんでもない事だと気がついた。

まさに中国の国家メンツに欠けてゼロコロナを目指している様だ。

これを「失敗から学ぶ」で取り上げるのはちょっと奇異かも知れない。
不動産企業のデフォルト、コロナ禍による経済停滞、国民の厭世観などにより何かとんでもないことが起きるのではなかろうかと危惧している。
つまりまだ発生しない失敗を畏怖しているといえばよかろうか?


このコラムは、2022年2月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1249号号に掲載した記事です。

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一粒の麦

 「まことに、まことに、あなたがたに告げます。一粒の麦がもし地に落ちて死ななければ、それは一つのままです。しかし、もし死ねば、豊かな実を結びます。」

(ヨハネの福音書 第12章24節)

青山繁晴氏の「僕らの哲学」に出ていた一節だ。青山氏はこう書いている。
人間は誰しも一粒の麦に過ぎない。自分だけは死にたくないと生きていれば、ただ一粒の孤独が永遠に続くだけだ。むしろ死ぬことによってこそ、次の命に繫がり、空しさから救われるのだということです。

私はまだその境地には至っていない。
友人がコロナに罹患したと聞けば、近所の寺に恢復の祈願に通う。
かのオールドパーのように168歳まで生きられるとは思わないが、まだ覚悟はできていない。友人も自分もこの世から消えてしまうのに耐えられない。

せめて何をかこの世に残し、人々の記憶に生きたいと願う。
オールドパーのように自由奔放な人生で毎夜人々の記憶に蘇るもの良いが私にはその「素質」はなさそうだ(笑)

できることなら、生きている間に関わる人の中に麦を撒きたいものだ。


このコラムは、2022年1月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1241号に掲載した記事に加筆したものです。

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異端は害あるのみ

yuē:“gōng(1)duān(2)hài。”

《论语》为政第二-16

(1)攻:学ぶ
(2)异端:異端の教え。老荘思想のことを指すと思われる

素読文:
いわく:“たんおさむるは、がいあるのみ。”

解釈:
子曰く:“異端の学問を学んでも害があるだけだ。”

今も昔も他派の学説を退けるというのは変わりがない様です。

楽観主義と悲観主義

 若い頃は楽観主義は軽薄な印象でカッコ悪いと思っていた。こう言う考えそのものが軽薄短小であるとは思いもよらず、深刻ぶってものを言ったりする。学生運動の最後の尻尾あたりにいた我々世代には、同類が多いような気がする。

全共闘の東大安田講堂占拠は高校1年。
三島由紀夫が市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部で割腹自殺したのは高校2年だった。

多分最後の学生運動世代と言えるだろう。
大学生の頃、周囲には学生運動の残党がまだ大勢いた。国や政治と戦うのではなく、セクト間の闘争に変容していったように思う。

そんな時代に青春時代を過ごすと悲観主義的傾向が強くなるのかも知れない。

悪い出来事に対して
悲観的な人は普遍的な原因があると考える。
楽観的な人は悪い出来事には特定の原因があると考える。

良い出来事にたいして
悲観的な人はよい出来事は特定の原因があると考える。
楽観的な人はよい出来事には普遍的原因があると考える。

つまり悲観的な人は、
悪い出来事は普遍的理由があり、避けることはできない。
良い出来事は特定の原因があり、自分がその恩恵を得ることはない。

楽観的な人は、
悪い出来事は特定の原因があり、避けることができる。
良い出来事は普遍的理由があり、自分もその恩恵を受けることができる。

つまりネガティブシンキングでは、悪いことは皆に起きるのだから避けることはできず、良いことは自分には起きない。
ポジティブシンキングでは、良いことは皆に起きるのだから自分もその恩恵を受けられ、悪いことは避けられる。

これはもう「ニヒル」を気取っている場合ではない。
即座に楽観主義に切り替えようと決意した(笑)


このコラムは、2022年1月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1247号に掲載した記事です。

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