月別アーカイブ: 2019年8月

スピード出すぎる滑り台

スピード出すぎる滑り台、15人がけが…オープン前に使用禁止

 生駒山上遊園地(奈良県生駒市)にある滑り台で6、7両日、子ども約15人が頭に軽いけがを負っていたことがわかった。滑り台は、13日にオープン予定の有料ゾーンに新設され、子どもらはプレオープンに招かれていた。遊園地の運営を手掛ける近鉄は、当面は使用中止にするとしている。

読売新聞オンラインより

 記事によると、滑り台はチューブ形で長さ25メートル、高低差10メートル。負傷した子供達は滑走中に上部に頭をぶつけ、たんこぶや擦り傷ができた。スピードが出すぎて、体が浮き上がるなどしたことが原因と考えている様だ。

更に近くにある別のチューブ形の滑り台では、8日に女性従業員が試験的に滑った際、右足が引っかかるなどして骨折している。

遊具業界での評価手法に関して無知だが、今回の事故を「妥当性評価」で発覚した不適合と考えて見た。

まず安全性を考慮に入れて設計する。体格、体重などにより滑り台の諸元を決定るす。設計結果はシミュレーションや過去の知見などにより問題ない事を設計検証する。
完成した滑り台現物が設計諸元と一致している事を確認するのが、検証評価だ。
そのあと実際に使用して見て、設計時に想定できなかった使用法がないことを確認するのを妥当性評価という。
妥当性評価の最終段階では、実際に子供が滑って想定外の滑り方がないことを確認する。

記事だけでは判然としないが、安全性の検証評価が完了する前に妥当性評価を行ってしまった様に見受ける。

6、7日の事故が発生した時点で安全性検証をやり直すべきだった。しかし8日には女性職員が骨折する事故を発生させている。「骨折」と記事に書いてあるが「全治◯ヶ月の重傷」と表現すべき負傷なのではなかろうか?

13日の営業開始に合わせて、本来行わなければならない確認ステップを省略してスケジュールの遅れを挽回しようとしたのではなかろうかと疑念を感じる。

安全より優先すべきスケジュールなどない。


このコラムは、2019年7月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第850号に掲載した記事に加筆しました。

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聞は達に如かず

zhāngwènshìwèizhī(1)
yuēzāiěrsuǒwèizhě
zhāngduìyuēzàibāngwénzàijiāwén
yuēshìwén(2)fēizhězhìzhíérhàocháyánérguānxiàrén(3)zàibāngzàijiāwénzhěrénérxíngwéizhīzàibāngwénzàijiāwén

《论语》颜渊第十二-20

(1)达:通达、熟達する。
(2)闻:有名望、名声が広まる。
(3)下人:对人谦恭有礼、礼儀正しく謙虚である。

素読文:
ちょうう。何如いかなるをこここれたつうべきか。
わく、なんぞや。なんじ所謂いわゆるたつとは。
子張こたえてわく、くにりてもかならこえ、いえに在りても必らず聞こゆ。
子曰わく、ぶんなり。たつあらざるなり。れ達なる者は、しっちょくにしてこのみ、げんさっしていろはかりてもって人にくだる。くにりても必ずたっし、家に在りても必ず達す。れ聞なる者は、いろじんりて、おこないはたがい、これりてうたがわず。邦に在りても必ず聞こえ、家に在りても必ず聞こゆ。

解釈:
子張が孔子に問う“士として「達」の境地とはどういうことでしょう。”
孔子が問う“「達」とはどういうものだと思う?”
子張答えて曰く“公的にも、私的にも名声を得ることだと思います”
孔子曰く“それは「名聞」であって「達」ではない。「達」なる者は実直にして正義を愛し、人言に惑わず、顔色に騙されず、人に対して礼をわきまえ謙虚である。公的にも、私的にも熟達しているということだ。「名聞」だけの者は、表面上仁を装っておれば公私とも取り繕うことができようが、それは断じて「達」ではない”

「士」を学者、読書人、知識分子、立志の人と解釈している例がありました。本稿では、志の高い人という意味で「士」と表記しました。

機械油漏れ

 中国の工場を見て驚く事がたびたびある。プラスチック成型工場で床に油のしみ込んだウェスが敷き詰めてある。聞くと金型の温度コントロールに使っている油が、温調機から漏れているので広がらない様にウェスで防波堤を作ったと言う。
シリコンラバーの成形工場では、おがくずで漏洩油の防波堤が作ってあった。
日系工場でも温調機の下にオイルパンをしいて漏洩油が床に広がるのを防いでいるのを見た事がある。

こういう応急処置をそのまま放置するのは大変危険だ。
油が漏れているのだから、油漏れを止めるのが修理だ。
そして油漏れの原因を突き止め、油漏れの再発を止めて初めて改善と言える。
油が広がるのを防ぐ(ウェスやおがくずを防波堤にする、オイルパンをしく)のは応急処置でしかない。放置すればウェスやおがくずの交換、オイルパンの油を捨てる、等のムダな作業が発生する。

最悪の場合おがくずやウェスに火の粉が入れば工場が火事となる。

そんな事はないだろうと言う油断が、災害を招く事になる。
全く同様の事例もある。
「失敗百選」の著者である中尾教授は、ご自身の研究室でのボヤ事件を書籍の中で紹介されている。上記の事例と全く同様におがくずで漏洩油の堤防を作り、そのおがくずに溶接の火花が入ってぼやが発生。消化器で消し止めた。その後研究室の学生はそのまま帰宅した。しかしおがくずの中でまだ火種が残っていれば、翌日研究室に出勤した時は全て消失と言う事もあり得る。

「失敗百選」中尾政之著

おがくずは、油がなくても爆発する事があり得る。
おがくずが舞っている室内で、静電気放電や、電動機、スイッチから発生する火花により爆発する事がある。「粉塵爆発」だ。
粉塵爆発は2014年7月28日配信のメルマガ第373号でご紹介した。アルミニウム、小麦粉、綿、紙粉でも粉塵爆発は発生する。

5Sの基本は、汚れをきれいにする事ではない。汚れない様にする事だ。


このコラムは、2017年8月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第547号に掲載した記事に加筆しました。

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粉じん引火か、幹部ら拘束 中国工場爆発、死者69人に

 中国江蘇省昆山市の経済開発区にある「中栄金属製品」の工場で2日朝に起きた爆発による死者は69人にのぼり、約190人が負傷した。工場で、これだけ大規模な惨事が起きることは中国でも珍しく、事態を重くみた習近平(シーチンピン)指導部は陣頭指揮のため、王勇・国務委員を現地に派遣した。

 国営新華社通信などによると、爆発は自動車のホイールの研磨をする作業場で起きた。工場内の粉じんに引火したのが原因とみられる。当局は同社の幹部ら5人の身柄を拘束し、安全管理などに問題がなかったか事情を聴いている。

 爆発があった工場に通じる道路は2日、警察官らが封鎖した。出入りができなくなったものの、多くの人たちが集まっていた。

 隣の工場の男性工員(24)は「大砲のような、ものすごく大きな音がした。働いている工場のガラスが割れた」。近くの工場に勤務する趙東舟さん(28)は、けが人を運ぶなど救援活動に参加。「全身がやけどで真っ黒になった人たちが次々と出てきた。焼けてしまって、服も身につけていなかった」と興奮気味に話した。

 姉が爆発のあった工場で働いているという許雨朋さん(32)はネットで事故を知って駆けつけた。「何が起きたのか、まったくわからない。姉の携帯電話もつながらない。心配でたまらない」と顔をゆがめた。

 ホームページなどによると、同社は1998年に設立された台湾企業。従業員は約450人で、アルミニウムのめっき加工などを手がけている。中国メディアは、同社が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に部品を供給していると伝えた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同開発区には昨年7月時点で、200社以上の日本企業のほか、約2千社の台湾企業などが入居している。

 日本企業の駐在員らでつくる昆山市日本人同郷会は、日本企業への被害は確認していないという。

(朝日新聞電子版より)

 爆発と言うと、引火性の高い物質が原因と考えがちだが、引火性の無い物質が爆発を起こすことがある。それが「粉塵爆発」だ。

引火性が全くない綿や小麦粉でも爆発は発生する。粉塵爆発の条件は、

  1. 空気中に一定の割合で微粒子粉塵が存在する。
  2. 発火エネルギー
  3. 酸素

この3点が揃うと粉塵爆発を起こす。

アルミニウムは引火性も燃焼性も無い。しかしアルミニウムの微粒子が空気中に一定の割合で存在すると、爆発を起こすことがある。

爆発の引き金となる発火エネルギーは、開閉器や電動機からのスパーク、稼働部分の摩擦熱が原因となる。また静電気放電によるスパークですら原因となる。

小さな発火エネルギーでも、局所的に空気中の浮遊微粒子が加熱され、そのエネルギーが近隣の浮遊微粒子に一気に連鎖し、爆発が起きる。

アルミ粉は、水と激しく反応し水素を放出する。放水消化をすると、二次爆発が発生する可能性もある。作業現場に消化スプリンクラーが設置されていると更に被害を拡大することになる。

綿や小麦粉の粉塵で爆発が起きた事例もある。粉塵が発生する現場は注意が必要だ。

対策は、
清掃、排気により空気中の粉塵を減らす。
粉塵環境の電設設備は、防爆対応品とする。
静電気の発生を抑える。(アイオナイザーはコロナ放電によりイオンを作っているので、逆に発火エネルギーを与えることになるかもしれない)

あなたの工場は大丈夫だろうか?
アルミニウムと言うキーワードではなく、粉塵と言うキーワドに着目すれば、金属加工だけではなく、木工、紙、粉体製品にも、適用範囲が広がる。


このコラムは、2014年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆しました。

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責任を負う自由

「責任を負う自由を与えれば、人は内に秘めている能力を発揮する」
スカンジナビア航空の社長カール・ヤンソンの言葉だ。
出典:「コーチングの技術」菅原 裕子著

「責任を負う自由」と言う言葉に違和感を持たれるかも知れない。
例えば、新製品の立ち上げに失敗したら責任を取って辞職する、と言うのは責任を負っているとは言えない。リーダが会社を辞めても、新製品の生産はスタートしない。

新製品立ち上げプロジェクトで「責任を負う自由」は次の様になるだろう。
新製品の立ち上げにコミットし、そのために必要な事柄に裁量権を与えられた状態。
例えば、
・必要なだけ残業しても良い(笑)
・必要な情報が手に入る。
・必要なリソースを使う事が出来る。
・アイディアを否定されない。
こういう状況に置かれれば、内に秘めている能力を発揮出来るだろう。

経営者として、いきなり若手の部下にこのような自由を与える事は勇気が必要だろう。しかし責任を取る自由を与えずに、能力を120%引き出す事は困難だ。

私はQCC活動が、「責任を負う自由」を体験する機会であり、訓練課程になると考えている。

前職時代に、設計、営業、生産管理、品証だけの事業部でQCC活動の推進役を担当していた。製造部門などはQCC活動に積極的に取り組むが、間接部門ばかりの事業部では、QCC活動の年間完結テーマ件数のノルマ達成にしか興味がない状態だった(苦笑)
この様な状況を払拭するため、「責任を負う自由」として活動資金を提供する活動テーマを募集した事がある。

数件活動テーマの応募が有った。しかしどのテーマも金のかかる活動内容ではなかった。彼らに取って「責任を負う自由」は金銭の問題ではなかった様だ。就業時間中に活動する価値のあるテーマだと認められた事が「責任を負う自由」と感じられたのだろう。

弊社は、複数の企業合同でQCC活動を実践する「QCC道場」を開催している。第一期QCC道場でに参加いただいた経営者様は、参加理由をメンバーに改善活動の楽しさを体験させたかった、と語ってくださった。参加された4サークルは、短期間の活動にも関わらず、年間効果金額10数万元から300数十万元の成果をあげた。彼らは「責任を負う自由」を体感出来たと思う。そしてその後もQCC活動を継続しておられる。


このコラムは、2017年8月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第549号に掲載した記事に加筆しました。

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孫子の兵法

 「百戦百勝は善の善なるものに非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するが善の善なるものなり」有名な孫子の兵法の一節だ。戦に百戦百勝するのが最善ではない、戦う前に勝敗を決するのが最善の戦略だ、という意味だ。

「失敗から学ぶ」というコラムで、人様の失敗を題材として未然防止対策を毎週検討している私としては、無視できない言葉だ。争いを好まない性格なので兵法とは距離を置いていたが、ちょっと勉強してみようと書籍を開いてみた。

超訳 孫子の兵法 「最後に勝つ人」の絶対ルール

なんだか安直なタイトルだが(笑)漢文読み下しの本を訳が分からず読んで眠くなるよりは良さそうだ。

「五事を整え、七計によって自他の実力を比較することで、実情をつかむ」
五事とは、道・天・地・将・法のことだ。
ちなみにソフトバンク孫正義の「孫の二乗の法則」 は、この五文字に更に20文字を足して5×5=25(5の二乗)文字で成功哲学を語っている。

「孫の二乗の法則 孫正義の成功哲学」

その五事の意味は
道:道徳、道理
天:天命、タイミング
地:地の利
将:リーダー
法:制度

これらの五つが整っていなければ戦いに勝つことはできない。

七計とは
主:主君が道に適っているか
将:将が優れているか
天地:タイミング、地の利があるか
法:組織の制度が整っているか
兵衆:兵卒の力量
士卒:将校の統率力
賞罰:将校、兵卒の働きが適正に評価できているか

これらの七つの観点で敵方と比較し勝算の有り無しを判断する。

勝算がなければ戦わない。五事を徹底的に磨き相手方の戦意を喪失させる。こういう戦い方ができれば、無駄な消耗戦や負け戦に巻き込まれることはない。

書籍にはこんな例が出ていた。
英文科を卒業した若者が、翻訳や通訳の会社に就職すると、同じような経歴の人が大勢いて頭角を表すことができない。しかし興味を持っている服飾業界に就職すると、英語能力が武器となり同期との差別化ができる。
漢文読み下しの書籍にはこういう事例はないだろう(笑)

中国には2500年も前からこういうことを考える人がいた、ということだ。
縁があり中国で仕事をさせていただいている我々も、こういう教えを吸収したいものだ。


このコラムは、2017年8月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第551号に掲載した記事に加筆しました。

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不良原因

 仕事柄非常にたくさんの不良再発防止対策書を見てきたし、自分自身で書くことも少なからずあった。本人は真剣に書いているのだろうけど、頓珍漢な対策書もある。詳細は書けないが、面白い(笑)事例をご紹介しよう。

研磨工程での傷不良に対し「力加減が不適切」と一次原因を分析、更に二次原因を「自主検査能力不足」としてあった。

これは全く論理があっていない。力加減が不適切ならば、傷がつくこともあるだろう。しかし自主検査能力不足が原因となって力加減の不適切は発生しない。

この様に逆から読み直してみれば、論理矛盾にすぐ気がつく。

連関図で一次、二次と直列につなぐからおかしくなる。

「力加減が不適切」は発生原因。
「自主検査能力不足」は流出原因。

発生原因と流出原因が重なると不良となる。連関図ではこの二つは並列になる。
簡単なことだが、担当している本人は気がつかなかったのだろう。こういう間違いを防ぐため、以下の様に指導している。
連関図(なぜなぜ5回)は逆から読んで見て論理矛盾がないか確認する。
不良原因は発生原因と流出原因をそれぞれ別に分析する。


このコラムは、2017年12月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第605号に掲載した記事に加筆しました。

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陽貨と孔子

yánghuò(1)jiànkǒngkǒngjiànkuì(2)kǒngtúnkǒngwáng(3)érwǎngbàizhīzhū(4)wèikǒngyuēláiěryányuē怀huáibǎoérbāngwèirényuēhàocóngshìér(5)shīshíwèizhìyuēyuèshìsuìkǒngyuēnuòjiāngshì

《论语》阳货第十七-1

(1)阳货:陽貨、又の名を陽虎。中国春秋時代の魯の政治家。
(2)馈:贈る
(3)亡:不在。『伺其亡』で不在を見計らって
(4)途:途中
(5)亟:しばしば

素読文:
よう孔子を見んと欲っす。孔子まみえず。孔子にいのこおくる。孔子きをうかが
いてきてこれはいす。これみちう。孔子にいて曰わく、来たれ、われなんじと言わん。たからいだきて其のくにを迷わすは、仁とうべきかと。曰わく、不可ふかなりと。事にしたがうを好みてしばしば時を失うはうべきかと。曰わく、不可なりと。日月じつげつく。とし我とともにせず。孔子曰わく、だくわれまさつかえんとすと。

解釈:
魯の大夫・陽貨が孔子に会おうとしたが、孔子は応じなかった。陽貨は孔子に豚肉を贈った。孔子は陽貨の留守を狙ってお礼に出かけた。折悪く帰りの途上で陽貨と出会ってしまう。
陽貨曰く:“あなたに話があるから家に来なさい”
陽貨は尋ねる:“胸中に宝を抱き、国家の混迷を傍観している者を仁者と言えるか?”
孔子:“言えません”
陽貨:“国政に従事したいと願いながら、しばしば機会を失う者を知者と言えるか?”
孔子:“言えません”
陽貨:“月日は流れ、歳は人を待ってはくれぬ”
孔子:“わかりました。いずれ仕官いたします”

孔子はいずれ仕官すると陽貨に言っていますが、陽貨に仕官しなかった。その理由は論語には出てきません。
陽貨が孔子を招聘したいと思っていた頃、陽貨は主に反旗を翻し魯の実権を握っています。孔子はこの件が気に入らなく陽貨に会おうとしなかったのではないでしょうか?

現地経営

 中国に現地法人を立ち上げて経営している日系企業を観察すると、大手企業と中小企業で大きな違いがあるような気がする。

大手企業の場合、経営トップは3年~5年で赴任交代。
中小企業の場合、経営トップが長期間赴任。

もちろんこの分類が全部ではない。例外も多く見聞きする。
しかし大方が上記のようなイメージではなかろうか?
大企業は、人材が豊富で現地経営者の交代要員がたくさんいる。
中小企業は、人材的制約により簡単には現地経営者を変えられない。
そんな事情も垣間見える。

ところで、中国における日系企業と欧米企業の違いも考えてみたい。
私の知見では、欧米系中国企業のトップは中国人。本社からの赴任者もいるが、部門トップのサポート役という印象だ。欧米グルーバル企業は、立ち上げ時には本社の社員が来るが、立ち上げが完了するとさっさと引き上げる、そんな印象を持っている。

たまに長らく中国に住み着いている欧米人にも出会うが、奥さんが中国人だ。(私の知るサンプル数が少ないので、これが一般的かどうかはわからない)

これは製造業ばかりではない。
例えば、カルフール、ウォールマートでは欧米人の社員を見かけたことはない。しかしイオンではたまに日本人と思われる方を見かけることがある。

欧米:現地経営に任せる。
日系:現地経営を信じておらず任せられない。
こんな図式を感じてしまう。

しかし「任せる」が丸投げになっているようでは、企業のブランドイメージが損なわれる場合があるはずだ。

例えば、カルフールやウォールマートで買い物をしていると、店員の対応で不愉快になることがままある。

  • 混雑時に商品展示の入れ替えをする。
  • レジで長らく並んだ挙句、商品のバーコードが読めず『買不了(買えません)』と言い放つ。
    (店側の責任なのに、謝罪は一切なし)
  • 混雑時に店内掃除係と荷出し係が客の前で喧嘩をする。
  • 混雑時に床清掃機に搭乗し顧客を蹴散らして床掃除をする。

イオンが最高とは言わないが、上記のような場面に出会ったことはない。

  • 職員はバックヤードから売り場に入る時一礼する。
  • レジ係は必ず同じ態度で接客する。

など教育が行き届いているように感じる。

この違いは、日本と欧米企業の「経営」に対する取り組みの違いにあるような気がする。
製造業で例えれば以下のようになるのではなかろうか。
工程内不良率が目標を達成すれば改善活動を止めるのが欧米流。
工程内不良率が目標を達成しても、更に目標をあげて改善するのが日本流。

経営効率を考えれば、欧米流の方が優れているのだろう。
しかし個人的には日本流に組したいと考えている。
そういう考えの日系企業が多いので、なかなか日本人赴任者が引き上げられないのだろう。


このコラムは、2018年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第671号に掲載した記事に加筆しました。

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JR西日本のぞみ破損

「異音後も運行、JR西謝罪 のぞみ破損、運転士マニュアル守らず」
朝日新聞デジタルの記事だ。

記事によると、のぞみ176号の運転士は博多―小倉間を走行中の6月14日午後2時5分ごろ、「ドン」という衝突音を聞いたが、東京指令所に報告せず。小倉駅でも点検せずに出発した。

JR西日本では昨年のぞみ34号で異常に気が付きながらそのまま運行すると言う重大インシデントを発生させている。

過去のメルマガ記事:
「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」
「のぞみ34号トラブル」
「組織事故」
「福知山線脱線事故」

今回の事故は、落下した先端部分に車両が乗り上げ脱線、と言う最悪シナリオもあり得ただろう。

報道によると、JR西日本の平野副社長は記者会見で以下の様に述べている。
異常時対応マニュアルで、運転士は走行中に異音を聞いた場合、東京の指令所に報告しなければならないと定めている。今回、運転士は「通常と全く違う音」を耳にしながら報告していなかった。「マニュアルを誤認したか、気が動転して伝える行為を抜かした可能性がある」という。

さらに、のぞみが人をはねた後、最初に停車した小倉駅では、駅員が先頭車両の連結器カバーに血が付き、ひびらしいものを目にして「違和感」があったが、報告したのは出発後。「(駅員は)そこまで重要な事象であるという思いはなかった」と説明した。

平野副社長は、破損した連結器カバー部分は運転士から見えず、駅員からもホーム柵があって見えにくいうえ、客の動きに気を取られていた事情があるとしながらも、「直ちに連絡すべきだった」と指摘。「運転士と指令員が話していれば、『小倉で下りて点検してくれ』ということになったと思う」と反省した。

JR西では台車亀裂問題を受け、再発防止のため、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」事を決めた。平野副社長は「迷った時は直ちに列車を止めるということを定着させる働きかけを、継続したい」と語った。

記事を読んで以下の様に感じた。
「異音」「違和感」を見逃した、と言う点ではのぞみ34号の重大インシデントとなんら変わりはない。のぞみ34号の事例は組織内に活かされていない、と言わざるを得ないだろう。

以前のコラム「福知山線脱線事故」で指摘した様にJR西日本には「組織事故」を発生させる組織文化がまだ残っている様に思う。

運転士が報告を怠った理由を
・マニュアルを誤認
・気が動転して伝える行為を抜かした
としか分析していない。

マニュアルにどう書かれているのかわからないが、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」と書いてあるのだとすれば、今回の事例では運転士は音しか認識していない。これを誤認と考えると、さらにマニュアルの文言をいじり回すと言う不毛な対策しか浮かばないだろう。

「気が動転して報告できなかった」などと言う分析を聞いた乗客はどう思うだろう。「気が動転してブレーキ操作ができなかった」と言うこともありうるだろう。そんな運転士の列車に乗りたいと思うか?その程度の信頼しか置いていない運転士に列車の運行を任せているのだとすれば、経営トップとして失格だ。

報告しなかった理由は他にもあるはずだ。
停車判断は、運行遅延に対する罰則「日勤教育」を避けたいと言う心理障壁を越えられないだろう。

日勤教育に関しては前述のコラム「福知山線脱線事故」を参照いただきたい。

孔子はこう言っている。
子曰:“過而不改。是謂過矣。”
子曰く、過ちて改めざる、是を過ちと謂う。

過ちそのものは、改善のチャンスだ。
過ちを改めない、それが本当の過ちだ。

「過ち」をチャンスと捉える文化を組織内に定着させなければ、こう言う事故は防げないだろう。


このコラムは、2018年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第682号に掲載した記事に加筆しました。

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